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Kapitel 05
帰還 02
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グローセノルデン領・フローズヴィトニルソン境界線よりヴィンテリヒブルク城へ帰投道中。
ビシュラとヴァルトラムは、大型四輪で移動することになった。往路は天尊の飛竜での出陣だったが、復路は奪還成功すれば四人となり一騎では自ずと手狭になる。そうでなくとも、天尊もヴァルトラムも、必要性が無ければ引っ付いて移動するなど好まない。歩兵隊隊員は当然の如く、境界までヴァルトラムの大型四輪を持ってきていた。
四輪といっても自動操縦によって目的地まで走行するそれは、最早移動する部屋のようなもの。長距離移動にも使用するため、後部はベッドやクローゼットを搭載した、謂わば寝室になっている。
ビシュラがヴァルトラムの大型四輪に搭乗するのは三度目。今さら機能や構造に驚くことはなかったが、現在別の意味で驚いていた。ヴァルトラムに抱えられ寝室に運びこまれ、荷物が如くベッドの上に放られ、ヴァルトラムが上に覆い被さっているこの情況に。
「???」
ビシュラは身体の前で手と手とを握り締め、縮こまってヴァルトラムを見上げた。
ヴァルトラムの大きな肉体に天井の照明が遮られてビシュラには影が落ち、翠玉の双眸は闇のなかで獲物を狙う野獣のようにギラリと光って見えた。ギラギラした目から一点集中で見下ろされるのは恐い。
(もしかしてこれは、非常によろしくない情況なのでは、ないでしょうか)
たらり、とビシュラの額から汗が流れた。如何に世間知らずでも流石にこの体勢とヴァルトラムの性情を考えれば、何をしようとしているかぐらいは想像が及ぶ。
「脱げ」
「なぜですか」
ビシュラはギクッとして上擦った声で尋ねた。
「つべこべ言わずに脱げっつったら脱げ」
ヴァルトラムが要求のみを突きつけて相手に有無を言わさないのはいつものこと。しかし、現状の迫力は普段の比ではなかった。
ビシュラの心臓はバクバクと心拍数を上げた。これは間違ってもときめきの動悸などではない。身の毛の弥立つ恐怖だ。
(歩兵長がいつもより恐いッ)
ビシュラがプログラムを発動しようと意識を集中し始めた矢先、パチンッとヴァルトラムから額を指で弾かれた。
ビシュラは「いたッ」と額を手で押さえた。
「〝壁〟を張っても無駄だ。オメエの〝壁〟を壊す加減はもう分かったからな」
ヴァルトラムは、ルディの爪によってズタズタにされたシャツを脱ぎ、部屋の後方へと放った。それから鼻先をスンスンと動かした。
「ケモノ臭ェんだよなァ。この臭い、あのケモノ野郎だろ」
「ケモノ野郎とはルディ将軍のことですか」
「何でオメエからあのケモノ野郎の臭いがしやがる。オメエ、あの野郎にツバつけられたんじゃねェだろうな」
ビシュラは「いいえ」と応えたが、ピクッと微かに表情筋が動いたことをヴァルトラムは見逃さなかった。
「俺に嘘吐いてんじゃねェぞコラ」
「も、もしわたしがルディ将軍と何かあったとしてもプライベートなことで、任務そのものには関係のないことですッ」
「プライベートだァ?」
ヴァルトラムが不機嫌そうな声を出した途端、ビシュラはウッと息苦しさを感じた。
「歩兵長。少々、〝回転数〟を抑えていただけませんか。呼吸が、しづらく……ッ」
この世界の住人は、ネェベルを発生する回路を体内に有すると同時に、他者のネェベルを察知する器官も備える。然程鋭敏な器官ではないが、あまりにも膨大で高密度なネェベルは、器官に作用し肉体に変調を来す。それは呼吸困難であったり極度の倦怠感であったり、時には失神することもある。
ヴァルトラムのそれは異常値とも言えるものだ。ましてや戦闘直後で回路の回転数が上昇している状態では、少々気が昂ぶっただけでもネェベルが跳ね上がる。それはビシュラの許容範囲を超える。
「どこまで手ェ付けられた」
「はえッ?」
息苦しい胸を押さえるビシュラからは妙な声が出た。真面な問答を望むならもう少々興奮を抑えてほしいという恨み言が脳裏に浮かんだ。
「ケモノ野郎にヤラれたのかって訊いてんだ」
「そッ、そのようなこと……歩兵長に御報告申し上げる義務はありません……ッ」
ヴァルトラムはチッと舌打ちした。
「あの野郎、オメエが〝四ツ耳〟だって知ってやがったからな。そうじゃねェかと思ったぜ」
「耳が出てしまうのはそういう合図ではないと以前も申し上げました! 集中力が低下したときとか酷く疲れたときとか……。というか歩兵長、ネェベル……」
ビシュラの呼吸がぜえはあと荒くなり、ヴァルトラムは努めて〝回路〟の制御に集中した。しかし、プログラムを学ぶ気もなくネェベルを扱うのも不慣れなので完全な制御は期待できない。
ビシュラは直に呼吸がしやすくなってホッとした。しかし、此処にいたのではいつ窒息死してもおかしくない。ヴァルトラムの機嫌を損ねれば、意図的ではなくとも絞め殺されてしまう。ビシュラとヴァルトラムの間にはそれくらいの力量差はある。
「もう失礼してもよろしいでしょうか。わたしはフェイさんに同乗させていただくことに――」
そう言って上半身を起こそうとしたビシュラの胸座を、ヴァルトラムがむんずと掴んだ。そして、衣服を左右にビリィッと裂いた。
ビシュラが「歩兵長!」と非難めいた声を上げたが、ヴァルトラムはハッと鼻先で笑い飛ばした。
「俺のモンに手ェ出しやがってあの野郎。殺しとけばよかったぜ」
「わたしは部下ではありますが、歩兵長の所有物ではありません」
「あー……そもそもオメエのそういうところがかなり苛つく。俺のモンだっつー自覚がねェ」
「事実を申し上げています。わたしは、歩兵長の所有物では、ありません」
ビシュラはヴァルトラムにキリッとした強い視線を向け、一語一語はっきりと言葉にした。
しかしながら、ヴァルトラムはビシュラの拒絶の意思など無視して鎖骨に顔を埋めた。
鎖骨を舐められたビシュラはゾクッとした。その直後、骨にカチリと硬いものが当たった。次の瞬間ガリッと噛みつかれ、飛び上がりそうになった。
「いったぁ……ッ! やめてください歩兵ッ……痛い!」
ビシュラは痛みに耐えかねて必死にヴァルトラムを叩いた。
痛い痛いと何度も握り拳を叩きつけられたのち、ようやくヴァルトラムは顎を開いた。
痛みから解放されたビシュラは、ホッと息を吐いたがそれも束の間。ヴァルトラムの舌が噛み跡の上を這い、ピリリッと鋭い痛みが走った。
「つッ……何を、なさるのですか歩兵長……ッ」
「俺に逆らうんだ。それなりの覚悟はあんだろ」
ヴァルトラムの舌は鎖骨から首筋へと辿った。それはゾクゾクッと悪寒のようなものが伴い、ビシュラはンンッとわずかに声を漏らして身を縮めた。
このまま首筋に食いつかれたらと思ったら、自ずと身体が硬直した。きっとヴァルトラムがその気になれば、薄い皮膚を食い破って血管を絶ってしまうくらいは難はない。
やはりヴァルトラムは恐ろしい男だ。この男に逆らうとはこういうことだ。圧倒的な強靱さで踏み躙られるということだ。畢竟、モンスターの前に身ひとつを投げ出すようなものだ。
ビシュラの顔を見て、ヴァルトラムは笑った。瞳にうっすらと涙を浮かべて怯えるうら若い娘を見下ろして、無慈悲にもククッと口を歪めた。
「気持ちよくしてやるからそんなツラすんじゃねェ」
その言葉は、慈悲などではない。この男が憐憫の情など持ち合わせているはずがない。素直に怯えるビシュラを見て愉しんでいる。支配者たる立場を実感して心地良さに浸っている。
「あッ……ンンッ」
薄く開いた赤い唇から、高く、甘く、切なく、嬌声が漏れ、大型四輪が走行する騒音に紛れる。騒音のなかでもやけに耳に付く自分の声を聞くのが嫌で、ビシュラは口を手で塞いぐ。しかし、すぐにその手を捕まえられて剥がされる。
「やッ……ああ……!」
ヴァルトラムはビシュラの股間に顔を埋め、黒い茂みに舌で分け入り、硬くなった莟をジュルッと吸い上げた。何度も執拗に舌で撫でるとビシュラの腰はビクッビクッと跳ねた。
体中の快感が否応なしに秘所に集まってくるのが分かる。分かるのに最早、自分の意思で制御できるものではなかった。反応すればそれだけヴァルトラムを喜ばせることは分かりきっているのに、太腿の痙攣を抑えられない。
「ンッ……やッ、んんッ。あっあっ……またッ……!」
ビシュラは力いっぱい瞼を閉じ、ヴァルトラムの肩をぎゅっと握り締めた。
一カ所に収斂した快感は頂点に達し、弾けて一気に腰を駆け抜けた。
ビシュラの手から力が抜けてヴァルトラムの肩からずり落ちた。力なくベッドに横たわったまま、ヴァルトラムから顔を背けた。
ヴァルトラムはビシュラを見下ろして意地悪くニヤリと笑った。
「これで何度目だ。数えてるか?」
「も、許してくださ……」
「もう泣き入れんのか。オメエの覚悟は大したことねェな」
「ルディ将軍は〝四ツ耳〟がお嫌いで……何もありません、でした……。歩兵長としか、してませんからぁ……」
ぐずっと鼻をすする音。ビシュラの目からは涙がポロポロと零れ落ちた。
何度も何度も絶頂に至らしめられ、まるで自分の身体ではないかのように力が入らない。ヴァルトラムの無慈悲さを知っていてもこの行為から脱出するには懇願するしか術がない。自由を封じられて強制的に与えられる快楽の前に、我を通す心は折れた。最早ヴァルトラムに逆らったことに対して後悔しかなかった。
「さっさと白状すりゃあいいモンを。無駄な意地張るから泣き入れるハメになる」
ヴァルトラムは愉快そうに口の端を歪めた。
「まァ、今さら許す気なんかねェけどな」
ヴァルトラムは頭を持ち上げビシュラの胸に口付けた。柔らかな乳房を強く吸い、上気した肌に花弁を落としてゆく。先端の桃色の飾りに吸いついて舌先で刺激すると、ビシュラの身体がビクッと跳ねた。
胸の突起を舌で弄びながら秘所に手を伸ばした。湿った茂みを指でまさぐって聖裂を探し当てるとそこは充分に撓んでいた。
愛液を絡ませた節ばった太い指が内部へと押し入ってきて、異物感と共に快感がゾクゾクッとビシュラの背骨の上を駆け抜けた。
「ンああ……歩兵ちょッ……」
ヴァルトラムは「あー?」と質の悪い悪戯っ子のように笑いながら、ビシュラの内部に指の根元まで押しこんだ。内部の熱を味わうようにゆっくりと内壁をなぞる。抜いたり挿したり折り曲げたりして狭い内側を好き勝手に探ると、それに応じてビシュラは肢体をよじった。
「あッ、やぁッ……!」
グチュンッ、グジュッグジュッブジュンッ。
ヴァルトラムの指の動きはすぐに速度を増した。湧いてくる愛液も豊かになり指の動きを助けた。内壁を擦るように抜き差しされる度に快感が増して増して、太腿がブルブルと震えた。縋りつくもののないビシュラはシーツを力いっぱい握り締めた。力の入りきらない指では滑って離してしまい、その度に微かな力で握り直した。
突然ビシュラが「やぁあっ!」と今までよりも甘高い声を出し、背を大きく仰け反らせた。ヴァルトラムの太い指が或る一点に触れた瞬間だった。
その反応を見て、ヴァルトラムは白い歯を見せてニヤリと笑った。
「ここがイイんだろ」
「あっあ……やっ! ダメっ……そこダメぇ……❤」
途端に大きくなったビシュラの声は、ヴァルトラムに確信を与えた。声が抑えきれないビシュラは自分の口を塞いだ。
「ンッ! んんんッ❤」
グリュンッ、グチュッ、グジュンッグジュッ。
口を塞ぐのに精一杯で耳を塞げないから、ヴァルトラムが掻き鳴らす水音が聞こえてしまう。卑猥な水音がビシュラの羞恥心と共に快感を煽る。
「んふぅッ❤」
ジュプッ、とヴァルトラムはもう一本指を捩じこんだ。掻き回されて緩みきった肉は太い二本の指を難なく呑みこみ、ビシュラの意思とは無関係に吸いつくように締めつけた。生温かい肉壁は締めつけながらもグチュングチュンッと愛液を溢れさせるから、太い指の動きは速まる一方だった。
ビシュラの体が小刻みに震え、ヴァルトラムは臨界が近いことを察知した。
「もうイクのか。マジでここがイイらしい」
ビシュラはふるふると首を横に振った。その縋るような目、踏み躙りたくなる。
「イキそうなんだろ。我慢するこたねェ、イケよ」
ヴァルトラムはビシュラの口を塞いでいた手を退けさせた。ビシュラは非難の目を向けるが、ヴァルトラムはそのようなものは物ともせずにビシュラの感じる箇所を執拗に責めた。
ヴァルトラムの指によって高められた快感と熱が弓を引き絞るように収斂してゆく。何度も何度も味わわされたのに、この肉体からは快感がいくらでも溢れ出てくる。自分の身体がこのような風になるなんて自分でも知らなかった。
「あっあっあっ……ダメ! ほんとにダメぇ💕 ンッやあッ、あぁあーーッ……!💕💕」
ビシュラが一際甲高い声を上げた。同時に柔らかい内壁に指がきゅうっと締めつけられ、ヴァルトラムは満足げにニヤッと笑った。
ずるり、と内部から指を引き抜かれると、ビシュラはぐったりと脱力した。シーツに顔を伏せ、肩を大きく上下させて呼吸をする。
ヴァルトラムはビシュラの肩に手を置き、体勢を仰向けにさせた。ベッドに手を突いてビシュラの顔を覗きこんだ。
「どうして……どうしてこのようなことを……なさるのですか。わたしはそんなに……歩兵長のご気分を害しますか……」
ビシュラは息を継ぎながら懸命に言葉にした。
尋ねたビシュラの瞳は今にも零れそうに潤んでいるのに、ヴァルトラムはクハッと吹き出して笑った。
「俺はオメエを気に入ってるぜ」
ヴァルトラムは口角を引き上げて上機嫌に笑っているのに、双眸はギラギラと煌めいていた。
「気に入ってるモンに歯向かわれんのはとんでもなく苛つく。二度と俺に逆らえねェように教えこんでやらねェとなァ」
ビシュラは背筋が凍った。冗談でも何でもない。この人は本気でそう考え、そう言っていると、直感した。ビシュラにはヴァルトラムの脳内など理解不能だ。しかし、ビシュラの本能は確かに嫌な予感を察知した。ヴァルトラムの笑みに恐怖しか感じなかった。
ヴァルトラムはビシュラの片足をシーツの上から掬い上げるように抱えた。
「女は何度でもイケるっつうよなァ。オメエもそうか試してみるか。あン?」
ビシュラは必死に身を捩るが満足に力が入らなかった。
「もう無理ですッ……ごめんなさい、ごめんなさッ……! もう歩兵長に逆らったりしません。許してください……!」
「バカがよ。今さら謝ったって遅ェ」
ヴァルトラムに反旗を翻した代償はあまりにも大きく、ビシュラへの責め苦は目的に到着するまで続いた。
ビシュラとヴァルトラムは、大型四輪で移動することになった。往路は天尊の飛竜での出陣だったが、復路は奪還成功すれば四人となり一騎では自ずと手狭になる。そうでなくとも、天尊もヴァルトラムも、必要性が無ければ引っ付いて移動するなど好まない。歩兵隊隊員は当然の如く、境界までヴァルトラムの大型四輪を持ってきていた。
四輪といっても自動操縦によって目的地まで走行するそれは、最早移動する部屋のようなもの。長距離移動にも使用するため、後部はベッドやクローゼットを搭載した、謂わば寝室になっている。
ビシュラがヴァルトラムの大型四輪に搭乗するのは三度目。今さら機能や構造に驚くことはなかったが、現在別の意味で驚いていた。ヴァルトラムに抱えられ寝室に運びこまれ、荷物が如くベッドの上に放られ、ヴァルトラムが上に覆い被さっているこの情況に。
「???」
ビシュラは身体の前で手と手とを握り締め、縮こまってヴァルトラムを見上げた。
ヴァルトラムの大きな肉体に天井の照明が遮られてビシュラには影が落ち、翠玉の双眸は闇のなかで獲物を狙う野獣のようにギラリと光って見えた。ギラギラした目から一点集中で見下ろされるのは恐い。
(もしかしてこれは、非常によろしくない情況なのでは、ないでしょうか)
たらり、とビシュラの額から汗が流れた。如何に世間知らずでも流石にこの体勢とヴァルトラムの性情を考えれば、何をしようとしているかぐらいは想像が及ぶ。
「脱げ」
「なぜですか」
ビシュラはギクッとして上擦った声で尋ねた。
「つべこべ言わずに脱げっつったら脱げ」
ヴァルトラムが要求のみを突きつけて相手に有無を言わさないのはいつものこと。しかし、現状の迫力は普段の比ではなかった。
ビシュラの心臓はバクバクと心拍数を上げた。これは間違ってもときめきの動悸などではない。身の毛の弥立つ恐怖だ。
(歩兵長がいつもより恐いッ)
ビシュラがプログラムを発動しようと意識を集中し始めた矢先、パチンッとヴァルトラムから額を指で弾かれた。
ビシュラは「いたッ」と額を手で押さえた。
「〝壁〟を張っても無駄だ。オメエの〝壁〟を壊す加減はもう分かったからな」
ヴァルトラムは、ルディの爪によってズタズタにされたシャツを脱ぎ、部屋の後方へと放った。それから鼻先をスンスンと動かした。
「ケモノ臭ェんだよなァ。この臭い、あのケモノ野郎だろ」
「ケモノ野郎とはルディ将軍のことですか」
「何でオメエからあのケモノ野郎の臭いがしやがる。オメエ、あの野郎にツバつけられたんじゃねェだろうな」
ビシュラは「いいえ」と応えたが、ピクッと微かに表情筋が動いたことをヴァルトラムは見逃さなかった。
「俺に嘘吐いてんじゃねェぞコラ」
「も、もしわたしがルディ将軍と何かあったとしてもプライベートなことで、任務そのものには関係のないことですッ」
「プライベートだァ?」
ヴァルトラムが不機嫌そうな声を出した途端、ビシュラはウッと息苦しさを感じた。
「歩兵長。少々、〝回転数〟を抑えていただけませんか。呼吸が、しづらく……ッ」
この世界の住人は、ネェベルを発生する回路を体内に有すると同時に、他者のネェベルを察知する器官も備える。然程鋭敏な器官ではないが、あまりにも膨大で高密度なネェベルは、器官に作用し肉体に変調を来す。それは呼吸困難であったり極度の倦怠感であったり、時には失神することもある。
ヴァルトラムのそれは異常値とも言えるものだ。ましてや戦闘直後で回路の回転数が上昇している状態では、少々気が昂ぶっただけでもネェベルが跳ね上がる。それはビシュラの許容範囲を超える。
「どこまで手ェ付けられた」
「はえッ?」
息苦しい胸を押さえるビシュラからは妙な声が出た。真面な問答を望むならもう少々興奮を抑えてほしいという恨み言が脳裏に浮かんだ。
「ケモノ野郎にヤラれたのかって訊いてんだ」
「そッ、そのようなこと……歩兵長に御報告申し上げる義務はありません……ッ」
ヴァルトラムはチッと舌打ちした。
「あの野郎、オメエが〝四ツ耳〟だって知ってやがったからな。そうじゃねェかと思ったぜ」
「耳が出てしまうのはそういう合図ではないと以前も申し上げました! 集中力が低下したときとか酷く疲れたときとか……。というか歩兵長、ネェベル……」
ビシュラの呼吸がぜえはあと荒くなり、ヴァルトラムは努めて〝回路〟の制御に集中した。しかし、プログラムを学ぶ気もなくネェベルを扱うのも不慣れなので完全な制御は期待できない。
ビシュラは直に呼吸がしやすくなってホッとした。しかし、此処にいたのではいつ窒息死してもおかしくない。ヴァルトラムの機嫌を損ねれば、意図的ではなくとも絞め殺されてしまう。ビシュラとヴァルトラムの間にはそれくらいの力量差はある。
「もう失礼してもよろしいでしょうか。わたしはフェイさんに同乗させていただくことに――」
そう言って上半身を起こそうとしたビシュラの胸座を、ヴァルトラムがむんずと掴んだ。そして、衣服を左右にビリィッと裂いた。
ビシュラが「歩兵長!」と非難めいた声を上げたが、ヴァルトラムはハッと鼻先で笑い飛ばした。
「俺のモンに手ェ出しやがってあの野郎。殺しとけばよかったぜ」
「わたしは部下ではありますが、歩兵長の所有物ではありません」
「あー……そもそもオメエのそういうところがかなり苛つく。俺のモンだっつー自覚がねェ」
「事実を申し上げています。わたしは、歩兵長の所有物では、ありません」
ビシュラはヴァルトラムにキリッとした強い視線を向け、一語一語はっきりと言葉にした。
しかしながら、ヴァルトラムはビシュラの拒絶の意思など無視して鎖骨に顔を埋めた。
鎖骨を舐められたビシュラはゾクッとした。その直後、骨にカチリと硬いものが当たった。次の瞬間ガリッと噛みつかれ、飛び上がりそうになった。
「いったぁ……ッ! やめてください歩兵ッ……痛い!」
ビシュラは痛みに耐えかねて必死にヴァルトラムを叩いた。
痛い痛いと何度も握り拳を叩きつけられたのち、ようやくヴァルトラムは顎を開いた。
痛みから解放されたビシュラは、ホッと息を吐いたがそれも束の間。ヴァルトラムの舌が噛み跡の上を這い、ピリリッと鋭い痛みが走った。
「つッ……何を、なさるのですか歩兵長……ッ」
「俺に逆らうんだ。それなりの覚悟はあんだろ」
ヴァルトラムの舌は鎖骨から首筋へと辿った。それはゾクゾクッと悪寒のようなものが伴い、ビシュラはンンッとわずかに声を漏らして身を縮めた。
このまま首筋に食いつかれたらと思ったら、自ずと身体が硬直した。きっとヴァルトラムがその気になれば、薄い皮膚を食い破って血管を絶ってしまうくらいは難はない。
やはりヴァルトラムは恐ろしい男だ。この男に逆らうとはこういうことだ。圧倒的な強靱さで踏み躙られるということだ。畢竟、モンスターの前に身ひとつを投げ出すようなものだ。
ビシュラの顔を見て、ヴァルトラムは笑った。瞳にうっすらと涙を浮かべて怯えるうら若い娘を見下ろして、無慈悲にもククッと口を歪めた。
「気持ちよくしてやるからそんなツラすんじゃねェ」
その言葉は、慈悲などではない。この男が憐憫の情など持ち合わせているはずがない。素直に怯えるビシュラを見て愉しんでいる。支配者たる立場を実感して心地良さに浸っている。
「あッ……ンンッ」
薄く開いた赤い唇から、高く、甘く、切なく、嬌声が漏れ、大型四輪が走行する騒音に紛れる。騒音のなかでもやけに耳に付く自分の声を聞くのが嫌で、ビシュラは口を手で塞いぐ。しかし、すぐにその手を捕まえられて剥がされる。
「やッ……ああ……!」
ヴァルトラムはビシュラの股間に顔を埋め、黒い茂みに舌で分け入り、硬くなった莟をジュルッと吸い上げた。何度も執拗に舌で撫でるとビシュラの腰はビクッビクッと跳ねた。
体中の快感が否応なしに秘所に集まってくるのが分かる。分かるのに最早、自分の意思で制御できるものではなかった。反応すればそれだけヴァルトラムを喜ばせることは分かりきっているのに、太腿の痙攣を抑えられない。
「ンッ……やッ、んんッ。あっあっ……またッ……!」
ビシュラは力いっぱい瞼を閉じ、ヴァルトラムの肩をぎゅっと握り締めた。
一カ所に収斂した快感は頂点に達し、弾けて一気に腰を駆け抜けた。
ビシュラの手から力が抜けてヴァルトラムの肩からずり落ちた。力なくベッドに横たわったまま、ヴァルトラムから顔を背けた。
ヴァルトラムはビシュラを見下ろして意地悪くニヤリと笑った。
「これで何度目だ。数えてるか?」
「も、許してくださ……」
「もう泣き入れんのか。オメエの覚悟は大したことねェな」
「ルディ将軍は〝四ツ耳〟がお嫌いで……何もありません、でした……。歩兵長としか、してませんからぁ……」
ぐずっと鼻をすする音。ビシュラの目からは涙がポロポロと零れ落ちた。
何度も何度も絶頂に至らしめられ、まるで自分の身体ではないかのように力が入らない。ヴァルトラムの無慈悲さを知っていてもこの行為から脱出するには懇願するしか術がない。自由を封じられて強制的に与えられる快楽の前に、我を通す心は折れた。最早ヴァルトラムに逆らったことに対して後悔しかなかった。
「さっさと白状すりゃあいいモンを。無駄な意地張るから泣き入れるハメになる」
ヴァルトラムは愉快そうに口の端を歪めた。
「まァ、今さら許す気なんかねェけどな」
ヴァルトラムは頭を持ち上げビシュラの胸に口付けた。柔らかな乳房を強く吸い、上気した肌に花弁を落としてゆく。先端の桃色の飾りに吸いついて舌先で刺激すると、ビシュラの身体がビクッと跳ねた。
胸の突起を舌で弄びながら秘所に手を伸ばした。湿った茂みを指でまさぐって聖裂を探し当てるとそこは充分に撓んでいた。
愛液を絡ませた節ばった太い指が内部へと押し入ってきて、異物感と共に快感がゾクゾクッとビシュラの背骨の上を駆け抜けた。
「ンああ……歩兵ちょッ……」
ヴァルトラムは「あー?」と質の悪い悪戯っ子のように笑いながら、ビシュラの内部に指の根元まで押しこんだ。内部の熱を味わうようにゆっくりと内壁をなぞる。抜いたり挿したり折り曲げたりして狭い内側を好き勝手に探ると、それに応じてビシュラは肢体をよじった。
「あッ、やぁッ……!」
グチュンッ、グジュッグジュッブジュンッ。
ヴァルトラムの指の動きはすぐに速度を増した。湧いてくる愛液も豊かになり指の動きを助けた。内壁を擦るように抜き差しされる度に快感が増して増して、太腿がブルブルと震えた。縋りつくもののないビシュラはシーツを力いっぱい握り締めた。力の入りきらない指では滑って離してしまい、その度に微かな力で握り直した。
突然ビシュラが「やぁあっ!」と今までよりも甘高い声を出し、背を大きく仰け反らせた。ヴァルトラムの太い指が或る一点に触れた瞬間だった。
その反応を見て、ヴァルトラムは白い歯を見せてニヤリと笑った。
「ここがイイんだろ」
「あっあ……やっ! ダメっ……そこダメぇ……❤」
途端に大きくなったビシュラの声は、ヴァルトラムに確信を与えた。声が抑えきれないビシュラは自分の口を塞いだ。
「ンッ! んんんッ❤」
グリュンッ、グチュッ、グジュンッグジュッ。
口を塞ぐのに精一杯で耳を塞げないから、ヴァルトラムが掻き鳴らす水音が聞こえてしまう。卑猥な水音がビシュラの羞恥心と共に快感を煽る。
「んふぅッ❤」
ジュプッ、とヴァルトラムはもう一本指を捩じこんだ。掻き回されて緩みきった肉は太い二本の指を難なく呑みこみ、ビシュラの意思とは無関係に吸いつくように締めつけた。生温かい肉壁は締めつけながらもグチュングチュンッと愛液を溢れさせるから、太い指の動きは速まる一方だった。
ビシュラの体が小刻みに震え、ヴァルトラムは臨界が近いことを察知した。
「もうイクのか。マジでここがイイらしい」
ビシュラはふるふると首を横に振った。その縋るような目、踏み躙りたくなる。
「イキそうなんだろ。我慢するこたねェ、イケよ」
ヴァルトラムはビシュラの口を塞いでいた手を退けさせた。ビシュラは非難の目を向けるが、ヴァルトラムはそのようなものは物ともせずにビシュラの感じる箇所を執拗に責めた。
ヴァルトラムの指によって高められた快感と熱が弓を引き絞るように収斂してゆく。何度も何度も味わわされたのに、この肉体からは快感がいくらでも溢れ出てくる。自分の身体がこのような風になるなんて自分でも知らなかった。
「あっあっあっ……ダメ! ほんとにダメぇ💕 ンッやあッ、あぁあーーッ……!💕💕」
ビシュラが一際甲高い声を上げた。同時に柔らかい内壁に指がきゅうっと締めつけられ、ヴァルトラムは満足げにニヤッと笑った。
ずるり、と内部から指を引き抜かれると、ビシュラはぐったりと脱力した。シーツに顔を伏せ、肩を大きく上下させて呼吸をする。
ヴァルトラムはビシュラの肩に手を置き、体勢を仰向けにさせた。ベッドに手を突いてビシュラの顔を覗きこんだ。
「どうして……どうしてこのようなことを……なさるのですか。わたしはそんなに……歩兵長のご気分を害しますか……」
ビシュラは息を継ぎながら懸命に言葉にした。
尋ねたビシュラの瞳は今にも零れそうに潤んでいるのに、ヴァルトラムはクハッと吹き出して笑った。
「俺はオメエを気に入ってるぜ」
ヴァルトラムは口角を引き上げて上機嫌に笑っているのに、双眸はギラギラと煌めいていた。
「気に入ってるモンに歯向かわれんのはとんでもなく苛つく。二度と俺に逆らえねェように教えこんでやらねェとなァ」
ビシュラは背筋が凍った。冗談でも何でもない。この人は本気でそう考え、そう言っていると、直感した。ビシュラにはヴァルトラムの脳内など理解不能だ。しかし、ビシュラの本能は確かに嫌な予感を察知した。ヴァルトラムの笑みに恐怖しか感じなかった。
ヴァルトラムはビシュラの片足をシーツの上から掬い上げるように抱えた。
「女は何度でもイケるっつうよなァ。オメエもそうか試してみるか。あン?」
ビシュラは必死に身を捩るが満足に力が入らなかった。
「もう無理ですッ……ごめんなさい、ごめんなさッ……! もう歩兵長に逆らったりしません。許してください……!」
「バカがよ。今さら謝ったって遅ェ」
ヴァルトラムに反旗を翻した代償はあまりにも大きく、ビシュラへの責め苦は目的に到着するまで続いた。
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「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
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