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好きな人
しおりを挟む長い1日だった。
ベッドの上で労わるようにギルバートが頭を撫でてくれる。
あの後、ハリーたちが旦那さんの待つ、王都の宿まで姉を送り届けてくれた。
そうして夜を迎え、ギルバートと二人きりで寝室にいた。
「昼間はありがとうございました。ギル様たちがいてくれなければ、どうなっていたか…ベラさんもさらに罪を重ねることになっていたかもしれませんし」
姉が無事で本当によかった。
息を吐く私を見て、ギルバートが眉を寄せる。
「ロルフが今回の件、裏で手引きしていたのは間違いない。俺だけではなく、お前も消すつもりだったんだ。このままにはしておけん」
「はい…」
ロルフ…一度しかまともに会ったことはないが、歳の割に哀愁漂っていた姿を思い出す。
彼は私や、いずれギルバートを消して王座につくことが目的なのだろうか。
それとも私たちが秘密を知ってしまったことに気付いているのだろうか。
「後手に回っては意味がない。あの問題を公表して、ロルフと王妃を処刑する」
ギルバートが冷たい目で宣言する。
処刑という言葉に息をのむ。
しかし、確かにルーナたちに教えてもらった公爵家とは別の大きな問題を表沙汰にすれば、彼らが処刑されることは間違いないだろう。
こないだ話したマリアンヌの姿が思い浮かぶ。
彼女はこの国で一番の権力者の嫁なのに、何か満たされない顔をしている。
「その、表沙汰にするのではなく、秘密裏に彼らに知っていることを告げるのはダメでしょうか?」
思わず進言してしまう。
「なぜだ」
ギルバートが短く問い返す。
「私たちの目的としては、今後私たちに対して危害を加えないことと、王座を求めることをやめるという点を確約できれば問題ないわけですし…」
恐る恐る付け足す。
「その約束が脅しひとつで果たされると思うか?むしろ俺たちが秘密を知っているとなると、今まで以上に消そうと躍起になると思うが」
ギルバートの言葉に反論の余地はない。
たしかにその通りである。
ましてギルバート自身は実際、過去に何度もマリアンヌに殺されかけているのだ。
やはり私の考えが甘いのだろう。
黙り込んだ私を見て、ギルバートが口を開く。
「なぜ、処刑したくないんだ?その方がリーゼも脅威がなくなり、これから安心して過ごせるようになると思うが」
私の目を覗き込む。
「私は…ギル様と結婚して、とても幸せです」
突然出てきた言葉にギルバートが目を見開く。
「それは私がギル様を好きだからです」
「なっ」
ギルバートが驚いたように、声をあげる。
「そして、想い合っているなどと自惚れはしていませんが。ギル様が私に優しくしてくださるから。私は今とても幸せです」
真っ直ぐギルバートのアメジストのような瞳を見つめる。
ギルバートが何か言いたそうにしているが、続きを促してくれる。
「だから、思うのです。もし好きな人以外と結婚していたら、とか、好きな人と結婚できてもこちらを見てくれなかったらとか。好きな人が別の人と結婚してしまったら…」
想像しただけで胸が痛く、下を向く。
「きっと悲しくて生きていけません。そう思うと、ロルフ様やマリアンヌ様のことを処刑するとは、言えないのです」
ロルフとマリアンヌは身体を重ねていたのだ。
二人の気持ちの在りどころはわからない。
しかし王妃の身でありながら、王以外と身体を交じ合わせることは決して許されない。
そして相手方であるロルフも不敬罪にあたる。
このことが王や、周りの人間に知られたら、間違いなく二人は処刑される。
「はぁ…いろいろ言いたいことはあるが、リーゼの気持ちはわかった。まずはロルフとマリアンヌ、二人に直接交渉してみよう」
ばっと俯いていた顔をあげ、ギルバートの顔をまじまじと見つめる。
「ありがとうございます!」
「言っておくが、交渉が決裂したら予定通り、即刻処刑するからな」
ギルバートが付け足す。けれど私の考えを受け止めてくれたことが嬉しかった。
ギルバートの言葉にうなずく。
ギルバートが私を眺め、深くため息をつく。
「なぜ今なんだ。問題が解決したら、お前に言うことがある。あと…」
ギルバートは耳元に口を寄せると
「絶対にお前を抱く、覚悟しておけ」
驚いてギルバートの顔を見ると、短くキスをされ、ギルバートが布団に潜り込む。
言葉の意味を理解して、顔が赤くなる。
ほてった頬を押さえながら、なんとか
「おやすみなさい」
と告げ、自分も布団に潜り込んだ。
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