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第五章 フワーデ・フォー
第112話 ミジンコと銀河皇帝
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「えっ!? 南と坂上の新婚旅行ですか?」
「はい。その代わりと言ってはなんですが、お二人にはちょっとお手伝いしていただきたいことがありまして」
三日に渡る披露宴の中、村長宅(兼司令部)のカフェでシュモネー夫人が私に奇妙な提案を持ち出してきた。
ちなみに結婚して南となった後も、坂上のことは坂上と呼んでいる。揶揄《からか》うときは南春香さんとフルネームで呼ぶと、顔が真っ赤に染まるので楽しい。
「新婚旅行かぁ……それは大事だなぁ……で、お手伝いというのは?」
「私の冒険に一週間ほどお付き合いいただければ。あとは、王都で最高級のホテルを確保していますので観光でも何でも、二人には楽しい思い出の時間を過ごして頂けると思います」
「冒険? 王都? アシハブア王国の問題に二人を利用すると?」
私の眉間にシワが寄るのを見たシュモネー夫人が慌てて付け加える。
「冒険と言っても、道中の二人の安全は私が保障します。私だけでなく同行する冒険者も非常に優秀な者を付けますよ。お二人に求めるのは戦闘技能ではありません。二人に来ていただきたいのは、二人が帝国の人間だからです」
「帝国の?」
「はい。何でしたら艦長さまでも良いのですよ。ただそれは難しいと思いますし、お二人にお願いしたいと思ったのは、新婚旅行も兼ねられるかなと考えたから。それだけです。それに……」
シュモネー夫人が、いたずらっ子が自分の成果を語り始める直前のようにニンマリとした笑顔を浮かべる。
「お二人が向かう先は、アシハブア王国の王都ではありません。ボルヤーグ連合王国の首都です」
「はいぃぃ!?」
思わず声が裏返ってしまった。ボルヤーグ連合王国と言えば、私の娘(主観)のミライが働いているロイド領がある国じゃないか。
「はい。今回のクエストで、お二人には王都とロイド領に同行していただきます。あっ、もちろんクエストが成功した暁には護衛艦フワデラの方にも女神クエストの報酬が入るようにしておきます」
私のインテリ入ってないCPUが負荷率100%を超えて固まってしまった。
色々とツッコミ整理が追い付かないでいる最中、頭の中にフワーデの言葉が浮かぶ。
『タカツがミジンコだとしたら、あの人は銀河皇帝なの! あの人がどんな変なことを言っても絶対に逆らっちゃ駄目だからね!』
いつものフワーデの戯言《たわごと》だと思っていたセリフが、急に現実味を持って私の心を覆って行く。
私は目の前にいる銀髪美人に対して、うすら寒い恐怖を感じつつあった。
「どうかされましたか?(ニコッ)」
「い、いえ……」
その笑顔が怖ぇ。
「し、しかし古大陸に向かうとなると、フワデラを使わなければ往復だけでもかなりの期間が必要になるはず。さすがに半年、一年も二人を艦から離しておくわけにはいきません」
「ひと月ですよ」
「はっ?」
「お二人をお借りする期間はキッチリ一カ月だけです。そのうち一週間だけは私のお手伝いをしていただきますが」
キッチリって……それじゃフワデラでも無理――
「私もタヌァカさんと同じように拠点機能が使えるんですよ」
「ほへ? きょてん……って、あぁ、グレイベア村にある地下ダンジョンと大陸北方にある古代神殿を結ぶワープポイントみたいなやつですか」
「そうです。それで、私はその地下ダンジョンと古大陸を結ぶ拠点を持っています」
「なるほど」
なるほどと思うようなことは一切なかったのだが、私としてはこの話を断る方法を考えていた。
普通に部下を手の届かない場所に行かせたくないからだ。
今でも遠方に駐在しているフワデラの乗組員がいないわけではない。北方のイザラス村やグレイベア村、そしてアシハブア王国に計32名の乗組員が滞在している。
だが彼らとは、各所に配置されたフワーデの通信中継ドローンによって24hいつでも連絡が取れる状態だ。さらに各種戦闘ドローンも配置されており、万が一戦闘が発生した場合でも十分対応することができるだろう。
だが古大陸となれば、我々の支援はまったく届かない。そんなところに二人を行かせるわけには……。
「いや、まぁ……二人の意志を確認してみないことには……」
「お二人でしたら、とても喜んでいましたよ。あとは艦長さまの許可だけです」
「うーん」
その後も私は、シュモネー夫人にあれこれと難癖レベルの質問をして、二人の安全について問い詰めた。彼女はそのすべてに対して丁寧に答えを返してきた。
「ムムムッ」
「ふうっ……。どうしても不安が除けないみたいですね」
当たり前だ。我々が帝国に帰るその時に誰一人欠けさせたりはしない。
「わかりました。では艦長さまだけにお見せしましょう。少しお散歩にお付き合いいただけますか?」
そう言って、私はシュモネー夫人に誘われて夜の海辺へと出向いた。
シュモネー夫人が運転する73式小型トラックが海岸沿いを進む。彼女がどうして運転できるのかなんて、私はもう考えることさえしない。
「あちらを……」
シュモネー夫人が夜空を指差す。
「なっ!?」
異世界の月が二つ浮かぶ夜空に現れた巨大な影……
いや……船影か!?
ザバーン!
続いて異世界の海から立ち上がる巨大な影……
一瞬、岩トロルかと勘違いしたソレを見て、私は驚愕するあまりプルプル震えていた。
シュモネー夫人が静かな口調で私に語り掛ける。
「彼らが二人を守ります。二人を無事にお返しすることをお約束しますわ」
私の頭の中にフワーデの言葉がリフレインする。
『タカツがミジンコだとしたら、あの人は銀河皇帝なの! あの人がどんな変なことを言っても絶対に逆らっちゃ駄目だからね!』
しばらく後、リーコス村の村長宅(兼司令部)に戻った私は、南と坂上に新婚旅行の許可を出した。
「はい。その代わりと言ってはなんですが、お二人にはちょっとお手伝いしていただきたいことがありまして」
三日に渡る披露宴の中、村長宅(兼司令部)のカフェでシュモネー夫人が私に奇妙な提案を持ち出してきた。
ちなみに結婚して南となった後も、坂上のことは坂上と呼んでいる。揶揄《からか》うときは南春香さんとフルネームで呼ぶと、顔が真っ赤に染まるので楽しい。
「新婚旅行かぁ……それは大事だなぁ……で、お手伝いというのは?」
「私の冒険に一週間ほどお付き合いいただければ。あとは、王都で最高級のホテルを確保していますので観光でも何でも、二人には楽しい思い出の時間を過ごして頂けると思います」
「冒険? 王都? アシハブア王国の問題に二人を利用すると?」
私の眉間にシワが寄るのを見たシュモネー夫人が慌てて付け加える。
「冒険と言っても、道中の二人の安全は私が保障します。私だけでなく同行する冒険者も非常に優秀な者を付けますよ。お二人に求めるのは戦闘技能ではありません。二人に来ていただきたいのは、二人が帝国の人間だからです」
「帝国の?」
「はい。何でしたら艦長さまでも良いのですよ。ただそれは難しいと思いますし、お二人にお願いしたいと思ったのは、新婚旅行も兼ねられるかなと考えたから。それだけです。それに……」
シュモネー夫人が、いたずらっ子が自分の成果を語り始める直前のようにニンマリとした笑顔を浮かべる。
「お二人が向かう先は、アシハブア王国の王都ではありません。ボルヤーグ連合王国の首都です」
「はいぃぃ!?」
思わず声が裏返ってしまった。ボルヤーグ連合王国と言えば、私の娘(主観)のミライが働いているロイド領がある国じゃないか。
「はい。今回のクエストで、お二人には王都とロイド領に同行していただきます。あっ、もちろんクエストが成功した暁には護衛艦フワデラの方にも女神クエストの報酬が入るようにしておきます」
私のインテリ入ってないCPUが負荷率100%を超えて固まってしまった。
色々とツッコミ整理が追い付かないでいる最中、頭の中にフワーデの言葉が浮かぶ。
『タカツがミジンコだとしたら、あの人は銀河皇帝なの! あの人がどんな変なことを言っても絶対に逆らっちゃ駄目だからね!』
いつものフワーデの戯言《たわごと》だと思っていたセリフが、急に現実味を持って私の心を覆って行く。
私は目の前にいる銀髪美人に対して、うすら寒い恐怖を感じつつあった。
「どうかされましたか?(ニコッ)」
「い、いえ……」
その笑顔が怖ぇ。
「し、しかし古大陸に向かうとなると、フワデラを使わなければ往復だけでもかなりの期間が必要になるはず。さすがに半年、一年も二人を艦から離しておくわけにはいきません」
「ひと月ですよ」
「はっ?」
「お二人をお借りする期間はキッチリ一カ月だけです。そのうち一週間だけは私のお手伝いをしていただきますが」
キッチリって……それじゃフワデラでも無理――
「私もタヌァカさんと同じように拠点機能が使えるんですよ」
「ほへ? きょてん……って、あぁ、グレイベア村にある地下ダンジョンと大陸北方にある古代神殿を結ぶワープポイントみたいなやつですか」
「そうです。それで、私はその地下ダンジョンと古大陸を結ぶ拠点を持っています」
「なるほど」
なるほどと思うようなことは一切なかったのだが、私としてはこの話を断る方法を考えていた。
普通に部下を手の届かない場所に行かせたくないからだ。
今でも遠方に駐在しているフワデラの乗組員がいないわけではない。北方のイザラス村やグレイベア村、そしてアシハブア王国に計32名の乗組員が滞在している。
だが彼らとは、各所に配置されたフワーデの通信中継ドローンによって24hいつでも連絡が取れる状態だ。さらに各種戦闘ドローンも配置されており、万が一戦闘が発生した場合でも十分対応することができるだろう。
だが古大陸となれば、我々の支援はまったく届かない。そんなところに二人を行かせるわけには……。
「いや、まぁ……二人の意志を確認してみないことには……」
「お二人でしたら、とても喜んでいましたよ。あとは艦長さまの許可だけです」
「うーん」
その後も私は、シュモネー夫人にあれこれと難癖レベルの質問をして、二人の安全について問い詰めた。彼女はそのすべてに対して丁寧に答えを返してきた。
「ムムムッ」
「ふうっ……。どうしても不安が除けないみたいですね」
当たり前だ。我々が帝国に帰るその時に誰一人欠けさせたりはしない。
「わかりました。では艦長さまだけにお見せしましょう。少しお散歩にお付き合いいただけますか?」
そう言って、私はシュモネー夫人に誘われて夜の海辺へと出向いた。
シュモネー夫人が運転する73式小型トラックが海岸沿いを進む。彼女がどうして運転できるのかなんて、私はもう考えることさえしない。
「あちらを……」
シュモネー夫人が夜空を指差す。
「なっ!?」
異世界の月が二つ浮かぶ夜空に現れた巨大な影……
いや……船影か!?
ザバーン!
続いて異世界の海から立ち上がる巨大な影……
一瞬、岩トロルかと勘違いしたソレを見て、私は驚愕するあまりプルプル震えていた。
シュモネー夫人が静かな口調で私に語り掛ける。
「彼らが二人を守ります。二人を無事にお返しすることをお約束しますわ」
私の頭の中にフワーデの言葉がリフレインする。
『タカツがミジンコだとしたら、あの人は銀河皇帝なの! あの人がどんな変なことを言っても絶対に逆らっちゃ駄目だからね!』
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