上 下
23 / 37

好きな人

しおりを挟む

長い1日だった。

ベッドの上で労わるようにギルバートが頭を撫でてくれる。



あの後、ハリーたちが旦那さんの待つ、王都の宿まで姉を送り届けてくれた。

そうして夜を迎え、ギルバートと二人きりで寝室にいた。



「昼間はありがとうございました。ギル様たちがいてくれなければ、どうなっていたか…ベラさんもさらに罪を重ねることになっていたかもしれませんし」

姉が無事で本当によかった。



息を吐く私を見て、ギルバートが眉を寄せる。

「ロルフが今回の件、裏で手引きしていたのは間違いない。俺だけではなく、お前も消すつもりだったんだ。このままにはしておけん」



「はい…」

ロルフ…一度しかまともに会ったことはないが、歳の割に哀愁漂っていた姿を思い出す。

彼は私や、いずれギルバートを消して王座につくことが目的なのだろうか。



それとも私たちが秘密を知ってしまったことに気付いているのだろうか。

「後手に回っては意味がない。あの問題を公表して、ロルフと王妃を処刑する」

ギルバートが冷たい目で宣言する。



処刑という言葉に息をのむ。

しかし、確かにルーナたちに教えてもらった公爵家とは別の大きな問題を表沙汰にすれば、彼らが処刑されることは間違いないだろう。



こないだ話したマリアンヌの姿が思い浮かぶ。

彼女はこの国で一番の権力者の嫁なのに、何か満たされない顔をしている。



「その、表沙汰にするのではなく、秘密裏に彼らに知っていることを告げるのはダメでしょうか?」

思わず進言してしまう。

「なぜだ」

ギルバートが短く問い返す。



「私たちの目的としては、今後私たちに対して危害を加えないことと、王座を求めることをやめるという点を確約できれば問題ないわけですし…」

恐る恐る付け足す。



「その約束が脅しひとつで果たされると思うか?むしろ俺たちが秘密を知っているとなると、今まで以上に消そうと躍起になると思うが」

ギルバートの言葉に反論の余地はない。

たしかにその通りである。



ましてギルバート自身は実際、過去に何度もマリアンヌに殺されかけているのだ。

やはり私の考えが甘いのだろう。

黙り込んだ私を見て、ギルバートが口を開く。



「なぜ、処刑したくないんだ?その方がリーゼも脅威がなくなり、これから安心して過ごせるようになると思うが」

私の目を覗き込む。



「私は…ギル様と結婚して、とても幸せです」

突然出てきた言葉にギルバートが目を見開く。



「それは私がギル様を好きだからです」

「なっ」

ギルバートが驚いたように、声をあげる。



「そして、想い合っているなどと自惚れはしていませんが。ギル様が私に優しくしてくださるから。私は今とても幸せです」

真っ直ぐギルバートのアメジストのような瞳を見つめる。



ギルバートが何か言いたそうにしているが、続きを促してくれる。

「だから、思うのです。もし好きな人以外と結婚していたら、とか、好きな人と結婚できてもこちらを見てくれなかったらとか。好きな人が別の人と結婚してしまったら…」



想像しただけで胸が痛く、下を向く。

「きっと悲しくて生きていけません。そう思うと、ロルフ様やマリアンヌ様のことを処刑するとは、言えないのです」



ロルフとマリアンヌは身体を重ねていたのだ。



二人の気持ちの在りどころはわからない。

しかし王妃の身でありながら、王以外と身体を交じ合わせることは決して許されない。

そして相手方であるロルフも不敬罪にあたる。



このことが王や、周りの人間に知られたら、間違いなく二人は処刑される。



「はぁ…いろいろ言いたいことはあるが、リーゼの気持ちはわかった。まずはロルフとマリアンヌ、二人に直接交渉してみよう」

ばっと俯いていた顔をあげ、ギルバートの顔をまじまじと見つめる。

「ありがとうございます!」



「言っておくが、交渉が決裂したら予定通り、即刻処刑するからな」

ギルバートが付け足す。けれど私の考えを受け止めてくれたことが嬉しかった。

ギルバートの言葉にうなずく。



ギルバートが私を眺め、深くため息をつく。

「なぜ今なんだ。問題が解決したら、お前に言うことがある。あと…」

ギルバートは耳元に口を寄せると

「絶対にお前を抱く、覚悟しておけ」



驚いてギルバートの顔を見ると、短くキスをされ、ギルバートが布団に潜り込む。

言葉の意味を理解して、顔が赤くなる。

ほてった頬を押さえながら、なんとか

「おやすみなさい」

と告げ、自分も布団に潜り込んだ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

溺愛されたのは私の親友

hana
恋愛
結婚二年。 私と夫の仲は冷え切っていた。 頻発に外出する夫の後をつけてみると、そこには親友の姿があった。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!

仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。 18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。 噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。 「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」 しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。 途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。 危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。 エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。 そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。 エルネストの弟、ジェレミーだ。 ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。 心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――

【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ
恋愛
騎士であった夫が突然川に落ちて死んだと聞かされたラフェ。 お腹には赤ちゃんがいることが分かったばかりなのに。 これからどうやって暮らしていけばいいのか…… 子供と二人で何とか頑張って暮らし始めたのに…… そして………

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...