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第五章 フワーデ・フォー
第106話 幼女化解除の拒否理由
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異世界に来てから、ほとんどを幼女の姿で過ごしているせいか、今ではすっかりと幼女艦長が板についてきた。
私と一緒に幼女になった帝国水陸機動隊48名は、既にシンイチのスキル【幼女化解除】によって元の屈強な姿へ戻っている。
私だけは、シンイチとの約束で護衛艦フワデラが帝国に還る際に、ライラを帝国に連れて行くことが確実になるときまで保留ということになっている。
とはいえ、その後の信頼関係が築かれていったこともあって、シンイチは
「あんな約束しましたけど、今はフワデラの皆さんのことは信用しています。だから艦長の【幼女化解除】もさせていただきますよ。今からでも解除しますか?」
なんてことを言ってくれたこともあった。
「いやいやいや! それはそれ、ほら、約束は約束だから!」
というのが、その時の私の答えだ。
幼女生活を満喫しているわけではない。決してそうではない! 本当は元のムキムキ艦長に戻りたい! そう思ってる! ほんとだよ?
そのときのシンイチとの会話を思い出しながら、私は艦橋で平野副長に抱っこしてもらっていた。
「そんなことを言ってくれるなんて、シンイチくんは私たちに心を許してくれているんですね。それで艦長、どうして元の姿に戻してもらわなかったのですか?」
すべてを見透かす平野副長のクールアイが私に向けられる。
「シンイチにも答えたけど、本当に約束だからだよ。彼が私たちを信用してくれているのであれば、私もそれに応えたい。それだけだ」
私は眉をひそめて思慮深げな感じでしかめっ面を作り、遠くの海に視線を向ける。
その瞬間、
「チョーウケルゥゥゥゥ!」
いつの間にか背後に土岐川雪乃二等水兵が立っていて、私を指差して大爆笑していた。
彼女のスキル【チョー受ける真偽判定】は、対象が嘘をついているかどうかを正確に判定することができるものだ。
平野副長が冷たい声で私に告げる。
「私が呼びました。もちろん艦長には彼女のスキルを発動済みです」
こいつのスキルに私は何度も酷い目に合わされている。平野副長や女性乗組員からは自業自得と言われているが、そんなことしるか! 私は幼女なんだぞ!
「土岐川ぁぁぁぁ!」
私と視線を交差させた土岐川二等水兵の顔は、笑顔で一杯だったが、その目は恐怖で見開かれて涙が流れていた。
わかる。今回もわかってやるぞ土岐川。上官の命令は絶対だ。平野副長にNOを言えるはずもなかろう。お前は仕方なく私にスキルを発動しているのであろう。
だがゆるざん!
今回も、あとでかんちょー攻撃してやる!
いつものように私が両手をかんちょー形態に組むと、土岐川の顔が青ざめる。
まぁ、土岐川は後でかんちょーの刑に処すとして、シンイチの【幼女化解除】の申し出を断ったのには訳がある。
理由はシンプル。この姿の方がいろいろ都合がいいからですが? 何か問題が?
それに南大尉を始めとする水陸機動隊が、元の姿に戻った後の混乱もその理由のひとつだ。
一部の隊員が、幼女だったときの感覚のまま普通に抱っこをせがんだり、女湯に入ろうとしたりしてしまったのだ。大の大人が幼女の口調で「抱っこ」とせがむ様子は、傍から見ていると地獄である。
つまり大騒動になった。
その後、坂上大尉率いる帝国特別警備隊によって捕らえられた隊員たちが、後甲板の格納庫にパンツ一丁で吊るされた姿(女性隊員はジャージで正座)を見たとき、私は心の底から震えた。
続いて開かれたセクハラ断罪裁判で、水陸機動隊の中にはトラウマを抱えるまでに至った者もいる。
ちなみにその中に南大尉はいなかった。後で話を聞いたら南大尉はすでに坂上大尉によって調教……教育的指導を受けていたらしい。なので他の隊員たちの失態に巻き込まれることはなかった。
ふと我に返ると、私の目の前には平野副長のすべてを見通す瞳がそこにあった。
「それで? 艦長が元の姿に戻らないのはどういう理由なのですか?」
ここで嘘を言ってしまったら、また土岐川の大爆笑が始まってしまう。
「そ、それは……この姿になじんでいるし、この世界で出会った人々とはこの姿で交流しているわけで……いろいろ都合がいいんだよ」
「ジィィィ……」
平野副長の視線圧力に思わず目を逸らしてしまったが、嘘はついてない!
土岐川に目を向けると、彼女はボーッと私を見つめていた。
私がスッと指をかんちょー型に組んで土岐川に向けると、彼女は「ヒッ!?」と言って後ずさる。
「優秀な部下を脅すのはやめてください」
平野副長に空いている方の手でデコピンされた。
この話題はとりあえずこれで終わったが、私の内心はその後もおだやかならざるものだった。
就寝時間となり、私は艦長室のベッドに横たわりながら、格納庫に吊るされた隊員たちとセクハラ断罪裁判のことを思い返す。
「間違いなくあいつらより、私の方が凄いことを色々やらかしているんだよなぁ……」
元の大人に戻ったにも関わらず、まだ幼女のつもりで行動した連中は自業自得である。なのだが、そうでない隊員たちも幼女の時の行動を批難されていた。
幼女のときは許されていた諸々が、元の大人の姿になったら極悪犯罪者のように扱われている。当然といえば当然だが、理不尽と言えば理不尽でもある。
もし幼女から元のムキムキ艦長に戻ったら、どのような糾弾が私に向けられるのだろうか?
それを考えたら超不安で眠れない。
いや幼女だから、遅くまで起きてられないし、すぐに寝ちゃうんだけど。
できれば帝国に戻って妻に色々と弁明が完了するまで、シンイチには【幼女化解除】を待って欲しい。
帝国に戻ってもシンイチは【幼女化解除】スキルは使えるのだろうか?
いやそもそも、幼女のままで帝国に戻れるのだろうか?
そんなことを考えていたら、目が冴えて夜も眠れな……
スーッ
スーッ
スピーッ
私と一緒に幼女になった帝国水陸機動隊48名は、既にシンイチのスキル【幼女化解除】によって元の屈強な姿へ戻っている。
私だけは、シンイチとの約束で護衛艦フワデラが帝国に還る際に、ライラを帝国に連れて行くことが確実になるときまで保留ということになっている。
とはいえ、その後の信頼関係が築かれていったこともあって、シンイチは
「あんな約束しましたけど、今はフワデラの皆さんのことは信用しています。だから艦長の【幼女化解除】もさせていただきますよ。今からでも解除しますか?」
なんてことを言ってくれたこともあった。
「いやいやいや! それはそれ、ほら、約束は約束だから!」
というのが、その時の私の答えだ。
幼女生活を満喫しているわけではない。決してそうではない! 本当は元のムキムキ艦長に戻りたい! そう思ってる! ほんとだよ?
そのときのシンイチとの会話を思い出しながら、私は艦橋で平野副長に抱っこしてもらっていた。
「そんなことを言ってくれるなんて、シンイチくんは私たちに心を許してくれているんですね。それで艦長、どうして元の姿に戻してもらわなかったのですか?」
すべてを見透かす平野副長のクールアイが私に向けられる。
「シンイチにも答えたけど、本当に約束だからだよ。彼が私たちを信用してくれているのであれば、私もそれに応えたい。それだけだ」
私は眉をひそめて思慮深げな感じでしかめっ面を作り、遠くの海に視線を向ける。
その瞬間、
「チョーウケルゥゥゥゥ!」
いつの間にか背後に土岐川雪乃二等水兵が立っていて、私を指差して大爆笑していた。
彼女のスキル【チョー受ける真偽判定】は、対象が嘘をついているかどうかを正確に判定することができるものだ。
平野副長が冷たい声で私に告げる。
「私が呼びました。もちろん艦長には彼女のスキルを発動済みです」
こいつのスキルに私は何度も酷い目に合わされている。平野副長や女性乗組員からは自業自得と言われているが、そんなことしるか! 私は幼女なんだぞ!
「土岐川ぁぁぁぁ!」
私と視線を交差させた土岐川二等水兵の顔は、笑顔で一杯だったが、その目は恐怖で見開かれて涙が流れていた。
わかる。今回もわかってやるぞ土岐川。上官の命令は絶対だ。平野副長にNOを言えるはずもなかろう。お前は仕方なく私にスキルを発動しているのであろう。
だがゆるざん!
今回も、あとでかんちょー攻撃してやる!
いつものように私が両手をかんちょー形態に組むと、土岐川の顔が青ざめる。
まぁ、土岐川は後でかんちょーの刑に処すとして、シンイチの【幼女化解除】の申し出を断ったのには訳がある。
理由はシンプル。この姿の方がいろいろ都合がいいからですが? 何か問題が?
それに南大尉を始めとする水陸機動隊が、元の姿に戻った後の混乱もその理由のひとつだ。
一部の隊員が、幼女だったときの感覚のまま普通に抱っこをせがんだり、女湯に入ろうとしたりしてしまったのだ。大の大人が幼女の口調で「抱っこ」とせがむ様子は、傍から見ていると地獄である。
つまり大騒動になった。
その後、坂上大尉率いる帝国特別警備隊によって捕らえられた隊員たちが、後甲板の格納庫にパンツ一丁で吊るされた姿(女性隊員はジャージで正座)を見たとき、私は心の底から震えた。
続いて開かれたセクハラ断罪裁判で、水陸機動隊の中にはトラウマを抱えるまでに至った者もいる。
ちなみにその中に南大尉はいなかった。後で話を聞いたら南大尉はすでに坂上大尉によって調教……教育的指導を受けていたらしい。なので他の隊員たちの失態に巻き込まれることはなかった。
ふと我に返ると、私の目の前には平野副長のすべてを見通す瞳がそこにあった。
「それで? 艦長が元の姿に戻らないのはどういう理由なのですか?」
ここで嘘を言ってしまったら、また土岐川の大爆笑が始まってしまう。
「そ、それは……この姿になじんでいるし、この世界で出会った人々とはこの姿で交流しているわけで……いろいろ都合がいいんだよ」
「ジィィィ……」
平野副長の視線圧力に思わず目を逸らしてしまったが、嘘はついてない!
土岐川に目を向けると、彼女はボーッと私を見つめていた。
私がスッと指をかんちょー型に組んで土岐川に向けると、彼女は「ヒッ!?」と言って後ずさる。
「優秀な部下を脅すのはやめてください」
平野副長に空いている方の手でデコピンされた。
この話題はとりあえずこれで終わったが、私の内心はその後もおだやかならざるものだった。
就寝時間となり、私は艦長室のベッドに横たわりながら、格納庫に吊るされた隊員たちとセクハラ断罪裁判のことを思い返す。
「間違いなくあいつらより、私の方が凄いことを色々やらかしているんだよなぁ……」
元の大人に戻ったにも関わらず、まだ幼女のつもりで行動した連中は自業自得である。なのだが、そうでない隊員たちも幼女の時の行動を批難されていた。
幼女のときは許されていた諸々が、元の大人の姿になったら極悪犯罪者のように扱われている。当然といえば当然だが、理不尽と言えば理不尽でもある。
もし幼女から元のムキムキ艦長に戻ったら、どのような糾弾が私に向けられるのだろうか?
それを考えたら超不安で眠れない。
いや幼女だから、遅くまで起きてられないし、すぐに寝ちゃうんだけど。
できれば帝国に戻って妻に色々と弁明が完了するまで、シンイチには【幼女化解除】を待って欲しい。
帝国に戻ってもシンイチは【幼女化解除】スキルは使えるのだろうか?
いやそもそも、幼女のままで帝国に戻れるのだろうか?
そんなことを考えていたら、目が冴えて夜も眠れな……
スーッ
スーッ
スピーッ
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