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第九章 トゥカラーク大陸

第185話 黒い石碑

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 一方、銀色の巨人は、黒い石碑に両腕を回して抱き付いていた。

「銀の巨人は何をしようとしているのでしょうか?」

 桜井の疑問に、私も首を傾げることしかできなかった。

「もしかして、あれですかね? 木にしがみついて、樹液の流れる音を聞いて癒されるってやつ?」

 モニタの映像を見た田中航海長が、妙なことを言い出したので、笑ってやろうと思ったが、ここが異世界であることを思い出した私は口チャックした。

「艦長!」

 ステファンの叫ぶ声に、私は意識をモニタに戻す。

 ビシッ!

 黒の石碑の表面にヒビが走り、そこから強い光が漏れ始める

 パアァァァァ!

 ヒビが広がるに従って光も強くなり、ついには銀の巨人を光が覆い尽くす。

 ズガガガガガガガ……

 その後、光は消えてしまったが、同時に黒の碑も崩れ落ちてしまった。

 後には、銀色の巨人だけが立ち尽くしてた。



~ 岩礁の上 ~

 黒の石碑から輝きが放たれる状況を、私たちは艦橋のモニタ映像で見ていた。

「石碑から強い光が放たれ始めました!」

 双眼鏡で見ているステファンが叫んだ。

「モニタで見てる。なんだかヤバイ感じがするな」

 ヴィルミカーラの腕に抱かれている私は、彼女の首元にギュッとしがみ付いた。

「はうん❤」

 とヴィルミカーラが色っぽい声を上げる。

「だ、大丈夫! か、艦長のことはわ、私がま、守るもの」

 そんなヴィルミカーラの言葉をスルーして桜井船務長が、私の目を見て言った。

「まさか巨大爆発なんてことはないですよね」

 恐ろしいことを言い始めた桜井に、田中が乗っかって来る。

「巨人があの石碑に振れると世界が崩壊してしまうから、あの妖異たちは必死に止めようとしていたとかですかね! 敵だと思ってた者たちが、実は地球を守ろうとしてたとか、マンガとか映画でありそうじゃないですか!」

 田中、お前どっちの味方なんだよぉ!

 とツッコミを入れそうになったが、その時、私の頭をこの異世界に来て最初の出来事が頭をよぎる。

 それは、シンイチの放った凄まじい【幼女化】のマップ攻撃。

 黒の石碑から放たれているものは【幼女化】ビームではないだろうが、だがもし光を帯びた者に対して何か影響を与えるものだとしたら……。

「退避だ!」

 突然、必死の形相で叫んだ私の声に、副長を務めるステファンが、一瞬、戸惑った。

 それを見た桜井船務長がすぐさま反応する。

「最大船速! 全力で離脱だっ!」

「わかったー!」

 ヴイィィィィィン!

 護衛艦フワデラのエンジンが高速で回転を始める。

 ステファンが私と船務長に向って頭を下げた。

「艦長、対処に遅れてしまい、大変申し訳ありませんでした。それと、兄ちゃ……船務長、ありがとう! 助かったよ!」

 私たちと長く生活を共にしてきたこともあって、ステファンの謝罪のお辞儀は、完全に帝国人のものだった。

 船務長がステファンに歩み寄り、その肩をポンッと叩く。

「気にするな。お前はちゃんと艦長の言葉を聞いて反応していた。だが言葉に詰まってしまったんだろ」

「そ、その通りです!!」

 ステファンの目が大きく開かれる。自分を理解してくれた桜井に感動しているようだった。

 上官をお前呼ばわりしても違和感なく受け入れられ、それどころか頼もしさまで感じさせてしまう桜井船務長に、艦長、また嫉妬心がメラメラと沸き起こってきた。
 
「ステファン、緊急時には言葉遣いなど気にするな。自分の言葉で構わん」

「わかりました、艦長。ありがとうございます」

 私のフォローにステファンが笑顔で答えてくれた。だがその言葉には、先程、桜井に向けられたような熱い何かが、ちょっと少なかったように思える。

 なんだかお礼の言葉にビックリマークが付いてなかったような、そんな感じがして、ちょっとだけ艦長、切なかった。

 ヴィルミカーラの腕に抱かれている私が、そんなことをウジウジ考えいていると、モニタを見ていた田中が声を上げた。

「あっ!? 光が消えちゃいました!」

「えっ!?」

 全員の視線がモニタに集まる。

 確かに光が消えている。黒の碑があった場所には、銀の巨人だけがポツンと立っていた。

 どうやら急速離脱の必要はなくなったようだ。

 進路西に、既に旋回を始めていた護衛艦フワデラを停止させて、巨人の動向を観察することにした。

 双眼鏡に戻って巨人の様子を見ていたステファンが声を上げた。

「艦長! 巨人が何かを始めました!」

 モニタを見ると、そこには巨人が腰を屈めている様子が映し出されている。

「何か……地面に何かしているようですね」

 モニタの映像を見ていた桜井船務長が、巨人の動きを見て何かに気付いたようだ。

「恐らくですが、壊れてしまった石碑の破片を集めているのではないでしょうか」

 言われてみると、確かに、巨人は地面にしゃがみこんで何かを集めているように見える。

 少しすると、桜井の推測が正しかったことが明らかとなった。

 黒の石碑の破片が、巨人の手によってかき集められ、ちょっとした小山が形勢され始めたからだ。

「あれは一体、どういうつもりなのでしょうか?」

 桜井の発した疑問に答えたのはフワーデだった。

「あれは全部、魔鉱石だよ!」

「魔鉱石だと! 本当なのかフワーデ!」

「うん! ここからでも、ものすっごく濃度が高いのがわかる! あれ欲しいかも!」

「艦長! 見てください! 巨人が! 巨人が!」

「どうした田中!」

 田中の鋭い声を聞き、私はモニタへ目を向けた。

「巨人がこっちに手を振っています!」

 田中のいう通り、モニタの向こうでは確かに巨人が護衛艦フワデラに向って手を大きく振る様子が映し出されていた。
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