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第六章 リーコス村開拓

第141話 ぶらりリーコス村の旅

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 リーコス村は東側が海に面し、残り三方を山と森に囲まれている隠れ里だ。護衛艦フワデラがこの村を拠点として以降、その近代化は恐ろしいスピードで続けられている。

 特に司令部(兼村長宅)の周辺は、アスファルトで固められた道路もあり、夜になれば街灯が輝くといった具合で、まるで帝国にいるのではと錯覚してしまうほどだ。

 仮設住宅も完成し、村の外からやってきた移住希望者(白狼族)たちの移転も完了している。



~ リーコス村 南門 ~

 グレイベア村方面からリーコス村を訪れた場合は、南門を通ることになる。南門から西方向にある小高い山を見上げると、その山頂に設置されているトーチカが周囲に睨みを効かせている。

 南門自体にも、機銃を据え付けた見張り台が建てられており、外敵の来襲に警戒している。門番は配置されているが、彼らの役割のほとんどは村を訪れる者に対する応対だ。

 村に接近する敵や不審者の警戒は、陸海空三方面でドローンが24時間体制で行っている。

 現在、主力となっているドローンは、飛行型戦闘ドローンのイタカ、偵察用鳥擬態ドローンのカラス、四脚型戦闘ドローンのティンダロス、水陸両用多脚型戦闘ドローンのアラクネだ。

 悪魔勇者討伐作戦においても重要な戦力となるため、妖異を倒して得た報酬の多くはこれらのドローンと弾薬に費やされている。

 機体数としては、イタカから兵装を取り外して通信設備を据え付けたヘルメスが最も多く複製されている。アシハブア王国の各地に配置されており、今では王国全域の通信をカバーすることが可能となっている。

 現在は、大陸の内陸部へヘルメスを配置するために様々な方法を模索しているところだ。

 こうしたドローンと門番のチェックをクリアすることができれば、南門を通り抜けることができる。もちろん、電動オフロードバイクに跨った幼女であれば顔パスで南門の出入りが可能だ。

「ただいまー!」

 村の外のお散歩ツーリングから戻った私は、この日の門番を務めていた白狼族の女性に声を掛けて挨拶する。
 
「艦長さん、 お帰りなさい! 偵察お疲れ様です!」

 彼女は私に帝国海軍式の敬礼をしてくれた。

「ご苦労さーん!」

 私は片手を振りながらそのまま南門を通り抜けた。

 村に入って、まず目に入ってくるのが仮設住宅街だ。松川先任伍長たちが努力して建造した結果、約200名の新しい村人がここで暮らすことができるようになった。

 ほとんどの住人は白狼族だ。彼らのケモミミや尻尾が無ければ、まるでここは帝国の被災地であるかのように錯覚してしまうだろう。
 
 エアコンの室外機が棟にずらっと並んでいるのを見ると、とても異世界とは思えない風景がここにある。

 私は『ソーシャ』と書かれたプレートの住宅の前に電動バイクを止める。呼び鈴をならすと扉が開き、中から青い髪と青い瞳のラミア女子が顔を出す。

「あっ、艦長さん! いらっしゃい! どうぞ入って入って!」

 勧められるがママに中に入ると、2LDKの空間が広がっている。ラミアの蛇体がなければ、何度も言うが本当に帝国の空間でしかなかった。

 トイレも風呂もエアコンも見た目はそのままで、しかも水道も電気も通っている!

 ……といっても、水はチョロチョロとしか出ないし、電気も太陽光パネルでエアコンを動かしてしまうと他には照明くらいしか使えない。

 水洗トイレは一回流すと、次は十分くらい待たないといけないし、お風呂はエアコンとのトレードオフで、しかもぬるま湯にしかならない。

 ただ、それは限られた帝国の設備のみを使った場合の話だ。ここに異世界マジックを加えると話が違ってくる。

「艦長さん、アイスクリーム食べる?」
 
「あぁ、ありがたい。いただくよ」

 ソーシャが台所にある大型冷蔵庫を開くと、ヒヤッとした冷気が漏れ出してきた。彼女は冷蔵庫の中に顔を突っ込んで、中にいるに声を掛ける。

「ユキちゃん、起きてる? アイスクリームもらって良い?」

 冷蔵庫の中は上段の冷凍庫と下段の冷蔵庫に分かれていて、上段部分に小さな部屋が設置されていた。人形用に作られたおもちゃの部屋みたいな感じだ。

 その部屋にある氷雪で作られた小さなソファーの上には、小さな雪だるまが座っていて、ソーシャに向ってコクコクと頭を振っていた。

「ありがと! それじゃ2つもらってくね」

 アイスクリームを手に取ったソーシャは、バイバイと雪だるまに手を振ってから扉を閉める。

「うぉぉ! 帝国新幹線のアイスクリームみたいにカッチカチだ!」

 そして私はソーシャと一緒にキンキンに冷えたアイスクリームを堪能した。

「ここ以外の部屋にも冷蔵庫が置けるといいんだがなぁ」

「この辺りじゃ雪の精霊はいないからね。あとちゃんと面倒を見てあげないとだし、ちょっと厳しいかなぁ。火や風の精霊と違って、とっても繊細だから」

 ラミア女子たちは、仮設住宅の完成と共にリーコス村の住人となって今はここで暮らしている。

 ラミアたちの移住の話が決まった際、グレイベア村のルカ村長が、彼女の眷属である精霊を一緒に寄越してくれたのだ。

 それが火の精霊ヴォルカノン、風の精霊ウィンドルフィン、水の精霊アクアドラ、そして雪の精霊ユキちゃんである。

 この精霊はラミア女子たちと共に仮設住宅に住んでくれている。その力を活用することで、水道の水量が増し、室内に風が吹き、24時間お湯が使えるようになっている。

 私たち帝国の人間や近代化された生活を送っているグレイベア村の住人にとっては、【普通】な生活空間かもしれない。

 だが、こちらの世界の多くの住人にとってこの仮設住宅は『狭いけど王侯貴族並みの生活ができる部屋』ということで人気急上昇中なのである。

 アイスクリームを堪能した後、私はソーシャにお礼を言って部屋を出た。

 電動バイクに跨って目指す先は……

 『マーカスのラミアパブ』

 である。

 完成したばかりのラミアパブは、朝から午後にかけては家族連れで入れるレストランだが、ヒトハチマルマル以降はお酒が飲める大人のお店になるのだ。

「「おかえりなさいませー! ご主人様ー!」」

 店内に入ると、メイド服を来たラミアや白狼族の女性が明るい笑顔で迎えてくれる。

 ちなみに女性客だった場合は、執事服姿の白狼族のイケメンが「おかえりなさいませ、お嬢様ー!」と迎えてくれるのだ。

 私の場合は「ご主人様」でお願いしますと伝えているので、そうしてくれている。

 今は午後の時間なので、お酒は飲めないし、店内には親子連れもいて賑わう健全空間となっている。

 とはいえ、巨乳ばかりのラミア族や巨乳が多い白狼族のメイド服姿は、それはそれでグッと刺さるので問題はない。

 ちなみに白狼執事たちも、女性客の相手をするときにいちいち歯をキラッと光らせてイケメン仕草をしており、その度にご婦人方の瞳がハートの形で揺れ動いていた。

「い、いらっしゃい、か、艦長……、ちゅ、昼食、なに食べる?」

 ほぼ9割が巨乳のメイドさんなのに、何故か私のところに注文を取りにくるのはヴィルミカーラだ。

「ひ、貧乳は、す、ステータスなの、だ、だから、か、艦長にはわ、私がと、特別、サービス!」

 何が特別サービスなのかわからない。

「とりあえず、生乳で!」

「アーシェの生乳搾りラッシー、お、オーダー入りました」

 他にも昼食メニューを注文しつつ、私は店内を歩く他のメイドさんの乳袋を観察しようと体を傾ける。

 サッ!サッ!

 ササッ! ササッ!

 それをヴィルミカーラが体と尻尾を使って、いちいち私の視界を防ごうとする。

「お、オーダーのときは、わ、私を見なきゃ、駄、駄目!」

 白狼族なのに黒毛のヴィルミカーラは黙っていればかなりの美人だ。胸はないけどスラッとしたスタイルはファッションモデルとしてそのまま活躍できそうなほどだ。

 だが! 私は乳袋を見に来たのだ! 乳袋を! 乳袋をだ!

 ラミアのでっかい乳袋! 白狼族美女の乳袋!

「乳袋! 乳袋! うぎゃぁぁぁぁぁぁ! ひ、平野!? どうしてここに!?」

 いつの間にか平野副長が背後にいて、私のこめかみに梅干しぐりぐりをねじ込んで来た。

「昼間から、子供もいるような場所で変な言葉を連呼しないでください。もちろん艦長を連れ戻しに来ました」

「絶対嘘だ! だったらお前の口についてるクリームは何だ! 私が来るまでの間、ここで食事をしていたのだろう! だったらお前の方がよほど子供の教育に悪い……ぎゃぁぁぁぁ、梅干しぐりぐりやめてぇぇ」

 こうして、私は平野に連行されてそのまま護衛艦フワデラへと戻ることとなった。

 本当ならヒトハチマルマル以降のラミアパブで、大人の食レポをしたかったのだが、どうやら今日の私はここまでのようだった。

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