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第三逝
其の十三「料理人ブローマネスタ」
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洞窟近くの『風の道』を使って街まで戻ってきた俺達は、骨をスヴェルに任せ、ブローマネスタの家にやって来た。
入る前から辛い匂いがしているのは気の所為だろう。
それか狩りの所為で鼻がやられているだけだろう。
「さ、ヴィートゥシュ、今日も食べてもらうわよ。」
ブローマネスタは帰宅するなり髪を結わえて台所へ行き、元々俺に食べさせるつもりだったであろう大鍋を熱し始める。
俺は敢えてそちらは向かずに席につき目を閉じ、覚悟を決めて深呼吸をする。
「お手柔らかに。」
目を開け台所をちらりと見ると、ブローマネスタは鍋をお玉で掻き混ぜながら機嫌良く鼻歌を歌っている。
おや、顔の周りには防護魔法がかかっているように見える。
刺激的な香りが一層強く漂ってきた。
さて、今日の一皿はどのような物なのでしょうか?
辛いという情報は鼻と目に届いてるけどね!
「お待たせ~!今日は火炎魔法の耐性が付く、火炎鍋よ!」
ブローマネスタが満面の笑みで運んできた皿には、ゴポゴポとマグマのように煮立った真っ赤な液体が入っている。
とろみのついた感じと肉や野菜が見える事から、恐らくシチューのようなものである事が分かる。
しかし、立ち上る香りで刺激された俺の目と鼻は、それがシチューではないと告げている。
危険だ。
明らかに危険だ。
『ハウカタエラ』と戦っていた方が良かった。
だがどのような朝を過ごそうと、昼食はブローマネスタの手料理である事は決まっている。
というのも、俺はブローマネスタの実験的な料理の試食をする係として、王である父上から直々に命令されている。
事の発端は2年前の春。
ブローマネスタが魔術の師匠から学ぶ事が無くなったのが原因だ。
彼女の師匠は650歳ほど。
600年以上年上の魔術師から10代半ばの女の子が学ぶ事がなくなるはずが無いと思うだろうが、これには理由がある。
エルフの魔術師には段階があり、危険度の高い魔法を学ぶには、それに見合ったある程度の経験と魔術師会の承認が必要なのだ。
それでもブローマネスタは飛び級を続けて、かなり危険な魔法も習得している。
だが、常識の範疇を大きく超えたその才能にそぐわない年齢と経験から、道を誤るのではないかと危惧され、新たな魔法の習得はお預けとなったのである。
こうして魔術師としての修行が一旦中止になってしまった彼女は、経験を積むべく様々な事に挑戦するようになった。
魔法の精度を上げたり、新しい魔法を開発したり、魔法を使う生物や空気中に漂う魔素の研究をしたりした。
そして彼女が一番夢中になったのが、料理である。
彼女曰く、火や水、鉄の鍋、食材を反応させて作る料理は魔法に近いものがあるらしい。
最初は普通の料理を作っていたが、彼女には料理の才能もあった。
一年経つ頃には王宮料理人に匹敵する腕前になり、ある時、料理で実益を生み出す事を思いついた。
つまり、魔法と料理を掛け合わせて、魔術師会が納得するような結果を出すという事だ。
入る前から辛い匂いがしているのは気の所為だろう。
それか狩りの所為で鼻がやられているだけだろう。
「さ、ヴィートゥシュ、今日も食べてもらうわよ。」
ブローマネスタは帰宅するなり髪を結わえて台所へ行き、元々俺に食べさせるつもりだったであろう大鍋を熱し始める。
俺は敢えてそちらは向かずに席につき目を閉じ、覚悟を決めて深呼吸をする。
「お手柔らかに。」
目を開け台所をちらりと見ると、ブローマネスタは鍋をお玉で掻き混ぜながら機嫌良く鼻歌を歌っている。
おや、顔の周りには防護魔法がかかっているように見える。
刺激的な香りが一層強く漂ってきた。
さて、今日の一皿はどのような物なのでしょうか?
辛いという情報は鼻と目に届いてるけどね!
「お待たせ~!今日は火炎魔法の耐性が付く、火炎鍋よ!」
ブローマネスタが満面の笑みで運んできた皿には、ゴポゴポとマグマのように煮立った真っ赤な液体が入っている。
とろみのついた感じと肉や野菜が見える事から、恐らくシチューのようなものである事が分かる。
しかし、立ち上る香りで刺激された俺の目と鼻は、それがシチューではないと告げている。
危険だ。
明らかに危険だ。
『ハウカタエラ』と戦っていた方が良かった。
だがどのような朝を過ごそうと、昼食はブローマネスタの手料理である事は決まっている。
というのも、俺はブローマネスタの実験的な料理の試食をする係として、王である父上から直々に命令されている。
事の発端は2年前の春。
ブローマネスタが魔術の師匠から学ぶ事が無くなったのが原因だ。
彼女の師匠は650歳ほど。
600年以上年上の魔術師から10代半ばの女の子が学ぶ事がなくなるはずが無いと思うだろうが、これには理由がある。
エルフの魔術師には段階があり、危険度の高い魔法を学ぶには、それに見合ったある程度の経験と魔術師会の承認が必要なのだ。
それでもブローマネスタは飛び級を続けて、かなり危険な魔法も習得している。
だが、常識の範疇を大きく超えたその才能にそぐわない年齢と経験から、道を誤るのではないかと危惧され、新たな魔法の習得はお預けとなったのである。
こうして魔術師としての修行が一旦中止になってしまった彼女は、経験を積むべく様々な事に挑戦するようになった。
魔法の精度を上げたり、新しい魔法を開発したり、魔法を使う生物や空気中に漂う魔素の研究をしたりした。
そして彼女が一番夢中になったのが、料理である。
彼女曰く、火や水、鉄の鍋、食材を反応させて作る料理は魔法に近いものがあるらしい。
最初は普通の料理を作っていたが、彼女には料理の才能もあった。
一年経つ頃には王宮料理人に匹敵する腕前になり、ある時、料理で実益を生み出す事を思いついた。
つまり、魔法と料理を掛け合わせて、魔術師会が納得するような結果を出すという事だ。
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