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第五章 フワーデ・フォー

第116話 女王様の近衛兵団

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『女王様の近衛兵団』

 それは、護衛艦フワデラの平野幸奈副長に愛と忠誠を捧げる者たちによって結成された秘密結社である。

 後の歴史学者の多くが、平野副長がスキル【見下し好感度UP】を取得したことから、この組織が生まれたと主張している。

 だが実際には、平野幸奈が護衛艦フワデラに着任した翌日に結成されたユキナFCがその始まりであった。

 ユキナFCのメンバー数が12人に達したその日に『女王様の近衛兵団』が結成されたのである。この初期の12人は『円卓の騎士』と呼ばれ、この秘密結社の中核として現在も厳然たる影響力を有している。

 護衛艦フワデラが異世界転移した時、乗艦していたのは円卓の騎士4名の他、幹部メンバー14名、一般メンバー24名の計42名であった。

 異世界転移に巻き込まれた乗組員249名中、42名。実に六分の一がこの秘密結社『女王様の近衛兵団』のメンバーだったのだ。

「ブリッジブック、現在の団員数を報告してくれないか」

 リーコス村の住人ヴィルフォローランの家に集まった幹部6名がテーブルを囲んで定例会議を開いていた。ちなみに家主のヴィルフォローランは、白狼族で最初に女王様に帰依した男である。

 顔を妖しい黒仮面で覆ったブリッジブックは、紙の資料を他のメンバーたちに配布して報告を始めた。

 ちなみに幹部メンバー以上は、ナイツネームなる呼称が与えられる。また近衛兵団内部では、帝国海軍や世俗の地位とは異なる独自のヒラエルキーが存在している。

「ハッ、ブルーピーク様! 報告させていただきます。現在、フワデラ乗員69名、アシハブア王国騎士団55名、リーコス村住人39名、グレイベア村12名、ミチノエキ村8名、イザラス村4名。またバーグと呼ばれる街に洗礼待ちの者が5名となっております」

 バシンッ!

 青色蝶仮面のブルーピークがテーブルを両手で叩く。

「少ない! 勧誘の努力が足りていないのではないか? どうなんだフロントリバー! 貴様、女王様の威光を曇らせるつもりか!」

「け、決してそのようなことはありません! 女王のおみ足に誓って!」

 その言葉が発せられた瞬間、ブルーピークやフロントリバー、他その場にいる全員が右手を額に当てる奇妙な敬礼姿勢をとる。

「「「女王のおみ足に誓って!!」」」

 敬礼を終えると、ブルーピークがゆっくりと頷く。

「いや、つい熱くなって悪かった。我も本気でフロントリバーの熱意と努力を疑っているわけではないのだ。少し気合を入れておきたくてな。申し訳なかった、フロントリバーには、この『平野副長が嫌な顔しながらスカートをたくし上げているような感じに見えなくもない見下し生写真』をプレゼントしよう」

「おおぉぉ!そう思って見たら本当にそんな感じに見えなくもない写真だ!」

「私の秘蔵の一品だ。貴君の努力にふさわしい一級品であると信ずる。とはいえ……」

 ブルーピークは出席者を一通り見まわして、低い声で語り掛ける。

「とはいえ団員の数が伸び悩んでいるのも事実だ。我々の目標は、この異世界に滞在する間に女王様に一国を捧げること。我々が女王様と共に帝国に帰還した後も、永遠に女王を称え続ける国を建国することである! 女王のおみ足のために!!」

「「「女王のおみ足のために!!」」」

 ビシッ! 一同の手が額を打つ音が響く。

「一国を興すための団員数を集めるためには、我々だけの力では至らぬことも確かである。そこで以前、皆と相談して決めた例の助っ人を呼んでいる」

「「「おおっ!」」」

「フワーデ先生! お出ましください!」

 青峰……ではないブルーピークが空中を指差すと、そこにホログラムフワーデが現れた。

「ハーイ! フワーデちゃんが来たよー!」

「「「おおっ!」」」
  
 コホン。

 ブルーピークが軽く咳払いして皆が静まり返る。

「諸君の中にも、フワーデ親衛隊に所属している者がいると思う。我ら『女王様の近衛兵団』は女王様への忠誠が揺るがぬ限り、他の性癖に対して寛容であることは言うまでもあるまい。諸君も知っての通り、我々とフワーデ親衛隊の関係は非常に良好である」

「俺どっちもイける! もちろん女王様に見下されたいのが一番だけどな!」
「そうだな。女王様に踏まれたい気持ちとロリコンは被らないもんな」
「別腹別腹」
「二人に踏まれたい」

 そうした声を聞いてブルーピークが満足そうに頷いた。

「実際、フワーデ関連のイベントのさくら要員や、フワーデ動画やSNSの高評価・イイネクリックといったサポートを、我々も普段から行っている。そんな我らにお礼をしたいと、フワーデ先生が今回企画を持ち込んでくれたのだ」

 その企画が『ゆきな☆わんこちゃんねる』。

 FuwaTubeで平野副長のチャンネルを開設して信者を増やそうというものだった。

「このチャンネルでは、日ごろ何かと気苦労の多い平野女王様を労わるために、可愛いわんこと触れ合う機会を用意し、その様子を撮影して放映する。そうした触れあいの中で、平野女王様のお考えやお悩み事などを軽い感じで紹介する」

「それではエロがないのでは?」

「その通りだ、フロントリバー。エロを全面に出したりしない。そんなことチラッとでもバレてしまったら、女王様がこのチャンネルを許可するわけがないことはわかるな」

「そ、それはそうだな」

「あくまで動画は健全なものだ。イメージとしては帝国徹子の部屋のような健全さだ。副長には、『副長自身や艦長が、一個人として皆に伝えたいことや知って欲しいことをカジュアルに語って欲しい』とお話している」

「そ、そうか……」

 シュンっと周囲の空気が音を立てて縮む。

「ふふふ。そこでがっかりするようでは、女王様への愛が足りていないと言わざるを得ないな。もちろん、私ほどにもなれば、徹子の部屋に出演する感じの平野女王様でも十分オカズにすることができる。だが、そこまでハイクラスな性癖を諸君に要求したりはしない。これを見よ……」

 ブルーピークが取り出したタブレットに、『ゆきな☆わんこちゃんねる』のPVサンプル動画が再生される。

『護衛艦フワデラの全乗員のため、リーコス村や多くの人々の安全を守るため、艦長を支え、日々重責を負う平野副長にとって、唯一の心の安らぎがワンコちゃんたちとの時間なのです……』

「おおおおお! 女王様の私服シーン! 超レア!」
「いや! 制服のシーンでもこんな優しい笑顔はそうそう見られないぞ!」
「ちょっ! しゃがんでワンコをなでなでするときのカメラアングル! これは 刺さる奴には超刺さるシーンなのに、健全な目で見れば健全だ!」
「イケル! これはイケるぞ!」

 PV再生が終わったときには、全員がブルーピークに感激と尊敬の目を向けていた。

 健全な心で見ればいたって健全で全年齢な動画内容は、まるっきりロリコンなのに一見するとロリコン要素が隠れるような作りになっているため、帝国国民に大ヒットしているジブ……アニメ映画作品のような感じで、多くの視聴者に受け入れられることになる。

 こうして公開された『ゆきな☆わんこちゃんねる』は初日から、FuwaTube史上最多の登録者数と視聴数を達成した。

 当然、それに比例して『女王様の近衛兵団』へ勧誘される怪しい紳士たちの数もうなぎ上りで増えていったのである。

 そして『女王様の近衛兵団』の勢力急増に便乗して、コバンザメの如くフワーデ親衛隊もちゃっかりとその数を伸ばしていたのであった。


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