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第九章 トゥカラーク大陸

第192話 ダゴン教会の最後

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「なんだあの建物は!?」とインカムに向って、私は叫んだ。

「艦長! オコゼの頭です!」と桜井船務長。
「オコゼハウス?」と境大尉。
 
 白狼兵の二人は頭にクエスチョンマークを浮かべている。

 それはオコゼの頭……を模した建物だった。

 その入り口には、大きなアーチ形の看板が掛けられている。

「ダゴン教会って書いてるよー!」
「オコゼ……ですかね」とシンイチ。
「「オコゼ?」」とライラとトルネラ。
「オコゼだよねー」とフワーデ。

 オコゼの頭の建物のオコゼの口からは、今も続々と魚面が現れてきている。

 その魚面の多くは、アジやサバやイワシといった青魚の正面顔といった感じなのだが、ところどころ、オコゼ頭の魚面が混ざっている。

 わらわらと詰め寄ってくる魚面の群れは、VRフワーデゴーグル越しに、現場を見ている私でさえ、ちょっとちびりそうな状況だ。

「やはりオコゼ頭の方が、ステータスが高かったりするのでしょうか」

 桜井船務長が、オコゼ頭の一体にヘッドショットを決めながら、そんな呑気なことを言っていた。

「ちょ! 桜井、お前この状況でよくそんなこと言ってられるな」

 焦りで声が裏返った私の声を聞いて、桜井船務長が苦笑いを浮かべるのが見えた。

 桜井達がいくら機銃を撃とうと、ドローン・イタカが銃撃しようと、オコゼ頭の教会から次々と魚面が湧いて出てくる。

 桜井たちはとうとう背後を海にして、船着き場に追い詰められた。

 このままでは小型艇は間に合わない。

 インカムを通して、桜井の声が聞こえてきた。

「うちにはエースがいますから。それがなきゃ、俺だって腰抜かす場面だとは思いますがね」

「まぁ、そうだったな……」
 
 今や魚面たちは桜井たちから数メートルまで包囲を縮めていた。

 桜井の怒号が響く!

「シンイチィィ!」

 魚面たちに最も近い場所にいた桜井が、さっと後ろに退き、代わりにシンイチが前に出てきた。

 腕を十字に組み合わせたシンイチが叫ぶ。

「【幼女化ビィィィィィィム!】(継続時間1秒)」

 シンイチの腕から、強力な光線が放たれた。

 光線は目の前の魚面たちを貫いて、数十メートル先まで伸びていく。

 ビィィィィィィ!

 シンイチは光線を出したまま身体を左右に動かして、その場にいる全員に幼女化ビームを浴びせていく。

 ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! 
 
 そこらかしこで白い煙が立ち昇り、魚面たちが幼女に変わっていく。

 ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! 

 1秒後には幼女は元の魚面の姿へと戻って行くが、その時は、全員がほぼ虫の息となっていた。

 シンイチの幼女化は、あまりにも早く解除してしまうと身体に相当の負担が掛かる。身体に負担を掛けないようにするには、最低でも10分は時間が必要だ。

 もしそれが1秒で解除となると、大型の妖異でさえ瀕死状態となってしまうのだ。

 魚面たちは止めを刺すのを待たずして、全てその息を止めた。

 桜井船務長がシンイチに声を掛ける。

「シンイチ、教会の中と地下にも頼む! もしかすると監禁されている人がいるかもしれない!」

「わかりました! じゃあ意識は保持したままで、6時間幼女化します!」

 再び腕を十字に組み合わせたシンイチが叫ぶ。
 
「【幼女化ビィィィィィィム!】(意識継続。継続6時間)」

 ビィィィィィィィ!

 シンイチが教会の建物全体と地下に向けて、丁寧に光線を浴びせていく。

 数分後。
 
 シンイチが手を降ろしたときには、辺り一面、魚面の遺体に覆われていた。

 かなりの地獄絵図である。

「「「ギョ、ギョギョ!? いったい何があったギョ!?」」」

「「「!?」」」
 
 全員の視線が教会側に向いていたので、突然、背後から聞こえて来た魚弁に、桜井たち全員が慌てて振り向いた。

 船着き場側に、三体の魚面が立っていた。

「「「ギョギョォォ! こ、殺さないでギョ!」」」

 桜井たちの殺気を受けた魚面たちは、全員がその場に膝まづいて命乞いを始めた。

「そう言って助けを求めた旅行者を、お前たちは殺さなかったのか?」

 桜井船務長が恐ろしく低い声で魚面たちに問いかける。

「ギョギョ! 俺たちは殺してない! 旅行者を攫ってもいないギョ!」
「お、俺たちはダゴン教団とは関係ないギョ!」
「ほ、本当だギョ! 信じて欲しいギョ!」

 どういういことだ?

 私はインカムを通して、桜井に彼らの話を聞くように伝えた。

 桜井は銃口を魚面に向けたままで、

「よし。話を聞こう。だが妙な動きをしたら……わかっているな」

 コクコクと頷く魚面たち。

 そこへ境大尉の声が上がった。

「船務長! ボートが到着しました!」

 船着き場を見ると、小型艇が着岸していた。

 待っていたぞとばかりに、桜井や境大尉、そして白狼兵たちが懐中電灯の光をボートに向ける。

 向けようとして、何度か暗くなった海面を照らした。

 その直後――

「「「「うわぁぁぁぁぁぁ!」」」」

 桜井たちの絶叫が響く。

「ど、どうした桜井!」

「「「「あわわわわわ」」」」

 私の問いかけに、桜井たちが応答できずにいる。

「艦長! 見てください!」
  
 シンイチがフワーデ・ボディの前に立って、海面を指差した。

 暗い海。

 波が揺れる度、街の明かりが海面に反射して、海面が光る。

 光は2つずつ均等に並んでいる。

 2つずつ?

 それも沢山。

 沢山?

「艦長、あれ見えてますか?」
 
 シンイチが懐中電灯の灯りを、円を描くように海面に当てていた。

 そこに注目しろということなのだろう。

「んっ? あれ? あれって、一体何が見え……」

 その瞬間、脳内が見えているものを正確に解釈した。

「ぎょえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 それを理解した瞬間、私は絶叫を上げていた。

 海面に、

 それはもう沢山の魚面がプカプカと浮いて、こちらを見ていたのであった。

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