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第九章 トゥカラーク大陸

第184話 ピンチの巨人と緑の血

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 護衛艦フワデラが、CIWSファランクスの射程範囲に妖異を捉えた頃には、巨人はオコゼ顔の巨大な妖異ダゴリーヌに伸し掛かれて、完全にその動きを封じられていた。

 見た目がほぼ同じダゴンは、岩礁の上に身を乗り上げ、巨大な上半身を持ち上げて、巨大な腕で何度も巨人の頭を攻撃している。

 鋭い爪で攻撃を受けているにも関わらず、巨人の身体には傷一つついていないように見える。かなり頑丈な素材でできているようだ。
 
 だが身動き一つとれない状態では、いずれは妖異に倒されてしまうかもしれない。

「待ってて銀ちゃん! もうすぐ助けるから!」

 ホログラム・フワーデが、空中でじたばたと手足を動かして走っていた。

 護衛艦フワデラは、岬に向って全速力で進み続ける。

「石井! 射程内に入ったぞ!」

「レーダーで2体とも捕捉! いつでも撃てます!」
 
 ぐったりとして動かなくなった巨人から、ダゴンが急に興味を失ったように背を向けた。

 ダゴンが振り返った先には、黒く巨大な石碑が立っている。

 その石碑をダゴンはしばらくジッと見つめた後、急にスピードを上げて、石碑に向って突進していった。

 ドゴーンッ!

 勢いを付けたダゴンの頭が石碑に激突する。

 石碑は倒れこそしなかったものの、アレを何度も繰り返されたら、そのうち破壊されてしまうだろう。

 ダゴンの行動に気が付いた巨人が動こうとするが、相変わらずダゴリーヌに伸し掛かれたまま身動きが取れないようだった。

 だが――

 ダゴンが巨人から離れた!

「ダゴンを撃て!」
「目標ダゴン! ってぇぇぇ!」
「了!」

 桜井船務長の号令に、石井砲雷長が返事をする。艦橋にいる私からは見えないが、CICにいる石井の口元は今ニヤリと笑っているはずだ。から揚げ定食を賭けてもいい。

 ウィィィィン!

 護衛艦フワデラの艦橋下にある白い円筒が音を立てて、その照準をダゴンに合わせた。

 ブッー-----!

 次の瞬間、唸るような音がして、高性能20mm機関砲ファランクスが火を噴いた。

 火線が一直線にダゴンに向って伸びていき、ダゴンの身体を貫いた。

「ぐおぉぉぉおおぉおおん!」

 ダゴンが巨大な身体をのけぞらせる。

 ダメージは大きいように見えるが、まだ致命傷には到っていないようで、ダゴンは海の中に逃れようとして、石碑から離れた。

 ブッー-----!

 ブッー-----!

 ブッー-----!

 だがダゴンがどこに移動しようとも、CIWSは正確にその動きに追随し、毎分1500発の発射速度で弾丸を叩き込んで行く。

「ぐおぉぉぉおおぉおおん!」
 
 ブッー-----!

 ブッー-----!

 ブッー-----!

 ダゴンの前腕が吹き飛んだとき、ダゴリーヌがようやく事態の深刻さに気が付いたらしく、ダゴンに向って咆哮を上げた。

 だが、巨人が拘束を逃れようと動きを再開したため、ダゴリーヌの注意は巨人に向う。

 ブッー-----!

 ブッー-----!

 ブッー-----!

 ダゴンの身体が徐々に削れ始める。

 そして、そこに――

「フワーデ! ってぇぇぇえぇ!」

 私の声に、フワーデが満面の笑みで応える。

「わかったー! 銀ちゃん! お待たせ! フワーデちゃん、行きまーす!」

 十二機の飛行型戦闘ドローン・イタカが、ダゴリーヌの背後に迫っていた。

 ヴゥゥゥゥゥゥン! ヴゥゥゥゥゥゥン!  ヴゥゥゥゥゥゥン!
 ヴゥゥゥゥゥゥン! ヴゥゥゥゥゥゥン!  ヴゥゥゥゥゥゥン!
 ヴゥゥゥゥゥゥン! ヴゥゥゥゥゥゥン!  ヴゥゥゥゥゥゥン!
 ヴゥゥゥゥゥゥン! ヴゥゥゥゥゥゥン!  ヴゥゥゥゥゥゥン!

 ドローン・イタカが、射線に巨人が入らないようにダゴリーヌの側面に回り込む。

 そして、ドローンに搭載されている機銃が一斉に火を噴いた。

 ババババババババ! ババババババババ! ババババババババ!
 ババババババババ! ババババババババ! ババババババババ!
 ババババババババ! ババババババババ! ババババババババ!
 ババババババババ! ババババババババ! ババババババババ!

 巨大なオコゼの顔を歪め、ダゴリーヌは身体を巨人から放して岩礁の上に転がった。

 ババババババババ! ババババババババ! ババババババババ!

 露わになったダゴリーヌの白い腹部に、イタカの機銃が弾丸を叩き込んでいく。

  一方で、CIWSも未だ大量の弾丸をダゴンに叩き込み続けている。

 ブッー-----!

 ブッー-----!

 ブッー-----!

 巨人に目を移すと、ダゴリーヌの巨体からようやく解放されて、立ち上がろうとしていた。

「巨人に当たってはまずい。CIWSを止めろ」
「射撃止めぇぇ!」
「了!」

 ヴイイィィン……。

 CIWSが停止すると、全身各所と頭の半分が消し飛んだダゴンは、そのまま岩礁の上に倒れて、そのまま動かなくなった。

 緑色の血が海に流れ出ている。

 立ち上がった巨人が、ダゴンに向って走り出した。

 それに気が付いたダゴリーヌが、巨人に向って咆哮を上げる。

 だがイタカの激しい掃射を受け続けているため、ダゴリーヌは巨人を追うことができなかった。

 巨人がダゴンの遺骸に近づき、そして、通り過ぎた。

 どうやら巨人の目的は、ダゴンではなく黒い石碑だったようだ。

 何をするつもりなのかは分からないだが、ダゴリーヌからは百メートル以上の距離が開いた。

「巨人がダゴリーヌから離れた! 主砲で止めを」
「目標ダゴリーヌ! 主砲ってぇぇえ!」
「了!」
 
 ドォン!

 護衛艦フワデラの前方にある主砲から、重い響きと共に砲弾が発射された。

 ゴロン!

 巨大な薬莢が甲板の上に落ちる。

 ドォン!

 ドォン!

 ドォン!

 主砲が立て続けに火を吹く。

 その度に、目標位置に巨大な水柱が上がった。

 ドォン!

 ドォン!

 ドォン!

 水柱が落ちる前に、すぐに次の着弾が続き、また新しい水柱が上がる。

「ターゲットキル! 目標、完全に破壊しました」

 砲撃が終わったときには、ダゴリーヌの姿は見えず――

 海面には、肉片らしきものと緑色の血が広がっていた。

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