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第九章 トゥカラーク大陸

第181話 イケテル棒プレーン味

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 護衛艦ヴィルミアーシェが出航してから三日後、護衛艦フワデラも後を追うようにリーコス村から出立。

 最初の目的地は北方にある港湾都市ローエン。

 古大陸に向かう船は、この都市にある港で大船団を編成して海を渡る。 

 以前、我々が古大陸に向ったときには、この大船団が使用する航路を使っている。今回も護衛艦ヴィルミアーシェが同じ航路を使うため、このローエンを経由しているはずだ。

 もし古大陸に渡る前に何かトラブルが発生した場合、ここで我々と合流することになっていた。

 だが我々がローエンに到着したときには、護衛艦ヴィルミアーシェの姿はなかったので、とりあえずは問題は起こってなかったのだろう。

 無事が確認できたので、私たちはローエンに寄港することなく先に進むことにした。この都市の東に伸びる半島を迂回してから、一路北東にあるトゥカラーク大陸を目指す。

 この都市の北東には我々と魔鉱石の取引をしているイザラス村がある。

 そこには護衛艦フワデラの乗組員が何人か常駐しているので、彼らの様子を見に行くことも検討していたのだが、今回は通信による連絡だけにしておいた。

 何故なら――

「わーっ! タカツ見てみて! 凄いよ! あんなに沢山の人が港に押し寄せてる!」

 ホログラム・フワーデがふわふわ浮かびながら、興奮して叫んでいる。

 私もヴィルミアーシェに抱っこされながら、双眼鏡で港の様子を眺めていた。

「タカツ! あの人たちって、わたしたちに手を振ってるんだよね! 凄くない!?」

 ローエンの港には、遠目からでも護衛艦フワデラの雄姿を見ようと、大勢の人が押し寄せていた。

 一応、アシハブア王国や人類軍との取り決めで、我々の存在は機密扱いになっていたのだが、「悪魔勇者を倒すために神が遣わした軍艦フワデラ」という噂は、この都市にまで広まっていた。

「自分は秘密厳守しましたからね!」

 モニターの向こうでは、イザラス村に常駐している乗組員が顔を左右に振りながら、自分たちの潔白を主張していた。

 彼の報告によると、どこかの誰から漏れたのか、「護衛艦フワデラがローエンに立ち寄るかもしれない」という話を聞いた人々が続々と都市に集まり、この数か月の間、ずっと沖合を監視しし続けていたようだ。

「ローエン市長が何度も、艦長との面会を求めてイザラス村にいらっしゃいましたが、指示されていた通り、厳に断っております」

 報告する乗組員の生真面目な応対を見て、私は理解した。きっと市長は会話の中で、彼の表情の変化を読み取って、色々と察したというところだろう。

 まぁ仕方がない。うちの乗組員に腹芸で政治家と戦えというのも無茶な話だ。

「ご苦労。このまま我々はトゥカラーク大陸に向かう。しばらく離れることになるが、留守の間は頼んだぞ」
「了!」

 こうして通信を終えた護衛艦フワデラは、トゥカラーク大陸へと向った。



~ 神業務ネットスーパー ~

 港湾都市ローエンを出立してから二日後。

 補給科に出向いた私は、黒淵補給長が眼鏡をクィックィッと上げながらする報告に、耳を傾けていた。

「艦長、ヴィルミアーシェですがイケテル棒プレーン味100本の発注となっていました」

「そうか。とりあえず無事みたいだな」

「このままずっとプレーン味100本が続くといいですね」

「そうだな。激辛ペッパーZ味が注文されることがないように祈ろう」

「激辛ペッパーZ味はヤバイですからね」

 これは護衛艦隊内で取り決めた、神ネット業務スーパーの発注を使った暗号である。

 護衛艦ヴィルミアーシェには魔力転換炉があり、また神ネット業務スーパーによる発注が可能となっている。だがそれは護衛艦フワデラのそれとは違い、ただのユーザーインターフェースにすぎない。

 例えば魔力転換炉の場合、護衛艦ヴィルミアーシェで転換されたEONポイントは護衛艦フワデラへ送られてくる。神ネット業務スーパーでの注文も、護衛艦フワデラのアカウントと使って行われている。

 実際のところ、燃料やその他の物資は「神業務ネットスーパーの置き配サービス」を使って、護衛艦ヴィルミアーシェに配送されているだけなのだ。

 この置き配サービスは、護衛艦ヴィルミアーシェの建造が決まった時に、私が天上界にゴネてゴネてゴネまくった結果、獲得したサービスである。

 悪魔勇者を討伐した時点で、既に私は2つの置き配サービスを確認していた。なので、交渉次第でなんとかなると私は確信してゴネまくったのだ。

 既にある2つの置き配サービス。

 ひとつは、水陸機動隊の葛西少尉の固有スキル【宅配受け取りステーション】だ。彼を護衛艦ヴィルミアーシェに乗せれば、それで補給問題は解決するのだが、さすがに大陸中を飛び回っている葛西を引き抜くわけにはいかい。
 
 もうひとつは、シンイチが使える拠点サービスによる置き配だ。ただ拠点の位置は決まっており、そのうえ固定されている。また拠点サービスはラーナリア大陸内でしか使えないという制限がある。

 だがこうしたサービスがあることを盾にして、私とフワーデは天上界に激しいBot攻撃……げふんげふん……天上界と論戦を繰り広げた。

 その結果、たった100億EONポイントの出費で、護衛艦ヴィルミアーシェに置き配拠点の設置に成功したのである。

 ……って、100億!? 高けぇよ! 

 とクレームを入れたが、大陸間のローミングサービス開通に費用が掛かるのでこればかりは仕方ないという天上界の返答だった。

 まぁ、それだけ払ってでも導入する価値はある。

 神ネット業務スーパーについては、護衛艦フワデラと同一のアカウントを使っている。注文する時間については、護衛艦フワデラは偶数時から2時間、護衛艦ヴィルミアーシェが奇数時から2時間という具合に取り決めている。
 
 この神ネット業務スーパーの発注が,、2つの護衛艦を結ぶ現在唯一の通信手段なのだ。

 通信は、イケテル棒各味の本数と暗号表を組み合わせて行なわれている。プレーン味100本は「特に問題なし」で、激辛ペッパーZ味は「妖異と遭遇」。本数はそのまま妖異の数だ。

「それにしても艦長……」

 黒淵補給長がイケテル棒プレーン味を開封しながらつぶやく。

「問題なしの場合は、プレーン味1本にした方がよかったですね」

「そうだな……」

 私もイケテル棒プレーン味を開封しながら、黒淵補給長に答えた。

 黒淵補給長の後ろでは、

 イケテル棒プレーン味パックが山積みされていた。
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