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第六章 リーコス村開拓

第129話 異世界の乗組員(見習い)

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  トルネラはシンイチとライラと共に、護衛艦フワデラでの生活を送っているラミア族の女性だ。
 
 燃えるような赤い髪に紅玉の瞳を持つ褐色の美人で、彼女も他のラミアの例にもれずそれはもう見事なおバストをお持ちである。

 彼女はグレイベア村長であるドラゴン幼女ルカの眷属なのだが、現在はシンイチとライラの従者を務めている。

 どういう経緯があったのか知らないが、とにかく彼女はライラに惚れ込んでおり、傍から見ているとライラの身の上が心配になるくらい常にまとわりついている。

「ライラ様がお通りになられます! 道を開けてください!」

 艦内でトルネラのこの声を聞くと、乗組員《クルー》たちはサッと身をひるがえして壁際に身を寄せる。

 するとその直後、

 スススーーーッ!

 と微かな音と共に、ライラを胸に抱えたトルネラが蛇身をくねらせながら通り過ぎていくのだ。

 正直に告白する。

 初めてその様子を見たとき、艦長ちょっとお漏らししてしまった。だって巨大な蛇の身体が目の前をほぼ音もなく通り過ぎるんだから! 

 理屈じゃなくてホント怖いの! 何というか人間の本能に刻まれた恐怖が呼び起される感じ。もしかすると艦長、前世で蛇に呑み込まれたことがあったのかもしれない。

 今はもう慣れて平気だけどな!

「トルネラさん! すみませんが、探照灯のメンテしてる斎藤にこのスパナを持っていってもらえます?」

「承りました」

 シンイチとライラがリーコス村に上陸して艦内にいないとき、彼女はこのように乗組員《クルー》の作業を手伝ってくれている。

 せっかくの機会なので、私もトルネラの移動を体験させて貰おうとお願いすると、彼女は快く承諾してくれた。
 
 彼女がフワっと私を抱き上げる。

 トルネアは蛇体を駆使して艦内のあらゆる場所をスルスルと移動していく。狭い空間での移動や高所を昇る能力はまさにラミア族ならではのものだ。

 三次元の移動力を活かして、乗組員《クルー》の半分の時間で1番煙突にある探照灯まで辿り着く。

「お疲れ様です、斎藤さん。これをどうぞ」

「あ、ありがとうございます!」

 トルネラがスパナを手渡すと、斎藤は顔を真っ赤にしてお礼を述べる。

 彼女の手伝いは、こんな感じで物を運ぶことがほとんどだそうだ。

「トルネラには皆が世話になっているみたいだな。お前に感謝する声をよく聞くぞ」

「いいえ、お世話になっているのは私の方ですから。シンイチ様とライラ様がいらっしゃらないときは、何でもお申し付けください」

「いつもありがとうな」

 そう言って私はトルネラの胸に労いの意味で、労いの意味でポンポンと軽いタッチをする。

 嘘である。モミモミした。

 それにしてもデカいな。

 一見するとその外見から、激情型で熱い性格のように見えるトルネラだが、性格は意外に落ち着いており、どこぞの令嬢っぽい口調でもある。

 そのギャップが男性乗組員《クルー》たちの心を捕らえて離さないようだ。

 私のおっぱいモミモミに嫌がる様子もなかったので、幼女特権を行使してさらにモミモミを仕掛けようとしたところで、背筋に悪寒が走る。

「ジィィィィィィ」

「ひ、平野、 いつの間に!?」 

 進行方向5m、士官室入り口に平野副長が立っていた。当然、そのジト目とスマホが私に向けられている。

「ジィィィィ」

「ひ、平野……?」
 
 私が慌ててトルネラの胸から手を放す前に、カシャッと撮影音が平野のスマホから放たれる。

「では失礼いたします」

 平野は踵を返してその場を去って行った。

 艦長の所業が記された平野の報告書に、また新たな一ページが追加されてしまった。

「艦長様、大丈夫ですか? お顔が青くなってますよ。どこかお体の具合が良くないとか……」

「だ、大丈夫です。もう、降ろしていただいて大丈夫です」

 トルネラに礼を言って別れると、私はトボトボと艦長室へ足を向けた。

――――――
―――


 現在、護衛艦フワデラには白狼族の乗組員《クルー》(見習い)が30名が乗艦しており、日々訓練に勤しんでいる。

 最初、リーコス村の海賊騒動以降、村の人々から艦で働きたいという申し出が何度もあった。ヴィルミアーシェさんを始めリーコス村の人々の誠実さは、私たちもすでに理解していたが、さすがに登用となると当然慎重にならざるを得なかった。

 だがその後、グレイベア村のルカ村長やシンイチたち、また今は古大陸にいるミライやガラム、などなど信頼できる人達は誰もが、白狼族は信用するに値すると言っていた。

 もちろん例外はあるだろうが。

 実際のところ、フワデラでは人員が不足していた。タイミングの悪いことに、基地に残っていた数十名の乗組員《クルー》が乗艦する前に、異世界への転移が行なわれてしまった。

 また帝国水陸機動隊や帝国特別警備隊は、幌筵基地に移送のために乗艦していただけで、本来はフワデラの操艦要員ではない。

「艦長、グレイベア村温泉旅行の希望者がかなり増えてきています。今の少人数のローテーションではかなり待たされることになるため、不満の声も出始めています」

 平野のこの報告を受けて、私は白狼族の採用を決めた。

 もし本格的な戦争に突入した場合、人員不足による作戦能力の低下はなんとしても避けなければならない。なので、私は決断したのだ。

 決して、平野の視線に含まれる「私の休みはいつですか?」という圧に屈したわけではない。

 採用が決定した白狼族の乗組員《クルー》(見習い)からなる白狼隊。その隊長をヴィルフォアッシュ、副隊長をヴィルミカーラが務めることになった。

 リーコス村防衛のため、白狼族の訓練自体は以前から行っている。その当初から、彼らの強靭な身体能力と高い知性には目を見張るものがあった。

「これはうかうかしてると、すぐに追い抜かれてしまうな」
 
 白狼隊の訓練が始まってから間もなく、彼らを指導する乗組員《クルー》たちから焦りの声が聞こえてくるようになった。

 白狼隊のルーキーに負けじと、他の乗組員《クルー》たちも研鑽を始め、艦内の空気が引き締まりつつあった。

 ……のだが、その空気をぶち壊す連中がいた。

 それがアシハブア王国の客人たちである。

「ハァァァァ、ヴィルフォアッシュさまぁ……」
 
 後甲板で行われている格闘訓練。

 そこで汗を流すヴィルフォアッシュを格納庫の影から遠巻きに眺めてため息をつくメイド――

 カトルーシャ第三王女専従メイドのサリナさんである。

 それだけではない。

「ハァァァァァ、トルネラ嬢、どうしてあなたはトルネラ嬢なのか」

 格闘訓練に励む面々に、タオルとスポーツドリンクを渡して回るトルネラを格納庫から遠巻きに見守る男。

 カトルーシャ第三王女の外交補佐、若造1ことコラーシュ子爵である。

 最初に出会ったときこいつは、亜人や獣人、そして魔人を徹底的に忌み嫌う人間至上主義者だった。

 だが、タヌァカ式人外脳作成カリキュラムを受けた結果、現在では人間の女性では満足できない脳みそに改造されてしまったらしい。

 今ではトルネラにぞっこんで、ことあるごとに求愛行動に出ている。

 まったく! お前らのせいで艦内の風紀が乱れたらどうすんだ!

 南と坂上の結婚とか、田中未希航海長(32歳独身)とスプリングスの婚約とか、シンイチとライラの所構わぬイチャラブとか、夜の不破寺神社(本社)のバカップル密会とか、あと松川先任伍長がラミア女子たちに囲まれてて羨ましいとかっ!

 どいつもこいつも異世界恋愛脳で腐ってるのかっ!

 ちくしょー羨ましい!

 ……じゃなかった。

 どいつもこいつも、まったくたるんどる!

 
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