上 下
179 / 195
第八章 護衛艦ヴィルミアーシェ

第177話 リーコス村沖演習

しおりを挟む
 リーコス村司令部(兼村長宅)の海側の庭園からは、東側に広がる海を見下ろすことができる。現在、そこに設置された台場より、各国使節代表者が海上の模擬演習を視察していた。

「続いて、両護衛艦による並走ドラフト航行に入ります」

 スピーカーからアナウンスが流れると、沖から並走してきた護衛艦フワデラと護衛艦ヴィルミアーシェが、海岸に向けて見事にドラフトを決める。白波が海岸に向けて広がっていく。

「なんという速度と起動性……」
「魔法を使っているわけではないのだよな」
「うちの船なら風魔法を使ったところでマストが折れてしまう」

 使節団から感嘆の声が上がる。続いてアナウンスが流れる。

「そのまま主砲による目標破壊に移ります。沖に設置された目標をご覧ください」

 海岸から10キロの沖合に浮かんでいる帆船に、使節代表たちの注目が集まる。この帆船は、護衛艦ヴィルミアーシェが近海航海演習中に拿捕した海賊の船である。海賊船団を拿捕した報酬として、アシハブア王国から譲渡されたものだ。

「両艦共に移動しつつ精密な砲撃を行なう様子をご覧ください」

 護衛艦フワデラが前に出て護衛艦ヴィルミアーシェが追走、単横陣に移行したところで、両艦の主砲が一斉に発射された。

 ドンッ……ドドーン!
 ドンッ……ドドーン!

 ドンッ……ドドーン!
 ドンッ……ドドーン!

 ドンッ……ドドーン!
 ドンッ……ドドーン!

  全ての砲撃が命中し、一瞬にして帆船は海の藻屑へと消えて行った。

「「「!?」」」

「両艦の主砲Mk45 5インチ砲は、アメリカ海軍の艦砲システムをベースに、帝国の技術を加えて開発されたものです。射程距離は……」

 アナウンスは帝国の公開演習で使われる原稿をそのまま読み上げて行くが、使節にはあまり意味が伝わっていないようだった。だが、本日の演習のために追加された原稿を読み上げると、一気に使節団の注目が集まった。

「悪魔勇者討伐においては、岩トロルで編成された妖異軍の殲滅でこの主砲が活躍しました」

 岩トロルの名前が出た途端、具体的なイメージが湧き出るようになったのだろう、使節団がざわめき始める。

「岩トロルを殲滅だと……」
「あの砲の威力なら十分可能ではあるな」
「いや、それより距離だろう! いったいどこまで射程があるんだ?」

 そんな使節団の反応を無視して、アナウンスが続く。

「……またザルトス将軍率いる妖異軍の船団も本主砲によって壊滅しています。この対ザルトス戦の様子は、本日ヒトナナマルマル、リーコス村中央広場の野外シアターにて公開されます。皆様ぜひご鑑賞くださいませ」
 
 使節たちが一斉に白狼族スタッフに詰め寄って「野外シアターとは何か? どうやったら見れるのか?」と質問を始める。

 一方、護衛艦フワデラの艦橋で『演習成功』の報告を受け私は、マイクを取って艦内放送にて乗組員クルーたちを労う。

「達する。演習は無事終了した。我が艦隊の強さと乗組員《クルー》の練度の高さは、各国に十分伝わったものと思う。諸君の奮闘のおかげだ。感謝する」

 私はフワーデに声を掛けて、同じ内容を護衛艦ヴィルミアーシェにも発してもらった。

「ふはぁぁ……終わった……」

 ヴィルミカーラから降ろしてもらった私は、艦橋の床にへたり込んでしまった。艦橋にいる乗組員《クルー》たちも、全員が安堵のため息を吐いていた。

 使節団から見れば、優雅かつスムーズに行なわれていたように見えたであろう演習。だがそれを実施する私たちの方は、まさに実戦さながらの緊張の連続であり、かなりの疲労が蓄積されていたのだ。

 ヴィルミカーラが私の横に座り込んできて、申し訳なさそうな顔で話しかけて来た。

「か、艦長……こ、この後、め、面会があるか、から、すぐに司令部にい、行かないと……」

「そ、そうだったな。最初はアシハブアからか……」

「い、行けそう?」

「大丈夫だ……と言いたいが、少しでも休みたい。ヴィルミカーラ、すまんが姫抱っこで頼めるか」

「わ、わかった」

 そう言うと、ヴィルミカーラは私をお姫様抱っこで抱き上げた。その後、白狼族の乗組員《クルー》の先導で後甲板で待機しているヘリに向う。

 片腕抱っこと違って、姫様抱っこは完全に身体を預けることができるので、司令部に到着するまでの僅かの間、私はヴィルミカーラの腕の中で浅い仮眠をとることができた。



~ 司令部(兼村長宅) ~

 司令部裏のヘリポートには、私を迎えに来たヴィルミアーシェ村長とカトルーシャ王女が待っていた。

 ヘリが護衛艦フワデラへ飛び去っていくと、今度は村の広場から騒音が聞こえてくる。今頃は、広場で田中とステファンが披露宴イベントの渦中にいるのだろう。時折、音楽に混じって歓声が沸き起こるのがわかる。

 本当なら南と坂上のときのように、私も披露宴に参加して二人の門出を祝いたいところだが、今回は外交が優先だ。二人には後日、落ち着いてから祝福の言葉を述べることになるだろう。

 ヴィルミアーシェ村長が私の近くに駆け寄ってきた。

「タカツ様、お疲れ様です。はい!」

 そう言ってヴィルミアーシェ村長が両腕をバッと広げる。

 ヴィルミカーラに視線を向けると、むぅっと唇をとがらせながらも、私を静かに降ろしてくれた。

 そのままトトトッと駆け寄ってヴィルミアーシェ村長の腕の中に飛び込む。

「いやぁ、こうしてヴィルミアーシェさんに抱っこしてもらうのも、久しぶりな気がしますなぁ」

「うふふ。いつもカーラにタカツ様を独り占めされてますから、今日は私の番ですよね」

 よろしくお願いしますと言いながら、私は空いた手でヴィルミアーシェ村長の巨乳をポンポンと叩いた――

 嘘である。

 いつものようにモミモミした。

「むぅ。な、なちゅらるせくはら、ひ、ひらのに報告」

 私はサッと手を戻した。

 そんなやりとりをジト目で見ていたカトルーシャ王女が、声を掛けてくる。

「ドルネア公爵を応接室に待たせておりますわ。艦長には、お疲れのところ申し訳ありませんが、まずは我が国との交渉をお願いします」

 ドルネア公が来ているのか!

 頑固で尊大なおっさんだが、月光基地で何度も会っているうちに、今では気心が知れた仲だ。意見がぶつかるところがあるが、彼が王国に向ける忠義は本物だ。

 お互いが国益を背負って、堂々と殴り合いができるような交渉ができるという意味で、信頼できる人物である。

 もうひとつ、ドルネア公には期待していることがある。

 話し合いが終わったら、公にそれをお願いしてみよう。

 そんなことを考えながら、私は司令部(兼村長宅)の建物へ入って行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神獣に転生!?人を助けて死んだら異世界に転生する事になりました

Miki
ファンタジー
学校が終わりバイトに行く途中、子供を助けて代わりに死んでしまった。 実は、助けた子供は別の世界の神様でお詫びに自分の世界に転生させてくれると言う。 何か欲しい能力があるか聞かれたので希望をいい、いよいよ異世界に転生すると・・・・・・ 何故か神獣に転生していた! 始めて書いた小説なので、文章がおかしかったり誤字などあるかもしてませんがよろしくお願いいたします。 更新は、話が思いついたらするので早く更新できる時としばらく更新てきない時があります。ご了承ください。 人との接し方などコミュニケーションが苦手なので感想等は返信できる時とできない時があります。返信できなかった時はごめんなさいm(_ _)m なるべく返信できるように努力します。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...