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第二章 古大陸編

第58話 白髪男ガラム

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 ミライによると、白髪の男は、ガラム・キングスレイというプラチナクラス冒険者だった。以前、ミライがこの港町に来た時、大変お世話になった人物だということだ。

「むぅ。娘がお世話になったというのであれば、あまり酷い態度を取るのも大人げないな。仕方ない、ここは休戦としてやろう」

「娘? 艦長の娘さんは帝国にいらっしゃるのでは?」

「青峰、これは形而上学的比喩だ。いちいちツッコミを入れるんじゃない」

「ハッ! 失礼しました」

 私と青峰のやりとりが終わるのを白髪の男は静かに待っていた。

「やっ、これは失礼した。私は帝国海軍 護衛艦フワデラ艦長タカツだ。よろしく」
 
 そうして私は手を差し出す。言葉は通じずともこれが挨拶だということは伝わるだろう。まぁ、すぐにミライが通訳してくれたのだが。

 白髪男は私の手を軽く握って挨拶的な口上を述べた。不思議なことに、私には彼の言葉が部分的にではあるが理解できていることに気が付いた。

「艦長さん、ガラムさんは『女神ラヴェンナの導きで、偉大なる魔法使いに出会えた幸運を感謝する。それとミライを大事にしてくれてありがとう』っておっしゃってます」

 ミライの通訳を聞いたとき、私はその半分以上を理解していたことに驚いた。どういうことだ? もしかして私は言語習得スキルでも持っていたりするのか?

 ピピッ!

 そのときインカムにフワーデから通信が入る。

「タカツ! 神様から返事が来たよ!」

「それで返事の内容は?」

「Bot攻撃は止めて欲しいって!」

「お、おう。そうだな……って、言葉の件について聞きたいのだが?」

「えっとね。言葉が理解できないのは、やっぱり人数が多過ぎるのが一番の理由だったみたい。今、急いで対応してくれてるみたいだけど、数日掛かりそうだって」

「数日か……えらく曖昧だが、まぁ待てないということもないな」

 先ほど白髪男の言葉が少し理解できたのは、その対応が進んでいることの影響なのかも知れない。

「ちなみにワタシはもうマスターしたよ!」

「えーっ、それってズルくない? どちらかといえば私の優先度を上げて欲しかったぞ」

「ワタシは女神だから特別なの! 未だ乗組員は全員対応中なう!」

 なう? それもこの大陸の言葉なのか?まぁ仕方ない……私はミライの代わりにフワーデに通訳を任せることにした。

 聞き取りはフワーデの同時通訳、話すときは私が小声でつぶやいた言葉をフワーデが翻訳して発音するのをマネることにする。

『ガラム……サン、コチラコソ、ミライヲタスケタクレタ、アリガト』

 私が突然この大陸の共通語を話し始めたのでミライや白髪男が驚く。

『艦長さん! 今日ここに来たばかりで、もう共通語を話せるようになったんですか!? 凄いです! さすがは大魔法使いです!』

『そうなのか? 見た目は幼いが本当に凄い魔法使いなのだな』

 白髪男が目を細めて私たちをじっくりと観察する。その目の中に私たちに対する興味がメラメラと立ち昇るのが見て取れた。

『タカツ殿、よろしければ皆さんと少しお話する時間を頂けないだろうか。この町で最高の食事と酒を用意する。ミライとここに訪れた経緯や魔法について聞かせて欲しい。もしこの町に来た目的で手伝えることがあれば協力しよう』

 その物腰や纏うオーラは歴戦の戦士とも見える白髪男のガラムの顔が、まるで子供のような好奇心で満たされていく。これが本物の冒険者というやつなのだろうか。

『ワカッタ、ワタシタチ、モ、ハナシアル。ショクジ、カンゲイ』

『おお、そうか! では早速、席を設けよう! ケティ! 二階部屋を借りるぞ! ミライ、酒場から最高の酒を持って来てくれ!』

 ガラムの言葉を受け、受付嬢はコクコクと頷いて奥の部屋へ駈け込んで行った。ミライもギルド付属の酒場のカウンターに飛んで行く。

『しまった! タカツ殿、申し訳ない。以前、彼女はここの酒場で働いていたので、つい昔の癖で使ってしまった』

 そう言ってガラムは頭を下げた。



~ 会食 ~

 私たちは冒険者ギルドの二階にある部屋を借りて、そこ会食を行なった。

 途中、ギルドマスターと言う偉い人が挨拶に来たがすぐに戻っていった。その短いやり取りで、ガラムがこのギルドで非常に重要な人物であることがわかった。

 会食が進む中、ガラムは高級そうなお酒を進めてくれたのを私は丁寧に断る。幼女の身体の私にとってお酒は美味しいものではないという理由ではない。あくまで警戒のためだ。

 青峰と相模が残念そうな顔をしていたが、あくまで警戒のためだ。私が美味しくないからという理由ではない。決してない。

 ただミライにはお酒を飲むことを許可した。というか勧めた。この大陸では成人であるということだし、懐かしい恩人との再会だ。彼女には存分に楽しんでもらいたい。

 実際、お酒の入った二人は口も軽くなって様々なことを話していた。その合間を縫って、私は会話に割り込んでこの大陸についての情報を聞き出していった。

 もちろん、ガラムの好奇心を満たすために彼の質問にも可能な限り答えていく。

 この会食は大成功だった。何故なら――

 この白髪男ガラムが領主の食客であることが分かったからだ。
 
 彼はロイド子爵との古くからの義兄弟であり、
 
 ロイド子爵の屋敷内になんと自分の部屋まで持っていた。
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