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第九章 トゥカラーク大陸

第186話 上陸部隊

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 河野機関長の熱いロボ推しのせいで、あの銀の巨人はもうロボットにしか見えなくなってしまった。桜井や田中に意見を求めると、もう河野の言う通りでいいんじゃないですかと、二人ともうんざりとした表情で答えた。

 現時点で他に情報が得られるということもないし、とりあえずは銀の巨人はロボットということで、とりあえずその話は落ち着いた。

「それで、これからどうするかだが」

 私が首を捻っているとステファンが、

「タカツ艦長、巨人の後を追って海岸沿いを北上するのはどうでしょうか。もしかするとあの巨人が暮らす里や街を発見することができるかもしれません」

「確かにむやみに動くより、巨人に付いて行った方が、大陸の人との接触が早そうだ。それにあの巨人なら、私たちに気付いたとしても、直ぐに攻撃してくるということもないだろう」

 そう言って私が艦橋内にいる者たちに目を向ける。全員、特に異論はないようだった。

「よし、巨人を追って北上する!」

 こうして護衛艦フワデラは進路を北に向け、大陸の海岸沿いを進んで行った。



~ 寂れた町 ~

 最初、海岸沿いにある港町を発見したのは、ずっと双眼鏡を覗いていたステファンだった。

「タカツ艦長! ここから北東方向に町が見えます! 港……港があるようです」

「よし船を止めよう」

「機関停止! 操舵やめ!」
「機関停止! 操舵やめぇ!」

 私の命令を受けてステファンが、船を停止させる。

 その直後、ステファンの視線が桜井船務長に向くと、桜井が軽く口元に笑みを浮かべ頷いていた。

 ステファンの顔が、兄に認められて喜ぶ弟のような表情を浮かべる。

 私に対するときのステファンは、何でもこなせる有能な貴族、落ち着きがあって頼りがいのあるイケメンという感じなのだが、桜井に対するときには少年のような表情を見せる。

 ステファンに頼られる桜井兄貴がちょっと羨ましい。

 いかん。

 人を羨ましいとか思う暇があったら、もっと自分自身を磨かねば。
 
 私も桜井のように誰からも兄貴と呼ばれて親しまれる、兄貴な幼女を目指そう。

 うん。そうしよう。艦長頑張る!

「タカツ……タカツ……」

 先ほどから身体が妙に上限に揺れるなと思ったら、私を抱っこしているヴィルミカーラが、軽く腕をトントンと上下させて、私を呼んでいた。

「んっ! どうしたヴィルミカーラ」

「は、発見した町に、じょ、上陸す、するの?」

「あっ、そうだったな! と、ステファン、先にこの辺りで船を隠せる場所がないか探してくれ。完全に人目につかない場所が理想だが、町から見えなければそれでも構わない」
「了!」 

 次ぎに私は桜井船務長に声をかけた。

「桜井、すまないが上陸はお前に任せる。まずは現地の様子を探った後、危険がないことが確認できれば住民との接触も試みて欲しい」
「了!」

 もし艦の指揮を任せられる平野がいれば、直接、私が水陸機動隊を率いて上陸したいところだ。だが、平野がいない今、私がおいそれと艦を離れることはできない。

 もしリーコス村のときのように、ヴィルミカーラさんのような美人が待っているのだとしたら、何としても私が上陸したいところだが、無念である。

 私の表情を見た桜井がビシッと敬礼し、

「美人の町長さんと最初に出会いを果たす役得、今回は自分が与らせていただきます」

 そう言ってニヤリと笑みを浮かべた。

「まぁ、今回は譲るとしよう」

 その場ですぐに上陸部隊の編成が決定された。

 隊長:桜井船務長
 随行:シンイチ、ライラ、トルネラ、フワーデ
 護衛:境 友李菜 機動隊士長(中尉)
    ヴィルフォドット 機動隊員(二等兵)
    ヴィルミサーヤ 機動隊員(二等兵)
 随行ドローン:イタカ 8機(内6機は後方待機) 
 
 白狼族の兵とトルネアを加えたのは、この大陸の人々が亜人や魔族を見た時にどういう反応を示すのかを確認するためである。

 というのは後付けの理由で、実際はライラが上陸することを知ったトルネアが、どうしてもついて行くと言って聞かなかったからだ。白狼賊の兵、略して白狼兵二名が参加するのは、実戦経験を積ませたいという境中尉の意向によるものだ。

「って言うか、フワーデ! どうして勝手にリストに入ってるんだ? お前も行きたいの?」

 モニタに表示された上陸部隊の名簿に、いつの間にかフワーデの名前が入れられていた。

「あったりまえジャン! ワタシがいかなきゃ、誰が現地の人と話するの?」

「あっ、そうだった。なんだ今回も乗組員たちの言語スキル習得に遅延が生じているのか?」

「うん! 今の段階で、トゥカラーク大陸の言葉を話すことができるのは、私だけだよ!」

「またお前からか! そういうのは私を優先してくれ! そしたら私が上陸する言い訳ができたのに!」

 思わず本音が漏れてしまい、私は慌てて両手で口を塞ぐ。

「タカツ、上陸したかったの!?」

「したかったよ!」

「どうしても? 上陸したい?」

「当たり前だろ! 未知の大陸で出会う、未知の人々! 男のロマンがこれほど詰まったイベントなんてそうそうないんだからな!」

「男のロマンって言うけど、タカツは幼女だよ!」

「幼女な男のロマンが詰まってるんだよ!」

「んーっ、それほど行きたいっていうなら、力を貸してあげてもいいけど……」

 ホログラム・フワーデが私の顔の前に漂って来て、ニンマリと笑った。

「いや、有難いけど、今の私は軽々に艦を離れるわけにはいかんのだ。それこそ私しか現地語を話せないといったような理由でもない限りな」

 その言葉を聞いた桜井船務長が、首を横に振った。

「いえ、その場合でも、通信機を使えば会話が可能なので、艦長には残って頂きます」

「……そ、そうだな」

 何も反論できない。

「フフン! そんなタカツにワタシからのプレゼントがありまーす!」

 ニヤニヤ顔のフワーデが、鼻が付くほど私の顔に近づいてきた。

「な、なんだ、私が泣かないように、何かくれるのか?」

 下手な慰めはいらないのだが、貰えるものは貰っておこう。

「そうだよ! とっても良い物をあげちゃうから! 河野さん、持って来て!」

 河野が艦橋に入ってきた。河野の手にあるものが私に差し出された直後、

「ジャジャーン! VRフワーデゴーグルぅぅぅ」

 フワーデが超得意気な顔を私に向けて来た。

 銀髪を漂わせ、腰に手を当てて、ふんぞり返る美少女の絵面は、とても神秘的で美しいものだった。

 だが、なんだろう? あのドヤ顔を見て沸き起こるこの気持ち。

 なんだろう?

 先ほどからビンビンと反応している私の危機感知センサー。

 なにをやらかしたんだ? フワーデ?

 などと、客観的に見ればプレゼントをくれるという相手に対して、私は相当失礼なことを考えていた。
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