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Kapitel 04:狂犬
狂犬 02
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夕方の通学路。
白は学園から下校途中、一人で帰り道を歩いていた。
学園を出た直後は確かに夕焼けだったのだが、今では太陽は半分以上沈んでしまっていて辺りは薄暗くなり始めている。
クォーーーンッ。
犬の鳴き声が薄暗い道に響いた。
白はドキッとして辺りをキョロキョロと見回した。
周囲におかしなところは何も無かった。ただの犬の遠吠えだと分かってホッとした。自分で思っているよりも朝のニュースの話が記憶に残っているらしい。
(もう、銀太とティエンが朝から変な話するから。男の子ってあーゆーの気にしないんだなー。銀太もあんまり恐がりじゃないし、ティエンに至っては恐がるものがそもそも思いつかない)
ゾクゥッ。――突然、背中を悪寒のようなものが駆け抜けた。
白は嫌な予感がして、おそるおそるもう一度辺りを見回してみた。
やはり何もおかしなところは見当たらなかった。左右を高い塀が走り、アスファルトで舗装された、見慣れた通学路だ。
目に見える異変はないのに、心臓がバクバクと早鐘を打った。自分でも理由が分からないのに妙な緊張感が張り詰める。日が暮れてしまう前に家に帰り着きたいのに、このような場所からは一刻も早く立ち去りたいのに、足が動かなかった。
(何だろう、この感覚。気持ちが悪い……)
ウォウォォォオオッッ!
「ッ⁉」
暗く沈んでしまった道の先から音が地鳴りのようにやってきて白に直撃した。
おそらくは犬の鳴き声。いや、しかし、本当にそうだろうか。犬よりももっと大きな、トラやクマなど大型の獰猛な野獣が雄叫びを上げたかのようだった。
――――ォォオオン、オン、オン。
しばらくすると鳴き声は次第に遠離って小さくなっていった。周囲は静けさを取り戻し、いつもの通学路の様相に立ち戻った。
白の警戒も自然と解け、ほぅ、と一呼吸ついた。
「何だったんだろう……今の……」
鳴き声から想像すると恐ろしげな化け物の姿を思い浮かべてしまう。そのようなものが近くにいるなど考えたくはなかった。
白は脳内の想像図を掻き消して歩き出した。とにかくこの場から離れたかった。早く家に帰って自身を落ち着かせたい。
しかしながら、数メートル進んだ地点で足を停めることとなった。
白はそれを見つけた瞬間、ウッ、と怯んだ。
街灯が照らすギリギリの範囲内、歩道の隅に転がる赤とも黒ともつかない塊、何物かによって食い荒らされた犬の死体。血溜まりの上に横たわった死体は、白目を剥いて口から泡を吹いていた。食い千切られた腹部から肋骨が剥き出しになり、引き摺り出された腸が道路の上に長く拡がり、犬の手足はピクッピクッと痙攣している。
白は、今の今まで生きていた生々しい肉の塊から目を背けた。思いっ切り地面を蹴ってこの場から一目散に逃げ出した。
バタァンッ。
玄関のドアが乱暴に開け閉めされた。
リビングでテレビゲームをしていた天尊と銀太は、時刻的にも白が帰宅したのだろうと思ったが、このようにけたたましい音を立てるなど何事かと顔を見合わせた。
天尊は玄関まで様子を見にやって来た。「アキラ?」と声をかけても、白から返事はなかった。こちらを振り向かないまま、ドアノブを握り締めて肩で息をしていた。
様子がおかしい。天尊は上がり框から降りて白に近づいた。ふと白の手元を覗きこむと、ドアノブを握る白の両手は小刻みに震えていた。
只事ではない雰囲気を感じ取り、白の肩を捕まえてグイッと振り向かせた。細い肩がブルブルと震えていた。
「何があったアキラ」
白は震える唇をわずかに動かし始めた。
震えの所為で上手く言葉にならない。キュッと瞼を閉じて懸命に絞り出した。
「見たんだボク……」
「何を」
「い、犬……食い殺された……」
天尊の脳裏を、共食いをする獰猛な犬のニュースが過った。白の両肩を掴んで大きく揺さぶった。
「それでお前は⁉ お前は何ともないのかッ」
何ともない、大丈夫、と白は伝えたいのに、やはり上手く口が動かなかった。
リビングのほうからドタドタドタッと足音が近づいてきた。
天尊の大声にビックリした銀太が、駆け寄ってきた。靴も履かずに玄関に降りて白の腕に飛びついた。
「アキラどーかしたのかッ?」
白は銀太からギューッと抱き締められ、その高い体温が伝わってきて、ようやく気持ちが落ち着いてきた。幼い弟の前だと、無意識に自分をしっかりと保とうとするのかもしれない。
「大丈夫……何ともないよ」
大丈夫とは言っても白の顔面は蒼白だった。
それでも、天尊や銀太の顔を見て生きた心地がしたのも本当だった。犬の鳴き声を聞いてあの場から逃げ出し、我武者羅に腕を振って走っている間、生きた心地がしなかった。ようやく本当の意味で警戒心が解けた。
白は上がり框にストンと両膝を突いて座りこんだ。
「アキラふるえてる。ホントにだいじょぶなのか?」
「もう落ち着いたから大丈夫」
銀太は心配そうな表情でしきりに白の腕を引っ張った。
白は強張った顔面に筋肉を意識的に動かして銀太に微笑んで見せた。殊、このような情況でも自分よりも弟を安心させることを優先した。
――そういう女だ、アキラは。
天尊は嘆息を漏らして白の横に腰を下ろした。
「何が落ち着いているだ。真っ青な顔をして」
天尊は白の後頭部に手を回して自分のほうへ引き寄せた。白の顔を自分の胸板に押しつけた。
普段なら離れてよと恥ずかしがるところだが、白は黙って天尊の体温や、腕にしがみつく銀太のそれを受け容れた。
少しずつ鼓動が鎮まる感じがする。無理矢理に気丈を演じるではなく、平静を装うではなく、じわじわと自分本来の感覚を取り戻す。
「心配を、させるな」
天尊の声がいつもより響いて聞こえた。骨や肉体を伝わって直接響くからか。
「ティエン……タバコ臭い」
「我慢しろ」
天尊はハハッと笑った。小言が言えるならいくらか落ち着いたようだ。
それからしばらくして、天尊は白をヒョイッと肩の上に抱え上げた。
「ティエンッ?」
「アキラがそんなだとギンタが心配するぞ」
そう言われると白は即座に反駁できなかった。まだ少々思考が錯乱している所為か、いつものように言葉が出なかった。
天尊は白を担いで立ち上がって部屋へと向かった。
白の部屋のドアを開いてズカズカと室内へ入り、白をベッドの上にすとんと降ろした。床に片膝をついて目線の高さを白に合わせて顔色を覗きこんだ。
「風呂が沸いたら教える。ゆっくりと身体を温めて気分を落ち着かせろ。飯はテキトーにデリバリーでも頼んでおく。食ったら眠れ。今日はもう何も考えるな」
「え? あ。う、うん」
白は捲し立てられているように感じて途惑いながら頷いた。
手を煩わせて嫌な思いをさせてしまったのかもしれない。そう思い至り、申し訳なさそうな表情で俯いた。
「ティエン、機嫌悪い? 迷惑かけてゴメンね」
「悪くない。迷惑とは思っていない。心配はかけられているけどな。だから謝罪などするな」
天尊はややぶっきら棒に言ってスッと立ち上がった。
白の目には、天尊は鼻の頭にわずかに皺を寄せて充分に不機嫌そうに見えた。
「こんなときまで強がらなくていい。少しは俺を頼れ」
――あ。これは不機嫌なんじゃなくて、本当に心配するとそういう顔になっちゃうんだ。
白は天尊の顔を見上げてジッと見詰めた。
途惑いはあるが、胸が温かい。最も親しい存在である銀太以外から、肉親以外の赤の他人から、心配されて叱られたのは初めてだ。
天尊が「何だ」と眉を顰め、白はまたごめんと言いかけて躊躇し、口の形が空振りした。
何と言えばよいのだろうか。どのような言葉を使えばこの人を安心させられるのだろうか。心から案じてくれるこの人に報いる言葉を言ってあげたい。
「……ありがとう」
白は天尊の顔色を窺うように小さな声で言った。
天尊は一瞬意外そうな表情を見せ、その後すぐにクッと噴き出した。
「それでいい」
§ § § § §
白が走り去った後の事件現場。
白が目撃したそれは、手足の反射による痙攣もなくなり、正真正銘の肉の塊と化した。
冷え切って乾燥しはじめた頃、音も無く数匹の犬の姿を現した。日暮れ時の闇苅から溶け出るようにしてぬるりと現れた漆黒の犬たち。
彼らは猛烈な勢いで犬の死骸に食いついた。
バリバリッ! ボキッ!
漆黒の犬たちの強靱な顎と歯は、難なく骨を砕いた。骨の髄を啜り、肉を引き千切り、或いは内臓をクチャクチャと食んだ。
彼らは〝食べ残し〟を片付けにやって来た。食事の途中で不意な闖入者の気配を感じ取り、用心深く身を潜めて様子を窺っていた。闖入者はすぐに立ち去ったので、食事を再開したというわけだ。
漆黒の犬たちは食事が済むと、骨と血溜まりを中心に円を描いて向き合った。
「見たか、見たな」
一匹の犬が言葉を発した。
「見た」
「見たとも」「見たとも」「見たとも」
犬たちの声が木霊のように重なった。低い声の輪唱は、おどろおどろしく夜風に乗った。
「嗅いだな、あの匂い」
「嗅いだ」
「嗅いだとも」
「覚えたな、忘れぬな」
「覚えたとも」
「極上の肉の匂い、しかと覚えたとも」
「犬の肉も食い飽いた。どれもこれも同じ味、同じ臭いしかせぬ屑肉よ。畜生の肉などどれほど食っても食い足りん」
「もっと美味い物を、もっと極上の物を」
「あの肉ならば、極上のあの肉ならば」
「あれを食うぞ、しかと食うぞ」
白は学園から下校途中、一人で帰り道を歩いていた。
学園を出た直後は確かに夕焼けだったのだが、今では太陽は半分以上沈んでしまっていて辺りは薄暗くなり始めている。
クォーーーンッ。
犬の鳴き声が薄暗い道に響いた。
白はドキッとして辺りをキョロキョロと見回した。
周囲におかしなところは何も無かった。ただの犬の遠吠えだと分かってホッとした。自分で思っているよりも朝のニュースの話が記憶に残っているらしい。
(もう、銀太とティエンが朝から変な話するから。男の子ってあーゆーの気にしないんだなー。銀太もあんまり恐がりじゃないし、ティエンに至っては恐がるものがそもそも思いつかない)
ゾクゥッ。――突然、背中を悪寒のようなものが駆け抜けた。
白は嫌な予感がして、おそるおそるもう一度辺りを見回してみた。
やはり何もおかしなところは見当たらなかった。左右を高い塀が走り、アスファルトで舗装された、見慣れた通学路だ。
目に見える異変はないのに、心臓がバクバクと早鐘を打った。自分でも理由が分からないのに妙な緊張感が張り詰める。日が暮れてしまう前に家に帰り着きたいのに、このような場所からは一刻も早く立ち去りたいのに、足が動かなかった。
(何だろう、この感覚。気持ちが悪い……)
ウォウォォォオオッッ!
「ッ⁉」
暗く沈んでしまった道の先から音が地鳴りのようにやってきて白に直撃した。
おそらくは犬の鳴き声。いや、しかし、本当にそうだろうか。犬よりももっと大きな、トラやクマなど大型の獰猛な野獣が雄叫びを上げたかのようだった。
――――ォォオオン、オン、オン。
しばらくすると鳴き声は次第に遠離って小さくなっていった。周囲は静けさを取り戻し、いつもの通学路の様相に立ち戻った。
白の警戒も自然と解け、ほぅ、と一呼吸ついた。
「何だったんだろう……今の……」
鳴き声から想像すると恐ろしげな化け物の姿を思い浮かべてしまう。そのようなものが近くにいるなど考えたくはなかった。
白は脳内の想像図を掻き消して歩き出した。とにかくこの場から離れたかった。早く家に帰って自身を落ち着かせたい。
しかしながら、数メートル進んだ地点で足を停めることとなった。
白はそれを見つけた瞬間、ウッ、と怯んだ。
街灯が照らすギリギリの範囲内、歩道の隅に転がる赤とも黒ともつかない塊、何物かによって食い荒らされた犬の死体。血溜まりの上に横たわった死体は、白目を剥いて口から泡を吹いていた。食い千切られた腹部から肋骨が剥き出しになり、引き摺り出された腸が道路の上に長く拡がり、犬の手足はピクッピクッと痙攣している。
白は、今の今まで生きていた生々しい肉の塊から目を背けた。思いっ切り地面を蹴ってこの場から一目散に逃げ出した。
バタァンッ。
玄関のドアが乱暴に開け閉めされた。
リビングでテレビゲームをしていた天尊と銀太は、時刻的にも白が帰宅したのだろうと思ったが、このようにけたたましい音を立てるなど何事かと顔を見合わせた。
天尊は玄関まで様子を見にやって来た。「アキラ?」と声をかけても、白から返事はなかった。こちらを振り向かないまま、ドアノブを握り締めて肩で息をしていた。
様子がおかしい。天尊は上がり框から降りて白に近づいた。ふと白の手元を覗きこむと、ドアノブを握る白の両手は小刻みに震えていた。
只事ではない雰囲気を感じ取り、白の肩を捕まえてグイッと振り向かせた。細い肩がブルブルと震えていた。
「何があったアキラ」
白は震える唇をわずかに動かし始めた。
震えの所為で上手く言葉にならない。キュッと瞼を閉じて懸命に絞り出した。
「見たんだボク……」
「何を」
「い、犬……食い殺された……」
天尊の脳裏を、共食いをする獰猛な犬のニュースが過った。白の両肩を掴んで大きく揺さぶった。
「それでお前は⁉ お前は何ともないのかッ」
何ともない、大丈夫、と白は伝えたいのに、やはり上手く口が動かなかった。
リビングのほうからドタドタドタッと足音が近づいてきた。
天尊の大声にビックリした銀太が、駆け寄ってきた。靴も履かずに玄関に降りて白の腕に飛びついた。
「アキラどーかしたのかッ?」
白は銀太からギューッと抱き締められ、その高い体温が伝わってきて、ようやく気持ちが落ち着いてきた。幼い弟の前だと、無意識に自分をしっかりと保とうとするのかもしれない。
「大丈夫……何ともないよ」
大丈夫とは言っても白の顔面は蒼白だった。
それでも、天尊や銀太の顔を見て生きた心地がしたのも本当だった。犬の鳴き声を聞いてあの場から逃げ出し、我武者羅に腕を振って走っている間、生きた心地がしなかった。ようやく本当の意味で警戒心が解けた。
白は上がり框にストンと両膝を突いて座りこんだ。
「アキラふるえてる。ホントにだいじょぶなのか?」
「もう落ち着いたから大丈夫」
銀太は心配そうな表情でしきりに白の腕を引っ張った。
白は強張った顔面に筋肉を意識的に動かして銀太に微笑んで見せた。殊、このような情況でも自分よりも弟を安心させることを優先した。
――そういう女だ、アキラは。
天尊は嘆息を漏らして白の横に腰を下ろした。
「何が落ち着いているだ。真っ青な顔をして」
天尊は白の後頭部に手を回して自分のほうへ引き寄せた。白の顔を自分の胸板に押しつけた。
普段なら離れてよと恥ずかしがるところだが、白は黙って天尊の体温や、腕にしがみつく銀太のそれを受け容れた。
少しずつ鼓動が鎮まる感じがする。無理矢理に気丈を演じるではなく、平静を装うではなく、じわじわと自分本来の感覚を取り戻す。
「心配を、させるな」
天尊の声がいつもより響いて聞こえた。骨や肉体を伝わって直接響くからか。
「ティエン……タバコ臭い」
「我慢しろ」
天尊はハハッと笑った。小言が言えるならいくらか落ち着いたようだ。
それからしばらくして、天尊は白をヒョイッと肩の上に抱え上げた。
「ティエンッ?」
「アキラがそんなだとギンタが心配するぞ」
そう言われると白は即座に反駁できなかった。まだ少々思考が錯乱している所為か、いつものように言葉が出なかった。
天尊は白を担いで立ち上がって部屋へと向かった。
白の部屋のドアを開いてズカズカと室内へ入り、白をベッドの上にすとんと降ろした。床に片膝をついて目線の高さを白に合わせて顔色を覗きこんだ。
「風呂が沸いたら教える。ゆっくりと身体を温めて気分を落ち着かせろ。飯はテキトーにデリバリーでも頼んでおく。食ったら眠れ。今日はもう何も考えるな」
「え? あ。う、うん」
白は捲し立てられているように感じて途惑いながら頷いた。
手を煩わせて嫌な思いをさせてしまったのかもしれない。そう思い至り、申し訳なさそうな表情で俯いた。
「ティエン、機嫌悪い? 迷惑かけてゴメンね」
「悪くない。迷惑とは思っていない。心配はかけられているけどな。だから謝罪などするな」
天尊はややぶっきら棒に言ってスッと立ち上がった。
白の目には、天尊は鼻の頭にわずかに皺を寄せて充分に不機嫌そうに見えた。
「こんなときまで強がらなくていい。少しは俺を頼れ」
――あ。これは不機嫌なんじゃなくて、本当に心配するとそういう顔になっちゃうんだ。
白は天尊の顔を見上げてジッと見詰めた。
途惑いはあるが、胸が温かい。最も親しい存在である銀太以外から、肉親以外の赤の他人から、心配されて叱られたのは初めてだ。
天尊が「何だ」と眉を顰め、白はまたごめんと言いかけて躊躇し、口の形が空振りした。
何と言えばよいのだろうか。どのような言葉を使えばこの人を安心させられるのだろうか。心から案じてくれるこの人に報いる言葉を言ってあげたい。
「……ありがとう」
白は天尊の顔色を窺うように小さな声で言った。
天尊は一瞬意外そうな表情を見せ、その後すぐにクッと噴き出した。
「それでいい」
§ § § § §
白が走り去った後の事件現場。
白が目撃したそれは、手足の反射による痙攣もなくなり、正真正銘の肉の塊と化した。
冷え切って乾燥しはじめた頃、音も無く数匹の犬の姿を現した。日暮れ時の闇苅から溶け出るようにしてぬるりと現れた漆黒の犬たち。
彼らは猛烈な勢いで犬の死骸に食いついた。
バリバリッ! ボキッ!
漆黒の犬たちの強靱な顎と歯は、難なく骨を砕いた。骨の髄を啜り、肉を引き千切り、或いは内臓をクチャクチャと食んだ。
彼らは〝食べ残し〟を片付けにやって来た。食事の途中で不意な闖入者の気配を感じ取り、用心深く身を潜めて様子を窺っていた。闖入者はすぐに立ち去ったので、食事を再開したというわけだ。
漆黒の犬たちは食事が済むと、骨と血溜まりを中心に円を描いて向き合った。
「見たか、見たな」
一匹の犬が言葉を発した。
「見た」
「見たとも」「見たとも」「見たとも」
犬たちの声が木霊のように重なった。低い声の輪唱は、おどろおどろしく夜風に乗った。
「嗅いだな、あの匂い」
「嗅いだ」
「嗅いだとも」
「覚えたな、忘れぬな」
「覚えたとも」
「極上の肉の匂い、しかと覚えたとも」
「犬の肉も食い飽いた。どれもこれも同じ味、同じ臭いしかせぬ屑肉よ。畜生の肉などどれほど食っても食い足りん」
「もっと美味い物を、もっと極上の物を」
「あの肉ならば、極上のあの肉ならば」
「あれを食うぞ、しかと食うぞ」
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