3 / 7
序
プロローグ2 Side:N
しおりを挟む
「ノア? ……こんなにたくさんある書類を放り出してどこへ行ったの」
白い髪をポニーテールに結わえた女性が辺りを見回す。
腰まである長い髪に褐色の肌、それに漆黒の軍服のような服を身に纏った女性は、仕事用の眼鏡をかけ、両手いっぱいに書類を抱えている。彼女の腰からは、しなやかな鞭のような尾が生えていて、ゆらゆらと動いていた。
その後ろからぬっと太い腕が伸びてきて彼女の書類を持ち上げ、近くの机へと下ろした。
「ノアはまた『散歩』か? まあいいじゃないか。そのうち帰ってくるだろうよ」
「そのうちでは困る。今やってほしい……」
太い腕の持ち主は背の高いしっかりした体躯をしており、快活な雰囲気を持った男性だ。こちらも女性と同じように白い髪に褐色の肌、黒い軍服を身につけていて、同じように長い尾がある。
女性は疲れたように肩を落とすと、眼鏡を外し右手を右目に押し当て塞いだ。塞がれていない左の瞳が、アメジストのように怪しく光る。
「……ああ、いた。また魂の様子ばかり見て……。ノア! 書類が溜まってる。早く片付けて」
女性の左目は、ここにいないノアという人物の姿を捉えていた。
彼は黒いローブのような服のフードを目深に被り、天井の高い洞窟のようなところをうろうろと歩いている。
洞窟の中は真っ暗だが、光る花のようなものが地面を埋めつくしていてほの明るい。青白い光に照らされたそこは、花籠とも鳥籠ともつかない籠が真っ黒な若木のようなものに鈴なりにぶら下げられ、それが何本も立っている。背の低い木が作った林のようだ。籠には飾りなのか真っ白な花が蔓を這わせて咲いていた。大輪だが密やかなその花は、甘く清涼感のある香りを放っている。異様な雰囲気を醸し出している不思議な場所だ。
籠の中にはひとつずつ炎のように揺らめく色とりどりの丸いものが収められていて、ノアという男性はそれを慈しむように籠の縁を撫でていた。
そしてふと女性の声に気づいたようにフードを脱ぎ顔を上げる。
「ああ、ティア。もう少ししたら戻るよ。ツィアもそこにいるかな、ちゃんと戻るから連れ戻しに来ないでね」
声の主は若い男性のようだ。くせのある黒髪はうなじまで頭を丸く覆い、それに縁取られた小さな顔は作り物のように整っている。柔和そうな声と話し方に似合わない最高級のルビーのような妖艶な赤い瞳だけが、青白い暗がりの中で浮き上がっている。
ノアの視線の先にはコウモリが1匹天井からぶら下がっていた。その目は紫に輝いている。そこからまたノアにティアと呼ばれた女性の声が聞こえてきた。
「分かった。ちゃんとすぐ戻ってね」
ノアがコウモリに向かって笑顔でひらひらと手を振ると、コウモリは紫の光を失った。それきりふっつり何も聞こえない。
「さて、戻るか」
ノアはそう呟くと、洞窟の更に奥へと進んだ。地下全てが複雑に入り組んでいる独特の地形を彼は全て把握しており、常人なら迷ってしまう道を明かりもなくすいすいと歩みゆく。
ここは冥府。死んだ人間の魂が、次の輪廻に至るまで安息を得る場所。
そしてノアこそが、冥府の主なのであった。
「はーいただいまー。お待たせツィア、ティア。さあ、書類仕事やろうか」
呑気な声で女性と男性が先程話していたところへノアは現れた。
女性はティアリーン、男性はツィアドルフといい、双子の優秀なノアの側近である。
「おお、帰ってきたな。ノアが戻ってきたことだしオレは職務に戻るとするか。ただし、ノアが本腰を入れてからだ」
「遅い。さあ、これを捌ききるよ」
ツィアドルフは冥府の門番で、武力衝突を担当職務としていた。とはいえ、冥府は平和なもので侵入者も脱走者もいない。地上との境である固く閉ざされた「戒めの門」を守護することがツィアドルフの主な仕事であった。
その妹ティアリーンは反対に、ノアの補佐、頭脳労働を担当している。書類仕事を嫌がりすぐにふらふら冥府内を徘徊する癖のあるノアにいつも困らされているが、それに本気で辟易することなく極めて冷静に書類を捌くことができる貴重な人材であった。
そしてノアは、冥府の主としてやらなければいけない仕事をほとんどたった1人で担う冥府の要だ。彼がいなくなればここは回らない。そのせいか、見た目は若者ながら老成した雰囲気を持ち、ゆるゆるとした中にもどこか油断のならない空気が混じる。一言で言えば、切れ者となるだろうか。
切れ者、といっても今の彼は執務室の机にだらりと顎を預けて、仕事したくないオーラ満載だ。
「今日もすごい書類の数だねえ……。やらなきゃダメかな」
「ダメ。ちゃんとやって」
「はあ。分かったよ」
冥府は地下にあり、日が差すことのない陰気な場所だ。ペタル王国を含めた大陸の地下に広がり、王国と近隣諸国の魂を一手に預かっている。激務は当然のことであった。
地上で人が死ぬと、冥府にはその人間の一生や死因などを事細かに記した書類が自動的に生成され届く。この書類は紙ではなく、魔素と呼ばれる空気中に含まれる魔力の粒で出来ている。それにノアが確認しサインを入れることで、魂は地上の死んだ身体から抜け出して冥府へと下りてくる。下りてきた魂は籠の中で眠りにつく。数日で済む者もいれば数百年眠りっぱなしのものもいる。眠りの長さは魂の消耗具合で決まっていて、へとへとに疲れているほど長く眠る。眠り終えて魂が輪廻に耐えられる強さまで回復したら、籠から自然に解き放たれて新しい命になる。
その一連の流れを全て管理しているのが冥府という場所だ。
冥府の中でも、ノアとティアリーンが今いるのは地下に建っている洋館だ。地下空間は冷たい岩やら鍾乳石やらで洞のようになっており、書類仕事には向かない。それで彼らはずっと昔に館を建てて、主な仕事はそこでするようになった。
執務室の調度品は室内を照らす柔らかなオレンジ色のライトに照らされ、青白い外とはまた違った趣だ。
「やれやれ、今日もよく死ぬねえ」
「そうね。仕事は減らないんだからいい加減落ち着いて仕事して」
「落ち着いて仕事かあ。そうだねえ、お嫁さんとか来れば変わるかもしれないね」
「無茶言わないで。ここは冥府だよ。こんなところに嫁いでこようとする奇特な女性なんていない」
冥府には国交がない。かつては地上の国々と交流があったものの、魂を扱う、国とは違う分類であるが故に、古い時代から畏れられていた。その畏れは永い時を経ておとぎ話へと姿を変えた。今では地上の人間は皆、冥府が本当にあるとは知らない。
「そうだな、外……特にこの上のペタル王国では冥府は世にも恐ろしい場所だと言われているし。もしそんな女性がいたとしてもよっぽどの訳アリに違いない! はっはっは!」
ツィアドルフが豪快に笑い飛ばす。
「……ペタル王国といえば一応大昔に『冥府の花嫁』なんて盟約を結ばなかったっけ」
再び眼鏡をかけたティアリーンが空を見上げ思い出すように言った。
「ええ? ……ああ、そんなこともあったね。でもこの数百年誰も来ないし形骸化してるんだよきっと」
だるだるとした状態からようやく背筋を伸ばしたノアが、書類に目を通しながら言う。
数百年、いやもしかしたらもっと以前に当時のペタル王国国王とノアは盟約を結んだ。「冥府の花嫁」。実情は花嫁とは名ばかりの人身御供だが、幸か不幸かその盟約はまだ果たされていない。
「花嫁でもなんでも、ノアがちゃんと仕事してくれるなら縋りたい」
「まあ、その気持ちも分からんではないな。よし、ノアも仕事を始めたことだしオレは職務に戻る!」
「頼むね、ツィア」
「おう!」
「いやあ、花嫁ね。うん、花嫁……」
大きな体躯で歩いていくツィアドルフ、ノアの机の隣で自らも書類に取りかかるティアリーン、そして花嫁花嫁とぶつぶつ呟きながら凄まじい速度で書類を済ませていくノア。
洋館の外では手乗りサイズの黒猫にコウモリの羽が生えたような悪魔、幼魔がふわふわにゃあにゃあと飛び回っている。
しばらくして、執務机に山積みになっていた書類が半分以下になると、ノアは一旦手を止めてぐっと伸びをした。
「休憩! 俺はコーヒー淹れるけどティアも飲むかい」
「飲む。ありがとう」
ノアもティアリーンもツィアドルフも人ではない。
ティアリーンとツィアドルフは冥府の澱から生まれた悪魔だ。
ノアは分からない。冥府にいる誰も知らない。誰より先に冥府にいたということしかはっきりしない。
ツィアドルフもティアリーンも含めて、見た目と実年齢が比例していないことだけは確かだ。
彼らは栄養摂取としての食事を必要としなかったが、長過ぎる生の楽しみにときどき嗜好品として何かを口にした。
今日のノアとティアリーンのおやつはコーヒーとフィナンシェだ。
もぐもぐと口を動かしてそれを咀嚼し飲み込んだ後、ノアはティアリーンに向かって口を開いた。
「さっきの花嫁がどうのって話だけどね」
「うん」
「俺のところに来てくれるならきっとどんな人でも愛してしまうと思うよ。ほら、俺結構尽くす方だし」
「尽くすかどうかは知らないけど。でも、そうだね。ノアが迎えるなら私もツィアも歓迎するよ。……そんな日が来るかは別の話として」
「う、厳しい」
冥府という名からは想像も出来ない和やかな暗がり。冷たく恐ろしいとされる場所は、仲間たちの信頼によって満ちていた。
そんな彼らに公爵令嬢アネモネの流刑地要請……「冥府の花嫁」の打診の手紙が届くまで、あと。
白い髪をポニーテールに結わえた女性が辺りを見回す。
腰まである長い髪に褐色の肌、それに漆黒の軍服のような服を身に纏った女性は、仕事用の眼鏡をかけ、両手いっぱいに書類を抱えている。彼女の腰からは、しなやかな鞭のような尾が生えていて、ゆらゆらと動いていた。
その後ろからぬっと太い腕が伸びてきて彼女の書類を持ち上げ、近くの机へと下ろした。
「ノアはまた『散歩』か? まあいいじゃないか。そのうち帰ってくるだろうよ」
「そのうちでは困る。今やってほしい……」
太い腕の持ち主は背の高いしっかりした体躯をしており、快活な雰囲気を持った男性だ。こちらも女性と同じように白い髪に褐色の肌、黒い軍服を身につけていて、同じように長い尾がある。
女性は疲れたように肩を落とすと、眼鏡を外し右手を右目に押し当て塞いだ。塞がれていない左の瞳が、アメジストのように怪しく光る。
「……ああ、いた。また魂の様子ばかり見て……。ノア! 書類が溜まってる。早く片付けて」
女性の左目は、ここにいないノアという人物の姿を捉えていた。
彼は黒いローブのような服のフードを目深に被り、天井の高い洞窟のようなところをうろうろと歩いている。
洞窟の中は真っ暗だが、光る花のようなものが地面を埋めつくしていてほの明るい。青白い光に照らされたそこは、花籠とも鳥籠ともつかない籠が真っ黒な若木のようなものに鈴なりにぶら下げられ、それが何本も立っている。背の低い木が作った林のようだ。籠には飾りなのか真っ白な花が蔓を這わせて咲いていた。大輪だが密やかなその花は、甘く清涼感のある香りを放っている。異様な雰囲気を醸し出している不思議な場所だ。
籠の中にはひとつずつ炎のように揺らめく色とりどりの丸いものが収められていて、ノアという男性はそれを慈しむように籠の縁を撫でていた。
そしてふと女性の声に気づいたようにフードを脱ぎ顔を上げる。
「ああ、ティア。もう少ししたら戻るよ。ツィアもそこにいるかな、ちゃんと戻るから連れ戻しに来ないでね」
声の主は若い男性のようだ。くせのある黒髪はうなじまで頭を丸く覆い、それに縁取られた小さな顔は作り物のように整っている。柔和そうな声と話し方に似合わない最高級のルビーのような妖艶な赤い瞳だけが、青白い暗がりの中で浮き上がっている。
ノアの視線の先にはコウモリが1匹天井からぶら下がっていた。その目は紫に輝いている。そこからまたノアにティアと呼ばれた女性の声が聞こえてきた。
「分かった。ちゃんとすぐ戻ってね」
ノアがコウモリに向かって笑顔でひらひらと手を振ると、コウモリは紫の光を失った。それきりふっつり何も聞こえない。
「さて、戻るか」
ノアはそう呟くと、洞窟の更に奥へと進んだ。地下全てが複雑に入り組んでいる独特の地形を彼は全て把握しており、常人なら迷ってしまう道を明かりもなくすいすいと歩みゆく。
ここは冥府。死んだ人間の魂が、次の輪廻に至るまで安息を得る場所。
そしてノアこそが、冥府の主なのであった。
「はーいただいまー。お待たせツィア、ティア。さあ、書類仕事やろうか」
呑気な声で女性と男性が先程話していたところへノアは現れた。
女性はティアリーン、男性はツィアドルフといい、双子の優秀なノアの側近である。
「おお、帰ってきたな。ノアが戻ってきたことだしオレは職務に戻るとするか。ただし、ノアが本腰を入れてからだ」
「遅い。さあ、これを捌ききるよ」
ツィアドルフは冥府の門番で、武力衝突を担当職務としていた。とはいえ、冥府は平和なもので侵入者も脱走者もいない。地上との境である固く閉ざされた「戒めの門」を守護することがツィアドルフの主な仕事であった。
その妹ティアリーンは反対に、ノアの補佐、頭脳労働を担当している。書類仕事を嫌がりすぐにふらふら冥府内を徘徊する癖のあるノアにいつも困らされているが、それに本気で辟易することなく極めて冷静に書類を捌くことができる貴重な人材であった。
そしてノアは、冥府の主としてやらなければいけない仕事をほとんどたった1人で担う冥府の要だ。彼がいなくなればここは回らない。そのせいか、見た目は若者ながら老成した雰囲気を持ち、ゆるゆるとした中にもどこか油断のならない空気が混じる。一言で言えば、切れ者となるだろうか。
切れ者、といっても今の彼は執務室の机にだらりと顎を預けて、仕事したくないオーラ満載だ。
「今日もすごい書類の数だねえ……。やらなきゃダメかな」
「ダメ。ちゃんとやって」
「はあ。分かったよ」
冥府は地下にあり、日が差すことのない陰気な場所だ。ペタル王国を含めた大陸の地下に広がり、王国と近隣諸国の魂を一手に預かっている。激務は当然のことであった。
地上で人が死ぬと、冥府にはその人間の一生や死因などを事細かに記した書類が自動的に生成され届く。この書類は紙ではなく、魔素と呼ばれる空気中に含まれる魔力の粒で出来ている。それにノアが確認しサインを入れることで、魂は地上の死んだ身体から抜け出して冥府へと下りてくる。下りてきた魂は籠の中で眠りにつく。数日で済む者もいれば数百年眠りっぱなしのものもいる。眠りの長さは魂の消耗具合で決まっていて、へとへとに疲れているほど長く眠る。眠り終えて魂が輪廻に耐えられる強さまで回復したら、籠から自然に解き放たれて新しい命になる。
その一連の流れを全て管理しているのが冥府という場所だ。
冥府の中でも、ノアとティアリーンが今いるのは地下に建っている洋館だ。地下空間は冷たい岩やら鍾乳石やらで洞のようになっており、書類仕事には向かない。それで彼らはずっと昔に館を建てて、主な仕事はそこでするようになった。
執務室の調度品は室内を照らす柔らかなオレンジ色のライトに照らされ、青白い外とはまた違った趣だ。
「やれやれ、今日もよく死ぬねえ」
「そうね。仕事は減らないんだからいい加減落ち着いて仕事して」
「落ち着いて仕事かあ。そうだねえ、お嫁さんとか来れば変わるかもしれないね」
「無茶言わないで。ここは冥府だよ。こんなところに嫁いでこようとする奇特な女性なんていない」
冥府には国交がない。かつては地上の国々と交流があったものの、魂を扱う、国とは違う分類であるが故に、古い時代から畏れられていた。その畏れは永い時を経ておとぎ話へと姿を変えた。今では地上の人間は皆、冥府が本当にあるとは知らない。
「そうだな、外……特にこの上のペタル王国では冥府は世にも恐ろしい場所だと言われているし。もしそんな女性がいたとしてもよっぽどの訳アリに違いない! はっはっは!」
ツィアドルフが豪快に笑い飛ばす。
「……ペタル王国といえば一応大昔に『冥府の花嫁』なんて盟約を結ばなかったっけ」
再び眼鏡をかけたティアリーンが空を見上げ思い出すように言った。
「ええ? ……ああ、そんなこともあったね。でもこの数百年誰も来ないし形骸化してるんだよきっと」
だるだるとした状態からようやく背筋を伸ばしたノアが、書類に目を通しながら言う。
数百年、いやもしかしたらもっと以前に当時のペタル王国国王とノアは盟約を結んだ。「冥府の花嫁」。実情は花嫁とは名ばかりの人身御供だが、幸か不幸かその盟約はまだ果たされていない。
「花嫁でもなんでも、ノアがちゃんと仕事してくれるなら縋りたい」
「まあ、その気持ちも分からんではないな。よし、ノアも仕事を始めたことだしオレは職務に戻る!」
「頼むね、ツィア」
「おう!」
「いやあ、花嫁ね。うん、花嫁……」
大きな体躯で歩いていくツィアドルフ、ノアの机の隣で自らも書類に取りかかるティアリーン、そして花嫁花嫁とぶつぶつ呟きながら凄まじい速度で書類を済ませていくノア。
洋館の外では手乗りサイズの黒猫にコウモリの羽が生えたような悪魔、幼魔がふわふわにゃあにゃあと飛び回っている。
しばらくして、執務机に山積みになっていた書類が半分以下になると、ノアは一旦手を止めてぐっと伸びをした。
「休憩! 俺はコーヒー淹れるけどティアも飲むかい」
「飲む。ありがとう」
ノアもティアリーンもツィアドルフも人ではない。
ティアリーンとツィアドルフは冥府の澱から生まれた悪魔だ。
ノアは分からない。冥府にいる誰も知らない。誰より先に冥府にいたということしかはっきりしない。
ツィアドルフもティアリーンも含めて、見た目と実年齢が比例していないことだけは確かだ。
彼らは栄養摂取としての食事を必要としなかったが、長過ぎる生の楽しみにときどき嗜好品として何かを口にした。
今日のノアとティアリーンのおやつはコーヒーとフィナンシェだ。
もぐもぐと口を動かしてそれを咀嚼し飲み込んだ後、ノアはティアリーンに向かって口を開いた。
「さっきの花嫁がどうのって話だけどね」
「うん」
「俺のところに来てくれるならきっとどんな人でも愛してしまうと思うよ。ほら、俺結構尽くす方だし」
「尽くすかどうかは知らないけど。でも、そうだね。ノアが迎えるなら私もツィアも歓迎するよ。……そんな日が来るかは別の話として」
「う、厳しい」
冥府という名からは想像も出来ない和やかな暗がり。冷たく恐ろしいとされる場所は、仲間たちの信頼によって満ちていた。
そんな彼らに公爵令嬢アネモネの流刑地要請……「冥府の花嫁」の打診の手紙が届くまで、あと。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説

ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

ヒロインに悪役令嬢呼ばわりされた聖女は、婚約破棄を喜ぶ ~婚約破棄後の人生、貴方に出会えて幸せです!~
飛鳥井 真理
恋愛
それは、第一王子ロバートとの正式な婚約式の前夜に行われた舞踏会でのこと。公爵令嬢アンドレアは、その華やかな祝いの場で王子から一方的に婚約を解消すると告げられてしまう……。しかし婚約破棄後の彼女には、思っても見なかった幸運が次々と訪れることになるのだった……。 『婚約破棄後の人生……貴方に出会て幸せです!』 ※溺愛要素は後半の、第62話目辺りからになります。
※ストックが無くなりましたので、不定期更新になります。
※連載中も随時、加筆・修正をしていきます。よろしくお願い致します。
※ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
この作品は、小説家になろう様にも掲載しています。

婚約破棄された貧乏令嬢ですが、意外と有能なの知っていますか?~有能なので王子に求婚されちゃうかも!?~
榎夜
恋愛
「貧乏令嬢となんて誰が結婚するんだよ!」
そう言っていましたが、隣に他の令嬢を連れている時点でおかしいですわよね?
まぁ、私は貴方が居なくなったところで困りませんが.......貴方はどうなんでしょうね?

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

これは紛うことなき政略結婚である
七瀬菜々
恋愛
没落寸前の貧乏侯爵家の令嬢アンリエッタ・ペリゴールは、スラム街出身の豪商クロード・ウェルズリーと結婚した。
金はないが血筋だけは立派な女と、金はあるが賤しい血筋の男。
互いに金と爵位のためだけに結婚した二人はきっと、恋も愛も介在しない冷めきった結婚生活を送ることになるのだろう。
アンリエッタはそう思っていた。
けれど、いざ新婚生活を始めてみると、何だか想像していたよりもずっと甘い気がして……!?
*この物語は、今まで顔を合わせれば喧嘩ばかりだった二人が夫婦となり、いろんな人の妨害を受けながらも愛と絆を深めていく、ただのハイテンションラブコメ………になる予定です。
ーーーーーーーーーー
*主要な登場人物*
○アンリエッタ・ペリゴール
いろんな不幸が重なり落ちぶれた、貧乏侯爵家の一人娘。意地っ張りでプライドの高いツンデレヒロイン。
○クロード・ウェルズリー
一代で莫大な富を築き上げた豪商。生まれは卑しいが、顔がよく金持ち。恋愛に関しては不器用な男。
○ニコル
アンリエッタの侍女。
アンリエッタにとっては母であり、姉であり、友である大切な存在。
○ミゲル
クロードの秘書。
優しそうに見えて辛辣で容赦がない性格。常にひと言多い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる