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第八章 護衛艦ヴィルミアーシェ

第167話 グレイベア宴席1

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~ グレイベア村の村長宅(兼温泉旅館) ~

 ルカ村長に招かれて、久しぶりにグレイベア村を訪れた。

 今回、同行したのは、シンイチとライラ、田中未希副長(まだ32歳独身)とステファン、さらにカトルーシャ第三王女と侍女のサリナ、外交補佐官のコラーシュ子爵だ。
 
 コラーシュ子爵は、かつてヴィルミアーシェさんを『亜人風情が!』と侮辱し、私の激怒させた若者1である。

 グレイベア村のほとんどの住人は魔族や獣人だ。以前の彼なら卒倒していたかもしれない。
 
 その後、『タヌァカ式人外脳作成カリキュラム』を受けた彼は、今では立派な人外娘萌えになった。それからは、ラミア族のトルネアさんを口説き落とそうと日々頑張っている。

 ルカ村長宅(兼温泉旅館)に招かれた私たちは、まずはゆっくりと温泉を楽しんだ後、竜華の間で食事を取ることになった。 

 宴席には、私たち以外にもマーカス子爵やヴィルフォランドール、シュモネー夫妻も顔を出していて、かなりの賑わいだ。

 食事が始まってから、私は豪勢なカニ料理に舌鼓を打ちつつ、ルカ村長が注いでくれる甘酒を堪能していた。

 場がほぐれてきたところで、ルカ村長が私たちを招待した目的を明かす。

「いや、ステファンとそちらのお嬢さんが間もなく結婚だと聞いてな。久々に、皆の顔を直接見たくなったのじゃ」

 田中とスプリングス氏の結婚式の時期については、私や田中が口にするまでもなく、既に広く知られていた。誰もが、田中の誕生日前に式が挙げられると踏んでいたらしい。

「それに、この大陸の悪魔勇者は倒れたことじゃし、コボルト村の再建についても話をしておきたくてのぉ」

 ルカ村長の言葉を聞いて、シンイチとライラがハッと顔を上げる。カニを咥えたまま驚くライラが可愛い。今度、私もアレを平野にやってみよう。
 
 コボルト村は、シンイチがこの異世界に来て最初に造り上げた村だ。だが賢者の石を手に入れようとする妖異軍によって、村は焼き払われてしまった。

 コボルト村の復興は、シンイチが私たちに協力してくれることになった際、約束したことのひとつである。
 
 私はシンイチの目を見ながら、そのとき交わした約束のことを思い出していた。

「色々とバタバタして、遅くなってしまったが、我々も全面的にコボルト村の復興に協力するつもりだ。大陸を離れる前に、立派な村に仕上げよう」

 私の言葉を聞いたシンイチとライラ、さらにはマーカスやヴィルフォランドールが大いに盛り上がって、日本酒の乾杯を繰り返す。

 その様子を見て、私は思わずゴクリと喉を鳴らす。幼女な身体じゃなければ、私もお酒を楽しめたのに……。

 シンイチたちが懐かしそうに語るコボルト村は、元々はゴブリンが巣食っていた洞窟から始まった小さな村だそうだ。

 シンイチたちにとっては、彼らの原点とも言える大切な場所なのだろう。彼らの瞳にはコボルト村への憧憬が輝いていた。

 マーカス子爵がシンイチの隣に座って、その肩をバンバンと叩く。ハリウッドマッチョなマーカスに叩かれて、シンイチが思わず飲み掛けのお酒を吹き出してしまっていた。

「昔の坊主は、もう面倒くさいのなんの! ライラが村に来る前は童貞拗らせて、洞窟の奥に閉じこもっちまってなぁ!」

 マーカスによるシンイチ暴露話に白狼族の青年ヴィルフォランドールが乗っかる。

「そうだよ! 自分にツガイがいないからって、いきなり怒り出してオレたちに幼女化ビーム撃ってきたかんな!」

 そこからさらにルカ村長が、シンイチに追い打ちをかけていく。

「ライラが来たらきたで、こやつときたら隙あらば交尾し始めおってのぉ」

 とうとうたまらずシンイチがストップをかける。

「ちょっ! そんなことしてな……なくはないけど! その話はやめて!」

 それまでずっと黙っていたシュモネーの良人でもある鬼人のフワデラさんが、

「打ち合わせ前にお始めになられて、その度に何時間も待たされて頭を抱えたのも、今となっては良い思い出です」

「フ、フワデラさんまで! というかやっぱり気にしてたんだ!?」

 シンイチの言葉を聞いたドラゴン幼女のルカ村長が、

「当たり前じゃろうが! おぬしも、ツガイが出来た途端に時も処も構わず盛りおって! もしあの頃、妾にファイアブレスが噴けていたら、イライラするあまり、この辺り一帯を焦土にしておったわ!」
 
 事情はよくわからないが、とりあえずルカ村長がストレスを感じる事態を、シンイチとフワデラさんが招いていたらしい。

「アーッ! 思い出したら腹が立ってきたわ! おーい! グレイ! グレイはおるか!」

 ルカ村長の背後の襖がバッと開き、灰色熊の幼女グレイちゃんが現れた。

「うーっ! ルカ! どうしたクマッ!」
  
「昔のことを思い出したら腹が立ってきたのじゃ! とりあえずシンイチの足を齧ってしまえ!」

「うーっ! わかったクマー!」

 グレイちゃんが、シンイチの太ももに噛り付いてヨダレでべとべとにし始める。

 狼狽えるシンイチとギャーギャーと文句を言い続けるルカ村長、囃し立てるマーカスやその他の面々。

 部外者である、私とカトルーシャ第三王女、そしてコラーシュ子爵は、その様子を呆然と見続けるしかなかった。

 時折ステファンが、ルカ村長たちが泣いたり笑ったり喚いたりしている理由について、私たちにその経緯を解説してくれる。

 そんな喧騒の中、ライラだけはシンイチの膝の上で、黙々とカニを食べ続けていた。
  
 結局、再び場が鎮まるまでの一時間、私もライラにならってひたすらカニを食べ続けた。

 たらふくカニを食べて、幼女な私のお腹がぷっくりと膨れた頃、ようやくシンイチたちも落ち着いてきた。

 ルカ村長が申し訳なさそうに頭を掻きながら、私に甘酒を注ぐ。

「やっ、タカツ殿、カトルーシャ王女、身内だけで盛り上がって申し訳なかったの。こうして皆で一緒に顔を突き合わせるのは、久しぶりのことじゃったので、つい夢中になってしもうた」

 そう言って、私を見るルカ村長の目に、キラリと光が走った。

「それじゃ、そろそろ真面目な話をするとしようかの」

 このルカ村長の言葉を聞いて酔いを覚ましたのは、私が見る限りただ一人。

 カトルーシャ第三王女の外交補佐官である、コラーシュ子爵だけだった。

 
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