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Kapitel 01
04:善良と魔物 02
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ビシュラが再びヴァルトラムの隔離部屋を訪れた頃、とうに陽が沈んでいた。陽が沈んでからお邪魔するのも失礼かと思ったが約束しておいて連絡もせず反故にするわけにはいかない。遅くなってしまったことを一言詫びてから、ヴァルトラムの機嫌が良ければまた明日の約束にでもしようと思った。
ドアを押し開くと部屋の照明は消えていた。一瞬どうしたものかと考えたが、やはり約束を無視することはビシュラの性格上できなかった。
「失礼いたします。すでにお休みでございますか? ヴァルトラム歩兵隊長さま」
控えめに声をかけると「こっちに来い」と暗闇から声が返ってきた。
ビシュラの目はまだ闇になれず、声の主を見ることはできない。昼間と同じようにベッドの上にヴァルトラムの姿を想像した。
「いま照明を――」
「いいから来い」
何故だろう、皮膚の表面がざわついた。もう聞き慣れたはずのヴァルトラムの声。その低い声が従えと命令する。修飾も婉曲もなくただただ従えと。
「遅くなってしまって申し訳ございません」
どうにか声の震えを押し殺した。しかし、ヴァルトラムに一歩、また一歩と近づく度に鼓動が大きくなる。
部屋の温度が低い。陽が暮れたからという以上に、何かが室温を下げている。この室内には冷気が漂っている。
ベッドの前までやって来てギクッとした。暗闇に光るスマラークトの双眸――――。
ビシュラはすでに似たようなものを知っている。西の森の奥地で蜘蛛型のモンスターとかち合ったとき、あのときも幾つもの目が暗闇の中で光っていた。しかし、今ビシュラの胸に去来している恐怖はあの時以上のものだ。目の前にいるのは、ヴァルトラムのはずなのに恐くてたまらない。
「あ……ヴァルトラム歩兵隊長、さま……?」
「どうした。何をそんなにビビってやがる」
返事があったということは其処にいるのはヴァルトラムなのだ。まったく知らない人物でもなければ、ましてや自分を襲ったモンスターなどではない。何も怯えることはないと自分に言い聞かせる。
ヴァルトラムはビシュラにプラプラと本を揺らして見せた。
「本当はもう少し早く参上するつもりだったのですが、定時までに業務を終了することができずこのような時間になってしまい……」
ビシュラは得体の知れない緊張を紛らわそうと言い訳がましい言葉を早口で並べた。そうしつつ、ヴァルトラムが持つ本へ手を伸ばそうとすると、手首を掴まれた。訳も分からない内に残された腕も捕まえられてしまい、ヴァルトラムの手を離れた本がパタンと床に落ちた。
ヴァルトラムはビシュラの両手をひとつに束ね、身体ごと自分のほうへ引き寄せた。ビシュラを自分の両足の間に座らせ、何かを探している手付きで腰の辺りをまさぐる。
「何をッ……! ヴァルトラム歩兵隊長さま⁉」
カチッカチッ。――金具が外される音。
ビシュラは、ヴァルトラムが腰の剣の装備を外そうとしていると気づいた。そうさせまいと必死に自分の腕を引くが、ヴァルトラムに掴まれていてはビクともしない。
双剣を腰に固定したベルトを外され、ガシャンッと床に落ちた。
(剣が無いと……!)
ヴァルトラムは、明らかに動揺するビシュラを見て口の端を吊り上げた。
「そのツラ、俺の読みが当たったなァ。オメエの妙なプログラム、その剣がねェと使えねェんだろ」
ヴァルトラムはビシュラの双剣を爪先で蹴飛ばした。シャーッと回転しながら床の上を滑っていって壁にぶつかって止まった。
「蜘蛛を停めたときも握ってやがったな。いつも後生大事に身に付けちゃあいるが、新品かっつうくらいキレイだからよ、妙だと思ったぜ。切ったはったに使ってるようにゃ見えねェ。世間知らずの嬢ちゃんが護身用に持ってるにしちゃ立派すぎる。大方、プログラムを発動させるトリガーか何かか」
ビシュラは何も言わなかったが、ヴァルトラムは特段気分を害した風もなかった。愉快そうにクックッと喉を鳴らした。
「答えなくてもオメエのツラ見りゃ分かる」
ビシュラは腕を引くのをやめた。ヴァルトラムの腕力相手にいくら懸命に抵抗したところで意味は無い。だから抵抗をやめてヴァルトラムの慈悲に縋ることにした。
「お手を……お離しください」
ビシュラの声は麗しくヴァルトラムの鼓膜を揺らし胸を満たす。その声が震えていようと関係はない。何を言っているかもどうでもよい。この男は自分の欲しいものさえ手に入ればそれでよい。
「ツラ上げろ、ビシュラ」
ビシュラは震えながらも従順に、わずかに角度を上げた。顎を捕まえられてグイッと仰角に押し上げられたと思ったら、唇にかぶりつかれた。頭を振って逃れようとしても顎を固定されているから動けない。唇を甘噛みされ緩んだ隙に舌が割って入ってくる。歯列をなぞられてもビシュラは全身に力を入れて抵抗した。ガチリと閉じられた歯列をこじ開けようと、押し潰されるほど背中から抱き締められる。
「んうッ……!」
ついに緩んだ歯と歯の間から舌がぬるりと侵入してきた。舌で舌を舐められる生まれて初めての経験に、生理的な涙が浮く。狭い口内を逃げ惑うが、舌に舌を絡め取られ、生暖かい液体が流れこんでくる。どちらのものともつかない唾液が口の端から溢れ、顎を伝い、喉の上を下ってゆく感覚に悪寒が走った。
くちゅっ、ぴちゅっ。
ビシュラは抱き締められて動きが制限された手で何度もヴァルトラムを叩いたが、腕の力が弱まることはなかった。一瞬の気の迷いなどではない。この男は確信的に自分を襲ったのだと自覚した。
つんと服の胸元が引っ張られ、嫌な予感がした。ヴァルトラムはビシュラの胸元のファスナーに指をかけてジーッと降ろした。唇は離さないまま隙間から手を滑りこませる。
「あッ……ンンッ」
手の平に収まってしまう程度の乳房を、柔らかさを味わいながら揉む。徐々に立ち上がってきた先端を指で挟むと、ビシュラの背筋が一瞬ピンと伸びた。
「やあッ……!」
ヴァルトラムはビシュラをベッドの上に放り投げた。素早くその上に跨がり、ベッドに固定した。再びファスナーに指をかけて下まで降ろしきり、鎖骨と乳房が露わになった。
ビシュラは自分の両手で肌を覆い隠そうとした。
小窓の格子の隙間から差しこむ月光の下、小刻みに震える肢体。年若い娘の肌は、白く暗闇に浮かび上がった。
「お、お許しください……ヴァルトラム歩兵隊長さま……」
ビシュラはヴァルトラムからめいいっぱい顔を逸らして懇願した。
しかしながら、ヴァルトラムはそれを無碍なく断ち切った。ビシュラの両腕を捕まえて左右に開かせて肌の上から力尽くで退けさせた。乳房が弾けて桃色に色づいた先端が揺れた。
「許す? 何をだ。俺ァ別に何にも腹を立てちゃいねェぜ。オメエを気に入ったからモノにしてぇんじゃねェか」
ヴァルトラムはビシュラの乳房に舌を這わせ、ぷくりと立ち上がった先端に食いついた。吸いながら舌先で刺激してやると硬くなってゆく。
ビシュラは、乳房を揉みしだかれ、先端を刺激され、そこから生じた生まれて初めての感覚が身体を走った。
「あッあああ……ッ」
ヴァルトラムは、刺激を与えられて完全に屹立した乳房の桃色の飾りを見て、ニヤリと口を歪めた。
「胸イジられるのがイイか? ビシュラ」
「そんなこと……ッ」
口先での拒否に意味はなかった。肉体が反応していることが何よりもの証拠。ヴァルトラムはビシュラの言葉など無視して太腿の上に手を置いた。そのままスカートの中へと滑りこませると、ビシュラの身体はビクッと跳ねた。
「やめてッ……ください、ヴァルトラム歩兵隊長さま……ッ」
ビシュラはそこでヴァルトラムの手を阻もうと必死に足を綴じ合わせた。
ヴァルトラムは再びビシュラと唇を合わせて口内を貪った。そちらに意識が向かって力が緩んだ隙に膝を割り、一気に手を滑りこませた。
ビシュラは熱い手の平が下着に触れたのを感じ、涙が込み上げてきた。生理的な嫌悪感で吐き気を催した。
――触れないで触れないで。誰もわたしに触れないで。気持ちが悪い。何処かへ行って。
「いや! やめてッ……」
ヴァルトラムはビシュラの涙など無視してその秘所に下着の上から触れた。手探りに柔らかい谷の部分を見つけ、形に添って指で擦った。
ビシュラは、熱い指が谷を行ったり来たりして上部の突起を掠める度にゾクゾクと悪寒が走った。吐き気がするほど嫌なはずなのに、嫌悪とは別の感覚が盛り上がってくる。
やがてヴァルトラムは硬くなった蕾に狙いを付け、指でカリカリと引っ掻くようになった。
「うんッ……あッ、あンンッ……!」
「気持ちいいか、ビシュラ」
「それッ、ダメぇ……ンッ」
ビシュラは自分がどのような声を上げているかなど気づきもしない。その艶っぽい美声は、ヴァルトラムの気分を良くさせた。
ヴァルトラムはビシュラの下着に広がるシミを見て、満足げに口の端を引き上げた。
ビリッ、ビリビリィッ!
ビシュラの甘い悲鳴の中、ヴァルトラムは薄布の下着を引き千切った。
露わになった黒い森は愛液に塗れて卑猥にぬらついていた。ヴァルトラムはその茂みに指を差し入れた。奥に隠されている聖裂を探し当て、中指をゆっくりと埋めた。
初めて体験する異物感。ビシュラはシーツを掴んで背を仰け反らせた。
「あッ! ああぁ……ッ」
「指一本でキツイ。オメエ、処女か」
ビシュラはカッと赤くなった顔を逸らした。
この場でなんということを訊く。女を無理矢理組み敷いておいて今さら何を訊くのだ。この男には本当に一欠片の慈悲も、罪悪感もない。この男にとってはこうやってビシュラを儘にすることさえも退屈凌ぎに過ぎないのだろう。そのような酷い男の指先に翻弄される自分の肉体が憎い。
くちゅっ、ぐちゅっ。――ヴァルトラムの太い指が、本来誰にも明かされないはずの聖裂を無遠慮に出たり入ったり。
ビシュラの背筋にまた悪寒に似た感覚が停滞する。もうなんとなく気づき始めている。これは嫌悪や悪寒ではなく、快感だと。
「ふあッあ……やめッ……あんッ」
嫌だ嫌だ嫌だ。このような男の指で感じたくない。このような男に好きにされたくない。あまりにも容易くわたしという存在を踏み躙るこのような男に。
脳内で喚く意思とは裏腹に、指が差し入れられる聖裂からは愛液が溢れた。耳に届く水音が次第に大きくなっていき、厭が応にも快感をビシュラ自身に思い知らせる。
「キツイがちゃんと感じてるなァ。なァオイ、ビシュラ」
「も……ダメッ」
ビシュラは子どもの駄々のように首を横に振った。しかし、そのようなものでヴァルトラムが手を緩めるはずはなかった。
「ダメッ……ダメぇ!」
ぴんっ。
予想外のものを見て、ヴァルトラムの動きがピタリと止まった。
突然ビシュラの頭に大きなふたつの耳が立ち上がったのだ。先端だけ少々色味が異なるものの全体的に髪の毛と同じ毛色と質感をした長い獣耳。何かを敏感に察知するようにピクッピクッと痙攣している。
「…………。なんだオメエ、半獣人か」
「み、みないでッ……!」
ヴァルトラムはなんてことはないように放言したが、ビシュラは顔を真っ赤にしてシーツに押しつけた。
本性の一部である耳を見られることは彼女にとっては恥ずべきことだ。否、本当に恥ずかしいのは本性を隠しきれなくなるほど感じてしまっていること。
突如、ヴァルトラムはビシュラの獣の耳にかぷっと噛みついた。ビシュラは思わず「んんっ!」と声を漏らした。
「耳も感じんのか、オメエ」
「知らなッ……!」
「別に隠すこたねェ。大隊じゃあ亜人種なんざ珍しくもねェ。可愛いぞ、ビシュラ」
「何を言って……ッ!」
グジュッグジュッグジュッグジュンッ。
ヴァルトラムは上機嫌にビシュラの耳を甘噛みして、ビシュラの内部を掻き混ぜる速度を速めた。秘所が緩んでくるとすかさず二本目を捩じこみ、また中をいっぱいにして激しく出し入れする。
「ふあ! あッ、ああッ……ンッ」
抵抗を、拒否を、拒絶をしなければいけないとは頭では分かっているのに、ビシュラの口から漏れるのは甘い声だけ。我慢しようとしても喉の奥から突き上がってくる。快感と同じ分だけ、熱い吐息が迫り上がってくる。
「だいぶ濡れたな。もういい頃か」
ヴァルトラムが何を言ったのか、ビシュラには聞き取れなかった。
聖裂からずるりと指が引き抜かれ、力いっぱいシーツを握り締めていたビシュラの指からも力が抜けた。
ヴァルトラムはズボンのファスナーを下げ、自分の雄を取り出した。肌の色と似て赤黒いそれは、塔が如く反り返っている。手を添える必要もなく硬度を持った己自身を、ビシュラの聖裂に宛がった。
「やだッ……!」
ビシュラは、ヴァルトラムが何をしようとしているか直感した途端、皮膚が粟立った。脳内を揺さぶっていた快感も一瞬にして覚めた。
「嫌です! それだけはッ……!」
「ここまで来といて往生際悪ィヤツだ」
ヴァルトラムは、ベッドをずり上がって逃れようとするビシュラの腰を捕まえ、押しつけて固定した。
「やだぁあ!」
ビシュラの瞳は怯懦に濡れていた。
しかしながら、そのようなものが何よりもヴァルトラムの征服欲を満たす。怯えて怯えて泣いて喚いて、そのような相手を服従させるから気持ちが良い。ヴァルトラムはビシュラを刺し殺すようにゆっくりと腰を進めてゆく。
ミチッ。――ヴァルトラムの雄は、肉の壁に押し留められた。
「いった……い!」
「力抜け。キッツイな、クソ」
ヴァルトラムのような巨体の質量は、ビシュラが受け止めるには大きすぎる。ビシュラは下腹部の異物感と圧迫感で喉の奥のほうから吐き気が込み上げてきて、嘔吐きそうなのを噛み殺し、シーツを掻き毟るように握り締める。
「いたッ……痛い! もうやめッ……うううッ」
ヴァルトラムはチッと舌打ちし、ビシュラに覆い被さった。シーツに埋めた顔を無理矢理上げさせ、唇を割って舌を捩じこんだ。
「んッ……んんッ」
ヴァルトラムは、ビシュラの気が逸れている隙に、深く腰を押し進めた。
グチュンッ。
ヴァルトラムの雄が深く突き刺さり、ビシュラには腹を割くような激痛が頭まで駆け抜けた。
「ッ……ふッ……!」
ビシュラは声を上げることもできず目からボロボロと大粒の涙を零した。下腹部に居座る痛みに耐えるのが精一杯で涙を拭う余裕などなかった。
ヴァルトラムは小刻みな律動を開始した。ヴァルトラムが動く度、ビシュラは内臓を掻き回される痛みに襲われ、くぐもった呻き声を漏らした。
嗚呼、そのような声すらもヴァルトラムの鼓膜を甘く揺らす。微笑みながら名を呼ぶ声も、堪えきれぬ嬌声も、涙混じりの苦悶の呻きも、すべてが甘美な響き。すべてが甘ったるく纏わりつく。
「ビシュラ。オメエはもう俺のモンになっちまうしかねェんだよ」
ククッと囀るような笑い声が降ってきた。恐れ戦く姿を見ても、噎び泣く姿を見ても、苦しみ悶える姿を見ても、一片の慈悲も覚えず嘲笑うなど真っ当な人とは思えぬ所業。そうだ、悪魔だ。わたしを穢す悪魔だ。この男は悪魔の化身だ。
〝人でなし〟――――人でないもの。
緋は、ヴァルトラムという男は到底まともな人物ではなく、容易く人と魔物の境界を踏破してしまうものだと警告していたのだ。
ならば、ビシュラに訪れた穢れと苦痛は、魔の者を怖れなかった浅はかさに下された天罰か。魔物と称される「人でなし」と対峙するにはビシュラはあまりにも小さく脆弱だった。
ドアを押し開くと部屋の照明は消えていた。一瞬どうしたものかと考えたが、やはり約束を無視することはビシュラの性格上できなかった。
「失礼いたします。すでにお休みでございますか? ヴァルトラム歩兵隊長さま」
控えめに声をかけると「こっちに来い」と暗闇から声が返ってきた。
ビシュラの目はまだ闇になれず、声の主を見ることはできない。昼間と同じようにベッドの上にヴァルトラムの姿を想像した。
「いま照明を――」
「いいから来い」
何故だろう、皮膚の表面がざわついた。もう聞き慣れたはずのヴァルトラムの声。その低い声が従えと命令する。修飾も婉曲もなくただただ従えと。
「遅くなってしまって申し訳ございません」
どうにか声の震えを押し殺した。しかし、ヴァルトラムに一歩、また一歩と近づく度に鼓動が大きくなる。
部屋の温度が低い。陽が暮れたからという以上に、何かが室温を下げている。この室内には冷気が漂っている。
ベッドの前までやって来てギクッとした。暗闇に光るスマラークトの双眸――――。
ビシュラはすでに似たようなものを知っている。西の森の奥地で蜘蛛型のモンスターとかち合ったとき、あのときも幾つもの目が暗闇の中で光っていた。しかし、今ビシュラの胸に去来している恐怖はあの時以上のものだ。目の前にいるのは、ヴァルトラムのはずなのに恐くてたまらない。
「あ……ヴァルトラム歩兵隊長、さま……?」
「どうした。何をそんなにビビってやがる」
返事があったということは其処にいるのはヴァルトラムなのだ。まったく知らない人物でもなければ、ましてや自分を襲ったモンスターなどではない。何も怯えることはないと自分に言い聞かせる。
ヴァルトラムはビシュラにプラプラと本を揺らして見せた。
「本当はもう少し早く参上するつもりだったのですが、定時までに業務を終了することができずこのような時間になってしまい……」
ビシュラは得体の知れない緊張を紛らわそうと言い訳がましい言葉を早口で並べた。そうしつつ、ヴァルトラムが持つ本へ手を伸ばそうとすると、手首を掴まれた。訳も分からない内に残された腕も捕まえられてしまい、ヴァルトラムの手を離れた本がパタンと床に落ちた。
ヴァルトラムはビシュラの両手をひとつに束ね、身体ごと自分のほうへ引き寄せた。ビシュラを自分の両足の間に座らせ、何かを探している手付きで腰の辺りをまさぐる。
「何をッ……! ヴァルトラム歩兵隊長さま⁉」
カチッカチッ。――金具が外される音。
ビシュラは、ヴァルトラムが腰の剣の装備を外そうとしていると気づいた。そうさせまいと必死に自分の腕を引くが、ヴァルトラムに掴まれていてはビクともしない。
双剣を腰に固定したベルトを外され、ガシャンッと床に落ちた。
(剣が無いと……!)
ヴァルトラムは、明らかに動揺するビシュラを見て口の端を吊り上げた。
「そのツラ、俺の読みが当たったなァ。オメエの妙なプログラム、その剣がねェと使えねェんだろ」
ヴァルトラムはビシュラの双剣を爪先で蹴飛ばした。シャーッと回転しながら床の上を滑っていって壁にぶつかって止まった。
「蜘蛛を停めたときも握ってやがったな。いつも後生大事に身に付けちゃあいるが、新品かっつうくらいキレイだからよ、妙だと思ったぜ。切ったはったに使ってるようにゃ見えねェ。世間知らずの嬢ちゃんが護身用に持ってるにしちゃ立派すぎる。大方、プログラムを発動させるトリガーか何かか」
ビシュラは何も言わなかったが、ヴァルトラムは特段気分を害した風もなかった。愉快そうにクックッと喉を鳴らした。
「答えなくてもオメエのツラ見りゃ分かる」
ビシュラは腕を引くのをやめた。ヴァルトラムの腕力相手にいくら懸命に抵抗したところで意味は無い。だから抵抗をやめてヴァルトラムの慈悲に縋ることにした。
「お手を……お離しください」
ビシュラの声は麗しくヴァルトラムの鼓膜を揺らし胸を満たす。その声が震えていようと関係はない。何を言っているかもどうでもよい。この男は自分の欲しいものさえ手に入ればそれでよい。
「ツラ上げろ、ビシュラ」
ビシュラは震えながらも従順に、わずかに角度を上げた。顎を捕まえられてグイッと仰角に押し上げられたと思ったら、唇にかぶりつかれた。頭を振って逃れようとしても顎を固定されているから動けない。唇を甘噛みされ緩んだ隙に舌が割って入ってくる。歯列をなぞられてもビシュラは全身に力を入れて抵抗した。ガチリと閉じられた歯列をこじ開けようと、押し潰されるほど背中から抱き締められる。
「んうッ……!」
ついに緩んだ歯と歯の間から舌がぬるりと侵入してきた。舌で舌を舐められる生まれて初めての経験に、生理的な涙が浮く。狭い口内を逃げ惑うが、舌に舌を絡め取られ、生暖かい液体が流れこんでくる。どちらのものともつかない唾液が口の端から溢れ、顎を伝い、喉の上を下ってゆく感覚に悪寒が走った。
くちゅっ、ぴちゅっ。
ビシュラは抱き締められて動きが制限された手で何度もヴァルトラムを叩いたが、腕の力が弱まることはなかった。一瞬の気の迷いなどではない。この男は確信的に自分を襲ったのだと自覚した。
つんと服の胸元が引っ張られ、嫌な予感がした。ヴァルトラムはビシュラの胸元のファスナーに指をかけてジーッと降ろした。唇は離さないまま隙間から手を滑りこませる。
「あッ……ンンッ」
手の平に収まってしまう程度の乳房を、柔らかさを味わいながら揉む。徐々に立ち上がってきた先端を指で挟むと、ビシュラの背筋が一瞬ピンと伸びた。
「やあッ……!」
ヴァルトラムはビシュラをベッドの上に放り投げた。素早くその上に跨がり、ベッドに固定した。再びファスナーに指をかけて下まで降ろしきり、鎖骨と乳房が露わになった。
ビシュラは自分の両手で肌を覆い隠そうとした。
小窓の格子の隙間から差しこむ月光の下、小刻みに震える肢体。年若い娘の肌は、白く暗闇に浮かび上がった。
「お、お許しください……ヴァルトラム歩兵隊長さま……」
ビシュラはヴァルトラムからめいいっぱい顔を逸らして懇願した。
しかしながら、ヴァルトラムはそれを無碍なく断ち切った。ビシュラの両腕を捕まえて左右に開かせて肌の上から力尽くで退けさせた。乳房が弾けて桃色に色づいた先端が揺れた。
「許す? 何をだ。俺ァ別に何にも腹を立てちゃいねェぜ。オメエを気に入ったからモノにしてぇんじゃねェか」
ヴァルトラムはビシュラの乳房に舌を這わせ、ぷくりと立ち上がった先端に食いついた。吸いながら舌先で刺激してやると硬くなってゆく。
ビシュラは、乳房を揉みしだかれ、先端を刺激され、そこから生じた生まれて初めての感覚が身体を走った。
「あッあああ……ッ」
ヴァルトラムは、刺激を与えられて完全に屹立した乳房の桃色の飾りを見て、ニヤリと口を歪めた。
「胸イジられるのがイイか? ビシュラ」
「そんなこと……ッ」
口先での拒否に意味はなかった。肉体が反応していることが何よりもの証拠。ヴァルトラムはビシュラの言葉など無視して太腿の上に手を置いた。そのままスカートの中へと滑りこませると、ビシュラの身体はビクッと跳ねた。
「やめてッ……ください、ヴァルトラム歩兵隊長さま……ッ」
ビシュラはそこでヴァルトラムの手を阻もうと必死に足を綴じ合わせた。
ヴァルトラムは再びビシュラと唇を合わせて口内を貪った。そちらに意識が向かって力が緩んだ隙に膝を割り、一気に手を滑りこませた。
ビシュラは熱い手の平が下着に触れたのを感じ、涙が込み上げてきた。生理的な嫌悪感で吐き気を催した。
――触れないで触れないで。誰もわたしに触れないで。気持ちが悪い。何処かへ行って。
「いや! やめてッ……」
ヴァルトラムはビシュラの涙など無視してその秘所に下着の上から触れた。手探りに柔らかい谷の部分を見つけ、形に添って指で擦った。
ビシュラは、熱い指が谷を行ったり来たりして上部の突起を掠める度にゾクゾクと悪寒が走った。吐き気がするほど嫌なはずなのに、嫌悪とは別の感覚が盛り上がってくる。
やがてヴァルトラムは硬くなった蕾に狙いを付け、指でカリカリと引っ掻くようになった。
「うんッ……あッ、あンンッ……!」
「気持ちいいか、ビシュラ」
「それッ、ダメぇ……ンッ」
ビシュラは自分がどのような声を上げているかなど気づきもしない。その艶っぽい美声は、ヴァルトラムの気分を良くさせた。
ヴァルトラムはビシュラの下着に広がるシミを見て、満足げに口の端を引き上げた。
ビリッ、ビリビリィッ!
ビシュラの甘い悲鳴の中、ヴァルトラムは薄布の下着を引き千切った。
露わになった黒い森は愛液に塗れて卑猥にぬらついていた。ヴァルトラムはその茂みに指を差し入れた。奥に隠されている聖裂を探し当て、中指をゆっくりと埋めた。
初めて体験する異物感。ビシュラはシーツを掴んで背を仰け反らせた。
「あッ! ああぁ……ッ」
「指一本でキツイ。オメエ、処女か」
ビシュラはカッと赤くなった顔を逸らした。
この場でなんということを訊く。女を無理矢理組み敷いておいて今さら何を訊くのだ。この男には本当に一欠片の慈悲も、罪悪感もない。この男にとってはこうやってビシュラを儘にすることさえも退屈凌ぎに過ぎないのだろう。そのような酷い男の指先に翻弄される自分の肉体が憎い。
くちゅっ、ぐちゅっ。――ヴァルトラムの太い指が、本来誰にも明かされないはずの聖裂を無遠慮に出たり入ったり。
ビシュラの背筋にまた悪寒に似た感覚が停滞する。もうなんとなく気づき始めている。これは嫌悪や悪寒ではなく、快感だと。
「ふあッあ……やめッ……あんッ」
嫌だ嫌だ嫌だ。このような男の指で感じたくない。このような男に好きにされたくない。あまりにも容易くわたしという存在を踏み躙るこのような男に。
脳内で喚く意思とは裏腹に、指が差し入れられる聖裂からは愛液が溢れた。耳に届く水音が次第に大きくなっていき、厭が応にも快感をビシュラ自身に思い知らせる。
「キツイがちゃんと感じてるなァ。なァオイ、ビシュラ」
「も……ダメッ」
ビシュラは子どもの駄々のように首を横に振った。しかし、そのようなものでヴァルトラムが手を緩めるはずはなかった。
「ダメッ……ダメぇ!」
ぴんっ。
予想外のものを見て、ヴァルトラムの動きがピタリと止まった。
突然ビシュラの頭に大きなふたつの耳が立ち上がったのだ。先端だけ少々色味が異なるものの全体的に髪の毛と同じ毛色と質感をした長い獣耳。何かを敏感に察知するようにピクッピクッと痙攣している。
「…………。なんだオメエ、半獣人か」
「み、みないでッ……!」
ヴァルトラムはなんてことはないように放言したが、ビシュラは顔を真っ赤にしてシーツに押しつけた。
本性の一部である耳を見られることは彼女にとっては恥ずべきことだ。否、本当に恥ずかしいのは本性を隠しきれなくなるほど感じてしまっていること。
突如、ヴァルトラムはビシュラの獣の耳にかぷっと噛みついた。ビシュラは思わず「んんっ!」と声を漏らした。
「耳も感じんのか、オメエ」
「知らなッ……!」
「別に隠すこたねェ。大隊じゃあ亜人種なんざ珍しくもねェ。可愛いぞ、ビシュラ」
「何を言って……ッ!」
グジュッグジュッグジュッグジュンッ。
ヴァルトラムは上機嫌にビシュラの耳を甘噛みして、ビシュラの内部を掻き混ぜる速度を速めた。秘所が緩んでくるとすかさず二本目を捩じこみ、また中をいっぱいにして激しく出し入れする。
「ふあ! あッ、ああッ……ンッ」
抵抗を、拒否を、拒絶をしなければいけないとは頭では分かっているのに、ビシュラの口から漏れるのは甘い声だけ。我慢しようとしても喉の奥から突き上がってくる。快感と同じ分だけ、熱い吐息が迫り上がってくる。
「だいぶ濡れたな。もういい頃か」
ヴァルトラムが何を言ったのか、ビシュラには聞き取れなかった。
聖裂からずるりと指が引き抜かれ、力いっぱいシーツを握り締めていたビシュラの指からも力が抜けた。
ヴァルトラムはズボンのファスナーを下げ、自分の雄を取り出した。肌の色と似て赤黒いそれは、塔が如く反り返っている。手を添える必要もなく硬度を持った己自身を、ビシュラの聖裂に宛がった。
「やだッ……!」
ビシュラは、ヴァルトラムが何をしようとしているか直感した途端、皮膚が粟立った。脳内を揺さぶっていた快感も一瞬にして覚めた。
「嫌です! それだけはッ……!」
「ここまで来といて往生際悪ィヤツだ」
ヴァルトラムは、ベッドをずり上がって逃れようとするビシュラの腰を捕まえ、押しつけて固定した。
「やだぁあ!」
ビシュラの瞳は怯懦に濡れていた。
しかしながら、そのようなものが何よりもヴァルトラムの征服欲を満たす。怯えて怯えて泣いて喚いて、そのような相手を服従させるから気持ちが良い。ヴァルトラムはビシュラを刺し殺すようにゆっくりと腰を進めてゆく。
ミチッ。――ヴァルトラムの雄は、肉の壁に押し留められた。
「いった……い!」
「力抜け。キッツイな、クソ」
ヴァルトラムのような巨体の質量は、ビシュラが受け止めるには大きすぎる。ビシュラは下腹部の異物感と圧迫感で喉の奥のほうから吐き気が込み上げてきて、嘔吐きそうなのを噛み殺し、シーツを掻き毟るように握り締める。
「いたッ……痛い! もうやめッ……うううッ」
ヴァルトラムはチッと舌打ちし、ビシュラに覆い被さった。シーツに埋めた顔を無理矢理上げさせ、唇を割って舌を捩じこんだ。
「んッ……んんッ」
ヴァルトラムは、ビシュラの気が逸れている隙に、深く腰を押し進めた。
グチュンッ。
ヴァルトラムの雄が深く突き刺さり、ビシュラには腹を割くような激痛が頭まで駆け抜けた。
「ッ……ふッ……!」
ビシュラは声を上げることもできず目からボロボロと大粒の涙を零した。下腹部に居座る痛みに耐えるのが精一杯で涙を拭う余裕などなかった。
ヴァルトラムは小刻みな律動を開始した。ヴァルトラムが動く度、ビシュラは内臓を掻き回される痛みに襲われ、くぐもった呻き声を漏らした。
嗚呼、そのような声すらもヴァルトラムの鼓膜を甘く揺らす。微笑みながら名を呼ぶ声も、堪えきれぬ嬌声も、涙混じりの苦悶の呻きも、すべてが甘美な響き。すべてが甘ったるく纏わりつく。
「ビシュラ。オメエはもう俺のモンになっちまうしかねェんだよ」
ククッと囀るような笑い声が降ってきた。恐れ戦く姿を見ても、噎び泣く姿を見ても、苦しみ悶える姿を見ても、一片の慈悲も覚えず嘲笑うなど真っ当な人とは思えぬ所業。そうだ、悪魔だ。わたしを穢す悪魔だ。この男は悪魔の化身だ。
〝人でなし〟――――人でないもの。
緋は、ヴァルトラムという男は到底まともな人物ではなく、容易く人と魔物の境界を踏破してしまうものだと警告していたのだ。
ならば、ビシュラに訪れた穢れと苦痛は、魔の者を怖れなかった浅はかさに下された天罰か。魔物と称される「人でなし」と対峙するにはビシュラはあまりにも小さく脆弱だった。
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