上 下
41 / 195
第一章 護衛艦フワデラ

第40話 古代神殿の悪夢②

しおりを挟む
 神殿の内部には予想以上の恐ろしい光景が広がっていた。

 まず真っ暗な空間にライトを当てると、天上や床が継ぎ目のない金属らしきものになっており、神殿の外見とは大きく異なるテクノロジーを感じさせるものとなっていた。

 ただ魔法があるような世界なのだから、一概にオーバーテクノロジーと言い切るわけにもいかない。

 とはいえ、私たちがこの世界に来てから見聞きしてきたものとは、明らかに一線を画していた。

「か、艦長! 壁一面に脳が並んでます!」

 そう言って南大尉がライトを向けた場所に目をやると、そこには液体が入ったカプセルが数えきれないほど並んでいるのが見える。

「この中に入っているのは脳なのか?」
 
 カプセル内の物体はその形からおそらくは脳だと推定できるものの、色は黒ずんでおり腐食しているように見える。
 
 私が北方人に以前訪れたときと同じ光景であるか尋ねると、北方人たちは首を振って否定する。

「前に来たときは、ここは天上が光っていて眩しいくらいでした」

「脳もこんなに黒くなかったし、筒の中で浮かんでいたぜ。それにここはこんなに寒くなかった」

 そう言って北方人は両腕を組んで体を震わせた。ということは……何かの原因で動力が断たれ、今は稼働していないということか。この施設ごと放棄されたということなら良いのだが。
 
「道中で襲ってきた化け物たちはここを守っていたんでしょうか」

 ちょうど私が考えていた疑問を坂上大尉が言った。その言葉を受けて南大尉が、

「もしそうなら、この脳みそ陳列棚以外に守るべきものがあるってことじゃないですかね?」

 と私の方を見て行った。おそらくその通りだろう。
 
 ということはつまり……
 
「魔鉱石か」

「かもですね」
 
 私の言葉を受けて南大尉がゆっくりと頷いた。

「ではこれより魔鉱石の探索を開始する!」

「この脳みそカプセルはどうしますか?」

「大尉のいとこは別の場所に移されているようだし、ここはもう気にしなくて良いだろう。『ここで悍ましい実験か何かが行なわれていた』という事実だけで、我々には十分だ」

 私は艦内と連絡を取って、犬型ドローンのティンダロスにこの広間の詳細を撮影させる。撮影の際に下り階段が見つかった。

 この広間への入り口を除けば、これが唯一の出口になっているようだ。

「この下……なんだか嫌な感じがします」

 ボソッと坂上大尉がつぶやいた。私も完全に同意する。妙に鼻を付く酸っぱいような臭いがする上、何となくブーンと空気が震える音が聞こえる気がする。

 この先にミ=ゴがいるのは間違いない。

「まさかド定番の展開で、この下に大量の幼体とマザーがいたりしませんよね?」

 フラグ大好き南大尉がまた余計なことを口に出した。

「おまっ、そういうのは思ってても言うんじゃない! 怖いだろ!」

「す、すみません!」

 突然、ヴィルミカーミラが私の肩を叩く。振り返ると白狼族の二人はとても険しい表情をしていた。

「み、みなみはた、正しい。こ、この下から羽音がす、する。そ、それも沢山……」

「引き返した方が良いかもしれない。進むなら慎重に慎重を重ねて、もし見つかったら逃げることを最優先にすべきだと思う」

 ヴィルフォアッシュの額に汗が浮かんでいる。私の感も撤退を訴えていた。だが……

「できれば魔鉱石の存在を確認しておきたい」

「魔鉱石を見たら即撤退ということで良いですか?」

「この先の状況次第だが、そうだな欲はかかずに行こう」

「了」

 私は坂上大尉と4機のティンダロスにグレネードランチャーの発射準備を命じた。もしこの先に巣穴があった場合、グレネードで混乱している間に撤退する。

 フワーデには飛行ドローンが動けるギリギリのところで待機してもらう。万が一のときにはそこまで命がけで逃走るすることになるだろう。

「後でミサイルを誘導するのに使うから、私はここに置いて行って!」

 フワーデの提案によって、運んできた飛行ドローンをこの場に残し、私たちは地下へと降りる。



~ 古代神殿地下 ~

 階段途中にはいくつも巨大な柱が並んでいる。私たちは柱の陰に身を潜めて、地下を観察することにした。

 階段を下りた先には真っ暗闇の空間が広がっており、その地面のあちこちでうっすらとした光が蛍のように明滅していた。

 このわずかな光源のおかげで暗視ゴーグルが使えそうだ。

「「うひぃぃ!」」

 地下に降りた私は暗視ゴーグル越しに見える地獄の風景に怯え、南大尉と抱き合っていた。

「艦長! エイリアンですよ! エイリアンワン・ツー・スリー・ファイブですよぉぉ!」

 そんな南大尉のボケに対してツッコミを入れる余裕もなく、私の身体はガクガクブルブルを永久ループしていた。なにせ幼女の身体だから、恐怖耐性がないのは仕方ない。仕方ないことなのだ。

「一番奥に巨大な個体がいますね。あれが母体なのでしょうか」

 坂上大尉が冷静に分析していた。

「タカツ様、あのうっすらと光っているのが魔鉱石です。明滅しているのは化け物たちが魔力を吸っているのかもしれません」

 ヴィルフォアッシュが声を潜めて私に囁いた。

「だとすると、ここには大量の魔鉱石があるということか」

「少し持ち帰れませんかね?」

 フラグ大好き南大尉の提案に私は躊躇なく乗ることにした。

 というのも、ほんの十数メートル先に持ち帰れる程度の大きさの魔鉱石がゴロゴロ転がっているのが目に入ったからだ。

「ひ、ひとつだけでも……」

 そう言って踏み出そうとする私をヴィルフォアッシュが手で制する。

「私が行きます。皆さんは万一に備えて撤退の準備を」

 そう言ってヴィルフォアッシュは忍び足で、一番近くにある魔鉱石に近づいて行った。私たちは静かに後退しつつ、彼の様子を見守る。


 ヴィルフォアッシュは無事に魔鉱石のある場所に到達。人の頭くらいのサイズの魔鉱石をひとつ持ち上げて、後ずさりにこちらへ戻り始める。

 その瞬間――

 ヴォォオオオオオオンン!
 ヴォォオオオオオオンン!
 ヴォォオオオオオオンン!
 ヴォォオオオオオオンン!

 暗闇から無数の羽音が響いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神獣に転生!?人を助けて死んだら異世界に転生する事になりました

Miki
ファンタジー
学校が終わりバイトに行く途中、子供を助けて代わりに死んでしまった。 実は、助けた子供は別の世界の神様でお詫びに自分の世界に転生させてくれると言う。 何か欲しい能力があるか聞かれたので希望をいい、いよいよ異世界に転生すると・・・・・・ 何故か神獣に転生していた! 始めて書いた小説なので、文章がおかしかったり誤字などあるかもしてませんがよろしくお願いいたします。 更新は、話が思いついたらするので早く更新できる時としばらく更新てきない時があります。ご了承ください。 人との接し方などコミュニケーションが苦手なので感想等は返信できる時とできない時があります。返信できなかった時はごめんなさいm(_ _)m なるべく返信できるように努力します。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...