来世は空気を希望します!~壁になって推しカプを見守りたい系オタクJK、目覚めたらヒロインでした解釈違いです!〜

小津 悠理

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来世は空気を希望します!

2.推しのお母さんに会いました

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 とりあえず腹が減っては戦は出来ぬ。現状把握もそこそこに、私は朝ごはんを食べようと二階の言葉ことはちゃんの部屋から一階へと降りていく。

「おはよう言葉! ご飯出来てるわよ」

 ……なんということだ。しまった。私としたことがまだ寝起きで頭が回っていなかったらしい。
 先程から言葉ちゃん……私を起こそうとしてくれていたのはお母さん。そう、だ。推しの母親。すなわち推しの創造主。そんなたっといお方が今! 目の前に! 立っていらっしゃる! ひい!!
 思わず心臓の辺りを押さえてよろめいてしまったのは許して欲しい。これが現実の自室なら頭を抱えてしゃがみこみ、気が済むまでごろんごろん転がって叫び散らしているところだ。言葉ちゃんの身体であることと他人ひとの前で痴態を晒す訳にはいかないという理性が働いた結果この程度で済んだ。危ない危ない。
 「推しのお母さん」という情報を一旦脇において、目の前の女性を見る。
 名前は観月みづき詩穂しほさん。
 柔らかそうな肩につくくらいの灰鼠色の髪を後ろでひとつに結んでいる。瞳の色は言葉ちゃんのそれより赤みが強く、赤ワインを陽に透かしたようだ。
 そして何より言葉ちゃんに激似である。激似である! 二人を並べたら十人中五人が親子、残り五人が姉妹だと答えるだろう。言葉ちゃんが歳を重ねたらこうなるだろうな、というオタクの妄想を形にしたような容姿。遺伝子の勝利を感じる……! うおおバンザイ!

「おはようお母さん。起こしてくれてありがとう」

 なんて動揺を悟られないように、私は極めて言葉ちゃんらしく笑いかける。
 ちなみに言葉ちゃんの詩穂さんへの呼びかけ方はファンブックで判明しているのだ。お母さん、ですって。ふへへ、かわいい。

「今日はずいぶん寝坊助さんだったのね。昨夜よく眠れなかったの?」

「あっ、うん、そうなの……。ちょっと、怖い夢を見ちゃって」

 えへへと誤魔化しながら詩穂さんが差し出してくれた皿を受け取る。
 それを見た詩穂さんは少し心配そうに眉根を寄せた。

「やっぱり緊張してるのね。でも大丈夫よ、つづりくん言葉のこと大好きだし!」

 つづりくん……? 緊張ってなんのことだろう。
 私がきょとんとしていると、詩穂さんは苦笑いした。

「やだ言葉ったら、寝ぼけてるの? 今日でしょう? 綴くんに学園入学の挨拶に行くの」

 ……学園入学の挨拶。挨拶……。あっ。そうだった!!
 星色ワーズのプロローグ。ゲームのはじまりのはじまりは、言葉ちゃんが魔法学園の入試に合格したことを、生徒会長であり兄の綴に知らせに行くこと。
 星色ワーズ。ゲームの概要を説明すると、ジャンルは「魔術師育成学園青春ゲーム」。
 「科学の代わりに魔術が発達した世界。学校ごとに代表を決め、優勝した学校には国から援助が出る大会、『ワーズフェスタ』が盛んな国、星言せいげん。あなたこと主人公観月言葉みづきことは(名前変更可能)はかつてはワーズフェスタで無敗を誇ったものの今では落ちぶれきった学校、『地天学園ちてんがくえん』に兄の誘いを受けて入学する。あなたに与えられた使命は、学園をワーズフェスタで優勝させること。星色に輝く魔法に彩られた青春が今、始まる!」(公式サイトより抜粋)……ってな感じ。
 で、詩穂さんの話に出てきたつづりくんというのが言葉ちゃんの兄であり学園の生徒会長、観月みづきつづりのこと。なぜ兄なのに詩穂さんはくん付けで呼ぶのかというと、実は詩穂さんと綴くんの間に血の繋がりはないからである。ふたりの父親​​​​――文明ふみあきさんというのだけど​――文明さんの前の奥さんが早くに亡くなってしまい、再婚したのが詩穂さんだったのだ。で、前の奥さんとの子どもが綴くん、詩穂さんとの子どもが言葉ちゃんという訳。
 でも安心してほしい。詩穂さんは他人の子どもだからといって差別したりするような人ではない。綴くんと言葉ちゃん、それぞれに等しく愛情を注いだ。
 おかげでこんな……こんなに良い子に言葉ちゃんは育って……うっうっ、心の中でギャン泣きだ。推しの生い立ちとか弱いんだ私は。

「ほら、またぼうっとして。大丈夫? どこか調子悪いの?」

 じぃんと感じ入っていたら詩穂さんに怪しまれてしまった。

「あ、ううん、平気! いただきます!」

 トーストにバターをたっぷり乗せてぱくっと一口。……んん、美味しい!
というかトーストだけじゃない。彩り豊かなサラダ、トロットロのスクランブルエッグ、肉汁溢れるウインナー、コンソメの効いたスープに温かい紅茶。その全てが完璧な美味しさだ。詩穂さん料理上手ー!
 正直私は朝は食が進む方ではなくて、「美和」だった頃は朝は食べないことも多かった。
 でもこれは無理! 食べなきゃ損! 気付けば私は自分史上最大速度で朝ごはんを片付けていた。美味しかったー!

「ごちそうさまでした!」

「お粗末さまでした。後片付けはお母さんやっておくから、言葉は朝の支度しちゃいなさい」

「はあい」

 詩穂さんのお言葉に甘えて私は洗面所へと向かうために立ち上がる。キッチンに食べ終えたお皿を置いた瞬間にはっとした。
 あっ、待って大ピンチ。
 ……洗面所どこだ。
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