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Kapitel 05
09:ヴィンテリヒブルクの姫君 03
しおりを挟むアキラの質問は少々ユリイーシャを困らせてしまったようだ。彼女は眉尻をやや引き下げて苦笑した。
「ティエンゾン様は私が伺っても答えてはくださいませんもの」
アキラが様子を窺うと天尊は否定もせずツーンとしていた。不機嫌ではないが愛嬌もない。
アキラが抱いている違和感をビシュラも抱いていた。なんとなくヴァルトラムのほうを見た。カップを持ち上げ、鼻を近付けてスンスンと匂いを嗅いでいるヴァルトラム。紅茶に好みがあるわけでも含蓄があるわけでもない。その行動は野生動物が口にしても大丈夫なものかどうか確認しているのと大差ない。
「歩兵長は御存知ですか? 大隊長のお嫌いなもの」
ビシュラに話を振られヴァルトラムはユリイーシャを一瞥した。
「とろくせー女、ソイツみてぇな」
「歩兵長ッ!💦💦」
ビシュラは努めて小声で尋ねたのに、ヴァルトラムは何も気にせず普段の音量で答えた。ユリイーシャは穏やかに「よいのですよ」と一言。紅茶のカップを持ち上げ一口飲んだ。それから茶色の水面に目を落とす。
「ティエンゾン様が私のことをどうお思いか、自分でも分かっておりますもの。ティエンゾン様はリーン様の弟君ですから、是非仲良くしたいと思っているのですけれど、昔から私のことはあまりお好きではいらっしゃらないみたい」
天尊は何も言わなかった。ここは建前だけでも、いいえそうではないと言うべき場面ではないのか。
「昔からっていうと、子どもの頃のティエンを知ってるんですか?」
「勿論ですわ。私とティエンゾン様の御兄様のリーン様は生まれる前からの婚約者。幼い頃はよくリーン様の許へ遊びに参りました。その折には、ティエンゾン様とも度々お目にかかりましたわ。その頃からよく悪戯されたので恐らく好かれていないだろうと思っておりました」
「悪戯ってどんな?」
「そうですねえ……。覚えているのはドレスの裾を剣で突き刺されたり、大好きな本を暖炉にくべられたり、リーン様からいただいたプレゼントを遠くへ放り投げられたり、ですかしら」
(ソレって悪戯のレベル……?💧)
なかなか壮絶な悪戯をしていらしたのですね、大隊長。子どもの頃の話だから今更責めるようなことではないが、幼い天尊は何を思ってこのような美女に悪戯をしていたのであろうか。幼い頃はさぞかし愛らしい少女であっただろうに。
「安心しろ、ユリイーシャ。俺は別にお前のことを嫌ってるわけじゃない。そんなに好きじゃないだけだ」
大領主の姫君に対して剰りにも歯に衣着せない発言。ビシュラはギョッとした。
アキラは眉を逆八の字にして腕を振り上げた。
「こらあ! 何でそんな意地悪言うのっ」
「本当のことだ。嫌われてると思って暗い顔してるよりスッキリしていいだろ」
「言い方が意地悪だよっ」
「俺が兄貴の女に優しくしなきゃいけない義理はない」
「ティエン~~」
肩を怒らせるアキラ。天尊がユリイーシャに棘のある言い方をしているのは明らかにわざとだ。特定の女性に敢えて優しくないなどアキラには看過できない。
「あらあら、ケンカはいけませんわ」
「俺もお前のことぐらいでアキラとケンカしたくない」
「そうだ」とユリイーシャはアキラの顔を見た。天尊に無視されても邪険にされても全く気にしない寛容さは純粋にすごいと思った。
「明日お出かけでもなさったら如何です? 仲直りも兼ねて」
「まだケンカしてない。お前のことなんかで俺とアキラはケンカしないと言っている」
「だいぶ吹雪が弱まってますの。明日には雪が已むそうでしてよ。晴れ間が見えればきっとアキラ様のお心も穏やかになりますわ」
「だからケンカしてないと言っているんだ。勝手にケンカしたことにするな」
「ずっと城に篭もりっぱなしでは退屈でしょう。街へ出られては如何かしら? 賑やかなところへいらっしゃれば楽しい気分になれますわ」
「お前のそういう俺の話を聞かんところも嫌いなんだが聞いているか?」
……ユリイーシャも或る意味では見事に天尊を無視している、とアキラは気付いた。天尊とユリイーシャは噛み合わない。好き嫌い以前に相性が悪いのだろう。アキラは苦笑を漏らした。
「街、かぁ」
アキラとビシュラはほぼ同時に零した。このグローセノルデンの城・ヴィンテリヒブルクへやってきて数日、城の外へは一歩も出ていない。アキラの体調が安定していないこともあったが、何よりユリイーシャの言う通り吹き荒ぶ雪に閉じ込められていたのだ。そもそも遊びに来たわけではないとはいえ限定された空間に閉じ込められては飽きもする。見たことのない土地の外への興味も募る。不意に外へ出られると聞いて僅かに胸が弾む。
「行くか? アキラ」
「行くかって、ティエンお仕事は?」
「別に構わん」
「そんなこともないんだがな」
緋はカチン、とわざと大きめの音が出るようにカップを置いた。そういう態度をする緋の心中を察することはアキラには易い。
「ティエン、わたしに付いてた間ずっとお仕事してないんでしょう? お仕事はちゃんとしないとダメだよ。お仕事ばっかりしてるのも良くないけど、遊んでばっかりいるのも良くないよ。ティエンに無理して品行方正な立派な人になってほしいわけじゃないけど、人に迷惑をかけるのはダメだよ。ちゃんとするっていうのはどれだけ仕事するかってことじゃなくてオンとオフを意識的に切り替えられるってことだと思う。ティエンはきっとお仕事自体はできるんだろうからそういうところをもっと――」
「分かった、する。仕事するからマジトーンの説教はヤメロ」
アキラに叱られるのが天尊は大の苦手。だからすぐさま降参してしまう。ここまで真正面から天尊を説き伏せ苦笑させられる人物はそうはいない。
「そうですよね、アキラさん。お仕事はちゃんとしないといけないですよね✨」
ビシュラはアキラの手を取りキラキラと目を輝かせる。それほど大したことを言ったつもりのないアキラは首を傾げる。
「歩兵長があまりにも真面目にお仕事してくださらないから、最近わたしのほうが少しおかしいのかと思い始めて不安でした~~」
ビシュラの頭痛の種はヴァルトラム。涙目になるほど困らせていたのか。いくら実戦部隊とは言っても体を動かすばかりではなく少しは他の仕事もしてあげてください、歩兵隊長。当の本人のヴァルトラムはハッと鼻先で笑っただけ。ビシュラの苦悩など1ミリたりとも伝わってはいまい。
ユリイーシャは突然パンッと手を打った。
「では、恋バナをしましょう✨」
なんですと? お姫様は今何と言った? 虚を突かれたアキラは口を半開きにしてユリイーシャを見た。ユリイーシャはわくわくした子どものような顔をしていた。お姫様という境遇がこの人の性格をそうさせたのだろうか、見掛けの割にはとても無邪気な人だ。
「フェイもしましょう」
「アタシは特に面白い話なんて無いぞ」
「フェイはまだイイ人と巡り逢っていないの? 貴女の歳の頃にはお姉様は旦那様と……」
緋はふうと息を吐いてカップをソーサーの上に戻した。そして、そうだなぁと口を開いた。自分とは正反対でまさに貴族の娘らしい娘であった姉を引き合いに出されて比較されても困る。さっさと話してしまおう。
「巡り逢い、ねえ。この前ユリイーシャと会ったとき以降、何人のどんな男とヤッたかって意味か?」
「勿論それでも構わないわよ✨✨」
「!?」
アキラとビシュラは驚いて咄嗟にユリイーシャの顔を見た。緋の言い方はお姫様に対して随分だと思うが、それに乗ってくるお姫様も相当なものだ。否、この二人は大人の女性であり、その手の話題が出てもおかしいことではないのだが、こうも明け透けに語ることだろうか。
「そちらのお嬢さんと歩兵隊長様は恋人同士なのでしょう? 今日は楽しい恋バナができそうね。歩兵隊長様との馴れ初めは? どちらから愛の告白をなさったの? 貴女が歩兵隊長様に見初められて? 隊員さんとは思えないほど愛らしいお姿ですもの。分かりますわ💕」
ヴァルトラムは肯定も否定もしなかった。ただつまらなさそうに無表情で、ビシュラを横目に見た。
期待の眼差しを向けてくるユリイーシャに対してビシュラは頭を下げた。
「わたくしの話など姫さまにお聞かせするようなものではございません」
「歩兵長がビシュラを無理矢理押し倒して――」
「フェイさん!💦」
「減るものじゃなし、話してやれよ。冬の間ずっとこの城に閉じ込められて退屈してるんだよ、コイツは」
緋はユリイーシャを親指で指して「な?」と同意を求める。ユリイーシャはコクコクと頷いた。深窓のお姫様は余人の想像以上に暇を持て余しているらしい。
「恋バナっつうか猥談だな」
天尊は片方の肩を竦めた。これが兄の婚約者、未来の姉上とは。確かに育ちが良く上品で教養のある女性ではあるが、世間話や色恋を好む点は世の婦女子と大差ない。
ヴァルトラムが突然アキラを顎で指した。
「お前の女、真っ赤になってるぞ。処女か」
「なっ!?」
アキラは更に顔をカッと真っ赤に染めた。天尊はすぐさまムッとしてヴァルトラムを睨んだ。
「オイ。アキラにセクハラをするな。殺すぞ」
「処女かって訊いただけで赤くなるようなガキにテメエが手ェ出してるほうがセクハラだろうが。つうかセクハラ通り越してんだろ。人のこと犯罪者だ何だと言えた口かよ」
「俺は合意。お前はレイ――」
「大隊長!!」
思わずビシュラは椅子から立ち上がった。天尊もヴァルトラムもどっちもどっちのセクシャルハラスメントだ。どちらがどうだとか非難するほうが馬鹿馬鹿しい。緋は二人共に冷ややかな視線を送る。
(そもそも男所帯だったんだからウチの男共にはセクハラなんて概念が無いんだよな。言うだけ無駄)
思い起こせば緋もセクシャルハラスメントに該当する目にはさんざ遭ってきた。それを逐一注意すればキリが無いほどだ。緋がもう少々繊細な人物であったならウルザブルンに告訴も辞さなかったであろう。そうしなかったのは、そうする余裕さえも無かっただけだ。生き延びる為に強くなることに必死で。
それから女性陣は美味しいお茶とお菓子を楽しみながら笑い声を上げてお喋りを続けた。
ユリイーシャのお茶会が終わる頃には定時だった。各自、特段やり残した仕事も無かったのでユリイーシャの部屋から直接自室へと戻ることにした。ヴァルトラム、緋、ビシュラの三人は部屋割りが近いので揃って同じ方向に向かうことになる。
ビシュラはヴァルトラムと緋に先んじて進んでいた。緋はビシュラに聞こえないくらいの声で「歩兵長」と話しかけた。ヴァルトラムは一々何だとは応えなかったが、耳の意識は緋のほうに向いた。
「誘え」
「お前をか?」
「気色の悪いジョークか、死ぬほど察しが悪いのか。どちらにしろ殴りたくなるな」
ヴァルトラムが顔を向けた瞬間、緋は突き刺すような、ともすれば人を殺しそうな視線を向けた。
「ビシュラに決まってるだろ」
「なんだ、オメエ部屋空けんのか。いつになく気が利くじゃ――」
「ベッドに、じゃない。やっぱり莫迦だな」
緋は眉間に皺を寄せて大変深い溜息を吐いた。
「明日、ビシュラは非番だ。誘って街に連れてってやれ。さっき街の話が出たとき、いいなって顔をしていたから喜ぶだろう」
ヴァルトラムは無表情のままジーッと緋を見た。剰り見てくれるな、鬱陶しい。
誘えという提案が食事や遊びではなくすぐさま情交に直結する短絡的な男が、年頃の娘の感情の機微になどどうせ気付けるはずがなかった。
「アキラも興味がありそうな顔をしていたから大隊長はすぐさま誘っていただろ。そんなんじゃあ大隊長とは張り合えないぞ」
「だから張り合うっつーのは何なんだ」
緋はハハッと鼻で笑った。年頃の娘のことどころか自身のこともよく分かっちゃいない。自分勝手に生きてきたくせに歳だけ食って何たる様だ。
それから緋はくるりと踵を返し、元来た道を引き返していった。自分は消えるから二人きりになってちゃんと誘えよということだろう。
ビシュラが自分と緋の部屋のドアに辿り着き振り返ると、其処にはヴァルトラムしかいなかった。「フェイさんは」と尋ねるとヴァルトラムからは「さあ」とだけ返ってきた。ヴァルトラムも部屋に戻るはずで歩いていた緋が今時分何処へ向かったのかなと分からない。
「オメエ、明日非番なんだってな」
「どうして歩兵長が御存知なのですか?」
「別れ際にフェイが言ってた」
何故ヴァルトラムと緋が隊で尤も新人かつ下っ端の自分の非番の話などしているのだろう。ビシュラが小首を傾げるのも尤もだ。
「オメエを街へ連れてってやれとよ」
「街へ、ですか」
「行きてぇんだろ?」
「行きたいです。こちらへ来る前に少し調べたのですが、とても美味しい名物があるそうですよ✨」
ビシュラはヴァルトラムに近寄ってきて、ニコッと微笑んだ。
「でも街へはわたし一人で参ります。わざわざ歩兵長のお手を煩わせることでもありませんから」
「オメエの足だと丸一日はかかるぞ」
「えっ」と零してビシュラの顔から笑みが消えた。城へ到着する前からヴァルトラムの車で眠っていた為、ビシュラは城の周辺がどうなっているか見ていない。城はだだっ広い雪原に聳え立っており、驚くほど見晴らしがよい。窓から見渡すことのできる範囲には雪に覆われた大地と森だけがあり、動くものは何一つ無い。静寂で平坦な世界が広がっていることは知っているが、それがどれほど宏大かまでは知る由もない。
「そんなに遠いのですか。では諦めます……」
ビシュラはしゅんと肩を落として明らかに落胆。浮かれていた表情が一気に暗くなった。
「だから車に乗せてってやるっつってんだろ」
「ですが歩兵長は非番ではないのでは」
「ずらせばいいだけだ」
「そのように簡単にスケジュールを変更できるのですか」
「オメエみてぇな新入りとは違ェんだ」
「……本当によろしいのですか?」
「ああ」
「ありがとうございます、歩兵長」
ビシュラはぱあぁと顔を明るくしてニコニコする。全く電球みたいに消えたり付いたり忙しい奴だ。まあ、そこが可愛らしいのだけれど。
「その代わり」
と、ヴァルトラムは言い、ビシュラとの距離を詰めた。事前に断らずに手を伸ばしても、自分を見上げてくる黒い瞳は逃げていかなかった。ヴァルトラムはビシュラの肩の上を通過し、艶やかなテールに指を差し入れた。
「その〝歩兵長〟ってのをやめろ」
「どうしてですか?」
「街中でそんな呼び方したら兵士だってバレるだろうが。敬遠されてぇなら別だがな」
「あ。それもそうですね」
ヴァルトラムは髪の毛を指に絡めたまま、廊下の壁に手をついた。ビシュラは後頭部を引っ張られ、背中を壁についた。ヴァルトラムは両腕の間にビシュラを閉じ込めるようにもう一方の手も壁についた。ビシュラに躙り寄り、耳許に口を近付けた。これには流石にビシュラも逃げたくなったが背中には壁、左右にはヴァルトラムの腕、既に逃げ道は無かった。
「それにテメエの男を呼ぶにしちゃ固ェ呼び方だ」
吐息が吹きかかるほど近くで低い声に囁かれ、ビシュラは頬を仄かに染めた。
「わたしは、歩兵長の恋人ではないと、何度も申し上げてっ……」
「ああ。それで何度も痛い目に遭ってるな」
ビシュラはヴァルトラムの胸板を両手で押し、なるべく距離を取ろうとした。
「では、街では歩兵長ではなくヴァルトラムさまとお呼びいたします」
「まだ固ェ」
ヴァルトラムは指に絡めた細い髪をつん、と引っ張った。そうされても痛くはなかったから、ビシュラはこの人でも加減ができるのかと少々感心してしまった。
「なら、愛称でお呼びしてよろしいのですか?」
「オメエなら」
直ぐさま答えが返ってきてビシュラは内心驚いた。もしかしたらこの人は本当に、自分のことを恋人同然に扱うつもりなのではないかと思って。年齢も異なれば身分も異なる、ましてや《四ツ耳》であると知っていて尚。
だがしかしながらビシュラはそれをすんなりと信じられるほど世間を知らないわけでは無く、すぐに勘違いだと否定した。ビシュラの正体を知った上で、変わらず当たり前の人のように扱い、恋人のように慈愛深く接するなど、今までにそのような人はいなかった。ヴァルトラムとて気紛れに慈悲を施そうとするだけであり、また気紛れに己の欲求の儘に組み敷こうとするではないか。
何故、このような当然のことに今更落胆しているのだろう。ビシュラは沈みかけた気分を故意に掻き消した。
「……ヴァリイ、さま?」
それはビシュラにとっては大それたことだった。恐る恐る口にしたところ、ヴァルトラムは目を細めてクッと笑った。
「悪かねェ」
ヴァルトラムはビシュラの首の根元に顔を埋めた。肌の上に唇が落ちた感触に、ビシュラは「ヒッ」と上擦った声を漏らした。
「ちっ、近いです! 離れてくださいっ」
ビシュラが再び両手を突っ張ってヴァルトラムと距離を取ろうとしても、今度はビクともしなかった。岩のような胸板が頑として動かない。
「オメエは俺のモンなのに何で俺が離れなくちゃいけねェんだ」
「だからわたしは歩兵長のものでは――」
ガリッ。
「いぃっ……!」
鎖骨の真上辺りを囓られ、ビシュラはギョッとした。次の瞬間には痛覚が追い付いてきた。これは甘噛みなどというものではない。恐らく歯が皮膚にめり込んでいる。ビシュラはギリギリ声を堪えられる苦痛に顔を歪めながらヴァルトラムのシャツを握り締めた。
「なっ、何をなさるのですか歩兵長!」
「違ェな。そうじゃねェだろ、ビシュラ。俺のことは何て呼ぶんだ?」
「っ……ヴァリイさまっ」
「いい子だ」
「分かりました、分かりましたから! 離れっ……いったたた!」
クカカッとヴァルトラムは笑った。傷口の上で唇が震え、ビシュラの肩にはビリビリと痛みが響く。ビシュラが痛みを堪えていることを分かった上でヴァルトラムは余計に傷口を刺激する。質の悪い悪戯っ子だ。この男は、自分の与えるものによってビシュラが反応するのが愉快で堪らないのだ。それが痛みであれ喜びであれ。そういう身勝手な男なのだ。
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