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第八章 護衛艦ヴィルミアーシェ
第164話 オーバーテクノロジー
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空を飛ぶ手段としては、私が想定していたものとは違ったものの、このジェットスーツはかなり使えるシロモノだった。
少しでも早く操作に慣れようと、私は海岸沿いをジェットスーツで飛び回っていた。
海や浜辺をグルグルと低空飛行して、存分に楽しんだ後、泉少尉とカラデアが待っている浜辺に戻る。
「ジェットスーツかなりいいな! ただ落ちた時のことを考えると、ちょっと怖いけど」
私の感想を聞いた泉少尉は、その発言を待ってましたとばかりに顔を輝かせる。
「安全面については、カラデアさんがエアバックをヒントにして凄くいいものを作ってくれたんですよ!」
そう言って泉少尉がカラデアに説明を促す。
「腹部のところに、高濃度の魔力を込めた魔鉱石と圧縮スライムを封印しています。AIが衝撃を予測するか、あるいは手動で封印を解除することによって、膨張したスライムが全身を覆って人体を守ります」
ん?
何か聞き捨てならない単語があったような。
私が幼女な頭を傾げていると、泉少尉が鼻息荒く説明を続ける。
「エアバックじゃなくて、スライムバックです! 凄いですよね! これこそ科学と魔法のコラボレーションですよ、艦長! コラボ!」
「う、うん。それは凄いな。……で、いまスライムとか聞こえた気がしたんだが?」
カラデアが、ハッと何かに気付いた風に顔を上げて、スライムがこの世界に存在する魔物の一種であることを、私に説明し始める。
どうやらスライムには魔力を吸収して成長する特性を持つ魔物スライムと、普通に生物を捕食する粘液生物、さらには妖異スライムというのもいるらしい。我々が何度も戦ったショゴタンという巨大な妖異は、妖異スライムの一種に分類されるという。
なるほど、なるほど。
違う! そういうことを聞きたいわけじゃない!
「つまり、ジェットスーツで落下したり、何かにぶつかったりすると、私はスライムに呑み込まれてしまうということか!?」
驚愕する私を見て、カラデアはパッと顔を輝かせた。
「そうです! さすが艦長様、呑み込みが早い!」
そうですじゃねぇぇぇ!
呆れ顔の私に、泉少尉が慌てて説明を付け加える。
「艦長、スライムのことなら大丈夫ですよ。魔力スライムは基本的に魔力を主食にしているので、物体の消化はすごく遅いんです。半日くらい中にいても、服が溶けるくらいです」
「溶けてるじゃねぇか!」
泉少尉は私の怒号をスルーし、ヘルメットに内蔵されている酸素ボンベは5分しか持たないので、スライムバック展開後もずっとスライムの中にいると窒息しちゃいますなどと、笑顔で解説を続けていた。
その後も、二人があまりにも熱心に推してくるので、結局、私はスライムバックを実験することに同意した。
させられた。
しぶしぶながらも、私はジェットスーツを起動して浜辺を飛んだ。
2メートルくらいの高さでホバリングし、その後、覚悟を決めて砂浜に突っ込む。
次の瞬間――
私は巨大スライムの中にいた。
半透明で青味がかったスライムの内部は、ゆっくりであれば動くことができるが、速く動こうとすると大きな抵抗を受ける。
全身をぬったりとしたものに覆われている感覚は――
意外と快適だった。
自力でも抜け出すこともできそうだったが、魔力吸収用の魔鉱石が自動的に作動し、すぐにスライムが収縮を始めた。
スライムは幼女の頭程度の大きさまで縮み、最終的には私の足元でプルプルしていた。
泉少尉が駆け寄ってくる。
「艦長! どうでしたか! スライムバック! スライムバック!」
満面のドヤ顔が腹立たしかったが、
「す、凄いなこれ……」
感心せざる得なかった。
これ以降、私は毎日のようにジェットスーツを着て海岸を飛び回るようになる。
やがてリーコス村と護衛艦フワデラ・護衛艦ヴィルミアーシェ間の移動に、このジェットスーツを使うようになってしまった。
~ オーバーテクノロジー ~
泉少尉の言う通りジェットスーツは、科学と魔法のコラボによる見事な成果だった。
この成功を応用すれば、私たちがオーバーテクノロジーとしているものに、もしかすると到達することができるのではないか。そんなことをつい考えてしまう。
帝国におけるオーバーテクノロジーとは、即ち帝国撫子型アンドロイドの存在を指す。ちなみにアンドロイドには男性タイプも存在しているが、その場合には帝国益荒男型と呼ばれる。
正確に言えば、オーバーテクノロジーというのはアンドロイドではなく、そこに内臓されているコアのことを指す。
我々の元の世界で8個しか存在が確認されていないコアは、明らかに今の時代に異質なものであった。
異世界の存在を知った今では、8つのコアは異世界からやってきたものという話を、バッサリと否定することはできなくなった。
コアの不完全なレプリカでさえ、アンドロイドに組み込まれることによって、一見するだけでは、人間と区別がつかないほどの行動性能を発揮するようになる。
そのため帝国では、アンドロイドに対しては外見で区別ができるように、ヘアのカラーリングがTIS規格で規定されているほどだ。
コア・レプリカを使ったアンドロイドは、兵士とするには能力的に足りないものの、家事や事務といった作業を行うのには十分な性能を持っている。
もし科学と魔法のコラボで、コア・レプリカと同等の性能を持つものが再現できれば、人員不足も解消できるかもしれない。
さらにもしコアと同等の性能を持つものが作れたとしたら、フワーデの妹だってできるかも……。
ふと脳裡に、平野に叱られて正座させられている私の周りを、二匹のフワーデが楽しそうにわちゃわちゃしている映像が浮かぶ。
うん。
フワーデの妹は却下。
少しでも早く操作に慣れようと、私は海岸沿いをジェットスーツで飛び回っていた。
海や浜辺をグルグルと低空飛行して、存分に楽しんだ後、泉少尉とカラデアが待っている浜辺に戻る。
「ジェットスーツかなりいいな! ただ落ちた時のことを考えると、ちょっと怖いけど」
私の感想を聞いた泉少尉は、その発言を待ってましたとばかりに顔を輝かせる。
「安全面については、カラデアさんがエアバックをヒントにして凄くいいものを作ってくれたんですよ!」
そう言って泉少尉がカラデアに説明を促す。
「腹部のところに、高濃度の魔力を込めた魔鉱石と圧縮スライムを封印しています。AIが衝撃を予測するか、あるいは手動で封印を解除することによって、膨張したスライムが全身を覆って人体を守ります」
ん?
何か聞き捨てならない単語があったような。
私が幼女な頭を傾げていると、泉少尉が鼻息荒く説明を続ける。
「エアバックじゃなくて、スライムバックです! 凄いですよね! これこそ科学と魔法のコラボレーションですよ、艦長! コラボ!」
「う、うん。それは凄いな。……で、いまスライムとか聞こえた気がしたんだが?」
カラデアが、ハッと何かに気付いた風に顔を上げて、スライムがこの世界に存在する魔物の一種であることを、私に説明し始める。
どうやらスライムには魔力を吸収して成長する特性を持つ魔物スライムと、普通に生物を捕食する粘液生物、さらには妖異スライムというのもいるらしい。我々が何度も戦ったショゴタンという巨大な妖異は、妖異スライムの一種に分類されるという。
なるほど、なるほど。
違う! そういうことを聞きたいわけじゃない!
「つまり、ジェットスーツで落下したり、何かにぶつかったりすると、私はスライムに呑み込まれてしまうということか!?」
驚愕する私を見て、カラデアはパッと顔を輝かせた。
「そうです! さすが艦長様、呑み込みが早い!」
そうですじゃねぇぇぇ!
呆れ顔の私に、泉少尉が慌てて説明を付け加える。
「艦長、スライムのことなら大丈夫ですよ。魔力スライムは基本的に魔力を主食にしているので、物体の消化はすごく遅いんです。半日くらい中にいても、服が溶けるくらいです」
「溶けてるじゃねぇか!」
泉少尉は私の怒号をスルーし、ヘルメットに内蔵されている酸素ボンベは5分しか持たないので、スライムバック展開後もずっとスライムの中にいると窒息しちゃいますなどと、笑顔で解説を続けていた。
その後も、二人があまりにも熱心に推してくるので、結局、私はスライムバックを実験することに同意した。
させられた。
しぶしぶながらも、私はジェットスーツを起動して浜辺を飛んだ。
2メートルくらいの高さでホバリングし、その後、覚悟を決めて砂浜に突っ込む。
次の瞬間――
私は巨大スライムの中にいた。
半透明で青味がかったスライムの内部は、ゆっくりであれば動くことができるが、速く動こうとすると大きな抵抗を受ける。
全身をぬったりとしたものに覆われている感覚は――
意外と快適だった。
自力でも抜け出すこともできそうだったが、魔力吸収用の魔鉱石が自動的に作動し、すぐにスライムが収縮を始めた。
スライムは幼女の頭程度の大きさまで縮み、最終的には私の足元でプルプルしていた。
泉少尉が駆け寄ってくる。
「艦長! どうでしたか! スライムバック! スライムバック!」
満面のドヤ顔が腹立たしかったが、
「す、凄いなこれ……」
感心せざる得なかった。
これ以降、私は毎日のようにジェットスーツを着て海岸を飛び回るようになる。
やがてリーコス村と護衛艦フワデラ・護衛艦ヴィルミアーシェ間の移動に、このジェットスーツを使うようになってしまった。
~ オーバーテクノロジー ~
泉少尉の言う通りジェットスーツは、科学と魔法のコラボによる見事な成果だった。
この成功を応用すれば、私たちがオーバーテクノロジーとしているものに、もしかすると到達することができるのではないか。そんなことをつい考えてしまう。
帝国におけるオーバーテクノロジーとは、即ち帝国撫子型アンドロイドの存在を指す。ちなみにアンドロイドには男性タイプも存在しているが、その場合には帝国益荒男型と呼ばれる。
正確に言えば、オーバーテクノロジーというのはアンドロイドではなく、そこに内臓されているコアのことを指す。
我々の元の世界で8個しか存在が確認されていないコアは、明らかに今の時代に異質なものであった。
異世界の存在を知った今では、8つのコアは異世界からやってきたものという話を、バッサリと否定することはできなくなった。
コアの不完全なレプリカでさえ、アンドロイドに組み込まれることによって、一見するだけでは、人間と区別がつかないほどの行動性能を発揮するようになる。
そのため帝国では、アンドロイドに対しては外見で区別ができるように、ヘアのカラーリングがTIS規格で規定されているほどだ。
コア・レプリカを使ったアンドロイドは、兵士とするには能力的に足りないものの、家事や事務といった作業を行うのには十分な性能を持っている。
もし科学と魔法のコラボで、コア・レプリカと同等の性能を持つものが再現できれば、人員不足も解消できるかもしれない。
さらにもしコアと同等の性能を持つものが作れたとしたら、フワーデの妹だってできるかも……。
ふと脳裡に、平野に叱られて正座させられている私の周りを、二匹のフワーデが楽しそうにわちゃわちゃしている映像が浮かぶ。
うん。
フワーデの妹は却下。
応援ありがとうございます!
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