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第一章 護衛艦フワデラ

第53話 タヌァカの捜索

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 ロコたちとの会合では予想以上に多くの情報を得ることができた。

 その後、護衛艦フワデラに戻った私は各科長を士官室に集め、今後の行動について話し合っていた。

「村で保護している三人はグレイベア村に戻り、準備を整えた後にタヌァカ氏の捜索に向かうそうだ。どうやらタヌァカ氏は転移スキルを所持しているらしく、それを使えば瞬時にグレイベア村に戻ってくるという可能性もあるらしい」

 私の説明に東雲機関長が手を上げて質問する。

「それならわざわざ捜索に行かずに、グレイベア村で待っていればいいのでは?」

「転移と言っても、転移装置間での移動ができるというもので、タヌァカ氏のスキルはその装置を作動させるというものだ。そして現状では転移装置は2カ所しか確認されていないらしい。そのひとつが、先日、我々が破壊した古代神殿の前だ」

「うわぁ……無理っぽいですね」

「難しいだろうな。化け物は掃討されているが、そもそもドラン高原からはかなりの距離がある」

 ロコたちによるとタヌァカ氏はまだ17歳かそこらの少年だということだった。この世界においては成人になるらしい。

 彼には強力な精霊が付いているということだったが、単身での行動は何かと不便も多いことだろう。

 タヌァカ氏の幼女化スキルは、今のところチートな無双振りを発揮しているようだが、いつまでも魔族軍が手をこまねいているとも思えない。

 頭の良い奴が対応策を捻り出すのは時間の問題だろう。

 それがどのようなものになるかは分からないが、私たちでも狙撃手を使って遠距離から仕留めるとか幾らでも方法は思いつく。

 魔族軍だけがタヌァカ氏個人の対応に行き詰まるとは考えにくい。

「一刻も早くタヌァカ氏を見つけなくては……」

 リーコス村にいるトルネラが手を上げて発言を求める姿が士官室のモニタに映し出された。

「手掛かりがまったくないわけではないのです。タヌァカ様が連れている精霊が伝言を残していますし、大陸中にいるルカ様の眷属と接触できれば彼らから保護を受けていることでしょう。そうであれば彼らが連絡してくるはずです」

「最後の伝言はいつですか?」

 私の質問にトルネラは少し思案した後に答えた。

「ひと月ほど前です。ライラ様を見つけたのでドラン大平原に向うとの伝言が風の精霊たちから送られてきました」

 タヌァカ氏の姿こそ確認してはいないものの、ドラン大平原で幼女にされた私が、最も新しい彼の所在情報を持っているということになる。

「あの~。ルカ様とライラ様というのは~」

 恐る恐る手を上げて質問する草壁医官にトルネラが答える。

「ルカ様は、偉大なる空の覇者、地の王、魔族の頂点にして今やグレイベア村とその村にある地下要塞の主の幼女妻でございます。ライラ様は、火を統べる赤竜、大陸に比類なき幼女ルカ様の夫たるタヌァカ様の妻にして、ルカ様専属のお世話係、ワタシが心を捧げた愛しい女性でございます」

「長い! 全然わかんない!」

 東雲機関長が両手を上げて降参のポーズをとる。私も彼女に同意だ。頭が混乱してきたので順を追ってトルネラに確認する。

「えっと、ルカさんというのがタヌァカ氏の妻? ドラゴンで幼女なの?」 

「はい」

「それでライラさんというのは……」

「タヌァカ様の最愛の妻でございます」

「なるほど、なるほど」

 つまり、この異世界は一夫多妻制ということなのだろうか。

「マコト氏ね……ぶつぶつ」

 マズイ。夫の浮気が原因で離婚した平野が病みモードに入り始めた。もしこのまま平野が暗黒モードに入ってしまったら大変なことになってしまう。

 そうなってしまったら、今は幼女の私ですら心労でハゲ散らかすことになりかねない。

 平野を暗黒モードからリカバリできる唯一の存在は私の妻だ。しかし妻はこの異世界にいない。私がなんとかせねば。
 
 いきなり病み始めた平野と焦る私の様子を見たトルネラが慌てて説明する。

「えっ、あっ、言葉が足りませんでした。ルカ様とタヌァカ様の関係は、あくまで名目上のもので、魔族間でのみ通用する肩書のようなものに過ぎません。タヌァカ様が愛する女性はライラ様だけ! ライラ様だけなのです! 」

「マコト氏ねマコト氏ねマコト氏ねマコト氏ね……マコトですか?」

 平野が戻りかけている! 平野、 戻ってこい! 俺たちと一緒に行こう、平野!

「ええ、ええ、周りがやたらとハーレムを作ったりしてるのに、タヌァカ様はずっとライラ様一筋の素晴らしい御方です! ですよ!」

 平野の全身の闇オーラがプシューと音を立てて消え始めた。

 安堵のあまり私は腰砕けになる。

 それにしても面倒くさい。ほんと人間って面倒くさい。

 そう言えばタヌァカ氏は17歳。この世界では成人でも帝国ならまだ少年だし、難しい年頃でもある。下手に機嫌を損ねて非協力的になられるとやっかいなことになりかねない。

 ならば出会うまでにタヌァカ氏の好感度を上げたり、できれば貸しを作ることも考慮しておくべきだ。

 だがそれ以前に、うちの乗組員《クルー》たちがタヌァカ氏に悪い印象を抱かないようにしないとな。むしろ好感を持たせるくらいにしておかないと、思わぬトラブルを呼びかねん。

 プシュッと音がして、平野は通常モードへの完全移行を終えた。

 そして会議が再開されたのだが、私たちが今後の行動計画をまとめ上げたのは、日付が変わる直前のことだった。
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