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第七章 悪魔勇者討伐作戦
第148話 神と魔神
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たとえ魔神とはいえ、神様と直接会って話せる機会なんて、そうそうないだろう。ウドゥンキラーナとの会談は人類初の神との対話として、歴史に残るかもしれない。
なんてことを胸をときめかせた私が語るのを聞いた魔神は、不思議そうな表情で首を横に振った。
「神と言っても、我らのような土着の汎神はこの世界にいくらでもおりやんす。それこそ『オークも歩けば姫騎士にあたる』くらいの気軽さで、会おうと思えばすぐに会えるものでありんすよ」
そうなのか!?
それなら私たちをこの異世界に連れて来た天上界の神々とも会って話すことができるだろうか。
これまで天上界との意思疎通は、ほぼ向こうからの一方通行。こちらの意志を伝えるにはフワーデのBotを使ったネット攻撃か、フワーデネットへの書き込みしか手段がなかった。
直接、会って話せるというなら、何としても会ってみたい。そして色々言いたい! 言ってやりたい!
そう言って鼻息を荒くする私に憐みの木目を向けながらウドゥンキラーナは、また首を横に振る。
「それは難しかろうのぉ。天上の輩は神格が高いものが多い。地上に降りてくることも滅多にありゃしんせん」
「神格が高いと会うのが難しいのですか?」
「そうじゃのぉ。神界を王国に例えると、民草にとっては門番や官吏には普段から接する機会もあろう。それが我々のような土着の汎神じゃな」
「はぁ、魔神様は門番ですか」
ウドゥンキラーナは口に皮肉な笑みを浮かべながら首肯した。
「それが領主ともなれば、普通の民草が会う機会はまずなかろうし、王様ともなれば王都の民でもなければ一生見ることもない、空想上の存在でしかありんせん」
この例えで言えば天上界の神々は領主以上の存在しかいないということらしい。
「なんかお高く止まった連中のようですね……天上界だけに」
一瞬、本音が出てしまったが、天上界の神々に聞かれているかもしれないので、慌ててオチを付ける。
「フッ! アハハハハッ! 天上界だからお高く止まるのは当然じゃな! タカツは見る目があるようじゃの!」
ウドゥンキラーナは上部の二本の腕をバタバタと振り、下部の二本の腕で胸を抱えて笑っていた。
ウドゥンキラーナの艦長に対する好感度が3上がった……気がする。
その後、魔神との会話がはずみ、色々な話を聞かせて貰うことができた。
天上界と魔神界との関係については、ラーナリア正教や人類側から聞いていたものとは真っ向対立する見解となっていた。
一般的に天孫降臨として語られるこの世界の神話は、魔神側から見れば侵略者たちによる侵攻でしかないらしい。そりゃそうだろうな。
他にも、魔族と人族の区分について面白い話を聞くことができた。実のところ、その区分は曖昧で、能力や外見の特徴よりも、その種族が魔神を信仰しているか天上界を信仰しているかで区分されているらしい。
見た目がホビットなトゥチョトゥチョ族が魔族というのは、ちょっと理解し難かった。だが、魔神を信仰しているから魔族ということならスンナリ腑に落ちる。
「それで妖異についてですが……」
「邪悪そのものじゃ!」
妖異という言葉を出した途端、ウドゥンキラーナの体表面に赤味が差した。アフロヘアの枝葉がワラワラと動いて魔神の怒りが噴き出ているかのようだった。
「彼奴等はただ世界を蝕み喰らい尽くすだけの輩。聖樹様に苦痛をもたらすクソ虫どもじゃ! 祓っても祓っても、後から湧いて出てきよる!」
「でも妖異軍には多くの魔族が加わっていますね。それは何故ですか?」
一瞬、ウドゥンキラーナの顔が真っ赤に染まってその怒りを露わにした。艦長、いつものようにちびってしまった。ちょっとだけな。
だが魔神の怒りはすぐに収まって、今度はへなへなと情けない顔になる。
「口惜しいがその通りなのじゃ……。魔族の強さを信奉する性質と、天上界に対する反感を、悪魔勇者と混沌信徒が上手く手玉にとっているのでありんす」
ウドゥンキラーナによると、魔神界としては妖異を脅威として捉えているということだった。ただ民草と直に接し、彼らの信仰を力の土台とする土着の汎神の中には、妖異軍に協力するものもいるらしい。
「魔神様、我々はその悪魔勇者を倒すために異界から呼ばれました。私たちとしては、一刻も早く目的を実現して元の世界に帰還したいのです」
「もしかして、主らが森のあちこちに妙な魔道具を設置していたのは、そのためのものかの?」
「はい。悪魔勇者と戦うための隠密作戦を実行中です」
ウドゥンキラーナの木目の瞳にキラリと光が走る。ここが推しどころだ。
「魔神様、悪魔勇者を倒し、妖異を打ち払うというという点で私たちの目的は一致していると考えますが?」
「ウドゥンに力を貸せと望むのかや?」
「何か対価が必要ですか?」
私がジッと魔神を見つめ返していると、突然ウドゥンキラーナの表情がパアッと開けるような笑顔に変わった。全身が再び赤く染まり、焦げだらけのアフロヘアが、つややかな緑葉に満ちたストレートロングとなって、豊かに広がっていく。
「対価というなら、悪魔勇者どもの駆逐がそれでありんす! もちろんウドゥンに出来ることなら最大限の協力をしやんす!」
そう言ってウドゥンキラーナは、下部の二本の腕で私を抱え上げ、上部の二本の腕で私とガッチリと握手を交わした。
意外なことに、木目が走る外見から堅そうに見える魔神の手は、人間の女性の手のように柔らかく温かみもあった。その顔が近づくと、キンモクセイのような良い香りがふわっと漂ってくる。
魔神は私の手を何度も上下に振っていたが、
「あっ……」
と一言発し、その木目の顔を恥ずかしそうに伏せ、上目遣いで私に視線を送り始めた。
「できれば……その……じゃな……あの……」
上部の二本の腕が私の手から離れ、ウドゥンキラーナは胸の前で指をモジモジと動かす。
「あ、あの、ハイパーボリアックスという酒をお供えしてもらえれば嬉しいのでありんす! も、もちろん飲み方には注意して、二度と泥酔するようなことはしないと誓うからの!」
「よろこんで、奉納させていただきます!」
こうして、私たちは森の魔神ウドゥンキラーナとの協力関係を取り結ぶことができた。
液体肥料の方は段ボール単位で、定期的にウドゥンキラーナの元へと届けられた。
誓いの通り、その後、この魔神が泥酔することはなかった。ウドゥンキラーナは眷属たちに液体肥料を気前よく振る舞っていたようだ。
この液体肥料は、魔神と同じ植物系の魔族にとても強い酔いと催淫作用をもたらすようで……。
ずっと後の話になるが、植物系魔族と人間のハイブリッドである樹亜人と呼ばれる種族がこの森で誕生し、ついには連邦内で一国を樹立するまでに至る。
その経緯について、ウドゥンキラーナは神界インタビューで次のように答えている。
「いやぁ、あの頃はタカツたちから貰ったハイパーボリアックスのおかげで、我が眷属らがあちこちでハッスルしまくっておったからの。森の中を行商でも通ろうものなら、人魔問わず襲いかかっていたようじゃな……」
最後にウドゥンキラーナはカメラにドヤ顔を向けて言い放った。
「もちろん性的な意味で!!」
なんてことを胸をときめかせた私が語るのを聞いた魔神は、不思議そうな表情で首を横に振った。
「神と言っても、我らのような土着の汎神はこの世界にいくらでもおりやんす。それこそ『オークも歩けば姫騎士にあたる』くらいの気軽さで、会おうと思えばすぐに会えるものでありんすよ」
そうなのか!?
それなら私たちをこの異世界に連れて来た天上界の神々とも会って話すことができるだろうか。
これまで天上界との意思疎通は、ほぼ向こうからの一方通行。こちらの意志を伝えるにはフワーデのBotを使ったネット攻撃か、フワーデネットへの書き込みしか手段がなかった。
直接、会って話せるというなら、何としても会ってみたい。そして色々言いたい! 言ってやりたい!
そう言って鼻息を荒くする私に憐みの木目を向けながらウドゥンキラーナは、また首を横に振る。
「それは難しかろうのぉ。天上の輩は神格が高いものが多い。地上に降りてくることも滅多にありゃしんせん」
「神格が高いと会うのが難しいのですか?」
「そうじゃのぉ。神界を王国に例えると、民草にとっては門番や官吏には普段から接する機会もあろう。それが我々のような土着の汎神じゃな」
「はぁ、魔神様は門番ですか」
ウドゥンキラーナは口に皮肉な笑みを浮かべながら首肯した。
「それが領主ともなれば、普通の民草が会う機会はまずなかろうし、王様ともなれば王都の民でもなければ一生見ることもない、空想上の存在でしかありんせん」
この例えで言えば天上界の神々は領主以上の存在しかいないということらしい。
「なんかお高く止まった連中のようですね……天上界だけに」
一瞬、本音が出てしまったが、天上界の神々に聞かれているかもしれないので、慌ててオチを付ける。
「フッ! アハハハハッ! 天上界だからお高く止まるのは当然じゃな! タカツは見る目があるようじゃの!」
ウドゥンキラーナは上部の二本の腕をバタバタと振り、下部の二本の腕で胸を抱えて笑っていた。
ウドゥンキラーナの艦長に対する好感度が3上がった……気がする。
その後、魔神との会話がはずみ、色々な話を聞かせて貰うことができた。
天上界と魔神界との関係については、ラーナリア正教や人類側から聞いていたものとは真っ向対立する見解となっていた。
一般的に天孫降臨として語られるこの世界の神話は、魔神側から見れば侵略者たちによる侵攻でしかないらしい。そりゃそうだろうな。
他にも、魔族と人族の区分について面白い話を聞くことができた。実のところ、その区分は曖昧で、能力や外見の特徴よりも、その種族が魔神を信仰しているか天上界を信仰しているかで区分されているらしい。
見た目がホビットなトゥチョトゥチョ族が魔族というのは、ちょっと理解し難かった。だが、魔神を信仰しているから魔族ということならスンナリ腑に落ちる。
「それで妖異についてですが……」
「邪悪そのものじゃ!」
妖異という言葉を出した途端、ウドゥンキラーナの体表面に赤味が差した。アフロヘアの枝葉がワラワラと動いて魔神の怒りが噴き出ているかのようだった。
「彼奴等はただ世界を蝕み喰らい尽くすだけの輩。聖樹様に苦痛をもたらすクソ虫どもじゃ! 祓っても祓っても、後から湧いて出てきよる!」
「でも妖異軍には多くの魔族が加わっていますね。それは何故ですか?」
一瞬、ウドゥンキラーナの顔が真っ赤に染まってその怒りを露わにした。艦長、いつものようにちびってしまった。ちょっとだけな。
だが魔神の怒りはすぐに収まって、今度はへなへなと情けない顔になる。
「口惜しいがその通りなのじゃ……。魔族の強さを信奉する性質と、天上界に対する反感を、悪魔勇者と混沌信徒が上手く手玉にとっているのでありんす」
ウドゥンキラーナによると、魔神界としては妖異を脅威として捉えているということだった。ただ民草と直に接し、彼らの信仰を力の土台とする土着の汎神の中には、妖異軍に協力するものもいるらしい。
「魔神様、我々はその悪魔勇者を倒すために異界から呼ばれました。私たちとしては、一刻も早く目的を実現して元の世界に帰還したいのです」
「もしかして、主らが森のあちこちに妙な魔道具を設置していたのは、そのためのものかの?」
「はい。悪魔勇者と戦うための隠密作戦を実行中です」
ウドゥンキラーナの木目の瞳にキラリと光が走る。ここが推しどころだ。
「魔神様、悪魔勇者を倒し、妖異を打ち払うというという点で私たちの目的は一致していると考えますが?」
「ウドゥンに力を貸せと望むのかや?」
「何か対価が必要ですか?」
私がジッと魔神を見つめ返していると、突然ウドゥンキラーナの表情がパアッと開けるような笑顔に変わった。全身が再び赤く染まり、焦げだらけのアフロヘアが、つややかな緑葉に満ちたストレートロングとなって、豊かに広がっていく。
「対価というなら、悪魔勇者どもの駆逐がそれでありんす! もちろんウドゥンに出来ることなら最大限の協力をしやんす!」
そう言ってウドゥンキラーナは、下部の二本の腕で私を抱え上げ、上部の二本の腕で私とガッチリと握手を交わした。
意外なことに、木目が走る外見から堅そうに見える魔神の手は、人間の女性の手のように柔らかく温かみもあった。その顔が近づくと、キンモクセイのような良い香りがふわっと漂ってくる。
魔神は私の手を何度も上下に振っていたが、
「あっ……」
と一言発し、その木目の顔を恥ずかしそうに伏せ、上目遣いで私に視線を送り始めた。
「できれば……その……じゃな……あの……」
上部の二本の腕が私の手から離れ、ウドゥンキラーナは胸の前で指をモジモジと動かす。
「あ、あの、ハイパーボリアックスという酒をお供えしてもらえれば嬉しいのでありんす! も、もちろん飲み方には注意して、二度と泥酔するようなことはしないと誓うからの!」
「よろこんで、奉納させていただきます!」
こうして、私たちは森の魔神ウドゥンキラーナとの協力関係を取り結ぶことができた。
液体肥料の方は段ボール単位で、定期的にウドゥンキラーナの元へと届けられた。
誓いの通り、その後、この魔神が泥酔することはなかった。ウドゥンキラーナは眷属たちに液体肥料を気前よく振る舞っていたようだ。
この液体肥料は、魔神と同じ植物系の魔族にとても強い酔いと催淫作用をもたらすようで……。
ずっと後の話になるが、植物系魔族と人間のハイブリッドである樹亜人と呼ばれる種族がこの森で誕生し、ついには連邦内で一国を樹立するまでに至る。
その経緯について、ウドゥンキラーナは神界インタビューで次のように答えている。
「いやぁ、あの頃はタカツたちから貰ったハイパーボリアックスのおかげで、我が眷属らがあちこちでハッスルしまくっておったからの。森の中を行商でも通ろうものなら、人魔問わず襲いかかっていたようじゃな……」
最後にウドゥンキラーナはカメラにドヤ顔を向けて言い放った。
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