20 / 195
第一章 護衛艦フワデラ
第19話 ダゴン教団
しおりを挟む
草壁医務官に起こされた対潜要員の二人が魚雷発射シーケンスを進めていく。
私が平野をビンタで起こしていると、目の前にフワーデが現れて叫んだ。
「距離200! このままだとぶつかっちゃう! 全力で行くよ!」
次の瞬間、足元からエンジンの振動が伝わってきた。
グォォォォン!
護衛艦フワデラが最大戦速に入った。
対潜要員の声が響く。
「ターゲットロック! 魚雷1、2、3番発射します!」
「ってぇぇ!」
護衛艦フワデラの側面が開く。
ドボン! ドボン! ドボン!
魚雷発射管から3本の12式魚雷が海中へ飛び込んで行った。
戦闘指揮室《CIC》のモニタには、敵と迫りゆく魚雷が点滅するマーカーで示されている。
発射後2秒で、私は魚雷の命中を確信した。
マーカーを見ていると化け物の方から魚雷へ突っ込んで行くのが見えたからだ。
「あ~ん!? やんのかゴルァ! すっぞゴルァ! かかってこいやゴルァ!」
と化け物が言っているような気がした。
ドォォォン!
魚雷が妖怪に命中し、その爆発で海面に巨大な水柱が立ち昇る。
「命中! 目標を撃沈」
今まで私の全身を覆っていた怖気がスッと消えていくのを感じた。他の乗組員《クルー》の顔を見ると、彼らも私と同じようにホッとしているようだった。
「フワーデ、怪物の様子を映像ではなく口頭で報告……いや、私にだけ見せてくれ」
化け物が沈んでしまった今、身体と精神に伸し掛かっていたような【圧】が消えている。
「もし私がまた失神したら、その時は頼んだぞ草壁」
「わかりました」
私の指示により、意識を取り戻したばかりの平野を始め、この場にいる全員が目を閉じた。
「じゃぁ映すね。魚雷が命中する直前から……」
メインモニタに巨大で黒いぶよぶよとした半魚人。いや『人』をつけていいのかよくわからない。
魚のような顔。鱗で覆われた上半身はかろうじて人のような形。下半身は魚と言うより蛆のような化け物の姿が映し出されている。
その醜悪な姿は、見る者によってはその人間の意識を吹き飛ばしてしまうかもしれない。
だがこの程度のグロモンスター、現実の映像と見まがうほどのSFXに接している現代人にとっては、とても気絶に至るようなものとは思えなかった。
「ふむ……。我々が気絶させられたのは、この映像というより他の要因が大きかったのかもしれないな」
その後、フワーデが記録した映像を一通り見せてもらったが、私の体調には何の変化もなかった。
「どうやら映像を見ても大丈夫なようだ。ただ気味悪いのは間違いないから、その心構えができた者から目を開いて良いぞ。あとフワーデは艦を原速に戻してから、操艦権を操舵長に戻してくれ」
「わかった!」
フワーデの元気な返答を契機に、艦内が慌ただしい日常に復帰した。
~ 化け物の解析 ~
護衛艦フワデラは間もなく当初予定の航路に戻った。
私は士官室に調査隊メンバーを集め、遭遇した化け物についての分析を行った。冒険者だった白狼族の二人の情報を期待したが、彼らはあの化け物についてほとんど何も知らなかった。
「じゃ、邪教団が崇める海の、ま、魔神のようなものではないかと……何という教団だったか……えっと……」
ヴィルミカーラにつられてヴィルフォアッシュが何かを思い出したように語り始める。
「ダゴン教団……。 海の魔神とその眷属を崇拝する邪教団で、人を生贄に捧げる儀式を行っていると云われている。徹底した秘密主義で、なかなか表に出てこないとか」
私はさらに情報を聞き出そうと彼に促すが、ヴィルフォアッシュは首を横に振る。
「私もそれくらいのことしか知らないのです」
化け物について詳細な情報が得られなかったのは、仕方ないこととは言え残念だ。また同じ化け物が出てきた場合のことを考えると不安を拭えない。
気絶したのは映像を見たCICの面子だ。だが今しがた映像を見ても誰も失神することはなかった。
ということは、もう一つ何かの要因があったはずだ。
おそらくそれはあの化け物が襲ってきている間、私の身体と精神に重く伸し掛かってきたあの【圧】だろう。
あれは何だったのか。
化け物が沈んでからは消えてしまったが……魔法の類なのだろうか。魔法だとしたら、防ぐ方法を早く見つけなくては……。
「艦長!」
「へぁっ!?」
いつの間にか考え込んでいた私に平野副長が大きな声で呼び掛けてくる。
「艦長、とりあえず現時点で、あのように我々の意識を飛ばしてしまうような危険な生物がこの海にいることだけはハッキリとしました」
「そうだな。あれが魔法みたいな力によるものだった場合、我々にはどうしようもない」
「今の我々にはそうかもしれませんが、今後の調査で判明するかもしれません。それに奴に魚雷は有効でした。それは大きな収穫ではありませんか?」
「そうだな。それにダゴン教団という手掛かりも得られたのだから戦果は上々と言える。まずはこの勝利を祝うとしよう!」
私がグイッとサムズアップすると、平野やフワーデを始めその場の全員に笑顔が戻った。
そして――
護衛艦フワデラは再び北方に進路を採る。
私が平野をビンタで起こしていると、目の前にフワーデが現れて叫んだ。
「距離200! このままだとぶつかっちゃう! 全力で行くよ!」
次の瞬間、足元からエンジンの振動が伝わってきた。
グォォォォン!
護衛艦フワデラが最大戦速に入った。
対潜要員の声が響く。
「ターゲットロック! 魚雷1、2、3番発射します!」
「ってぇぇ!」
護衛艦フワデラの側面が開く。
ドボン! ドボン! ドボン!
魚雷発射管から3本の12式魚雷が海中へ飛び込んで行った。
戦闘指揮室《CIC》のモニタには、敵と迫りゆく魚雷が点滅するマーカーで示されている。
発射後2秒で、私は魚雷の命中を確信した。
マーカーを見ていると化け物の方から魚雷へ突っ込んで行くのが見えたからだ。
「あ~ん!? やんのかゴルァ! すっぞゴルァ! かかってこいやゴルァ!」
と化け物が言っているような気がした。
ドォォォン!
魚雷が妖怪に命中し、その爆発で海面に巨大な水柱が立ち昇る。
「命中! 目標を撃沈」
今まで私の全身を覆っていた怖気がスッと消えていくのを感じた。他の乗組員《クルー》の顔を見ると、彼らも私と同じようにホッとしているようだった。
「フワーデ、怪物の様子を映像ではなく口頭で報告……いや、私にだけ見せてくれ」
化け物が沈んでしまった今、身体と精神に伸し掛かっていたような【圧】が消えている。
「もし私がまた失神したら、その時は頼んだぞ草壁」
「わかりました」
私の指示により、意識を取り戻したばかりの平野を始め、この場にいる全員が目を閉じた。
「じゃぁ映すね。魚雷が命中する直前から……」
メインモニタに巨大で黒いぶよぶよとした半魚人。いや『人』をつけていいのかよくわからない。
魚のような顔。鱗で覆われた上半身はかろうじて人のような形。下半身は魚と言うより蛆のような化け物の姿が映し出されている。
その醜悪な姿は、見る者によってはその人間の意識を吹き飛ばしてしまうかもしれない。
だがこの程度のグロモンスター、現実の映像と見まがうほどのSFXに接している現代人にとっては、とても気絶に至るようなものとは思えなかった。
「ふむ……。我々が気絶させられたのは、この映像というより他の要因が大きかったのかもしれないな」
その後、フワーデが記録した映像を一通り見せてもらったが、私の体調には何の変化もなかった。
「どうやら映像を見ても大丈夫なようだ。ただ気味悪いのは間違いないから、その心構えができた者から目を開いて良いぞ。あとフワーデは艦を原速に戻してから、操艦権を操舵長に戻してくれ」
「わかった!」
フワーデの元気な返答を契機に、艦内が慌ただしい日常に復帰した。
~ 化け物の解析 ~
護衛艦フワデラは間もなく当初予定の航路に戻った。
私は士官室に調査隊メンバーを集め、遭遇した化け物についての分析を行った。冒険者だった白狼族の二人の情報を期待したが、彼らはあの化け物についてほとんど何も知らなかった。
「じゃ、邪教団が崇める海の、ま、魔神のようなものではないかと……何という教団だったか……えっと……」
ヴィルミカーラにつられてヴィルフォアッシュが何かを思い出したように語り始める。
「ダゴン教団……。 海の魔神とその眷属を崇拝する邪教団で、人を生贄に捧げる儀式を行っていると云われている。徹底した秘密主義で、なかなか表に出てこないとか」
私はさらに情報を聞き出そうと彼に促すが、ヴィルフォアッシュは首を横に振る。
「私もそれくらいのことしか知らないのです」
化け物について詳細な情報が得られなかったのは、仕方ないこととは言え残念だ。また同じ化け物が出てきた場合のことを考えると不安を拭えない。
気絶したのは映像を見たCICの面子だ。だが今しがた映像を見ても誰も失神することはなかった。
ということは、もう一つ何かの要因があったはずだ。
おそらくそれはあの化け物が襲ってきている間、私の身体と精神に重く伸し掛かってきたあの【圧】だろう。
あれは何だったのか。
化け物が沈んでからは消えてしまったが……魔法の類なのだろうか。魔法だとしたら、防ぐ方法を早く見つけなくては……。
「艦長!」
「へぁっ!?」
いつの間にか考え込んでいた私に平野副長が大きな声で呼び掛けてくる。
「艦長、とりあえず現時点で、あのように我々の意識を飛ばしてしまうような危険な生物がこの海にいることだけはハッキリとしました」
「そうだな。あれが魔法みたいな力によるものだった場合、我々にはどうしようもない」
「今の我々にはそうかもしれませんが、今後の調査で判明するかもしれません。それに奴に魚雷は有効でした。それは大きな収穫ではありませんか?」
「そうだな。それにダゴン教団という手掛かりも得られたのだから戦果は上々と言える。まずはこの勝利を祝うとしよう!」
私がグイッとサムズアップすると、平野やフワーデを始めその場の全員に笑顔が戻った。
そして――
護衛艦フワデラは再び北方に進路を採る。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
神獣に転生!?人を助けて死んだら異世界に転生する事になりました
Miki
ファンタジー
学校が終わりバイトに行く途中、子供を助けて代わりに死んでしまった。
実は、助けた子供は別の世界の神様でお詫びに自分の世界に転生させてくれると言う。
何か欲しい能力があるか聞かれたので希望をいい、いよいよ異世界に転生すると・・・・・・
何故か神獣に転生していた!
始めて書いた小説なので、文章がおかしかったり誤字などあるかもしてませんがよろしくお願いいたします。
更新は、話が思いついたらするので早く更新できる時としばらく更新てきない時があります。ご了承ください。
人との接し方などコミュニケーションが苦手なので感想等は返信できる時とできない時があります。返信できなかった時はごめんなさいm(_ _)m
なるべく返信できるように努力します。
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。
ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった
16歳の少年【カン】
しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ
これで魔導まで極めているのだが
王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ
渋々それに付き合っていた…
だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう
この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである
※タイトルは思い付かなかったので適当です
※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました
以降はあとがきに変更になります
※現在執筆に集中させて頂くべく
必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
気がついたら異世界に転生していた。
みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。
気がついたら異世界に転生していた。
普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・
冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。
戦闘もありますが少しだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる