2 / 30
来世は空気を希望します!
2.推しのお母さんに会いました
しおりを挟む
とりあえず腹が減っては戦は出来ぬ。現状把握もそこそこに、私は朝ごはんを食べようと二階の言葉ちゃんの部屋から一階へと降りていく。
「おはよう言葉! ご飯出来てるわよ」
……なんということだ。しまった。私としたことがまだ寝起きで頭が回っていなかったらしい。
先程から言葉ちゃん……私を起こそうとしてくれていたのはお母さん。そう、言葉ちゃんのお母さんだ。推しの母親。すなわち推しの創造主。そんな尊いお方が今! 目の前に! 立っていらっしゃる! ひい!!
思わず心臓の辺りを押さえてよろめいてしまったのは許して欲しい。これが現実の自室なら頭を抱えてしゃがみこみ、気が済むまでごろんごろん転がって叫び散らしているところだ。言葉ちゃんの身体であることと他人の前で痴態を晒す訳にはいかないという理性が働いた結果この程度で済んだ。危ない危ない。
「推しのお母さん」という情報を一旦脇において、目の前の女性を見る。
名前は観月詩穂さん。
柔らかそうな肩につくくらいの灰鼠色の髪を後ろでひとつに結んでいる。瞳の色は言葉ちゃんのそれより赤みが強く、赤ワインを陽に透かしたようだ。
そして何より言葉ちゃんに激似である。激似である! 二人を並べたら十人中五人が親子、残り五人が姉妹だと答えるだろう。言葉ちゃんが歳を重ねたらこうなるだろうな、というオタクの妄想を形にしたような容姿。遺伝子の勝利を感じる……! うおおバンザイ!
「おはようお母さん。起こしてくれてありがとう」
なんて動揺を悟られないように、私は極めて言葉ちゃんらしく笑いかける。
ちなみに言葉ちゃんの詩穂さんへの呼びかけ方はファンブックで判明しているのだ。お母さん、ですって。ふへへ、かわいい。
「今日はずいぶん寝坊助さんだったのね。昨夜よく眠れなかったの?」
「あっ、うん、そうなの……。ちょっと、怖い夢を見ちゃって」
えへへと誤魔化しながら詩穂さんが差し出してくれた皿を受け取る。
それを見た詩穂さんは少し心配そうに眉根を寄せた。
「やっぱり緊張してるのね。でも大丈夫よ、綴くん言葉のこと大好きだし!」
つづりくん……? 緊張ってなんのことだろう。
私がきょとんとしていると、詩穂さんは苦笑いした。
「やだ言葉ったら、寝ぼけてるの? 今日でしょう? 綴くんに学園入学の挨拶に行くの」
……学園入学の挨拶。挨拶……。あっ。そうだった!!
星色ワーズのプロローグ。ゲームのはじまりのはじまりは、言葉ちゃんが魔法学園の入試に合格したことを、生徒会長であり兄の綴に知らせに行くこと。
星色ワーズ。ゲームの概要を説明すると、ジャンルは「魔術師育成学園青春ゲーム」。
「科学の代わりに魔術が発達した世界。学校ごとに代表を決め、優勝した学校には国から援助が出る大会、『ワーズフェスタ』が盛んな国、星言。あなたこと主人公観月言葉(名前変更可能)はかつてはワーズフェスタで無敗を誇ったものの今では落ちぶれきった学校、『地天学園』に兄の誘いを受けて入学する。あなたに与えられた使命は、学園をワーズフェスタで優勝させること。星色に輝く魔法に彩られた青春が今、始まる!」(公式サイトより抜粋)……ってな感じ。
で、詩穂さんの話に出てきたつづりくんというのが言葉ちゃんの兄であり学園の生徒会長、観月綴のこと。なぜ兄なのに詩穂さんはくん付けで呼ぶのかというと、実は詩穂さんと綴くんの間に血の繋がりはないからである。ふたりの父親――文明さんというのだけど――文明さんの前の奥さんが早くに亡くなってしまい、再婚したのが詩穂さんだったのだ。で、前の奥さんとの子どもが綴くん、詩穂さんとの子どもが言葉ちゃんという訳。
でも安心してほしい。詩穂さんは他人の子どもだからといって差別したりするような人ではない。綴くんと言葉ちゃん、それぞれに等しく愛情を注いだ。
おかげでこんな……こんなに良い子に言葉ちゃんは育って……うっうっ、心の中でギャン泣きだ。推しの生い立ちとか弱いんだ私は。
「ほら、またぼうっとして。大丈夫? どこか調子悪いの?」
じぃんと感じ入っていたら詩穂さんに怪しまれてしまった。
「あ、ううん、平気! いただきます!」
トーストにバターをたっぷり乗せてぱくっと一口。……んん、美味しい!
というかトーストだけじゃない。彩り豊かなサラダ、トロットロのスクランブルエッグ、肉汁溢れるウインナー、コンソメの効いたスープに温かい紅茶。その全てが完璧な美味しさだ。詩穂さん料理上手ー!
正直私は朝は食が進む方ではなくて、「美和」だった頃は朝は食べないことも多かった。
でもこれは無理! 食べなきゃ損! 気付けば私は自分史上最大速度で朝ごはんを片付けていた。美味しかったー!
「ごちそうさまでした!」
「お粗末さまでした。後片付けはお母さんやっておくから、言葉は朝の支度しちゃいなさい」
「はあい」
詩穂さんのお言葉に甘えて私は洗面所へと向かうために立ち上がる。キッチンに食べ終えたお皿を置いた瞬間にはっとした。
あっ、待って大ピンチ。
……洗面所どこだ。
「おはよう言葉! ご飯出来てるわよ」
……なんということだ。しまった。私としたことがまだ寝起きで頭が回っていなかったらしい。
先程から言葉ちゃん……私を起こそうとしてくれていたのはお母さん。そう、言葉ちゃんのお母さんだ。推しの母親。すなわち推しの創造主。そんな尊いお方が今! 目の前に! 立っていらっしゃる! ひい!!
思わず心臓の辺りを押さえてよろめいてしまったのは許して欲しい。これが現実の自室なら頭を抱えてしゃがみこみ、気が済むまでごろんごろん転がって叫び散らしているところだ。言葉ちゃんの身体であることと他人の前で痴態を晒す訳にはいかないという理性が働いた結果この程度で済んだ。危ない危ない。
「推しのお母さん」という情報を一旦脇において、目の前の女性を見る。
名前は観月詩穂さん。
柔らかそうな肩につくくらいの灰鼠色の髪を後ろでひとつに結んでいる。瞳の色は言葉ちゃんのそれより赤みが強く、赤ワインを陽に透かしたようだ。
そして何より言葉ちゃんに激似である。激似である! 二人を並べたら十人中五人が親子、残り五人が姉妹だと答えるだろう。言葉ちゃんが歳を重ねたらこうなるだろうな、というオタクの妄想を形にしたような容姿。遺伝子の勝利を感じる……! うおおバンザイ!
「おはようお母さん。起こしてくれてありがとう」
なんて動揺を悟られないように、私は極めて言葉ちゃんらしく笑いかける。
ちなみに言葉ちゃんの詩穂さんへの呼びかけ方はファンブックで判明しているのだ。お母さん、ですって。ふへへ、かわいい。
「今日はずいぶん寝坊助さんだったのね。昨夜よく眠れなかったの?」
「あっ、うん、そうなの……。ちょっと、怖い夢を見ちゃって」
えへへと誤魔化しながら詩穂さんが差し出してくれた皿を受け取る。
それを見た詩穂さんは少し心配そうに眉根を寄せた。
「やっぱり緊張してるのね。でも大丈夫よ、綴くん言葉のこと大好きだし!」
つづりくん……? 緊張ってなんのことだろう。
私がきょとんとしていると、詩穂さんは苦笑いした。
「やだ言葉ったら、寝ぼけてるの? 今日でしょう? 綴くんに学園入学の挨拶に行くの」
……学園入学の挨拶。挨拶……。あっ。そうだった!!
星色ワーズのプロローグ。ゲームのはじまりのはじまりは、言葉ちゃんが魔法学園の入試に合格したことを、生徒会長であり兄の綴に知らせに行くこと。
星色ワーズ。ゲームの概要を説明すると、ジャンルは「魔術師育成学園青春ゲーム」。
「科学の代わりに魔術が発達した世界。学校ごとに代表を決め、優勝した学校には国から援助が出る大会、『ワーズフェスタ』が盛んな国、星言。あなたこと主人公観月言葉(名前変更可能)はかつてはワーズフェスタで無敗を誇ったものの今では落ちぶれきった学校、『地天学園』に兄の誘いを受けて入学する。あなたに与えられた使命は、学園をワーズフェスタで優勝させること。星色に輝く魔法に彩られた青春が今、始まる!」(公式サイトより抜粋)……ってな感じ。
で、詩穂さんの話に出てきたつづりくんというのが言葉ちゃんの兄であり学園の生徒会長、観月綴のこと。なぜ兄なのに詩穂さんはくん付けで呼ぶのかというと、実は詩穂さんと綴くんの間に血の繋がりはないからである。ふたりの父親――文明さんというのだけど――文明さんの前の奥さんが早くに亡くなってしまい、再婚したのが詩穂さんだったのだ。で、前の奥さんとの子どもが綴くん、詩穂さんとの子どもが言葉ちゃんという訳。
でも安心してほしい。詩穂さんは他人の子どもだからといって差別したりするような人ではない。綴くんと言葉ちゃん、それぞれに等しく愛情を注いだ。
おかげでこんな……こんなに良い子に言葉ちゃんは育って……うっうっ、心の中でギャン泣きだ。推しの生い立ちとか弱いんだ私は。
「ほら、またぼうっとして。大丈夫? どこか調子悪いの?」
じぃんと感じ入っていたら詩穂さんに怪しまれてしまった。
「あ、ううん、平気! いただきます!」
トーストにバターをたっぷり乗せてぱくっと一口。……んん、美味しい!
というかトーストだけじゃない。彩り豊かなサラダ、トロットロのスクランブルエッグ、肉汁溢れるウインナー、コンソメの効いたスープに温かい紅茶。その全てが完璧な美味しさだ。詩穂さん料理上手ー!
正直私は朝は食が進む方ではなくて、「美和」だった頃は朝は食べないことも多かった。
でもこれは無理! 食べなきゃ損! 気付けば私は自分史上最大速度で朝ごはんを片付けていた。美味しかったー!
「ごちそうさまでした!」
「お粗末さまでした。後片付けはお母さんやっておくから、言葉は朝の支度しちゃいなさい」
「はあい」
詩穂さんのお言葉に甘えて私は洗面所へと向かうために立ち上がる。キッチンに食べ終えたお皿を置いた瞬間にはっとした。
あっ、待って大ピンチ。
……洗面所どこだ。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編


三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる