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第一章 護衛艦フワデラ

第40話 古代神殿の悪夢②

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 神殿の内部には予想以上の恐ろしい光景が広がっていた。

 まず真っ暗な空間にライトを当てると、天上や床が継ぎ目のない金属らしきものになっており、神殿の外見とは大きく異なるテクノロジーを感じさせるものとなっていた。

 ただ魔法があるような世界なのだから、一概にオーバーテクノロジーと言い切るわけにもいかない。

 とはいえ、私たちがこの世界に来てから見聞きしてきたものとは、明らかに一線を画していた。

「か、艦長! 壁一面に脳が並んでます!」

 そう言って南大尉がライトを向けた場所に目をやると、そこには液体が入ったカプセルが数えきれないほど並んでいるのが見える。

「この中に入っているのは脳なのか?」
 
 カプセル内の物体はその形からおそらくは脳だと推定できるものの、色は黒ずんでおり腐食しているように見える。
 
 私が北方人に以前訪れたときと同じ光景であるか尋ねると、北方人たちは首を振って否定する。

「前に来たときは、ここは天上が光っていて眩しいくらいでした」

「脳もこんなに黒くなかったし、筒の中で浮かんでいたぜ。それにここはこんなに寒くなかった」

 そう言って北方人は両腕を組んで体を震わせた。ということは……何かの原因で動力が断たれ、今は稼働していないということか。この施設ごと放棄されたということなら良いのだが。
 
「道中で襲ってきた化け物たちはここを守っていたんでしょうか」

 ちょうど私が考えていた疑問を坂上大尉が言った。その言葉を受けて南大尉が、

「もしそうなら、この脳みそ陳列棚以外に守るべきものがあるってことじゃないですかね?」

 と私の方を見て行った。おそらくその通りだろう。
 
 ということはつまり……
 
「魔鉱石か」

「かもですね」
 
 私の言葉を受けて南大尉がゆっくりと頷いた。

「ではこれより魔鉱石の探索を開始する!」

「この脳みそカプセルはどうしますか?」

「大尉のいとこは別の場所に移されているようだし、ここはもう気にしなくて良いだろう。『ここで悍ましい実験か何かが行なわれていた』という事実だけで、我々には十分だ」

 私は艦内と連絡を取って、犬型ドローンのティンダロスにこの広間の詳細を撮影させる。撮影の際に下り階段が見つかった。

 この広間への入り口を除けば、これが唯一の出口になっているようだ。

「この下……なんだか嫌な感じがします」

 ボソッと坂上大尉がつぶやいた。私も完全に同意する。妙に鼻を付く酸っぱいような臭いがする上、何となくブーンと空気が震える音が聞こえる気がする。

 この先にミ=ゴがいるのは間違いない。

「まさかド定番の展開で、この下に大量の幼体とマザーがいたりしませんよね?」

 フラグ大好き南大尉がまた余計なことを口に出した。

「おまっ、そういうのは思ってても言うんじゃない! 怖いだろ!」

「す、すみません!」

 突然、ヴィルミカーミラが私の肩を叩く。振り返ると白狼族の二人はとても険しい表情をしていた。

「み、みなみはた、正しい。こ、この下から羽音がす、する。そ、それも沢山……」

「引き返した方が良いかもしれない。進むなら慎重に慎重を重ねて、もし見つかったら逃げることを最優先にすべきだと思う」

 ヴィルフォアッシュの額に汗が浮かんでいる。私の感も撤退を訴えていた。だが……

「できれば魔鉱石の存在を確認しておきたい」

「魔鉱石を見たら即撤退ということで良いですか?」

「この先の状況次第だが、そうだな欲はかかずに行こう」

「了」

 私は坂上大尉と4機のティンダロスにグレネードランチャーの発射準備を命じた。もしこの先に巣穴があった場合、グレネードで混乱している間に撤退する。

 フワーデには飛行ドローンが動けるギリギリのところで待機してもらう。万が一のときにはそこまで命がけで逃走るすることになるだろう。

「後でミサイルを誘導するのに使うから、私はここに置いて行って!」

 フワーデの提案によって、運んできた飛行ドローンをこの場に残し、私たちは地下へと降りる。



~ 古代神殿地下 ~

 階段途中にはいくつも巨大な柱が並んでいる。私たちは柱の陰に身を潜めて、地下を観察することにした。

 階段を下りた先には真っ暗闇の空間が広がっており、その地面のあちこちでうっすらとした光が蛍のように明滅していた。

 このわずかな光源のおかげで暗視ゴーグルが使えそうだ。

「「うひぃぃ!」」

 地下に降りた私は暗視ゴーグル越しに見える地獄の風景に怯え、南大尉と抱き合っていた。

「艦長! エイリアンですよ! エイリアンワン・ツー・スリー・ファイブですよぉぉ!」

 そんな南大尉のボケに対してツッコミを入れる余裕もなく、私の身体はガクガクブルブルを永久ループしていた。なにせ幼女の身体だから、恐怖耐性がないのは仕方ない。仕方ないことなのだ。

「一番奥に巨大な個体がいますね。あれが母体なのでしょうか」

 坂上大尉が冷静に分析していた。

「タカツ様、あのうっすらと光っているのが魔鉱石です。明滅しているのは化け物たちが魔力を吸っているのかもしれません」

 ヴィルフォアッシュが声を潜めて私に囁いた。

「だとすると、ここには大量の魔鉱石があるということか」

「少し持ち帰れませんかね?」

 フラグ大好き南大尉の提案に私は躊躇なく乗ることにした。

 というのも、ほんの十数メートル先に持ち帰れる程度の大きさの魔鉱石がゴロゴロ転がっているのが目に入ったからだ。

「ひ、ひとつだけでも……」

 そう言って踏み出そうとする私をヴィルフォアッシュが手で制する。

「私が行きます。皆さんは万一に備えて撤退の準備を」

 そう言ってヴィルフォアッシュは忍び足で、一番近くにある魔鉱石に近づいて行った。私たちは静かに後退しつつ、彼の様子を見守る。


 ヴィルフォアッシュは無事に魔鉱石のある場所に到達。人の頭くらいのサイズの魔鉱石をひとつ持ち上げて、後ずさりにこちらへ戻り始める。

 その瞬間――

 ヴォォオオオオオオンン!
 ヴォォオオオオオオンン!
 ヴォォオオオオオオンン!
 ヴォォオオオオオオンン!

 暗闇から無数の羽音が響いた。
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