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Kapitel 08
平癒の遊行 02
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私立瑠璃瑛学園・某教室。
時刻はHRの直後。
アキラは、通学鞄に教科書やペンケースを詰めて帰り支度の最中。この作業は最早手癖で行うことが可能であり、脳内は夕飯の献立についてでいっぱいだった。育ち盛りの弟がすでに帰宅してお腹を空かせているだろうから、一刻も早くその空腹を満たしてやらなくては。
隣の席は最も親しい友人・久峩城ヶ嵜虎子。彼女は細長い白い指でスマートフォンの液晶を操作していた。
アキラ、と虎子から声をかけられ、呼ばれた本人は彼女へと目線を移した。
「早めに校門に向かったほうがよいかもしれません」
「何で?」
アキラはジーッと通学鞄のファスナーを閉めて尋ねた。
虎子はスッと窓の外を指差した。アキラは通学鞄を肩にかけ、虎子が指し示すまま窓に近付いた。
虎子が言った通り校門に目を向けると、確かに普段の様相とは少々異なっていた。普段は生徒も送迎の車も滞りなく流れて出て行くのに、本日は生徒の流れが校門周辺で心なしか速度が落ちている。生徒たちの行動を見るに、校門付近に何かがあり、それを遠巻きに観察しながら離れていっているようだ。その正体はこの位置からは見えない。
「嫌な予感」
アキラが一つ独り言を零した。虎子も椅子から立ち上がり、二人で教室から出て行った。
校門付近で人並みが滞る原因は、人目を引く人物がいたからだ。
明らかに学生ではない白髪に長身の男性と、一際巨大な褐色の男性。実は傍らに黒髪ポニーテールの若い女性もいるのだが、先述の二名が余りにも注目を集める為、少年少女の認識から掻き消されていた。
白髪の男とポニーテールは校門至近に並んで立っていた。褐色の巨躯はガキにジロジロと見られて鬱陶しいと、二人から少し離れたガードレールに腰掛けていた。それでも目立っていることに変わりないのだけれど。このような目立つ容貌を見落とすほうが視力が心配だ。
「歩兵長がミズガルズにおいでになって本当に大丈夫でしょうか。ミズガルズへの影響を最小限にする努力など考えてくださらないのでは……」
ビシュラは、大股開きで不貞不貞しく座っているヴァルトラムを見ながら心配そうに言った。見るからに配慮や慈悲などという概念から程遠い人物だ。
「考えんだろうが、まあ、大丈夫だろう多分」
「多分っ?」
ビシュラは吃驚して天尊の顔を見た。天尊は余裕の表情だった。浮かれていると言ってもよい。念願のミズガルズ行きを楽しみにしていたビシュラよりも機嫌がよろしい。
「ビシュラ。俺は神じゃないんだ。未来に何が起こるかなど知らん」
(早くアキラさんにお会いしたいだけなのでは💧)
なんと投げ遣りな発言をするのだろう。トラジロは、白髪の大隊長は可愛い恋人に会いに行く口実にビシュラを利用していると言っていたが、あながち間違いではないようだ。
たっ、と一人の女学生が校門から飛び出した。ボブの黒髪と若葉色のスカートを踊らせて。
天尊は彼女を見逃さなかった。ぱしっと女学生の手首を捕まえた。
振り返った女学生は、驚いた顔をしたアキラだった。
「あっ、ティエン。何で学校に――」
アキラが言い終わる前に、天尊はアキラの太腿裏を腕に乗せて抱え上げた。急激に視点が高くなったアキラは「きゃぁあっ」と声を上げた。待ちに待ったアキラとの再会を果たした天尊には、悲鳴紛いの声も生き生きとして愛らしさしかなかった。
「降ろして! 恥ずかしいっ」
「一刻も早くアキラの顔が見たくてな。会いたかったぞ」
「分かった! 分かったから! 早く降ろしてっ」
まだ下校の波は途切れそうにない。同じ制服を着た皆様に、子どものように抱き上げられている様をジロジロと眺められるなど恥ずかしすぎる。
アキラは天尊の肩をぽかぽかと殴るが、天尊は御機嫌に笑っている。隊舎では見せたことがないくらいの満面の笑み。ビシュラは、白髪の大隊長は可愛い恋人との再会を一日千秋の思いで待ち侘びていたのだなと実感した。お楽しみ中の大隊長のお邪魔してはいけない、と傍らで存在感を消すことに徹した。
すぐにアキラはぴょこぴょこと風にそよぐアホ毛に気付いた。抱き上げられた体勢のまま首を伸ばし、ビシュラを見付けて「え。ビシュラさん?」と声をかけた。
あ、もうお気付きになったのですね。もう少し戯れていらしてもよかったのに。
「歩兵長さんもいる。何で?」
御機嫌よう、とビシュラはアキラに挨拶をした。それから背伸びをし、高い位置にあるアキラの顔をじーっと観察した。
「ああ、よかった。こちらではとても顔色がよろしいですね。ご壮健そうで何よりです」
「元々体は弱いほうじゃないです、けど?」
アキラはキョトンとしたが、ビシュラは満足げにニコニコしていた。
ビシュラはアキラの体を案じていた。異界の住人と比較して人間は脆弱だ。アスガルトにいたときにアキラが死にかける目に遭った事件を思えば当然だ。
アキラに少し遅れて虎子が校門から出てきた。アキラは胸が急いて小走りになったが、虎子は楚々として歩んできたが故の時差だった。
虎子は天尊を見ても眉一つ動かさなかった。天尊がいることは、校門近辺を警備している護衛からスマートフォンに連絡を受けたときから知っていた。
「嫌な予感が的中しましたわね」
顔を見るなりご挨拶だ。天尊は「嫌な予感?」と虎子に聞き返した。
「白が嫌な予感がする、と」
「嫌な予感扱いされてショックを受けるべきか、俺がいないときも俺のことを考えていたと喜ぶべきか、判断が難しいところだ」
「ポジティブですのね」
アキラは「いいから降ろして」と天尊の耳を引っ張った。抱っこしている体勢を当たり前として話し込むのはやめてほしい。
天尊はアキラを地面に降ろした。さり気なくアキラの肩に手を置いたが、その手もまたさり気なく払い除けられた。アキラは、も~と零しながら手早くスカートを整えた。
それを見ていたビシュラは苦笑してしまった。
(アキラさん、意外と手厳しい)
「御兄様。また元気なお姿でお目にかかれるなんて喜ばしいことですわ」
「ココも元気そうだな。その言葉が本心からなら俺も大変喜ばしい」
虎子は口では丁寧な挨拶をしたが、目線は冷たいしニコリともしなかった。天尊のことは最低限のマナー程度の愛想を振りまく必要すらもない相手と認識している。
天尊のほうも最早虎子にそのようなものは期待していなかった。虎子にとって自分は、大切なアキラを横から掠め取っていた盗人のようなものだろう。聡明な虎子のことだから、いつの日かそういう日が来ることは当然想定していただろうが、あまりにも早すぎ、あまりにも得体が知れなかったということだ。
アキラさんアキラさん、とビシュラは小声で話しかけた。
「御兄様とは、こちらのお嬢様はティエンゾンさまの御親族ですか?」
いえ、そうではなくて、とアキラが答える前に虎子の目線がビシュラに向いた。
「いいえ、わたしは白のお友だちです。御兄様とは、便宜的にそう呼ばせていただいてるだけです」
虎子は非常に端正な顔立ちで微笑んでいるのに謎の迫力があった。ビシュラは人間など恐れる必要は無いはずなのに、本能的にゾッとしてしまい「かしこまりました」という声は小さくなってしまった。
虎子は両手を腿に置いてビシュラに向かって頭を下げた。ビシュラも片足を引き、スカートを抓んで持ち上げてお辞儀をした。
「改めまして、白のお友だちの久峩城ヶ嵜虎子と申します」
「申し遅れました。ビシュラでございます。ティエンゾンさまの部下です」
虎子は「部下……」と呟き、天尊に冷ややかな目線を遣った。
「定職に就いてらしたのですね、御兄様」
「無職だと言ったことはないが?」
虎子が天尊に対して辛辣であることは最早平常運転だ。天尊は気にもしなかった。
「何を仰有います、御嬢様。大隊長は立派な――」
「ビシュラ」
天尊から発言を遮られ、ビシュラはハッとして口に手を添えた。天尊から余計なことは言うなという意図を読み取り、「もっ、申し訳ございません」と急いで頭を垂れた。
「あちらも御兄様の部下の方で間違いありませんこと?」
天尊もビシュラも虎子が掌で指し示す方角を見た。
其処には、複数人の黒いスーツに包囲され、頭一つ飛び出たヴァルトラムの姿があった。
黒いスーツは虎子の護衛。虎子はこの国でも屈指の財閥名家の御嬢様であり、彼女の一定距離内に接近した不審者は危険として警戒される。護衛たちは普段は極力目立たぬよう行動しているが、朱色の髪の巨躯は彼等が姿を現すのも致し方ない危険人物と見なされたということだ。
いくら久峩城ヶ嵜家の護衛が優秀とはいえ、問題はヴァルトラムの気質だ。あのまま放っておいたら間違いなく乱闘に発展するだろう。
「ヨシ、じゃあお前たちは去れ」
天尊に突然そのようなことを言われ、ビシュラは「えっ⁉」と振り向いた。
「俺はアキラのところに滞在する。お前たちの滞在場所は都度報告しろ。行動は特に制限せんが、問題を起こさないよう気をつけろ。アレが一般人に怪我をさせないよう細心の注意を払えよ」
それを言ったのはわたしです大隊長、とは流石に口にしなかったビシュラ。
天尊はまるで上官として配慮しているような振りをしているが、脳内はアキラと過ごすことができる喜びでお花畑に違いない。
ぽん、と再び肩に置かれた天尊の手を、アキラはもう一度払い除けた。
「折角一緒に来たんだから少しくらい案内してあげれば。ティエンはもういろんな場所知ってるでしょ」
「来たかった場所にやっと来られたんだ。好きに行動したいだろ? ビシュラ」
天尊はビシュラに別行動を促したが、ビシュラはまったく耳に入ってはいなかった。顔の前で指を組んでキラキラした目でアキラを見た。
「アキラさんに案内していただけるのであればとても嬉しいです~~」
「え。わたしでいいんですか?」
ビシュラは頻りにコクコクコクと頷いた。このような清純な瞳で見詰められては、アキラもトラジロ同様、ダメと言うことなどできなかった。何よりアキラは、ビシュラが獣人の国でずっと傍にいてくれたことをとても感謝していた。案内程度で礼に値するとは思えないが、ビシュラの願いはできるだけ聞き入れてやりたかった。
「明日から週末だし、いいですよ。わたしでよければ」
ビシュラはアキラの手を握ってありがとうございますと満面の笑み。
天尊は忌々しそうに「チィッ!」と舌打ちし、アキラから「こーら」と怒られてしまった。
御兄様、と虎子が話しかけた。
「何日か滞在なさいますの?」
「早く帰れという意味か。まだ来たばかりなんだが」
虎子は「違います」とキッパリと言い切った。天尊とはあまり会話を弾ませる気も無いようだ。
「白の知り合いでもあるようですし、よろしければディナーのお店を手配しますわ。美味しくて、あまり人目につかない」
「それは正直……とてもありがたいです」
アキラは笑顔でありがとうと言った。虎子にはそれで充分だった。
正直、虎子の配慮はとてもありがたかった。天尊だけでも充分に目立つのに、今回はヴァルトラムもいる。何処にいても人目を引くことは間違いない。
アキラのマンション。
まず天尊は、アキラの自宅が以前と変わらぬ場所にあることに安堵した。自分の知らない間に引っ越しでもされていたら泣きたくなってしまう。自分の見ていない間にアキラに変化が訪れることを恐れていると言ってもよい。それから、玄関の雰囲気や家具の配置が変わっていないことにさらに安堵した。自然と帰ってきたのだという感想を抱いてしまうあたり、アキラと銀太がいる家を自分の帰るべき場所だと認識している。
再会した銀太から「ティエンじゃん! おかえり」と当たり前の挨拶をされた。疎ましがられず迎え入れられることが嬉しかった。銀太を抱き上げると、以前よりも少し重たくなっていた。アキラとは異なり、銀太に変化があることは喜ばしかった。
アキラが夕飯をダイニングテーブルに並べ始めた頃、銀太が自分の部屋からスポーツバッグを持って出てきた。銀太はスポーツバッグを、天尊が座っているリビングのソファに放った。
天尊は「何処かに行くのか」と尋ねた。銀太からは「廉大んち」と返ってきた。廉大とは、清汰とともに幼稚園からの銀太の親友だ。初等部に進学してからも大の仲良しである。
「最近お泊まり会がブームなの。ほぼ毎週末やってるよ」
アキラはテーブルの中央に夕飯のメインの皿を置いて言った。
「明日、外にゴハン食べに行くけど、どうする? 銀太行かない?」
「オレいいー。廉大と清汰と土日でクリアするって約束してるゲームあるから」
そう、じゃあココに人数を連絡しておこう、とアキラは制服スカートのポケットからスマートフォンを取り出した。トトトトと素早く親指で操作して文章をしたため、虎子に送信。
「あんまりゲームしすぎないんだよ。廉大ママの言うことはちゃんと聞くこと。もしも廉大ママが忙しそうだったらお手伝いもしてあげてね」
銀太は「うんッ」とよい返事をしたあと、何かを思い出して「あ」と零した。
天尊は銀太からの視線に気付き「何だ」と言った。
「オレ、ティエンを見張らなきゃいけないんだった」
いきなり何を言い出すのだお子様。天尊は眉を顰めて「は?」と言い返した。
「ティエンがいるときはちゃんと見張れって。アキラを泣かせたらスグに連絡しろって、ユカリが」
(岳父ッ💢)
アキラは天尊の頬の筋肉が引き攣っていることに気付いて苦笑した。本当は声に出して文句を言いたいのだろうな。あの父は子どもに何を言い含めているのだか。
「大丈夫。泣かない泣かない。気にしないで泊まりに行っておいで。約束してるんでしょ」
夕飯を食べ終わりいただきますを言うや否や、銀太はソファの上に放っていたスポーツバッグを手に持った。バタバタと玄関に向かい、靴を履いているところでアキラが追い付いた。「行ってきます!」と元気に告げて飛び出そうとした銀太をアキラが引き留め、廉大ママの言うことを聞きなさいともう一度言い聞かせた。天尊も取って付けたように気をつけろよと声をかけた。
アキラと天尊にいってらっしゃいと送り出され、銀太は一分一秒を争うように慌ただしく飛び出していった。たまにしか帰ってこない天尊よりも友人とのお泊まり会のほうが、彼の青春にとっては価値が重たいのだ。
「わたしの言ったこと、頭に残ってないだろうなー」
アキラはフフフと笑いながら玄関の鍵を閉めた。
玄関ドアに背を向け、上がり框を上がってすぐに天尊が立ち塞がった。アキラが「なに?」と尋ねると、大きな掌で顔を固定され、回避する間もなくキスをされた。
完全に隙を突かれた。誰もいなくなった途端に、玄関でいきなり唇を重ねることになるなんて、アキラは想像もしなかった。
アキラは腕を突っ張って天尊から距離をとった。
「銀太がいないからっていきなりはっ……ずるい」
「外でしたら怒るだろう。昼間邪険にされたのは、なかなか傷付いた」
「学校前でベタベタされたらフツーイヤだよ」
肩を抱く度に拒否されたのは、内心傷付いていた大隊長。何ともない振りをしていたのは単純に恰好を付けていただけだ。
「ここは学校じゃないし、ギンタもいない、誰もいない。……拒まないでくれ」
天尊が距離を詰め、アキラは反射的に後退った。嫌だとか恐いだとかではない。追い詰められて咄嗟に体が動いた。肘が固いものに当たり、壁側に後退してしまったと気付いた。
天尊は壁に手を突き、逃れようとする少女に迫った。その上背が天井の照明を遮り、少女の上に影を落とした。
接近してくる紫水晶の瞳は、長い睫毛によって翳っていた。アキラは宝石のような輝きに真剣に見詰められることに耐えられなくなり、力一杯瞼を閉じた。
唇と唇が触れ、今度はすぐには離れなかった。ぬるりと唇の隙間に舌が差し込まれ、予想していなかったアキラはビクッと身を縮めた。下顎の裏を指で撫でられ、擽ったくて自然と上下の歯列が緩んだ。やや口付けの角度が変わり、生温かい舌が奥へと侵入した。
くちゅっ、くちゅ、と水音を立て、ぬるぬるしたものが口腔内を蠢いている。込み上げてきた生理的な涙をグッと堪えた。
アキラはまた腕を突っ張って距離をとろうとしたが、天尊はそうさせなかった。少女のか細い手を捕まえて壁に縫い止めた。舌と舌が触れ合い絡み合い、味わった少女は甘かった。天尊が舌も津液もじゅるりと吸い上げ、アキラの体から力が抜けていった。
アキラはずるずると座り込んだが、天尊はそれでも逃がさなかった。アキラの両足の間に位置取り、顎を固定し、何度も角度を変えて接吻を繰り返した。
時折唇が離れた隙に、息継ぎと共に漏れるまだ若い甘い声が天尊を煽った。今まで耳にしたどのような嬌声よりも蠱惑的だった。男女の密事など何も知らないこの少女にそのようなつもりはないと知りつつも、劣情を禁じ得なかった。
天尊は唇を解放した。アキラは床に臀をつけていた。天尊はアキラの両足の間に膝を折って座っていた。少女の白い太腿を自分の膝の上にあげ、覆い被さるような体勢で、もうほとんど押し倒しているに近かった。
天尊はアキラの顔に手を添えて覗き込んだ。薄紅に上気した頬も、潤んだ瞳も、津液で濡れた口唇も、はっはっと短い呼吸に合わせて胸が上下するのも、最高にいじらしい。
もう一度口付けしようと唇を近付けると、柔らかな掌で封をされた。
「も、もう……しちゃ、ダメ」
「何故」
「だってこれ……オトナのやつだもんっ」
天尊はクッと噴き出した。何も知らなかった少女が、親愛のキスと愛欲のそれとの差異が分かるほどに成長していることが愉快だった。
「当然だ。アキラを子ども扱いするつもりはない」
天尊は壁とアキラの腰との隙間に手を差し入れた。細い腰に手を当てて持ち上げ、自分の股間を押し付けた。天尊自身はすでに固くなり立ち上がっていた。
ズボン越しでも伝わってくる熱。アキラもこの意味が分からないほど子どもではなかった。恥ずかしそうに天尊から顔を背けた。薄紅の頬はさらに赤く染まり、耳まで真っ赤になった。
「無理矢理するつもりはないが、俺はかなり堪えてるんだ。キスぐらい許せよ」
天尊は今一度唇にかぶりつき、細い腰をぎゅうっと抱き締めた。股間の固い肉を、少女の肢体の真ん中、柔らかい箇所に強く押し付けた。薄い下着に守られた聖裂に自身を擦りつけるように腰を前後させた。
「あっ……んン……!」
アキラはまるで性交の予行練習をさせられているような気分だった。いけないことをしている罪悪感で胸がざわつくのに、大人になりかけの肉体は快感の予兆を感じ取っていた。天尊は、目の前の雄は、自分と男女の交差を欲しているのだと実感すると、恥ずかしさと共に、息が苦しくなるほど胸が締め付けられた。
時刻はHRの直後。
アキラは、通学鞄に教科書やペンケースを詰めて帰り支度の最中。この作業は最早手癖で行うことが可能であり、脳内は夕飯の献立についてでいっぱいだった。育ち盛りの弟がすでに帰宅してお腹を空かせているだろうから、一刻も早くその空腹を満たしてやらなくては。
隣の席は最も親しい友人・久峩城ヶ嵜虎子。彼女は細長い白い指でスマートフォンの液晶を操作していた。
アキラ、と虎子から声をかけられ、呼ばれた本人は彼女へと目線を移した。
「早めに校門に向かったほうがよいかもしれません」
「何で?」
アキラはジーッと通学鞄のファスナーを閉めて尋ねた。
虎子はスッと窓の外を指差した。アキラは通学鞄を肩にかけ、虎子が指し示すまま窓に近付いた。
虎子が言った通り校門に目を向けると、確かに普段の様相とは少々異なっていた。普段は生徒も送迎の車も滞りなく流れて出て行くのに、本日は生徒の流れが校門周辺で心なしか速度が落ちている。生徒たちの行動を見るに、校門付近に何かがあり、それを遠巻きに観察しながら離れていっているようだ。その正体はこの位置からは見えない。
「嫌な予感」
アキラが一つ独り言を零した。虎子も椅子から立ち上がり、二人で教室から出て行った。
校門付近で人並みが滞る原因は、人目を引く人物がいたからだ。
明らかに学生ではない白髪に長身の男性と、一際巨大な褐色の男性。実は傍らに黒髪ポニーテールの若い女性もいるのだが、先述の二名が余りにも注目を集める為、少年少女の認識から掻き消されていた。
白髪の男とポニーテールは校門至近に並んで立っていた。褐色の巨躯はガキにジロジロと見られて鬱陶しいと、二人から少し離れたガードレールに腰掛けていた。それでも目立っていることに変わりないのだけれど。このような目立つ容貌を見落とすほうが視力が心配だ。
「歩兵長がミズガルズにおいでになって本当に大丈夫でしょうか。ミズガルズへの影響を最小限にする努力など考えてくださらないのでは……」
ビシュラは、大股開きで不貞不貞しく座っているヴァルトラムを見ながら心配そうに言った。見るからに配慮や慈悲などという概念から程遠い人物だ。
「考えんだろうが、まあ、大丈夫だろう多分」
「多分っ?」
ビシュラは吃驚して天尊の顔を見た。天尊は余裕の表情だった。浮かれていると言ってもよい。念願のミズガルズ行きを楽しみにしていたビシュラよりも機嫌がよろしい。
「ビシュラ。俺は神じゃないんだ。未来に何が起こるかなど知らん」
(早くアキラさんにお会いしたいだけなのでは💧)
なんと投げ遣りな発言をするのだろう。トラジロは、白髪の大隊長は可愛い恋人に会いに行く口実にビシュラを利用していると言っていたが、あながち間違いではないようだ。
たっ、と一人の女学生が校門から飛び出した。ボブの黒髪と若葉色のスカートを踊らせて。
天尊は彼女を見逃さなかった。ぱしっと女学生の手首を捕まえた。
振り返った女学生は、驚いた顔をしたアキラだった。
「あっ、ティエン。何で学校に――」
アキラが言い終わる前に、天尊はアキラの太腿裏を腕に乗せて抱え上げた。急激に視点が高くなったアキラは「きゃぁあっ」と声を上げた。待ちに待ったアキラとの再会を果たした天尊には、悲鳴紛いの声も生き生きとして愛らしさしかなかった。
「降ろして! 恥ずかしいっ」
「一刻も早くアキラの顔が見たくてな。会いたかったぞ」
「分かった! 分かったから! 早く降ろしてっ」
まだ下校の波は途切れそうにない。同じ制服を着た皆様に、子どものように抱き上げられている様をジロジロと眺められるなど恥ずかしすぎる。
アキラは天尊の肩をぽかぽかと殴るが、天尊は御機嫌に笑っている。隊舎では見せたことがないくらいの満面の笑み。ビシュラは、白髪の大隊長は可愛い恋人との再会を一日千秋の思いで待ち侘びていたのだなと実感した。お楽しみ中の大隊長のお邪魔してはいけない、と傍らで存在感を消すことに徹した。
すぐにアキラはぴょこぴょこと風にそよぐアホ毛に気付いた。抱き上げられた体勢のまま首を伸ばし、ビシュラを見付けて「え。ビシュラさん?」と声をかけた。
あ、もうお気付きになったのですね。もう少し戯れていらしてもよかったのに。
「歩兵長さんもいる。何で?」
御機嫌よう、とビシュラはアキラに挨拶をした。それから背伸びをし、高い位置にあるアキラの顔をじーっと観察した。
「ああ、よかった。こちらではとても顔色がよろしいですね。ご壮健そうで何よりです」
「元々体は弱いほうじゃないです、けど?」
アキラはキョトンとしたが、ビシュラは満足げにニコニコしていた。
ビシュラはアキラの体を案じていた。異界の住人と比較して人間は脆弱だ。アスガルトにいたときにアキラが死にかける目に遭った事件を思えば当然だ。
アキラに少し遅れて虎子が校門から出てきた。アキラは胸が急いて小走りになったが、虎子は楚々として歩んできたが故の時差だった。
虎子は天尊を見ても眉一つ動かさなかった。天尊がいることは、校門近辺を警備している護衛からスマートフォンに連絡を受けたときから知っていた。
「嫌な予感が的中しましたわね」
顔を見るなりご挨拶だ。天尊は「嫌な予感?」と虎子に聞き返した。
「白が嫌な予感がする、と」
「嫌な予感扱いされてショックを受けるべきか、俺がいないときも俺のことを考えていたと喜ぶべきか、判断が難しいところだ」
「ポジティブですのね」
アキラは「いいから降ろして」と天尊の耳を引っ張った。抱っこしている体勢を当たり前として話し込むのはやめてほしい。
天尊はアキラを地面に降ろした。さり気なくアキラの肩に手を置いたが、その手もまたさり気なく払い除けられた。アキラは、も~と零しながら手早くスカートを整えた。
それを見ていたビシュラは苦笑してしまった。
(アキラさん、意外と手厳しい)
「御兄様。また元気なお姿でお目にかかれるなんて喜ばしいことですわ」
「ココも元気そうだな。その言葉が本心からなら俺も大変喜ばしい」
虎子は口では丁寧な挨拶をしたが、目線は冷たいしニコリともしなかった。天尊のことは最低限のマナー程度の愛想を振りまく必要すらもない相手と認識している。
天尊のほうも最早虎子にそのようなものは期待していなかった。虎子にとって自分は、大切なアキラを横から掠め取っていた盗人のようなものだろう。聡明な虎子のことだから、いつの日かそういう日が来ることは当然想定していただろうが、あまりにも早すぎ、あまりにも得体が知れなかったということだ。
アキラさんアキラさん、とビシュラは小声で話しかけた。
「御兄様とは、こちらのお嬢様はティエンゾンさまの御親族ですか?」
いえ、そうではなくて、とアキラが答える前に虎子の目線がビシュラに向いた。
「いいえ、わたしは白のお友だちです。御兄様とは、便宜的にそう呼ばせていただいてるだけです」
虎子は非常に端正な顔立ちで微笑んでいるのに謎の迫力があった。ビシュラは人間など恐れる必要は無いはずなのに、本能的にゾッとしてしまい「かしこまりました」という声は小さくなってしまった。
虎子は両手を腿に置いてビシュラに向かって頭を下げた。ビシュラも片足を引き、スカートを抓んで持ち上げてお辞儀をした。
「改めまして、白のお友だちの久峩城ヶ嵜虎子と申します」
「申し遅れました。ビシュラでございます。ティエンゾンさまの部下です」
虎子は「部下……」と呟き、天尊に冷ややかな目線を遣った。
「定職に就いてらしたのですね、御兄様」
「無職だと言ったことはないが?」
虎子が天尊に対して辛辣であることは最早平常運転だ。天尊は気にもしなかった。
「何を仰有います、御嬢様。大隊長は立派な――」
「ビシュラ」
天尊から発言を遮られ、ビシュラはハッとして口に手を添えた。天尊から余計なことは言うなという意図を読み取り、「もっ、申し訳ございません」と急いで頭を垂れた。
「あちらも御兄様の部下の方で間違いありませんこと?」
天尊もビシュラも虎子が掌で指し示す方角を見た。
其処には、複数人の黒いスーツに包囲され、頭一つ飛び出たヴァルトラムの姿があった。
黒いスーツは虎子の護衛。虎子はこの国でも屈指の財閥名家の御嬢様であり、彼女の一定距離内に接近した不審者は危険として警戒される。護衛たちは普段は極力目立たぬよう行動しているが、朱色の髪の巨躯は彼等が姿を現すのも致し方ない危険人物と見なされたということだ。
いくら久峩城ヶ嵜家の護衛が優秀とはいえ、問題はヴァルトラムの気質だ。あのまま放っておいたら間違いなく乱闘に発展するだろう。
「ヨシ、じゃあお前たちは去れ」
天尊に突然そのようなことを言われ、ビシュラは「えっ⁉」と振り向いた。
「俺はアキラのところに滞在する。お前たちの滞在場所は都度報告しろ。行動は特に制限せんが、問題を起こさないよう気をつけろ。アレが一般人に怪我をさせないよう細心の注意を払えよ」
それを言ったのはわたしです大隊長、とは流石に口にしなかったビシュラ。
天尊はまるで上官として配慮しているような振りをしているが、脳内はアキラと過ごすことができる喜びでお花畑に違いない。
ぽん、と再び肩に置かれた天尊の手を、アキラはもう一度払い除けた。
「折角一緒に来たんだから少しくらい案内してあげれば。ティエンはもういろんな場所知ってるでしょ」
「来たかった場所にやっと来られたんだ。好きに行動したいだろ? ビシュラ」
天尊はビシュラに別行動を促したが、ビシュラはまったく耳に入ってはいなかった。顔の前で指を組んでキラキラした目でアキラを見た。
「アキラさんに案内していただけるのであればとても嬉しいです~~」
「え。わたしでいいんですか?」
ビシュラは頻りにコクコクコクと頷いた。このような清純な瞳で見詰められては、アキラもトラジロ同様、ダメと言うことなどできなかった。何よりアキラは、ビシュラが獣人の国でずっと傍にいてくれたことをとても感謝していた。案内程度で礼に値するとは思えないが、ビシュラの願いはできるだけ聞き入れてやりたかった。
「明日から週末だし、いいですよ。わたしでよければ」
ビシュラはアキラの手を握ってありがとうございますと満面の笑み。
天尊は忌々しそうに「チィッ!」と舌打ちし、アキラから「こーら」と怒られてしまった。
御兄様、と虎子が話しかけた。
「何日か滞在なさいますの?」
「早く帰れという意味か。まだ来たばかりなんだが」
虎子は「違います」とキッパリと言い切った。天尊とはあまり会話を弾ませる気も無いようだ。
「白の知り合いでもあるようですし、よろしければディナーのお店を手配しますわ。美味しくて、あまり人目につかない」
「それは正直……とてもありがたいです」
アキラは笑顔でありがとうと言った。虎子にはそれで充分だった。
正直、虎子の配慮はとてもありがたかった。天尊だけでも充分に目立つのに、今回はヴァルトラムもいる。何処にいても人目を引くことは間違いない。
アキラのマンション。
まず天尊は、アキラの自宅が以前と変わらぬ場所にあることに安堵した。自分の知らない間に引っ越しでもされていたら泣きたくなってしまう。自分の見ていない間にアキラに変化が訪れることを恐れていると言ってもよい。それから、玄関の雰囲気や家具の配置が変わっていないことにさらに安堵した。自然と帰ってきたのだという感想を抱いてしまうあたり、アキラと銀太がいる家を自分の帰るべき場所だと認識している。
再会した銀太から「ティエンじゃん! おかえり」と当たり前の挨拶をされた。疎ましがられず迎え入れられることが嬉しかった。銀太を抱き上げると、以前よりも少し重たくなっていた。アキラとは異なり、銀太に変化があることは喜ばしかった。
アキラが夕飯をダイニングテーブルに並べ始めた頃、銀太が自分の部屋からスポーツバッグを持って出てきた。銀太はスポーツバッグを、天尊が座っているリビングのソファに放った。
天尊は「何処かに行くのか」と尋ねた。銀太からは「廉大んち」と返ってきた。廉大とは、清汰とともに幼稚園からの銀太の親友だ。初等部に進学してからも大の仲良しである。
「最近お泊まり会がブームなの。ほぼ毎週末やってるよ」
アキラはテーブルの中央に夕飯のメインの皿を置いて言った。
「明日、外にゴハン食べに行くけど、どうする? 銀太行かない?」
「オレいいー。廉大と清汰と土日でクリアするって約束してるゲームあるから」
そう、じゃあココに人数を連絡しておこう、とアキラは制服スカートのポケットからスマートフォンを取り出した。トトトトと素早く親指で操作して文章をしたため、虎子に送信。
「あんまりゲームしすぎないんだよ。廉大ママの言うことはちゃんと聞くこと。もしも廉大ママが忙しそうだったらお手伝いもしてあげてね」
銀太は「うんッ」とよい返事をしたあと、何かを思い出して「あ」と零した。
天尊は銀太からの視線に気付き「何だ」と言った。
「オレ、ティエンを見張らなきゃいけないんだった」
いきなり何を言い出すのだお子様。天尊は眉を顰めて「は?」と言い返した。
「ティエンがいるときはちゃんと見張れって。アキラを泣かせたらスグに連絡しろって、ユカリが」
(岳父ッ💢)
アキラは天尊の頬の筋肉が引き攣っていることに気付いて苦笑した。本当は声に出して文句を言いたいのだろうな。あの父は子どもに何を言い含めているのだか。
「大丈夫。泣かない泣かない。気にしないで泊まりに行っておいで。約束してるんでしょ」
夕飯を食べ終わりいただきますを言うや否や、銀太はソファの上に放っていたスポーツバッグを手に持った。バタバタと玄関に向かい、靴を履いているところでアキラが追い付いた。「行ってきます!」と元気に告げて飛び出そうとした銀太をアキラが引き留め、廉大ママの言うことを聞きなさいともう一度言い聞かせた。天尊も取って付けたように気をつけろよと声をかけた。
アキラと天尊にいってらっしゃいと送り出され、銀太は一分一秒を争うように慌ただしく飛び出していった。たまにしか帰ってこない天尊よりも友人とのお泊まり会のほうが、彼の青春にとっては価値が重たいのだ。
「わたしの言ったこと、頭に残ってないだろうなー」
アキラはフフフと笑いながら玄関の鍵を閉めた。
玄関ドアに背を向け、上がり框を上がってすぐに天尊が立ち塞がった。アキラが「なに?」と尋ねると、大きな掌で顔を固定され、回避する間もなくキスをされた。
完全に隙を突かれた。誰もいなくなった途端に、玄関でいきなり唇を重ねることになるなんて、アキラは想像もしなかった。
アキラは腕を突っ張って天尊から距離をとった。
「銀太がいないからっていきなりはっ……ずるい」
「外でしたら怒るだろう。昼間邪険にされたのは、なかなか傷付いた」
「学校前でベタベタされたらフツーイヤだよ」
肩を抱く度に拒否されたのは、内心傷付いていた大隊長。何ともない振りをしていたのは単純に恰好を付けていただけだ。
「ここは学校じゃないし、ギンタもいない、誰もいない。……拒まないでくれ」
天尊が距離を詰め、アキラは反射的に後退った。嫌だとか恐いだとかではない。追い詰められて咄嗟に体が動いた。肘が固いものに当たり、壁側に後退してしまったと気付いた。
天尊は壁に手を突き、逃れようとする少女に迫った。その上背が天井の照明を遮り、少女の上に影を落とした。
接近してくる紫水晶の瞳は、長い睫毛によって翳っていた。アキラは宝石のような輝きに真剣に見詰められることに耐えられなくなり、力一杯瞼を閉じた。
唇と唇が触れ、今度はすぐには離れなかった。ぬるりと唇の隙間に舌が差し込まれ、予想していなかったアキラはビクッと身を縮めた。下顎の裏を指で撫でられ、擽ったくて自然と上下の歯列が緩んだ。やや口付けの角度が変わり、生温かい舌が奥へと侵入した。
くちゅっ、くちゅ、と水音を立て、ぬるぬるしたものが口腔内を蠢いている。込み上げてきた生理的な涙をグッと堪えた。
アキラはまた腕を突っ張って距離をとろうとしたが、天尊はそうさせなかった。少女のか細い手を捕まえて壁に縫い止めた。舌と舌が触れ合い絡み合い、味わった少女は甘かった。天尊が舌も津液もじゅるりと吸い上げ、アキラの体から力が抜けていった。
アキラはずるずると座り込んだが、天尊はそれでも逃がさなかった。アキラの両足の間に位置取り、顎を固定し、何度も角度を変えて接吻を繰り返した。
時折唇が離れた隙に、息継ぎと共に漏れるまだ若い甘い声が天尊を煽った。今まで耳にしたどのような嬌声よりも蠱惑的だった。男女の密事など何も知らないこの少女にそのようなつもりはないと知りつつも、劣情を禁じ得なかった。
天尊は唇を解放した。アキラは床に臀をつけていた。天尊はアキラの両足の間に膝を折って座っていた。少女の白い太腿を自分の膝の上にあげ、覆い被さるような体勢で、もうほとんど押し倒しているに近かった。
天尊はアキラの顔に手を添えて覗き込んだ。薄紅に上気した頬も、潤んだ瞳も、津液で濡れた口唇も、はっはっと短い呼吸に合わせて胸が上下するのも、最高にいじらしい。
もう一度口付けしようと唇を近付けると、柔らかな掌で封をされた。
「も、もう……しちゃ、ダメ」
「何故」
「だってこれ……オトナのやつだもんっ」
天尊はクッと噴き出した。何も知らなかった少女が、親愛のキスと愛欲のそれとの差異が分かるほどに成長していることが愉快だった。
「当然だ。アキラを子ども扱いするつもりはない」
天尊は壁とアキラの腰との隙間に手を差し入れた。細い腰に手を当てて持ち上げ、自分の股間を押し付けた。天尊自身はすでに固くなり立ち上がっていた。
ズボン越しでも伝わってくる熱。アキラもこの意味が分からないほど子どもではなかった。恥ずかしそうに天尊から顔を背けた。薄紅の頬はさらに赤く染まり、耳まで真っ赤になった。
「無理矢理するつもりはないが、俺はかなり堪えてるんだ。キスぐらい許せよ」
天尊は今一度唇にかぶりつき、細い腰をぎゅうっと抱き締めた。股間の固い肉を、少女の肢体の真ん中、柔らかい箇所に強く押し付けた。薄い下着に守られた聖裂に自身を擦りつけるように腰を前後させた。
「あっ……んン……!」
アキラはまるで性交の予行練習をさせられているような気分だった。いけないことをしている罪悪感で胸がざわつくのに、大人になりかけの肉体は快感の予兆を感じ取っていた。天尊は、目の前の雄は、自分と男女の交差を欲しているのだと実感すると、恥ずかしさと共に、息が苦しくなるほど胸が締め付けられた。
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