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Kapitel 03:霜刃
霜刃 01
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休日。
白と銀太、天尊は三人で買い物に出掛けた。
文化祭の準備が本格的に開始となれば、白の帰宅が遅くなることが予測される。これまで下校の流れに組みこんでいた買い物がしにくくなる。幼稚園の送り迎えは天尊で代行できるが、食材の調達はそうはいかない。平日は学校行事で忙しくなる白の負担を軽くする為にも、長く保存できるものを休日になるべく買いこんでおこうという作戦だ。
食料の買い出しの前に、まずは腹を満たさねばならない。三人はファーストフードのチェーン店に入店した。
これは銀太のリクエストだ。銀太は勿論、白の食事が一番大好きだが、ファーストフードの味付けも大好きだった。
入店して真正面に店員が待ち構えるカウンター。いらっしゃいませー、と威勢のよい声が飛ぶ。白と銀太が先んじてカウンターと歩を進め、天尊は二人の後に続いた。
カウンターの前に立った天尊は、その天板に目を落とした。カウンターの上には、画像とテキストでびっしり埋め尽くされたメニュー。
銀太は背伸びをしてカウンターの上を見ようとする。彼が何の苦も無くメニューを選べるようになるには今しばらく時間が必要だ。
白が銀太を抱き抱えようとすると、天尊が片手でヒョイと抱き上げた。
「お客さま。よろしければこちらのメニューをどうぞ」
店員は天尊の前に別のメニューを差し出した。
カウンターの上に置かれているメニューと商品の画像は同一、テキストが英語表記。英語話者向けのメニュー表だ。
「ありがとう。これでO.K.だ」
天尊はカウンター上のメニュー表を指差し、気の利いた店員に謝辞を述べた。
「お前は読めるのか?」
天尊から尋ねられた銀太は、天尊の腕から落っこちそうなほど身を乗り出してメニュー表をあちこち指差した。
「オレ、ジュースのむ。きょうはハンバーガだからジュースのんでイイんだ。いちばんデカイのにする。たべるのは、これとこれと。あと、これもたべる」
好物の店にやって来た銀太は、見て分かるほどウキウキしていた。ファーストフードは味付けも好きだが、何より食事でありながらジュースを飲むことが許されるのは6歳児にとって特別感があった。普段、疋堂家の食卓では、食事の際にジュースを禁止されている。
白と天尊は、銀太の無邪気さに微笑んだ。
「ダーメ。全部は食べられないでしょ。食べられる分だけにしなさい」
「構わん。頼ませてやれ。ギンタが残した分は俺が食う」
「じゃあ、これも!」
銀太は特別感に得意になって目を輝かせた。
白は、こーら、と言ったが声の調子に怒りはまったくなかった。
まずは銀太に食べたいものをセレクトさせ、続いて白と天尊もオーダーを完了した。横にずれて少々お待ちください、と店員から告げられた。
銀太は得意になって自分の許容量以上をセレクトし、天尊は体格のよい見た目通りに一人前以上の食事量が必要だ。オーダーした品がすべて揃うには少々時間がかかりそうだ。
「俺が受け取ってくる。お前たちは座っていていいぞ」
「はーい」
白と銀太は、声を揃えて返事をして天尊から離れた。
白は銀太に好きなテーブルを選ばせた。特にどれを選んでも大差ない場合は、幼い弟に選ぶ楽しさを体験させることにしている。情操教育というほどでもないが、弟は選択や決定を楽しそうにするからだ。
銀太はカウンターが見える位置のテーブルを選び、椅子に飛び乗るようにして腰かけた。白は銀太の隣の椅子に座った。
「なー。かえりにゲームやさんいってもいい?」
「いいけど、買わないよ」
「みるだけ。ほしいってゆわないから」
「誕生日か、次の学年に上がるときなら買ってもいいよ」
「やった! じゃあオレがんばってえらぶ」
白は、素直に喜ぶ銀太が可愛くてアハハと笑った。
疋堂家の生活費は白が管理している。銀太は欲しいものを白に強請る。親からは、テレビゲームのタイトルの購入に困窮しない程度の、むしろ衣食住に不自由なく、余りある額の生活費が振り込まれる。
しかしながら、白は可愛い弟が欲しいと言うままに考え無しに物品を買い与えはしなかった。弟が本当に欲しがるもの、必要とするものを与えるのはよいが、一過性の物欲を満たすことをよしとしなかった。そのようなことをしてはキリが無い。欲しいものと手に入るもののバランスは過不足なくが望ましい。
白はふと、天尊のほうへ目を向けた。
天尊はカウンターに片手を置いて半身で振り返り、二人の若い女性と何やら会話しているようだ。
白は、嬉々とした女性たちの顔色を見てピンと来た。
「ティエンが女の人に声かけられてる」
「なんで? まいごか?」
「ティエンがカッコイイから、じゃないかな」
「カッコイイとはなしかけられるのか?」
銀太の質問は何処までもシンプルであり、白はクスッと笑ってしまった。
色恋を知らない幼稚園児だ。好き嫌いは友だちの延長線上だ。イイなと感じた相手と接点を持ちたい、話しかけたい、距離を縮めたい、などという発想には結びつかない。
――ボクも恋なんて知らないけれど。
「オレはらへった。ティエンよんでくるー」
「せっかくお話ししてるから、もうちょっと待ってあげよ」
「えー。はらへったのにぃ~」
椅子から飛び降りようとした銀太を、白は制止した。
色恋の何たるかは知らないが、女性たちの好意を無碍にするのも気の毒だ。天尊は迷惑そうにしてはいないし、もう少々楽しい時間を味わったって罰は当たるまい。
天尊はオーダーした品が出揃うと女性たちとすんなり分かれ、白と銀太が待っているテーブルにやってきた。両手に持っているトレイは、ハンバーガーや飲み物、サイドメニューでぎっしりだ。
白は天尊がテーブルの上に置いたトレイを一瞥した。脳内で自分と銀太がセレクトしたものを照らし合わせ、おかしいなと気づいた。注文時とどうにも数が合わないようだ。
「ティエン、途中で注文増やしたでしょ。やたら時間かかったと思った」
「出てきたのを見たら想像より小振りだったからな。見ろ、ギンタの顔より小さいぞ」
天尊はハンバーガーを掴み取って銀太の顔の横に持ってきた。そのような当たり前のことを堂々と主張されても白にはどうにもできない。
「子どもの顔ほどのハンバーガーなんてフツーの人は食べられないからね」
白と銀太はファーストフードを前にしてもしっかりと手を合わせていただきますをした。天尊もそれに倣った。二人と生活を始めるまでは、したことのない風習だったがすぐに慣れた。
銀太はいただきますを済ませると、それまでの御行儀の良さが嘘のようにハンバーガーに飛びついた。慌てるとこぼすよ、と白は注意したが、今日の銀太の耳には届かなかった。ガサガサーッと乱暴に包み紙を剥ぎ、ズズーッと一気にジュースをストローから吸い上げた。
「ティエンってモテるんだね」
白はポテトを指先で抓んで口に運んだ。
「いきなりどうした」
「さっき女の人に話しかけられてたでしょ。授業参観のときもクラスの女の子たちの反応スゴかったよ」
「アキラもモテてるじゃないか。同級生の少女たちに大人気だと母親たちにも評判がよかったぞ。男どもは形無しだそうだな」
天尊はジョークじみて笑ってハンバーガーに齧りついた。白もやや困ったように笑った。
白はあれが真性の恋愛感情でないことは分かっている。白よりも人生経験が豊富な天尊ならば尚更だ。彼女たちの心配してくれる気持ちや慕ってくれた言動を嘘とは言わないが、恋慕とは異なる。思春期特有の疑似恋愛に近い。
「安心しろ。お前たちの家に厄介になる間は女遊びなどせん」
「そんな心配してません。ティエンはそこまで分別のない大人じゃないよ」
白からの評価に、天尊は少し得意気にフフフと含み笑い。
「フンベツってなんだ? ティエンもってないのか?」と銀太。
「真逆だ。俺には分別があるという評価だ」
白は宙に目線を遣って銀太の疑問を、んー、と考えこんだ。
「真面目な人としての判断力、かな」
「ティエンがマジメ?」
「大いに疑問のある顔をするんじゃない、お子様」
§ § § § §
白と銀太、天尊の三人は、それぞれに荷物を手にして帰途に就いた。
比較的重たいものや嵩張るものは天尊が一手に引き受けた。白と銀太はそれぞれ片手に一袋ずつ。空いたほうの手で手をつなげるから、白としては大いに助かる。
銀太が興味を引かれるものが視界に入って突然飛び出すことは年々格段に減ってきた。しかし、自動車の交通量が多い大きな車道の近くではやはりまだ安心はできない。
銀太は熱心に買い物途中で立ち寄った家電量販店で見たゲームの話をする。白は銀太とは異なりほとんどゲームをしない上に、幼稚園児の拙い説明だ。内容はあまり理解できないが、うんうん、そうだね、と相槌を打ってやる。それだけで銀太は満足げだ。
白は歩道を歩く黒ネコを見かけた。
黒ネコは白たちの数メートル先を、歩道の端、壁伝いギリギリを歩く。胴のあたりの毛がところどころ無く、体表が露わになっていた。よく見ると、毛の無い体表に裂傷の痕があった。何らかの脱毛症ではなく、その裂傷が原因で毛が抜けてしまったのだろうか。
「まただ」
「どうした」と天尊。
「最近ちょこちょこ見るんだよね、ああいうケガしたネコ」
白が買い物袋を提げた手で指差した方向を、銀太と天尊も見た。
銀太は黒ネコの後ろ姿を見送りながら首を傾げた。
「ケンカかー?」
「うーん? ネコ同士のケンカであんなに毛が抜けるものかな。飼ったことないから分からないなー」
「オレわかった」と銀太は白の手を離してシュタッと挙手した。
「ネコにハゲのビョーキがはやってる! そんで、ツルツルのネコにシンカするんだ、たぶん!」
「たぶんかー」
「たぶん!」
優しい姉である白は、銀太の得意満面を否定しなかった。
天尊は胡乱そうに片眉を引き上げた。
「それは進化なのか? というか、何故〝たぶん〟でそれほど自信満々に断言できる」
「ティエンもうつったらハゲるぞ。きをつけろ」
銀太は天尊をビシッと指差した。
「ぶはっ」と白は思わず破顔した。
「ごめん! 髪がないティエンを想像したら、つい」
「髪は歳をとれば自然と薄くなるものだ。そんなに面白いものか?」
「どうしても今のティエンの顔で想像しちゃうから……ごめ! あははははッ」
加齢によって頭髪が薄くなるのは自然現象だ。事実、多くの者がそうなる。天尊には何がそんなに可笑しいのか理解できなかった。しかし、大人顔負けの白が、年相応の子どもらしく無邪気に笑っているから、まあいいかと思った。
白と銀太、天尊は三人で買い物に出掛けた。
文化祭の準備が本格的に開始となれば、白の帰宅が遅くなることが予測される。これまで下校の流れに組みこんでいた買い物がしにくくなる。幼稚園の送り迎えは天尊で代行できるが、食材の調達はそうはいかない。平日は学校行事で忙しくなる白の負担を軽くする為にも、長く保存できるものを休日になるべく買いこんでおこうという作戦だ。
食料の買い出しの前に、まずは腹を満たさねばならない。三人はファーストフードのチェーン店に入店した。
これは銀太のリクエストだ。銀太は勿論、白の食事が一番大好きだが、ファーストフードの味付けも大好きだった。
入店して真正面に店員が待ち構えるカウンター。いらっしゃいませー、と威勢のよい声が飛ぶ。白と銀太が先んじてカウンターと歩を進め、天尊は二人の後に続いた。
カウンターの前に立った天尊は、その天板に目を落とした。カウンターの上には、画像とテキストでびっしり埋め尽くされたメニュー。
銀太は背伸びをしてカウンターの上を見ようとする。彼が何の苦も無くメニューを選べるようになるには今しばらく時間が必要だ。
白が銀太を抱き抱えようとすると、天尊が片手でヒョイと抱き上げた。
「お客さま。よろしければこちらのメニューをどうぞ」
店員は天尊の前に別のメニューを差し出した。
カウンターの上に置かれているメニューと商品の画像は同一、テキストが英語表記。英語話者向けのメニュー表だ。
「ありがとう。これでO.K.だ」
天尊はカウンター上のメニュー表を指差し、気の利いた店員に謝辞を述べた。
「お前は読めるのか?」
天尊から尋ねられた銀太は、天尊の腕から落っこちそうなほど身を乗り出してメニュー表をあちこち指差した。
「オレ、ジュースのむ。きょうはハンバーガだからジュースのんでイイんだ。いちばんデカイのにする。たべるのは、これとこれと。あと、これもたべる」
好物の店にやって来た銀太は、見て分かるほどウキウキしていた。ファーストフードは味付けも好きだが、何より食事でありながらジュースを飲むことが許されるのは6歳児にとって特別感があった。普段、疋堂家の食卓では、食事の際にジュースを禁止されている。
白と天尊は、銀太の無邪気さに微笑んだ。
「ダーメ。全部は食べられないでしょ。食べられる分だけにしなさい」
「構わん。頼ませてやれ。ギンタが残した分は俺が食う」
「じゃあ、これも!」
銀太は特別感に得意になって目を輝かせた。
白は、こーら、と言ったが声の調子に怒りはまったくなかった。
まずは銀太に食べたいものをセレクトさせ、続いて白と天尊もオーダーを完了した。横にずれて少々お待ちください、と店員から告げられた。
銀太は得意になって自分の許容量以上をセレクトし、天尊は体格のよい見た目通りに一人前以上の食事量が必要だ。オーダーした品がすべて揃うには少々時間がかかりそうだ。
「俺が受け取ってくる。お前たちは座っていていいぞ」
「はーい」
白と銀太は、声を揃えて返事をして天尊から離れた。
白は銀太に好きなテーブルを選ばせた。特にどれを選んでも大差ない場合は、幼い弟に選ぶ楽しさを体験させることにしている。情操教育というほどでもないが、弟は選択や決定を楽しそうにするからだ。
銀太はカウンターが見える位置のテーブルを選び、椅子に飛び乗るようにして腰かけた。白は銀太の隣の椅子に座った。
「なー。かえりにゲームやさんいってもいい?」
「いいけど、買わないよ」
「みるだけ。ほしいってゆわないから」
「誕生日か、次の学年に上がるときなら買ってもいいよ」
「やった! じゃあオレがんばってえらぶ」
白は、素直に喜ぶ銀太が可愛くてアハハと笑った。
疋堂家の生活費は白が管理している。銀太は欲しいものを白に強請る。親からは、テレビゲームのタイトルの購入に困窮しない程度の、むしろ衣食住に不自由なく、余りある額の生活費が振り込まれる。
しかしながら、白は可愛い弟が欲しいと言うままに考え無しに物品を買い与えはしなかった。弟が本当に欲しがるもの、必要とするものを与えるのはよいが、一過性の物欲を満たすことをよしとしなかった。そのようなことをしてはキリが無い。欲しいものと手に入るもののバランスは過不足なくが望ましい。
白はふと、天尊のほうへ目を向けた。
天尊はカウンターに片手を置いて半身で振り返り、二人の若い女性と何やら会話しているようだ。
白は、嬉々とした女性たちの顔色を見てピンと来た。
「ティエンが女の人に声かけられてる」
「なんで? まいごか?」
「ティエンがカッコイイから、じゃないかな」
「カッコイイとはなしかけられるのか?」
銀太の質問は何処までもシンプルであり、白はクスッと笑ってしまった。
色恋を知らない幼稚園児だ。好き嫌いは友だちの延長線上だ。イイなと感じた相手と接点を持ちたい、話しかけたい、距離を縮めたい、などという発想には結びつかない。
――ボクも恋なんて知らないけれど。
「オレはらへった。ティエンよんでくるー」
「せっかくお話ししてるから、もうちょっと待ってあげよ」
「えー。はらへったのにぃ~」
椅子から飛び降りようとした銀太を、白は制止した。
色恋の何たるかは知らないが、女性たちの好意を無碍にするのも気の毒だ。天尊は迷惑そうにしてはいないし、もう少々楽しい時間を味わったって罰は当たるまい。
天尊はオーダーした品が出揃うと女性たちとすんなり分かれ、白と銀太が待っているテーブルにやってきた。両手に持っているトレイは、ハンバーガーや飲み物、サイドメニューでぎっしりだ。
白は天尊がテーブルの上に置いたトレイを一瞥した。脳内で自分と銀太がセレクトしたものを照らし合わせ、おかしいなと気づいた。注文時とどうにも数が合わないようだ。
「ティエン、途中で注文増やしたでしょ。やたら時間かかったと思った」
「出てきたのを見たら想像より小振りだったからな。見ろ、ギンタの顔より小さいぞ」
天尊はハンバーガーを掴み取って銀太の顔の横に持ってきた。そのような当たり前のことを堂々と主張されても白にはどうにもできない。
「子どもの顔ほどのハンバーガーなんてフツーの人は食べられないからね」
白と銀太はファーストフードを前にしてもしっかりと手を合わせていただきますをした。天尊もそれに倣った。二人と生活を始めるまでは、したことのない風習だったがすぐに慣れた。
銀太はいただきますを済ませると、それまでの御行儀の良さが嘘のようにハンバーガーに飛びついた。慌てるとこぼすよ、と白は注意したが、今日の銀太の耳には届かなかった。ガサガサーッと乱暴に包み紙を剥ぎ、ズズーッと一気にジュースをストローから吸い上げた。
「ティエンってモテるんだね」
白はポテトを指先で抓んで口に運んだ。
「いきなりどうした」
「さっき女の人に話しかけられてたでしょ。授業参観のときもクラスの女の子たちの反応スゴかったよ」
「アキラもモテてるじゃないか。同級生の少女たちに大人気だと母親たちにも評判がよかったぞ。男どもは形無しだそうだな」
天尊はジョークじみて笑ってハンバーガーに齧りついた。白もやや困ったように笑った。
白はあれが真性の恋愛感情でないことは分かっている。白よりも人生経験が豊富な天尊ならば尚更だ。彼女たちの心配してくれる気持ちや慕ってくれた言動を嘘とは言わないが、恋慕とは異なる。思春期特有の疑似恋愛に近い。
「安心しろ。お前たちの家に厄介になる間は女遊びなどせん」
「そんな心配してません。ティエンはそこまで分別のない大人じゃないよ」
白からの評価に、天尊は少し得意気にフフフと含み笑い。
「フンベツってなんだ? ティエンもってないのか?」と銀太。
「真逆だ。俺には分別があるという評価だ」
白は宙に目線を遣って銀太の疑問を、んー、と考えこんだ。
「真面目な人としての判断力、かな」
「ティエンがマジメ?」
「大いに疑問のある顔をするんじゃない、お子様」
§ § § § §
白と銀太、天尊の三人は、それぞれに荷物を手にして帰途に就いた。
比較的重たいものや嵩張るものは天尊が一手に引き受けた。白と銀太はそれぞれ片手に一袋ずつ。空いたほうの手で手をつなげるから、白としては大いに助かる。
銀太が興味を引かれるものが視界に入って突然飛び出すことは年々格段に減ってきた。しかし、自動車の交通量が多い大きな車道の近くではやはりまだ安心はできない。
銀太は熱心に買い物途中で立ち寄った家電量販店で見たゲームの話をする。白は銀太とは異なりほとんどゲームをしない上に、幼稚園児の拙い説明だ。内容はあまり理解できないが、うんうん、そうだね、と相槌を打ってやる。それだけで銀太は満足げだ。
白は歩道を歩く黒ネコを見かけた。
黒ネコは白たちの数メートル先を、歩道の端、壁伝いギリギリを歩く。胴のあたりの毛がところどころ無く、体表が露わになっていた。よく見ると、毛の無い体表に裂傷の痕があった。何らかの脱毛症ではなく、その裂傷が原因で毛が抜けてしまったのだろうか。
「まただ」
「どうした」と天尊。
「最近ちょこちょこ見るんだよね、ああいうケガしたネコ」
白が買い物袋を提げた手で指差した方向を、銀太と天尊も見た。
銀太は黒ネコの後ろ姿を見送りながら首を傾げた。
「ケンカかー?」
「うーん? ネコ同士のケンカであんなに毛が抜けるものかな。飼ったことないから分からないなー」
「オレわかった」と銀太は白の手を離してシュタッと挙手した。
「ネコにハゲのビョーキがはやってる! そんで、ツルツルのネコにシンカするんだ、たぶん!」
「たぶんかー」
「たぶん!」
優しい姉である白は、銀太の得意満面を否定しなかった。
天尊は胡乱そうに片眉を引き上げた。
「それは進化なのか? というか、何故〝たぶん〟でそれほど自信満々に断言できる」
「ティエンもうつったらハゲるぞ。きをつけろ」
銀太は天尊をビシッと指差した。
「ぶはっ」と白は思わず破顔した。
「ごめん! 髪がないティエンを想像したら、つい」
「髪は歳をとれば自然と薄くなるものだ。そんなに面白いものか?」
「どうしても今のティエンの顔で想像しちゃうから……ごめ! あははははッ」
加齢によって頭髪が薄くなるのは自然現象だ。事実、多くの者がそうなる。天尊には何がそんなに可笑しいのか理解できなかった。しかし、大人顔負けの白が、年相応の子どもらしく無邪気に笑っているから、まあいいかと思った。
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