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良好な関係
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普段の悪い顔とは違い、年相応の笑顔を見せてくれたマサ。
素顔を隠さず戦っていた数年前。今更蒸し返されると恥ずかしいけど、あの頃は何よりもただ、喧嘩することが好きだった。
思い返してみても自分で気づいてなかった。
今までのこういう勝負で相手を殴ったことなんてなかった。足技とか仲間同士でわざとぶつけたりして短時間ですぐ終わるようなことしかやってこなかった。もしかして、みんなはそれに気づいてたの?だから今回は制限時間がなかったの?
知らぬ間にマサを見つめていた。
どうしてそんなに優しい瞳であたしを見るの。本当のあたしはそんなんじゃないよ、わかってるでしょ?
マサたちのために居場所を作ったわけじゃない。みんながいなくなったら寂しいなんていう只のワガママ。奴らを野放しにしておいたのだって、本当なら責任が問われること。だから、助けたのも救ったのも自分のため。野放しにしておいたからこそ、尻拭いをしただけ。下っ端に拳を当てたのだって、きっとあたしが認めてもらいたかっただけ。全部、自分のためなんだよ。あたしの行動は誰かのためじゃない。
「ヒナ。大丈夫ですよ、深く考えないで」
「妃葵は自分のことだけ信じればいいよ」
「今回はこっちだったか。なあ妃葵、来いよ」
「ほら早く空んとこ行ったらぁ?」
声に惹かれるかのように空のもとへ向かう。
少しでもいい、少しでもいいからって甘えすぎたのかな。大きく空いた穴は塞がらないけれど、広がることはなくなった。過去は過去って、ちょっとでも割り切れるようになったのも魁皇のみんなのおかげ。
「言っただろ?みんなお前が心配なんだよ。お前が俺を理解できるように俺もお前を理解できるから」
「...うん、ありがと」
にこりと笑えば、優しく頭を撫でていた手を乱暴にする。
それが照れ隠しってことも知ってる。
幹部のみんなはいつも一緒にいるからなんとなく何を考えてるかわかる。でも、昔から一緒とはいえ立場が違って話す機会が減ってしまったマサたちのことは理解出来てなかった。あたしのことをそんなに考えてくれてるなんて想像もしてなかった。
「んあ?なんでお前らそんな空気なんだ?若ぇんだからさ、もっと楽しそうにしてろよ」
「雅也さんまじすか...」
「仲良く話そうぜ?上来いや」
「...はぁ。よし、お前らみんな好きなことしてろ。幹部は上行くぞ」
今上から降りてきたのだろうか、この空気にそぐわないことを言う。まーくんほんと空気壊すの好きだよね。でも、そのおかげかみんな笑顔になった。
マサたちが心配してくれてるってわかって、ちょっぴり嬉しかった。あたしは強いし空たちもまーくんたちもいるからもう心配されるなんてことないかと思ってた。あたしのワガママでたくさん迷惑かけてるのに、そんなの苦にも感じてないって伝わってくる。恥ずかしいから言えないけど、本当に心から嬉しい。
空に手を引っ張られながら明日のことを考える。
普通に学校あるんだけど、どうすればいいのだろうか。
まーくんの車で来たから自分じゃ帰れないしなぁ。空たちの後ろ乗っけて送ってもらおうにも、あいつら朝起きない。勝手にバイク借りるわけにもいかないよね。制服も家だから時間かかるだろうし、スプレーで黒染めとか眼鏡もしなきゃいけない。考えれば考えるほどなんか憂鬱になって来た。昨日はサボっちゃったとはいえ、一応優等生スタイルだからね。HRには出たい。学校までここから歩いたら何時間かかるかな。半日はかかるか、それはちょっとやだな。
そんなことを考えていたらいつの間にか上についていたらしく、まーくんがにやにやしながらりんごジュースを渡してくる。
「またりんご?妃葵ほんとにそれ好きだよね」
「奏だけだよ、わかってくれるの」
「ふふっ、ここ座る?」
軽く頷いて、奏と空の間に座る。
空は炭酸しか飲まないし、颯は意外といちごオレとか甘い飲み物を飲む。望夢はああ見えてコーヒーばっかり。唯一同じものを飲んでる姿を見かけるのは奏だけだ。飲み物の趣味は奏としか合わない。
ちびちび飲み物を飲んで、買ってもらったお菓子を食べながら時々まーくんの話に相槌を打っていればかなりの時間が経っていたらしく、時計を見れば既に日を跨いでいた。
...うーん、眠い。学校で寝たとはいえどこでも寝られるあたしは睡眠が大好き。欲をいうなら少なくとも半日は寝ていたい。
コクコク首を揺らしながら眠気と戦っていればそれに気づいたらしく、颯がこっちを見ていて視線がぶつかる。ぶつかったかと思えばすぐに逸らされ、まーくんと空に何か言っている。
「明日送ってやるから、寝ていいぞ」
「ほら、妃葵乗れ」
目の前には空の大きな背中。
送っていってくれるって。じゃあ朝はゆっくりかな。今朝のうちにセットしておいた携帯のアラームを確認して空の背中に乗る。颯には軽く手を振られ、奏と望夢におやすみと言われながらその場を離れる。スタスタと歩いていく空に揺られながら眠りについた。
素顔を隠さず戦っていた数年前。今更蒸し返されると恥ずかしいけど、あの頃は何よりもただ、喧嘩することが好きだった。
思い返してみても自分で気づいてなかった。
今までのこういう勝負で相手を殴ったことなんてなかった。足技とか仲間同士でわざとぶつけたりして短時間ですぐ終わるようなことしかやってこなかった。もしかして、みんなはそれに気づいてたの?だから今回は制限時間がなかったの?
知らぬ間にマサを見つめていた。
どうしてそんなに優しい瞳であたしを見るの。本当のあたしはそんなんじゃないよ、わかってるでしょ?
マサたちのために居場所を作ったわけじゃない。みんながいなくなったら寂しいなんていう只のワガママ。奴らを野放しにしておいたのだって、本当なら責任が問われること。だから、助けたのも救ったのも自分のため。野放しにしておいたからこそ、尻拭いをしただけ。下っ端に拳を当てたのだって、きっとあたしが認めてもらいたかっただけ。全部、自分のためなんだよ。あたしの行動は誰かのためじゃない。
「ヒナ。大丈夫ですよ、深く考えないで」
「妃葵は自分のことだけ信じればいいよ」
「今回はこっちだったか。なあ妃葵、来いよ」
「ほら早く空んとこ行ったらぁ?」
声に惹かれるかのように空のもとへ向かう。
少しでもいい、少しでもいいからって甘えすぎたのかな。大きく空いた穴は塞がらないけれど、広がることはなくなった。過去は過去って、ちょっとでも割り切れるようになったのも魁皇のみんなのおかげ。
「言っただろ?みんなお前が心配なんだよ。お前が俺を理解できるように俺もお前を理解できるから」
「...うん、ありがと」
にこりと笑えば、優しく頭を撫でていた手を乱暴にする。
それが照れ隠しってことも知ってる。
幹部のみんなはいつも一緒にいるからなんとなく何を考えてるかわかる。でも、昔から一緒とはいえ立場が違って話す機会が減ってしまったマサたちのことは理解出来てなかった。あたしのことをそんなに考えてくれてるなんて想像もしてなかった。
「んあ?なんでお前らそんな空気なんだ?若ぇんだからさ、もっと楽しそうにしてろよ」
「雅也さんまじすか...」
「仲良く話そうぜ?上来いや」
「...はぁ。よし、お前らみんな好きなことしてろ。幹部は上行くぞ」
今上から降りてきたのだろうか、この空気にそぐわないことを言う。まーくんほんと空気壊すの好きだよね。でも、そのおかげかみんな笑顔になった。
マサたちが心配してくれてるってわかって、ちょっぴり嬉しかった。あたしは強いし空たちもまーくんたちもいるからもう心配されるなんてことないかと思ってた。あたしのワガママでたくさん迷惑かけてるのに、そんなの苦にも感じてないって伝わってくる。恥ずかしいから言えないけど、本当に心から嬉しい。
空に手を引っ張られながら明日のことを考える。
普通に学校あるんだけど、どうすればいいのだろうか。
まーくんの車で来たから自分じゃ帰れないしなぁ。空たちの後ろ乗っけて送ってもらおうにも、あいつら朝起きない。勝手にバイク借りるわけにもいかないよね。制服も家だから時間かかるだろうし、スプレーで黒染めとか眼鏡もしなきゃいけない。考えれば考えるほどなんか憂鬱になって来た。昨日はサボっちゃったとはいえ、一応優等生スタイルだからね。HRには出たい。学校までここから歩いたら何時間かかるかな。半日はかかるか、それはちょっとやだな。
そんなことを考えていたらいつの間にか上についていたらしく、まーくんがにやにやしながらりんごジュースを渡してくる。
「またりんご?妃葵ほんとにそれ好きだよね」
「奏だけだよ、わかってくれるの」
「ふふっ、ここ座る?」
軽く頷いて、奏と空の間に座る。
空は炭酸しか飲まないし、颯は意外といちごオレとか甘い飲み物を飲む。望夢はああ見えてコーヒーばっかり。唯一同じものを飲んでる姿を見かけるのは奏だけだ。飲み物の趣味は奏としか合わない。
ちびちび飲み物を飲んで、買ってもらったお菓子を食べながら時々まーくんの話に相槌を打っていればかなりの時間が経っていたらしく、時計を見れば既に日を跨いでいた。
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