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第一章 護衛艦フワデラ

第27話 メイド神拳

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 焚火を前にしていつの間にか私は眠っていた。

「「スーッ、スーッ」」

「こうしてみているとただの小さな女の子みたいですね」

「そうね……」

「か、可愛い……超て、天使……」

 私は浅い眠りの中、うっすらとした意識で女性陣の会話を聞いていた。

「ほ、本当に、お、女の子か、た、確かめよ?」

「えっ、ヴィルミカーラさん、何するつもりですか?」

「お、男の子だ、ったらい、一大事」

「えっ、坂上さん、ヴィルミカーラさんを止めた方がよくないですか。あっ、坂上さんヴィルフォアッシュさんと飲み比べしてる場合じゃないですって!」

 ヴィルミカーラが私の方に近づいてくる気配がする。ちょ、こいつ何するつもりだ!? 
 
 ヴィルミカーラに襲われる前に起きようと私が決断したとき、フワーデの鋭い声が聞こえてきた。

「人が近づいてくる!  こっちに向ってるのが5人、その後ろに11人隠れてる! 見た感じとっても悪い人達だよ」
 
 私は跳ね起きて全員に警戒態勢を取るよう指示する。

「とりあえず様子を見よう。だがすぐに応戦できるよう準備しておいてくれ」

「「了!」」

「カンチョーさん、私に応対させてもらえませんか?」
 
 突然ミライが私にそんなお願いをしてきた。

「近づいてくる人たちに話を伺います。皆さん、お酒を飲まれてましたし、お二人は小さい女の子です。とりあえず私に話をさせてください」

「そうだな……よろしく頼むとしよう」
 
 少々のお酒で坂上大尉や白狼族の戦力に歪みが出るとは思わないが、喧嘩っ早くなっている可能性は大いにある。ここはシラフな彼女に任せるとしよう。
 
「ミライちゃんは彼らの目的だけ聞いてもらえばいい。私と南大尉が横について君を守る。他は背後で警戒」 

「「了!」」

 そうこうしているちに5人の人影が暗がりから出て来た。

「よぉ、みなさん冒険者かい?」

「ダンジョンでお宝は見つかったか?」

「ちぃーっと、俺らにも見せて貰えねーかなぁ」

「「……」」

 全員がチャラチャラした感じの目つきの大変悪い連中が、本音を一切隠さない頭の悪そうな言葉を掛けてきた。

「わ、私たちは冒険者ですよ。ど、どのようなご用件でしょうか?」

 ミライが彼らの前に進み出て応対する。やはり恐いのだろう。少し声が震えていた。それが却ってバカ5人を増長させる。

「そうだなぁ。ちょっと一緒に焚火に当たらせてもらえねーかなーって」

「そうそう、それで仲良くなろうぜ」

「とくにアンタとうしろのねーちゃん二人なー!」

「おぉ、一人は獣人じゃね?」

「おっ、おい……」

 5人のうちで比較的強そうな一人がヴィルフォアッシュを見て警戒を強める。

「あいつ白狼族じゃねーか?」

 正解だ。

 他の面々がひそひそ声で密談する。丸聞こえだが。

「もしそうでも、こっちは人数がいる。あいつ一人ならなんとかできる」

「ああ、あの黒い獣人女を人質とればいける」

 不正解。

 ヴィルミカーラが黒毛なので、彼女が白狼族と思わなかったのだろう。

 ちなみにこの時点で白狼族の怒りは沸点に達していた。いきなり5人を切り裂かなかったのは、私の指示なしに行動するのを控えていたのだと、後に白狼族の二人から聞いた。

 バカ5人は二人のことを獣人と呼んでいたが、この時点で既に二人を激怒させていた。

 白狼族は獣人ではなく亜人に分類される。亜人に対して獣人呼ばわりするのは、亜人と獣人のどちらに対してもとても無礼なこととされているらしい。

 そして、それを知っていながら敢えて口にする輩の9割9分が『人間至上主義者』であった。人間至上主義者は、この世界のあらゆる種族の頂点に人間がいると信じて疑わない連中だ。
 
 彼らは人間以外の種族をモノに過ぎないと見下している。比較的良心を保っている輩でも亜人や獣人を自分たちの奴隷としかみない。

 その価値観から引き起こされる偏見や差別は、獣人や亜人、そして魔族からも忌み嫌われていた。

 カチッ。

 白狼族の二人から発せられた殺気に当てられて、坂上大尉が機銃の安全装置を外す。私と南大尉も同じくそれに倣う。

「お待ちください」

 私たちの殺気を読み取ったのかミライが手で私たちを制した。そしてバカ5人に向き直って語り掛ける。

「焚火が所望でしたら、焚き木をお分け致しますのでどこか他の場所でお願いします」

 そう言ってミライはペコリと頭を下げる。

 頭を下げるとバカは必ず増長する。

「あぁ!? 俺たちはここの焚火に当たりたいっつってんだよ!」

「他所へ行くのは、そこの獣人野郎と餓鬼の方だろうが!」

「舐めてっと二度と人前に出れねぇ体にすっぞごら」

「とっとと荷物を置いて消えろ! それなら命まではとらねぇでおいてやる」

「……おい、何かやばい感じがする」

 バカのうちやはり一人だけが警戒を解こうとしなかった。坂上大尉の機銃に意識が集中しているらしい。彼の危機察知力はかなり精度が高そうだ。

 バカ5人がお互いに視線を交差させる。結局、多数決でこのまま突き進むことになったようだ。

「おらぁ、どうすんだよ!」

「もういい! 俺はこいつにする! 俺が遊んあとで分けてやっから!」

「ちょっ、そいつは俺のだろうがぁ!」

 そう言って野郎二人が喚き散らしながらミライに手を伸ばした瞬間――

「メイド神拳! 御触り禁止投げ!」

 ミライの掛け声と共に彼らは森の奥へと投げ飛ばされた。

「どうやらご案内は決裂のようですね」

 ミライが指をゴキゴキと鳴らしながら、他の三人に向って近づいて行った。


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