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第五章 フワーデ・フォー
第118話 ドラゴンジャー vs 悪夢の道化師
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士官食堂にスプリングス氏が到着し、私の前にいる田中未希航海長(32歳独身)の隣に座ってもらった。
当初の予定では、ここで二人に対して大上段から「艦長命令だ! もうお前ら結婚しろ!」と怒鳴り散らしてやるつもりだった。
もしくは「おうおう、スプリングスさんよぉ、うちのお嬢に手を出してただで済むとは思ってねぇよなぁ」とかその筋路線で責めようとか。いくつかパタンを用意はしていたのだ。
だがスプリングス氏が食堂に入ってきて、私の前に田中が座っていることに気が付いたときに「未希さん…」と一瞬つぶやいたのを、私の聞き耳スキル(自称)が拾ってしまった。
あれ……。もしかして、これ放っておけばいいやつじゃね? なんか二人の関係進んでね?
えっ!? えっ!? 田中、お前マジで乙女卒業したの!?
私は食後のアイスコーヒーからストローを抜き出し、指で挟んでタバコのようにスパスパと空気を出し入れしてみた。
「「……」」※二人とも沈黙
田中とスプリングス氏の間に妙な空気が醸成されて始めていた。
シンイチに忠義を捧げた貴族であるスプリングス氏は、グレイベア村や王国との仲介役として本当に頼りになる存在だった。
彼と共に妖異との戦いに参加したこともあり、今では共に悪魔勇者に立ち向かう戦友と呼べる存在。片腕を失った歴戦の勇士という印象もあって、何となく自分と同じくらいの年齢だろうと勝手に思っていた。
だがこうして田中の隣でそわそわしているスプリングス氏を見ると、普通に若い青年のように見えてくる。
「ときにスプリングスさん。質問が失礼だったら謝罪するが、君の年齢を教えてもらってもいいだろうか」
「今年で26になります」
「ほへっ!?」
田中が驚いていた。知らんかったんかーい! 私もだけどな。
「随分と若いな。まぁ、幼女の私に言われても妙な気がするかもしれないが」
「い、いえ、艦長の年齢は以前、未希……田中さまとお話しているときに」
「あっ、そっ」
ここで私のお見合い強制おばさんパワーは一気にゼロになった。
今、田中の名前を呼び捨てに仕掛けたよな? なんだなんだ!? いい感じになってんじゃないの?
艦長、いらなくね? ここで余計なおせっかいしたら、逆に馬に蹴られて死んじゃう系じゃね?
面倒になった私は投げやりな感じで言った。
「うちの田中もね、まぁ、もういい年でさ。それで彼女のご両親からもね。娘のことをよろしく頼むってお願いされてるんだ。だから、なんというか、遊びは困るというか、その、真面目さというかさ、えっと……」
「もちろんわかってます! わかってるつもりです! 私は……」
私は、自分が何を言いたいのかよくわかってないまま適当に話していただけのに、何かわかってしまったらしいスプリングス氏が大声を上げたので混乱していた。
田中と言えば、目を見開いて手で口元を覆っている。スプリングス氏が何を言い出そうとしているのか、田中にはわかったのだろうか。
その時、
ヴーッ! ヴーッ! ヴーッ!
警報と共に私を呼び出す放送が流れた。
『艦長、グレイベア村に接近中の妖異軍を発見。ルカ村長の要請に基づき、指定ポイントにてドラゴンジャーと合流してください』
ガタッ! と私は音を出して立ち上がる。
「またか!? だが急がねば、また平野のお小言をくらってしまう」
「か、艦長?」
田中が視線で私を引き留めるが、そんなの構ってられん。平野のお小言回避の方が大事だ。
「悪い! 話はまた今度だ」
呆然とする二人を食堂に残し、私はヘリの待つ後甲板へと走って行った。
~ グレイベア村のはずれ ~
「ちょいと遅れてブルーレンジャー参上! とおぅ!」
シュタッと口で音を立て、私は水陸両用多脚型戦闘ドローン・アラクネの後部座席から飛び降りた。
パシャッ! パシャッ!
一緒にアラクネから飛び降りたヴィルミカーラが、私たちの写真を撮り始める。
今日のドラゴンジャーは、レッドことルカ村長、イエローことグレイちゃん、グリーンこと小鉢、そして私、ブルーこと艦長だ!
ちなみにドラゴンジャーやフーワデ・フォーの編成は、その時の状況に応じて変化する。戦力や配置、人気投票などを勘案して、サブメンバーは調整されるのだ。
さらにちなみに、私はどちらの戦隊においても必須のメインメンバーとなっている。何故か、私の出演回はPVが伸びるといのがその理由なのだが、どうして私にそんな人気があるのか全くわからない。
私はドラゴンでもグレイベアでもないし、特に戦闘に秀でた技能があるわけでもない。帝国式格闘術ならそれなりに自信はあるが、幼女の身体ではそれを活かすこともほぼ無理。
なので私の戦い方はドローンに命令するだけ。最近は、アラクネ(とオペレーターのヴィルミカーラ)に指示を出す幼女というスタイルだ。
「それじゃあまりにも芸がないからって、ポーズだけは研究したんだよな」
私がブツブツ言っていると、ルカの怒号が飛んできた。
「遅いのじゃブルー! 敵がもう村の近くまで来てしまったではないか!」
だがルカの態度には一向に焦りはみられなかった。そもそも各種ドローンとセンサーによるグレイベア村周辺の警戒網は完璧。
村の近くまで妖異軍の接近を許したということは、既に彼の戦力分析が完了しており、かつ雑魚判定が出ているということなのだ。
「さっさと片してしまいましょう。スプリングス氏との話を中座してきたんですよ」
「ほう。スプリングスが何かやらかしたのか? あいつは苦労人じゃからな。心労がたたったのかもしれん。何か知らんが大目に見てやってくれ」
「わかってますよ。で、敵はどこに……」
ヴィルミアーシェが私を抱え上げてアラクネに搭乗し、抱っこしたままの状態で双眼鏡を渡してくれた。
「んーっ、あれか……なんか黄色いのが沢山こっちに向ってくるな……うげっ!」
街道の先からこちらへ向かってくる黄色の集団。
その一体一体は、人間の道化師のように見える。
黄色い服と赤いカツラ、赤い鼻……まるでピエロの集団だ。
だがよくよく見ると、頭が異様にデカイのや、手足や目鼻の数が多すぎたり少なかったり。ただいずれの個体も大きな口を開けばそこにギザギザの牙が出鱈目にビッシリと並んでいる。
「夢に出てきそう……さっさと終わらせよう。じゃ、レッドさんからどうぞ!」
ルカ村長が軽く頷いてポーズを決める。
「赤き太陽、心に抱き!」とレッド。
「青き清浄なる世界のために!」とブルー(私)。
「うーっ! 帝国海軍カレーは金曜日!」とイエローことグレイちゃん。
「グリーンニューディール!」と小鉢(シュモネー夫人の娘)ちゃん。
「「「「ドラゴンレンジャー 見参!」」」」
小鉢ちゃんは自分で何を言ってるのかわかってるのかな? 誰が吹き込んだの? まぁ、私も人のことは言えないから黙っておこう。
カメラを構えて私たちの周りを動き回っていたヴィルミカーラからOKサインが出る。
「それじゃ、掃討開始!」
4人が一斉にアラクネの前に並んでポーズを決める!
アラクネの前面に搭載されている96式40ミリ自動擲弾が発射される度に、私たちは決めポーズを変えていった。
それだけのお仕事だった。
妖異は全てアラクネ(オペレータ:ヴィルミカーラ)と飛行ドローン・イタカが掃討した。
後日、その戦闘の配信動画を観てみたが、戦闘シーンはほとんどなく、四人の幼女を紳士目線のカメラが追っているだけのものだった。
ちなみにPV数は当月の最高値を叩き出していた。
とりあえず私は動画を通報しておいた。
当初の予定では、ここで二人に対して大上段から「艦長命令だ! もうお前ら結婚しろ!」と怒鳴り散らしてやるつもりだった。
もしくは「おうおう、スプリングスさんよぉ、うちのお嬢に手を出してただで済むとは思ってねぇよなぁ」とかその筋路線で責めようとか。いくつかパタンを用意はしていたのだ。
だがスプリングス氏が食堂に入ってきて、私の前に田中が座っていることに気が付いたときに「未希さん…」と一瞬つぶやいたのを、私の聞き耳スキル(自称)が拾ってしまった。
あれ……。もしかして、これ放っておけばいいやつじゃね? なんか二人の関係進んでね?
えっ!? えっ!? 田中、お前マジで乙女卒業したの!?
私は食後のアイスコーヒーからストローを抜き出し、指で挟んでタバコのようにスパスパと空気を出し入れしてみた。
「「……」」※二人とも沈黙
田中とスプリングス氏の間に妙な空気が醸成されて始めていた。
シンイチに忠義を捧げた貴族であるスプリングス氏は、グレイベア村や王国との仲介役として本当に頼りになる存在だった。
彼と共に妖異との戦いに参加したこともあり、今では共に悪魔勇者に立ち向かう戦友と呼べる存在。片腕を失った歴戦の勇士という印象もあって、何となく自分と同じくらいの年齢だろうと勝手に思っていた。
だがこうして田中の隣でそわそわしているスプリングス氏を見ると、普通に若い青年のように見えてくる。
「ときにスプリングスさん。質問が失礼だったら謝罪するが、君の年齢を教えてもらってもいいだろうか」
「今年で26になります」
「ほへっ!?」
田中が驚いていた。知らんかったんかーい! 私もだけどな。
「随分と若いな。まぁ、幼女の私に言われても妙な気がするかもしれないが」
「い、いえ、艦長の年齢は以前、未希……田中さまとお話しているときに」
「あっ、そっ」
ここで私のお見合い強制おばさんパワーは一気にゼロになった。
今、田中の名前を呼び捨てに仕掛けたよな? なんだなんだ!? いい感じになってんじゃないの?
艦長、いらなくね? ここで余計なおせっかいしたら、逆に馬に蹴られて死んじゃう系じゃね?
面倒になった私は投げやりな感じで言った。
「うちの田中もね、まぁ、もういい年でさ。それで彼女のご両親からもね。娘のことをよろしく頼むってお願いされてるんだ。だから、なんというか、遊びは困るというか、その、真面目さというかさ、えっと……」
「もちろんわかってます! わかってるつもりです! 私は……」
私は、自分が何を言いたいのかよくわかってないまま適当に話していただけのに、何かわかってしまったらしいスプリングス氏が大声を上げたので混乱していた。
田中と言えば、目を見開いて手で口元を覆っている。スプリングス氏が何を言い出そうとしているのか、田中にはわかったのだろうか。
その時、
ヴーッ! ヴーッ! ヴーッ!
警報と共に私を呼び出す放送が流れた。
『艦長、グレイベア村に接近中の妖異軍を発見。ルカ村長の要請に基づき、指定ポイントにてドラゴンジャーと合流してください』
ガタッ! と私は音を出して立ち上がる。
「またか!? だが急がねば、また平野のお小言をくらってしまう」
「か、艦長?」
田中が視線で私を引き留めるが、そんなの構ってられん。平野のお小言回避の方が大事だ。
「悪い! 話はまた今度だ」
呆然とする二人を食堂に残し、私はヘリの待つ後甲板へと走って行った。
~ グレイベア村のはずれ ~
「ちょいと遅れてブルーレンジャー参上! とおぅ!」
シュタッと口で音を立て、私は水陸両用多脚型戦闘ドローン・アラクネの後部座席から飛び降りた。
パシャッ! パシャッ!
一緒にアラクネから飛び降りたヴィルミカーラが、私たちの写真を撮り始める。
今日のドラゴンジャーは、レッドことルカ村長、イエローことグレイちゃん、グリーンこと小鉢、そして私、ブルーこと艦長だ!
ちなみにドラゴンジャーやフーワデ・フォーの編成は、その時の状況に応じて変化する。戦力や配置、人気投票などを勘案して、サブメンバーは調整されるのだ。
さらにちなみに、私はどちらの戦隊においても必須のメインメンバーとなっている。何故か、私の出演回はPVが伸びるといのがその理由なのだが、どうして私にそんな人気があるのか全くわからない。
私はドラゴンでもグレイベアでもないし、特に戦闘に秀でた技能があるわけでもない。帝国式格闘術ならそれなりに自信はあるが、幼女の身体ではそれを活かすこともほぼ無理。
なので私の戦い方はドローンに命令するだけ。最近は、アラクネ(とオペレーターのヴィルミカーラ)に指示を出す幼女というスタイルだ。
「それじゃあまりにも芸がないからって、ポーズだけは研究したんだよな」
私がブツブツ言っていると、ルカの怒号が飛んできた。
「遅いのじゃブルー! 敵がもう村の近くまで来てしまったではないか!」
だがルカの態度には一向に焦りはみられなかった。そもそも各種ドローンとセンサーによるグレイベア村周辺の警戒網は完璧。
村の近くまで妖異軍の接近を許したということは、既に彼の戦力分析が完了しており、かつ雑魚判定が出ているということなのだ。
「さっさと片してしまいましょう。スプリングス氏との話を中座してきたんですよ」
「ほう。スプリングスが何かやらかしたのか? あいつは苦労人じゃからな。心労がたたったのかもしれん。何か知らんが大目に見てやってくれ」
「わかってますよ。で、敵はどこに……」
ヴィルミアーシェが私を抱え上げてアラクネに搭乗し、抱っこしたままの状態で双眼鏡を渡してくれた。
「んーっ、あれか……なんか黄色いのが沢山こっちに向ってくるな……うげっ!」
街道の先からこちらへ向かってくる黄色の集団。
その一体一体は、人間の道化師のように見える。
黄色い服と赤いカツラ、赤い鼻……まるでピエロの集団だ。
だがよくよく見ると、頭が異様にデカイのや、手足や目鼻の数が多すぎたり少なかったり。ただいずれの個体も大きな口を開けばそこにギザギザの牙が出鱈目にビッシリと並んでいる。
「夢に出てきそう……さっさと終わらせよう。じゃ、レッドさんからどうぞ!」
ルカ村長が軽く頷いてポーズを決める。
「赤き太陽、心に抱き!」とレッド。
「青き清浄なる世界のために!」とブルー(私)。
「うーっ! 帝国海軍カレーは金曜日!」とイエローことグレイちゃん。
「グリーンニューディール!」と小鉢(シュモネー夫人の娘)ちゃん。
「「「「ドラゴンレンジャー 見参!」」」」
小鉢ちゃんは自分で何を言ってるのかわかってるのかな? 誰が吹き込んだの? まぁ、私も人のことは言えないから黙っておこう。
カメラを構えて私たちの周りを動き回っていたヴィルミカーラからOKサインが出る。
「それじゃ、掃討開始!」
4人が一斉にアラクネの前に並んでポーズを決める!
アラクネの前面に搭載されている96式40ミリ自動擲弾が発射される度に、私たちは決めポーズを変えていった。
それだけのお仕事だった。
妖異は全てアラクネ(オペレータ:ヴィルミカーラ)と飛行ドローン・イタカが掃討した。
後日、その戦闘の配信動画を観てみたが、戦闘シーンはほとんどなく、四人の幼女を紳士目線のカメラが追っているだけのものだった。
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