12 / 21
その⑫私はみやび
しおりを挟む
「どうなさいます?今回は見送られて、また競りにご参加いただいてもよろしいんですが」
「あの、成約料というのは?」それは聞いていなかったな、と愛海は思いながら訪ねた。
事務局の人間はまた大きなため息をつき、
「規約にございます通り、御成約金は男性のみがお支払いとなります。御成約後の報酬としては、御先方からの提示次第になりますが。今のところ最初に交接された方が月に200万。二番目の方が300万。後お二方、愛海さまを見初められたけれど、交接を持てなかった方がそれぞれ『場外での水揚げ』を希望されております。これは競り市外でのお試し、ということですが、これに対してお二方同額の300万を提示されています。こちらは一度限りの金額と相成りまして、わたくしどもが、そのうちから規定通りの二割を頂戴するということになります。こちら、かなり高額をご提示されておりますが、やはり場外で、というのは女性の方にはかなり不安やストレスがかかります。監視するものがいない状況となりますのでね。その分が上乗せされているとお考え下さい。……ああいう場では行為に及びたくない、と思われる方が、そしてより裕福な方が希望されることが多いですね。……正直に申し上げますと、これほどの高額を複数の方がご提示なさるというのは大変珍しいことで私どもも驚いているのですよ。
その後お気に召せしてその方々と御成約となれば、規定通り男性側が御成約料をお支払いになり、のちの条件はまたその時に取り決める、ということになります」
どんどん聞かされる自分の値段に愛海はくらくらとめまいを覚えた。黙り込んだ愛海を迷っているとおもった事務局の人間は
「まあ、交接されていない方とお試しになられた後でお選びいただいてもいいと思いますよ。ゴムの使用などはこちらからも念押ししておきますので」そして言葉を切った後、思い切ったように、
「愛海さまのような方に競りにお立ちいただくことは私どもにとって大変に利益を生むことです。ですが、はっきり申し上げて、競りに何度もお立ちになるのは、あまりお勧めいたしませんが。やはり何度もお立ちになる方というのは目的が金銭になってしまい、品がなくなり、やがて御成約からは遠くなります。こちらでもそういう女性が目に余れば参加は差し止めさせていただいております」
おそらく、このような助言は運営側の利益を減ずる行為だから、あえてそれを告げるには勇気のいることなのだろう。だが『安心、健全』がモットーの運営側として、参加者のためにあえてアドバイスしたのだろうと思う。
セレブ相手を辞任する運営側のプライドが感じられた。
だが、自分の体に提示される金額の大きさは、愛海の気持ちを高揚させはしたが、やはり、もう完全に自分は体に値が付く女になったのだ、と自覚させられ、その心は重苦しく沈んだ。
事務局の人間に言われなくとも、もう一度あの舞台に全裸で立つことを考えると、気持ちが萎えた。
今更見知らぬ相手とどこかで二人きりで『お試し』をするのも勇気のいることだと思った。
不器用に見えた一番目の男が自分を成約の相手として名指ししてくれたことも嬉しかった。
だが……忘れられないのはただ一人だった。あれから何度も何度も繰り返し思い出し、体を一人熱くさせてきたのは。
愛海はあの時呼ばれた「みやび」という名について考えていた。
あの男はやっぱり佐藤俊哉で、あの時読んだのは妻の雅の事だったのか?
それとも、熱烈な相沢雅のファンでよく似た私を抱きたいのだろうか?
みやび、みやびとあれから毎日あの男のささやき声を考えない日はなかった。
気付くと愛海は、
「では、二番目の方で」と答えていた。あの最後に自分を凍り付かせたあの男に。
「お名前は?なんとお伝えしましょうか。偽名でも結構ですよ」
事務局の問いかけに、愛海は
「みやび」と答えていた。
「あの、成約料というのは?」それは聞いていなかったな、と愛海は思いながら訪ねた。
事務局の人間はまた大きなため息をつき、
「規約にございます通り、御成約金は男性のみがお支払いとなります。御成約後の報酬としては、御先方からの提示次第になりますが。今のところ最初に交接された方が月に200万。二番目の方が300万。後お二方、愛海さまを見初められたけれど、交接を持てなかった方がそれぞれ『場外での水揚げ』を希望されております。これは競り市外でのお試し、ということですが、これに対してお二方同額の300万を提示されています。こちらは一度限りの金額と相成りまして、わたくしどもが、そのうちから規定通りの二割を頂戴するということになります。こちら、かなり高額をご提示されておりますが、やはり場外で、というのは女性の方にはかなり不安やストレスがかかります。監視するものがいない状況となりますのでね。その分が上乗せされているとお考え下さい。……ああいう場では行為に及びたくない、と思われる方が、そしてより裕福な方が希望されることが多いですね。……正直に申し上げますと、これほどの高額を複数の方がご提示なさるというのは大変珍しいことで私どもも驚いているのですよ。
その後お気に召せしてその方々と御成約となれば、規定通り男性側が御成約料をお支払いになり、のちの条件はまたその時に取り決める、ということになります」
どんどん聞かされる自分の値段に愛海はくらくらとめまいを覚えた。黙り込んだ愛海を迷っているとおもった事務局の人間は
「まあ、交接されていない方とお試しになられた後でお選びいただいてもいいと思いますよ。ゴムの使用などはこちらからも念押ししておきますので」そして言葉を切った後、思い切ったように、
「愛海さまのような方に競りにお立ちいただくことは私どもにとって大変に利益を生むことです。ですが、はっきり申し上げて、競りに何度もお立ちになるのは、あまりお勧めいたしませんが。やはり何度もお立ちになる方というのは目的が金銭になってしまい、品がなくなり、やがて御成約からは遠くなります。こちらでもそういう女性が目に余れば参加は差し止めさせていただいております」
おそらく、このような助言は運営側の利益を減ずる行為だから、あえてそれを告げるには勇気のいることなのだろう。だが『安心、健全』がモットーの運営側として、参加者のためにあえてアドバイスしたのだろうと思う。
セレブ相手を辞任する運営側のプライドが感じられた。
だが、自分の体に提示される金額の大きさは、愛海の気持ちを高揚させはしたが、やはり、もう完全に自分は体に値が付く女になったのだ、と自覚させられ、その心は重苦しく沈んだ。
事務局の人間に言われなくとも、もう一度あの舞台に全裸で立つことを考えると、気持ちが萎えた。
今更見知らぬ相手とどこかで二人きりで『お試し』をするのも勇気のいることだと思った。
不器用に見えた一番目の男が自分を成約の相手として名指ししてくれたことも嬉しかった。
だが……忘れられないのはただ一人だった。あれから何度も何度も繰り返し思い出し、体を一人熱くさせてきたのは。
愛海はあの時呼ばれた「みやび」という名について考えていた。
あの男はやっぱり佐藤俊哉で、あの時読んだのは妻の雅の事だったのか?
それとも、熱烈な相沢雅のファンでよく似た私を抱きたいのだろうか?
みやび、みやびとあれから毎日あの男のささやき声を考えない日はなかった。
気付くと愛海は、
「では、二番目の方で」と答えていた。あの最後に自分を凍り付かせたあの男に。
「お名前は?なんとお伝えしましょうか。偽名でも結構ですよ」
事務局の問いかけに、愛海は
「みやび」と答えていた。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
どうして隣の家で僕の妻が喘いでいるんですか?
ヘロディア
恋愛
壁が薄いマンションに住んでいる主人公と妻。彼らは新婚で、ヤりたいこともできない状態にあった。
しかし、隣の家から喘ぎ声が聞こえてきて、自分たちが我慢せずともよいのではと思い始め、実行に移そうとする。
しかし、何故か隣の家からは妻の喘ぎ声が聞こえてきて…
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
今、夫と私の浮気相手の二人に侵されている
ヘロディア
恋愛
浮気がバレた主人公。
夫の提案で、主人公、夫、浮気相手の三人で面会することとなる。
そこで主人公は男同士の自分の取り合いを目の当たりにし、最後に男たちが選んだのは、先に主人公を絶頂に導いたものの勝ち、という道だった。
主人公は絶望的な状況で喘ぎ始め…
先輩の奥さんかわいいからもらったんですけど何か?
ヘロディア
恋愛
先輩の妻とあってはいけない関係を作ってしまった主人公。
美しすぎる人妻とお互いを求め合っていく。
しかし、そんな日はいつか終わりを迎えるのであった…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる