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#09:Battle for the young
Complex 03
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「何で今までのまんまじゃダメなんスか! 俺はまだッ……俺はまだ下総さんに……!」
下総蔚留は、武藏にとって圧倒的な存在だった。甘えだと罵られたって、子どものように他愛もないと切り捨てられたって、この想いは簡単に掻き消せやしない。瞼の裏に焼き付いた、胸に火を点けられた、あの背中を忘れるなんてできるはずがない。
いつまでも憧れ続けていられるのだと思っていた。全身全霊で自由に、何処までも無責任に、憧れる側でいられるのだと思っていた。憧れも想い人も、遠く遙かであるからこそ美しく透明なのだ。同じ場所に立ちたいだなんて考えたこともない。直向きに憧れ続けていることこそが願いだったのだ。
「あかん。お前はもう、深淵のアタマや」
「俺は……そんなモンに、なるつもりはッ……。俺は、備前さんがアタマになるもんだと……ッ」
武藏は、ほんの少しだけ備前に優しさを期待していた。まだいいよってもう少しだよって仕方がないよって言ってくれることを心の何処かで期待していた。そのような生易しい人物ではないと知っているはずなのに。
「備前さんは俺なんかよりよっぽど実力も頭もある。備前さんがアタマになれば誰からも文句なんて出ない。備前さんは自分がアタマになりたいとは思わないんスかッ」
「俺にその気はあれへん」
備前はキッパリと言い切り、武藏はガバッと立ち上がった。
「だからじゃないスか! 備前さんが断ったから下総さんは俺なんかをアタマにッ……」
「それはちゃう」
備前は腕組みをして顎を仰角にし、自分より背の高い武蔵の顔を真っ直ぐに見据えた。
目の前の少年は、己が背負わねばならない責任の重みに押し潰されそうになっていた。しかしながら、重たい重たいと喚き散らし、逃げ出したいという目をしながらも、本当は無責任に放棄するわけにもいかないことを悟っていた。己の運命を悟っているから、逃げ出さずに苦しんでいる。少年は、一つの時代の担い手として偉大なる先人に間違いなく選ばれたのだ。本人の願望など関係はない。人は背負った宿命には逆らえぬ。使命を全うするだけだ。
「俺はそもそも選ばれへんかった。下総さんは迷うことなくお前を選ばはったんや」
「何、で……」
武藏は独り言のようにポロリと零した。
「下総さん見とって分かれへんか。人の上に立つ人っちゅうのはな、腕が立てばええ、賢ければええっちゅうもんちゃう。いつもあの人の周りにはぎょうさん人がいてるやろ」
武藏が下総の姿を脳裏に思い描くことは容易だった。誰よりも、何よりも鮮明に覚えている。瞼の裏に焼き付いた、胸に火を点けられた、あの背中を忘れるなんてできるはずがない。あの背中は大きく雄々しく逞しく広く優しく温かく、多くの者を惹き付けた――――。
「後のことは頼んだで、勇炫」
「へえ」
「ホンマやったら順番的にはお前がアタマ張るところやのに、面倒なこと押し付けてしもてスマンのォ」
「アタマとか……俺、元々そんな気ィあれへんですよって気にしはらんといてください」
「お前が無欲な男で良かったわ」
「アハハ」
「お前正直なトコ、腹ン中では武藏のことどう思てる?」
「見たまんまの男やと思てます。良くも悪くも裏表があれへん」
「…………。武藏はな、ガキや」
「賛成」
「アタマ言うてもそのホンマの意味もよう解ってへんよなガキや。アイツがアタマ張るんはホンマはまだちぃっと早い。人の上に立つにはまだまだの甘ちゃんなんや」
「意外に厳しい見解でんな。もうちょお武藏を高う買ってはると思てましたわ」
「お前の見立ても似たよなもんやろ」
「今はあかんかっても、その内立派な男になる思うてはるさかい武藏にしはったんでしょ。俺もそう思てます。武藏は俺なんかよりよっぽど人の上に立つ素質がある男や」
「武藏はこれから先がある男や。しばらく時間かかるか知らんけど、見捨てんと見守ってやってくれ」
「……ホンマなら、もう少し下総さんが見といてくれはるほうが武藏にとっても一番ええんですけど」
「そうでけたらええのにな」
「下総さん……」
「日頃の行いが悪いんか元々そーゆーモンなんか……チャンスやタイミングっちゅうモンは、自分の都合のええ時ばっかりは巡ってこんもんや」
人が人の上に立つという時、多かれ少なかれ上に立つ者にはカリスマ性が求められる。その下にいる者の数が多ければ多いほど、その必要性は弥増す。下総の生まれ持ったカリスマ性、人を引き付け追従させる光は、備前の知る中では屈指のものだった。だからこそ備前は下総に追従することに何の抵抗も反感もなかったのだ。
そしてまた、輝き方や強さや色味は違えど武藏の中にもキラキラしているものが見受けられたからこそ、備前は武藏に対して反旗を翻そうなどとは考えなかった。
備前の脳裏を下総が自分のあとを武藏に任せた人の記憶が過った。それほど大昔のことではないのに、随分懐かしく感じた。
いま目の前に立っている少年は、武藏は、あの日より成長しているはずだ。自分の在り方を思い悩むに至る程度には、責任や意義を感じているはずだ。だから、下総の決断は間違いではなかったと確信する。
「アタマともなれば色んなモン背負っとる。重たくて当たり前や。しんどォていっちもさっちも行けへんよになったときは、振り返ってみたらええ」
武藏は目だけ動かして備前を見た。備前は微笑みを湛えていた。
「人の上に立つのに相応しい男なら、振り返ったときに周りに誰かいてくれてるもんや。お前の周りには、お前を助けてくれる仲間がいてるやろ?」
備前は自信満々に微笑んで屋上の柵の外を指差した。どうやら備前は真下を指差しているらしい。
武藏はポカンと不思議そうにしたが、暫くしてハッとして柵に飛び付いた。柵から身を乗り出して下を覗き込むと、付かず離れず忙しく動き回る二つの人影があった。冷静になってみれば、此処は体育倉庫の真上だった。あの大小の人影は長門と薩摩だ。
ギシリ、と備前は背中から柵に凭れ掛かった。
「長門は物分かりええっちゅうか聞き分けええっちゅうか、人から言われんでも自分の役割っちゅうのを弁えとるヤツや」
「尤士の役割、スか?」
備前はクルリと体の向きを変え、鉄製の柵に腕を乗せて下を覗き込んだ。
「長門はお前のストッパーや。俺はこーゆー性悪なタチやから、カッコよう言うたらブレイン。人にはそれぞれ果たさなあかん役割がある。お前は〝俺じゃなくても他がいる〟言うたけどな、お前みたいなヤツの代わりなんかそうそういてへん」
下総はそれを知ってか知らずか本能的な直感か、深淵高校の誰よりも聡明で狡猾で実力のある備前をトップには据えなかった。最有力候補であった備前を二番手に置いて二年生に進級したばかりの武藏を指名したのは誰も予見していない大穴だった。
人にはそれぞれ必ず果たさなければならない役割がある。孤独で危険で過酷な重責を果たせるのは、武藏をおいて他にはいないと下総は考えのだ。武藏は自身が重責に押し潰されそうなときでも、それが賢くはない判断だとしても、決して仲間を裏切ることはない。下総は武藏を信じた。武藏自身よりも武藏の可能性を信じて疑わなかった。
「看板に足は生えてへん。ソレだけで立っとけるモンちゃうし、アタマ一人気張っとけば支えとけるよな気安いモンでもない。人がぎょうさん集まってようやっと立っとる危なっかしいモンや。せやさかい周りにぎょうさん人間惹き付けるヤツが、看板背負うんに相応しいんや」
パンッ。
備前に肩を叩かれ、武藏は備前へと顔を向けた。
「お前は実は大した男や」
「俺が……?」
「なァ、武藏。人にケンカ任しとるのに随分落ち着いとるもんやな」
備前は柵の上に頬杖を突き、ニッと笑った。
「尤士っスから」
「長門を信じとる証拠や」
「当然ッス」
備前の期待通り、武藏は力強く断言した。
一寸の疑いもない目。見え隠れするキラキラの部分。可能性を秘めたカリスマ性。自分には無いそれらこそが武藏の核となる最も重要な部分であり、自分が育てていかなくてはならない光だと思えば、備前からは自嘲が零れた。自分が持ち合わせていないものを育てていくなんて、キングと呼ばれたあの人はとんでもない難題を授けてくれたものだ。
「お前は、自分が何者で、これから何をしてかなあかんのか分かっとる」
「そう……スか?」
半信半疑で不安げな顔をしている武藏に対し、備前は自信満々にニッと笑った。
「俺には、お前にもあの人と同じモンが見える。あの人に追い付こう追い付こうて焦らんでもええ。心配せんでもお前はあの人と同じ道歩いてる。お前はちゃんと、あの人と同じほう向いてんで」
下総の偉大なるカリスマ性は稀に見るものだった。残響とも思えぬ残響を、光陰とも思えぬ光陰を、幻影とも思えぬ幻影を、色彩鮮やかに色濃く残すほどに。光を目指していれば、光のほうを向いて走っていれば、光を視界の真ん中に置いていれば、暗闇の中で道無き道を征きながらも目的地を違えることなんて無かった。
己で選んだ荊棘の道を、傷だらけで駆け抜ける深い道を、道無き道を、征く俺たちだから、確かな光りを先頭に灯していなくては道に迷ってしまう。そのような光になれるのだろうか。焦がれ憧れたあの光になれるのだろうか。今はまだ蝋燭の炎のようにちろちろと揺らめく炎でも、いつしかあの強烈な白光に。
「俺っ……俺、下総さんみたいになりたいんスよ!」
武藏は何かに追い立てられるように口にした。あの人を追いかけるのは夢の中のように心地いいのに、追い付こうとするのは心臓が破裂するほどに苦しい。早く、早く追い付きたい。この心臓が壊れてしまう前に。
「俺でも、なれるんスか……?」
武藏は心の中のほぼ全てをぶちまけたのだが、備前は「さぁ?」とでも言うように肩を竦めて首を傾げる。しかしながら目は笑っていた。自分に都合のよい勘違いかも知れないが、励ましてくれているんだと思った。
「そうなりたいんやったら、やってみたらええ。お前は焦ってイライラしとるか知らんけど、自分が何をせなあかんかほんまは分かってるやろ」
備前は柵の上に頬杖を突き、再び真下を指差した。
「お前はただ真っ直ぐ前を向いて、仲間を信じとけばええ。お前には簡単なことやろ?」
下総蔚留は、武藏にとって圧倒的な存在だった。甘えだと罵られたって、子どものように他愛もないと切り捨てられたって、この想いは簡単に掻き消せやしない。瞼の裏に焼き付いた、胸に火を点けられた、あの背中を忘れるなんてできるはずがない。
いつまでも憧れ続けていられるのだと思っていた。全身全霊で自由に、何処までも無責任に、憧れる側でいられるのだと思っていた。憧れも想い人も、遠く遙かであるからこそ美しく透明なのだ。同じ場所に立ちたいだなんて考えたこともない。直向きに憧れ続けていることこそが願いだったのだ。
「あかん。お前はもう、深淵のアタマや」
「俺は……そんなモンに、なるつもりはッ……。俺は、備前さんがアタマになるもんだと……ッ」
武藏は、ほんの少しだけ備前に優しさを期待していた。まだいいよってもう少しだよって仕方がないよって言ってくれることを心の何処かで期待していた。そのような生易しい人物ではないと知っているはずなのに。
「備前さんは俺なんかよりよっぽど実力も頭もある。備前さんがアタマになれば誰からも文句なんて出ない。備前さんは自分がアタマになりたいとは思わないんスかッ」
「俺にその気はあれへん」
備前はキッパリと言い切り、武藏はガバッと立ち上がった。
「だからじゃないスか! 備前さんが断ったから下総さんは俺なんかをアタマにッ……」
「それはちゃう」
備前は腕組みをして顎を仰角にし、自分より背の高い武蔵の顔を真っ直ぐに見据えた。
目の前の少年は、己が背負わねばならない責任の重みに押し潰されそうになっていた。しかしながら、重たい重たいと喚き散らし、逃げ出したいという目をしながらも、本当は無責任に放棄するわけにもいかないことを悟っていた。己の運命を悟っているから、逃げ出さずに苦しんでいる。少年は、一つの時代の担い手として偉大なる先人に間違いなく選ばれたのだ。本人の願望など関係はない。人は背負った宿命には逆らえぬ。使命を全うするだけだ。
「俺はそもそも選ばれへんかった。下総さんは迷うことなくお前を選ばはったんや」
「何、で……」
武藏は独り言のようにポロリと零した。
「下総さん見とって分かれへんか。人の上に立つ人っちゅうのはな、腕が立てばええ、賢ければええっちゅうもんちゃう。いつもあの人の周りにはぎょうさん人がいてるやろ」
武藏が下総の姿を脳裏に思い描くことは容易だった。誰よりも、何よりも鮮明に覚えている。瞼の裏に焼き付いた、胸に火を点けられた、あの背中を忘れるなんてできるはずがない。あの背中は大きく雄々しく逞しく広く優しく温かく、多くの者を惹き付けた――――。
「後のことは頼んだで、勇炫」
「へえ」
「ホンマやったら順番的にはお前がアタマ張るところやのに、面倒なこと押し付けてしもてスマンのォ」
「アタマとか……俺、元々そんな気ィあれへんですよって気にしはらんといてください」
「お前が無欲な男で良かったわ」
「アハハ」
「お前正直なトコ、腹ン中では武藏のことどう思てる?」
「見たまんまの男やと思てます。良くも悪くも裏表があれへん」
「…………。武藏はな、ガキや」
「賛成」
「アタマ言うてもそのホンマの意味もよう解ってへんよなガキや。アイツがアタマ張るんはホンマはまだちぃっと早い。人の上に立つにはまだまだの甘ちゃんなんや」
「意外に厳しい見解でんな。もうちょお武藏を高う買ってはると思てましたわ」
「お前の見立ても似たよなもんやろ」
「今はあかんかっても、その内立派な男になる思うてはるさかい武藏にしはったんでしょ。俺もそう思てます。武藏は俺なんかよりよっぽど人の上に立つ素質がある男や」
「武藏はこれから先がある男や。しばらく時間かかるか知らんけど、見捨てんと見守ってやってくれ」
「……ホンマなら、もう少し下総さんが見といてくれはるほうが武藏にとっても一番ええんですけど」
「そうでけたらええのにな」
「下総さん……」
「日頃の行いが悪いんか元々そーゆーモンなんか……チャンスやタイミングっちゅうモンは、自分の都合のええ時ばっかりは巡ってこんもんや」
人が人の上に立つという時、多かれ少なかれ上に立つ者にはカリスマ性が求められる。その下にいる者の数が多ければ多いほど、その必要性は弥増す。下総の生まれ持ったカリスマ性、人を引き付け追従させる光は、備前の知る中では屈指のものだった。だからこそ備前は下総に追従することに何の抵抗も反感もなかったのだ。
そしてまた、輝き方や強さや色味は違えど武藏の中にもキラキラしているものが見受けられたからこそ、備前は武藏に対して反旗を翻そうなどとは考えなかった。
備前の脳裏を下総が自分のあとを武藏に任せた人の記憶が過った。それほど大昔のことではないのに、随分懐かしく感じた。
いま目の前に立っている少年は、武藏は、あの日より成長しているはずだ。自分の在り方を思い悩むに至る程度には、責任や意義を感じているはずだ。だから、下総の決断は間違いではなかったと確信する。
「アタマともなれば色んなモン背負っとる。重たくて当たり前や。しんどォていっちもさっちも行けへんよになったときは、振り返ってみたらええ」
武藏は目だけ動かして備前を見た。備前は微笑みを湛えていた。
「人の上に立つのに相応しい男なら、振り返ったときに周りに誰かいてくれてるもんや。お前の周りには、お前を助けてくれる仲間がいてるやろ?」
備前は自信満々に微笑んで屋上の柵の外を指差した。どうやら備前は真下を指差しているらしい。
武藏はポカンと不思議そうにしたが、暫くしてハッとして柵に飛び付いた。柵から身を乗り出して下を覗き込むと、付かず離れず忙しく動き回る二つの人影があった。冷静になってみれば、此処は体育倉庫の真上だった。あの大小の人影は長門と薩摩だ。
ギシリ、と備前は背中から柵に凭れ掛かった。
「長門は物分かりええっちゅうか聞き分けええっちゅうか、人から言われんでも自分の役割っちゅうのを弁えとるヤツや」
「尤士の役割、スか?」
備前はクルリと体の向きを変え、鉄製の柵に腕を乗せて下を覗き込んだ。
「長門はお前のストッパーや。俺はこーゆー性悪なタチやから、カッコよう言うたらブレイン。人にはそれぞれ果たさなあかん役割がある。お前は〝俺じゃなくても他がいる〟言うたけどな、お前みたいなヤツの代わりなんかそうそういてへん」
下総はそれを知ってか知らずか本能的な直感か、深淵高校の誰よりも聡明で狡猾で実力のある備前をトップには据えなかった。最有力候補であった備前を二番手に置いて二年生に進級したばかりの武藏を指名したのは誰も予見していない大穴だった。
人にはそれぞれ必ず果たさなければならない役割がある。孤独で危険で過酷な重責を果たせるのは、武藏をおいて他にはいないと下総は考えのだ。武藏は自身が重責に押し潰されそうなときでも、それが賢くはない判断だとしても、決して仲間を裏切ることはない。下総は武藏を信じた。武藏自身よりも武藏の可能性を信じて疑わなかった。
「看板に足は生えてへん。ソレだけで立っとけるモンちゃうし、アタマ一人気張っとけば支えとけるよな気安いモンでもない。人がぎょうさん集まってようやっと立っとる危なっかしいモンや。せやさかい周りにぎょうさん人間惹き付けるヤツが、看板背負うんに相応しいんや」
パンッ。
備前に肩を叩かれ、武藏は備前へと顔を向けた。
「お前は実は大した男や」
「俺が……?」
「なァ、武藏。人にケンカ任しとるのに随分落ち着いとるもんやな」
備前は柵の上に頬杖を突き、ニッと笑った。
「尤士っスから」
「長門を信じとる証拠や」
「当然ッス」
備前の期待通り、武藏は力強く断言した。
一寸の疑いもない目。見え隠れするキラキラの部分。可能性を秘めたカリスマ性。自分には無いそれらこそが武藏の核となる最も重要な部分であり、自分が育てていかなくてはならない光だと思えば、備前からは自嘲が零れた。自分が持ち合わせていないものを育てていくなんて、キングと呼ばれたあの人はとんでもない難題を授けてくれたものだ。
「お前は、自分が何者で、これから何をしてかなあかんのか分かっとる」
「そう……スか?」
半信半疑で不安げな顔をしている武藏に対し、備前は自信満々にニッと笑った。
「俺には、お前にもあの人と同じモンが見える。あの人に追い付こう追い付こうて焦らんでもええ。心配せんでもお前はあの人と同じ道歩いてる。お前はちゃんと、あの人と同じほう向いてんで」
下総の偉大なるカリスマ性は稀に見るものだった。残響とも思えぬ残響を、光陰とも思えぬ光陰を、幻影とも思えぬ幻影を、色彩鮮やかに色濃く残すほどに。光を目指していれば、光のほうを向いて走っていれば、光を視界の真ん中に置いていれば、暗闇の中で道無き道を征きながらも目的地を違えることなんて無かった。
己で選んだ荊棘の道を、傷だらけで駆け抜ける深い道を、道無き道を、征く俺たちだから、確かな光りを先頭に灯していなくては道に迷ってしまう。そのような光になれるのだろうか。焦がれ憧れたあの光になれるのだろうか。今はまだ蝋燭の炎のようにちろちろと揺らめく炎でも、いつしかあの強烈な白光に。
「俺っ……俺、下総さんみたいになりたいんスよ!」
武藏は何かに追い立てられるように口にした。あの人を追いかけるのは夢の中のように心地いいのに、追い付こうとするのは心臓が破裂するほどに苦しい。早く、早く追い付きたい。この心臓が壊れてしまう前に。
「俺でも、なれるんスか……?」
武藏は心の中のほぼ全てをぶちまけたのだが、備前は「さぁ?」とでも言うように肩を竦めて首を傾げる。しかしながら目は笑っていた。自分に都合のよい勘違いかも知れないが、励ましてくれているんだと思った。
「そうなりたいんやったら、やってみたらええ。お前は焦ってイライラしとるか知らんけど、自分が何をせなあかんかほんまは分かってるやろ」
備前は柵の上に頬杖を突き、再び真下を指差した。
「お前はただ真っ直ぐ前を向いて、仲間を信じとけばええ。お前には簡単なことやろ?」
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