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第七章 悪魔勇者討伐作戦
第147話 焦げた神の髪
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魔神との会談は、ルートリア連邦とアシハブア王国の国境付近で行うことになった。
現在、護衛艦フワデラはアシハブア王国と交わした同盟議定書によって、帝国の代表使節として認められている立場にある。
悪魔勇者を倒すために人類軍に協力することになってはいるものの、議定書はあくまでアシハブア王国との間で交わされたものでしかない。現時点では、アシハブア王国以外の大陸諸国にとって、我々は怪しい武力集団でしかない。
そんな微妙な立場で私が国境を越えてしまうと、思わぬところでトラブルに発展しかねない。
まぁ、双月光隊がバンバン国境越えしているが、彼らはあくまで隠密部隊である。 もし今回のように、彼らの存在がルートリア連邦に認知されても、彼らはただ冒険者であると主張するだけだ。
もちろん、彼らがルートリア連邦に捕縛されてしまった場合、私たちは全力で彼らを取り戻すことになる。
そのような場合を含め、ルートリア連邦と交渉することになった際に、私が勝手に国境を超えていたとなると、当然ながら大きなマイナス材料となる。
ということで今回の会談では、魔神の方からアシハブア王国側へ来てもらうようお願いした。
木目の女神が、柳のような細い枝葉の長髪をなびかせてニッコリと微笑む。
「ウドゥンの神域は、我が子らや人間どもが引いた線に捉われるようなことはありんせん。言うても他の神々との規は守らねばならんがの。あぁ、お主の言う場所なら問題ない、ウドゥンはすぐにでも現れることができりゃんせ」
と魔神は言ってはいたが、色々準備も必要だろうということで会談は三日後に行われることになった。
~ 会談当日 ~
「魔神様……その頭はどうされたのですか?」
アシハブア王国の国境に設けられた会談の席で、私は初めて魔神ウドゥンキラーナと対面した。
だがウドゥンキラーナはモニタ越しに見た印象とはかなり違っていた。とはいえ、2メートルほどの身長、4本の腕、美しくある女神の造形自体には何の違和感もない。
ただ柳の葉で形どられた長い髪が……
「えぇ……と、アフロヘアにされたのですか?」
ウドゥンキラーナの長い髪がチリヂリになってアフロっていた。
「も、申し訳ありませんでした……」
顔を真っ赤にした坂上大尉がウドゥンキラーナにぺこぺこと頭を下げている。
「さ、坂上……お前、仮にも神様に何をやらかしたんだ」
私の問い掛けでさらに身を小さくする坂上大尉を庇うように、ウドゥンキラーナが間に割り込んできた。
「いやいや、ハルカは何も悪くありんせん。ウドゥンが酔っぱらって粗相をしてしまってハルカに迷惑を掛けてしまったのでありんす」
「酔っぱらった?」
そういえば昨日、お供えものになるかなと思い、一升瓶二本に熨斗《のし》まで付けて、坂上たちに持たせていた。
神様と言えば酒かなと思ってたが……まずかったか。
私が考え込んでいるとヴィルミカーラがその時の状況を詳しく話してくれた。
「お、お酒はも、問題な、なかった。問題は、ひ、肥料の方……」
そういえば昨日、松川先任伍長が、
「木の神様ってことなら、肥料とか喜ばれたりしませんかね?」
と言ったので、ハイパーボリアックス社製の液体肥料も、坂上たちに持たせたっけ?
私のつぶやきを聞いたヴィルミカーラがうんうんと頷く。
「そ、そう。それ! あ、青い肥料を飲んだらこ、これがい、いきなり発情した」
会談前夜、ウドゥンキラーナと村人はヴィルミカーラや坂上たちとささやかな宴会を開いていたらしい。
お酒が進んで、皆がそこそこ良い加減で酔い始めた頃。
坂上が液体肥料のことを思い出して、これをウドゥンキラーナに差し出したところ、この魔神にとってはお酒よりも魅力的なものであったらしく、以降はお酒には手を出さず、ずっと液体肥料をグビグビと吞み始めた。
「い、一杯、吞むごとに、か、顔がま、真っ赤になった。き、木なのに真っ赤に」
だんだんと目が座ってきた魔神は、南大尉をジィィと見つめて目を離さなくなった。
「な、なんすか……」
うろたえる南大尉に近づいたウドゥンキラーナは、突然トロ顔になったかと思うと、あろうことか南大尉に襲い掛かったのだ。
もちろん性的な意味で!
「よく見るといい男じゃありんせんか。村を救ってくれた褒美じゃ、ウドゥンと契りゃんせ」
「ぬわぁぁぁぁ!」
おそろしいのか、うらやましいのか、よくわからず混乱しそうだが、一切の混乱も躊躇もなく反応したのが坂上大尉だった。
彼女はヴォッカを口に含んで霧状に吹き出し着火、魔力を伴なわない即席ファイアブレスを発情木に放った。
坂上がいつもヴォッカを持ち歩いているのかについては後日改めて問い質そう。
ブフォォォォ!
「わぎゃぁぁぁぁぁ! ウドゥンの髪がぁぁ! 髪が燃えるりゅうぅ!」
村人やヴィルミカーラたちが、慌てて魔神の髪に水を掛けて消火するも、ストレートロングだった柳の葉の髪は焦げて、チリヂリアフロとなってしまった。
そして、火に掛かって酔いがすっかり抜けた発情木はシラフに戻ったという。
「いやぁ、面目ありんせん。あんなに酔っぱらったのは数百年振りじゃった。あのハイパーボリアックスという酒は、どうもウドゥンには強過ぎるようでありんす」
ちなみに、焦げた髪の毛はすぐに生やし直すことができるらしいのだが、自己反省のためにしばらくアフロで過ごすそうだ。
さらにちなみに、南大尉と坂上大尉が夫婦であることを知った魔神は、二人に対して頭を土中に埋め込むくらい頭を下げて陳謝。
お詫びの印として「夫婦性活円満・子宝安産」の加護が込められた柳の枝を、二人に下賜してくれたらしい。
魔神の加護ってどうなの? とは思うが、坂上大尉は喜んで受け取っていたようだ。
村を救ってくれたお礼だと言って、ウドゥンキラーナは私にも同じものをくれた。
そんなのもらっても、どうしろと!?
だって艦長、夫婦円満だし、子供もいるし、そして何より……
幼女だし!
現在、護衛艦フワデラはアシハブア王国と交わした同盟議定書によって、帝国の代表使節として認められている立場にある。
悪魔勇者を倒すために人類軍に協力することになってはいるものの、議定書はあくまでアシハブア王国との間で交わされたものでしかない。現時点では、アシハブア王国以外の大陸諸国にとって、我々は怪しい武力集団でしかない。
そんな微妙な立場で私が国境を越えてしまうと、思わぬところでトラブルに発展しかねない。
まぁ、双月光隊がバンバン国境越えしているが、彼らはあくまで隠密部隊である。 もし今回のように、彼らの存在がルートリア連邦に認知されても、彼らはただ冒険者であると主張するだけだ。
もちろん、彼らがルートリア連邦に捕縛されてしまった場合、私たちは全力で彼らを取り戻すことになる。
そのような場合を含め、ルートリア連邦と交渉することになった際に、私が勝手に国境を超えていたとなると、当然ながら大きなマイナス材料となる。
ということで今回の会談では、魔神の方からアシハブア王国側へ来てもらうようお願いした。
木目の女神が、柳のような細い枝葉の長髪をなびかせてニッコリと微笑む。
「ウドゥンの神域は、我が子らや人間どもが引いた線に捉われるようなことはありんせん。言うても他の神々との規は守らねばならんがの。あぁ、お主の言う場所なら問題ない、ウドゥンはすぐにでも現れることができりゃんせ」
と魔神は言ってはいたが、色々準備も必要だろうということで会談は三日後に行われることになった。
~ 会談当日 ~
「魔神様……その頭はどうされたのですか?」
アシハブア王国の国境に設けられた会談の席で、私は初めて魔神ウドゥンキラーナと対面した。
だがウドゥンキラーナはモニタ越しに見た印象とはかなり違っていた。とはいえ、2メートルほどの身長、4本の腕、美しくある女神の造形自体には何の違和感もない。
ただ柳の葉で形どられた長い髪が……
「えぇ……と、アフロヘアにされたのですか?」
ウドゥンキラーナの長い髪がチリヂリになってアフロっていた。
「も、申し訳ありませんでした……」
顔を真っ赤にした坂上大尉がウドゥンキラーナにぺこぺこと頭を下げている。
「さ、坂上……お前、仮にも神様に何をやらかしたんだ」
私の問い掛けでさらに身を小さくする坂上大尉を庇うように、ウドゥンキラーナが間に割り込んできた。
「いやいや、ハルカは何も悪くありんせん。ウドゥンが酔っぱらって粗相をしてしまってハルカに迷惑を掛けてしまったのでありんす」
「酔っぱらった?」
そういえば昨日、お供えものになるかなと思い、一升瓶二本に熨斗《のし》まで付けて、坂上たちに持たせていた。
神様と言えば酒かなと思ってたが……まずかったか。
私が考え込んでいるとヴィルミカーラがその時の状況を詳しく話してくれた。
「お、お酒はも、問題な、なかった。問題は、ひ、肥料の方……」
そういえば昨日、松川先任伍長が、
「木の神様ってことなら、肥料とか喜ばれたりしませんかね?」
と言ったので、ハイパーボリアックス社製の液体肥料も、坂上たちに持たせたっけ?
私のつぶやきを聞いたヴィルミカーラがうんうんと頷く。
「そ、そう。それ! あ、青い肥料を飲んだらこ、これがい、いきなり発情した」
会談前夜、ウドゥンキラーナと村人はヴィルミカーラや坂上たちとささやかな宴会を開いていたらしい。
お酒が進んで、皆がそこそこ良い加減で酔い始めた頃。
坂上が液体肥料のことを思い出して、これをウドゥンキラーナに差し出したところ、この魔神にとってはお酒よりも魅力的なものであったらしく、以降はお酒には手を出さず、ずっと液体肥料をグビグビと吞み始めた。
「い、一杯、吞むごとに、か、顔がま、真っ赤になった。き、木なのに真っ赤に」
だんだんと目が座ってきた魔神は、南大尉をジィィと見つめて目を離さなくなった。
「な、なんすか……」
うろたえる南大尉に近づいたウドゥンキラーナは、突然トロ顔になったかと思うと、あろうことか南大尉に襲い掛かったのだ。
もちろん性的な意味で!
「よく見るといい男じゃありんせんか。村を救ってくれた褒美じゃ、ウドゥンと契りゃんせ」
「ぬわぁぁぁぁ!」
おそろしいのか、うらやましいのか、よくわからず混乱しそうだが、一切の混乱も躊躇もなく反応したのが坂上大尉だった。
彼女はヴォッカを口に含んで霧状に吹き出し着火、魔力を伴なわない即席ファイアブレスを発情木に放った。
坂上がいつもヴォッカを持ち歩いているのかについては後日改めて問い質そう。
ブフォォォォ!
「わぎゃぁぁぁぁぁ! ウドゥンの髪がぁぁ! 髪が燃えるりゅうぅ!」
村人やヴィルミカーラたちが、慌てて魔神の髪に水を掛けて消火するも、ストレートロングだった柳の葉の髪は焦げて、チリヂリアフロとなってしまった。
そして、火に掛かって酔いがすっかり抜けた発情木はシラフに戻ったという。
「いやぁ、面目ありんせん。あんなに酔っぱらったのは数百年振りじゃった。あのハイパーボリアックスという酒は、どうもウドゥンには強過ぎるようでありんす」
ちなみに、焦げた髪の毛はすぐに生やし直すことができるらしいのだが、自己反省のためにしばらくアフロで過ごすそうだ。
さらにちなみに、南大尉と坂上大尉が夫婦であることを知った魔神は、二人に対して頭を土中に埋め込むくらい頭を下げて陳謝。
お詫びの印として「夫婦性活円満・子宝安産」の加護が込められた柳の枝を、二人に下賜してくれたらしい。
魔神の加護ってどうなの? とは思うが、坂上大尉は喜んで受け取っていたようだ。
村を救ってくれたお礼だと言って、ウドゥンキラーナは私にも同じものをくれた。
そんなのもらっても、どうしろと!?
だって艦長、夫婦円満だし、子供もいるし、そして何より……
幼女だし!
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