うっかり女神の転生ミスで超忙しかったので問題天使の手を借りてしまった結果

帝国妖異対策局

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第1話 大平原

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「ど、どうしてこんなことに……」

 女神ラーナリアは頭を抱えた。足が震えて立っているのも難しくなり、その場にしゃがみ込む。

 彼女の目の前には大スクリーンの神ブラウザが、彼女の司る大陸フィルモサーナのある大平原を映しだしていた。

 そこはつい先日まで、人類軍と魔王軍が双方合わせて60万にも達する兵力がぶつかり合う大戦場だったはずだ。この大陸の覇権を掛けた天下分け目の争いには、女神ラーナリアのみならず他大陸の女神たちも注目していた。

 ファフナール大陸を司る戦の女神ヴァルキリエもこの戦いに興味を持った女神の一人で、その結末をわたしの宮殿で一緒に見守っていた。

「これはある意味すげぇな。こんな戦は古今東西聞いたことも見たこともねぇぜ、だってよ……」

(いや! その先は言わないで! 何も、何も見なかったことにして!)

「だって大平原を埋め尽くす60万の幼女だぜ!?」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ! 言わないでぇぇぇぇ!」

 女神ラーナリアは涙と鼻水とヨダレをフルスプラッシュして泣き喚いた。

 女神が絶対にしてはいけない顔だった。

――――――
―――


 そもそもの発端は、女神ラヴェンナによる度重なる勇者転生ミスであった。彼女の失態をフォローするために他の女神や眷属たちが駆り出され、もともと忙しかった女神ラーナリアの現場の多忙さは最高潮に達していた。

 それだけならまだなんとか乗り切れたかもしれない。しかし、運の悪いことにこのタイミングで悪魔勇者召喚の儀式を行う不届き者が現れた。

 この儀式が成功すると異界から悪魔的な力と精神を持った転生者が召喚されてしまう。

 悪魔勇者の召喚は世界の理を破壊しかねない暴挙であり、他の何を差し置いても対処すべき事柄だ。その儀式が世界の複数個所で行われていたのだ。

 さらに悪魔勇者への対応がいくら忙しい状況とは言え、自分が抱えている勇者や転生者たちを放置しておくわけにもいかない。とうとう猫の手も借りずにはいられなくなったラーナリアは疲労で判断力が鈍ってしまった。

 そしてついに普段なら絶対に目を向けることのない天使を使うことを決定してしまった。

 エンジェル・キモオタ

 ラーナリアにはどうしてコイツが天使になれたのかまったく理解できなかった。しかもコイツが転生者に付与することができる天与の加護は【幼女化】。

「意味わかんない!」

 コイツが自分の下に配属された当初は、神居酒屋で他の女神たち相手に100年ほど愚痴ったものだ。

「だいたい、うちにはもうエンジェル・キンニクニキとかいう訳のわからないのがいるってのに、なんなの!? キモオタって!? 何? 陰謀なの? 誰かがわたしを陥れようとしてるとしか思えない!!」

 これほど嫌っているエンジェル・キモオタに、ラーナリアが転生者を任せるなんてことは一度もなかったし、これからもないはずだった。

 ずっと暇を持て余していたキモオタが、コソコソと何かをしているという話はチラホラとラーナリアの耳にも入ってきてはいた。

 スキル開発部にまで直接顔を出して何やら怪しげなことを進めようとしているとも聞いている。だがラーナリアはそんなことどうでもよかった。そもそも知りたいとも思わなかったから。

 これほどまでにラーナリアが嫌っているにも関わらず、エンジェル・キモオタはラーナリアと接する機会がある度、ニタニタして意味不明な言葉で、自分のことを褒めちぎる。奇妙な踊りを捧げてくる。

 とにかく気持ち悪い存在だった。

 どんなに忙しくても、いくら猫の手を借りたい状況であっても、ラーナリアはエンジェル・キモオタに転生者を任せるつもりはなかったし、実際、任せるべきではなかったのだ。

 うっかり任せてしまった結果が、この大平原を見渡す限り埋め尽くす60万人の幼女だった。

「え、エンジェル・キモオタを呼んで!」

「デュフフ、永久に麗しきラーナリア様、エンジェル・キモオタここに畏まりましてござります。デュフコポー」
「ちょっ! どこから出てきたのよ!」

「常に女神の呼び出しに応えるべく控えております故」
「キモッ!……で、これはどういうことなの? 説明して頂戴!」

 ラーナリアは神ブラウザをエンジェル・キモオタに見せる。

「おおおぉぉ! これは天国! 天国からでさえ夢見る天国でございますな! デュフフ。まさか勇者でもない一般転生者の田中殿がここまでの成長を遂げられるとは、わたくしでさえついぞ予測することはできませんでしたぞwww」

「wwwを付けるんじゃないわよっ! 一体これどうするの?」
「それは田中殿次第なのでは?」
「へっ!?」

「それともラーナリア様やわたくしが直接手を下しても良いのでござるか?」

 真正面から正論をぶつけられてしまい、ラーナリアは硬直してしまった。

(そ、そんな正論! 今はいらないのよ!)

 ……と思っていても、それを口にしてしまったら女神自ら世界の理を曲げることになってしまう。

(この……キモオタ……まさかわざと? もしかして今回の件はすべてコイツが仕組んだことなの?)

「繰り返し申し上げますが、田中殿がこれほどまで成長されるとは予測できておりませんでしたぞwww そこは本当に申し訳ございませんでしたぞぉぉぉ」

 エンジェル・キモオタがその場に這いつくばって土下座をした。

「そ、そうなの……」

 このキモオタにとっても予測の外の出来事だったのか。悪意を持って引き起こしたものでないのなら、上司であるラーナリアが事態の収拾にあたらなければならない。

 女神は責任感を燃やし始めた。こうなってくると生真面目なラーナリアは、落ち着きを取り戻し、本来の冷静さを発揮し始めた。

「わかりました。それでもこの事態は緊急に対処を要する案件と判断します。対応は補助支援神ザーマスに依頼します。エンジェル・キモオタは彼女に協力するように。ザーマス!」

「はい。女神ラーナリア。わたくしをお呼びでございますか」

「ええ。貴方ももう知っていると思うけど、大平原にいる60万人の幼女の件の処理を貴方に任せるわ。まずは支援精霊を通じて田中さんと対処を相談するように。もし必要であれば月界に田中さんを召喚して直接会うことも許可します」

 三角眼鏡を掛けた女神ザーマスは、眼鏡の縁をクイッと動かした。

「かしこまりました」

 かつて天上界にいながらにして、数多の人間界に青少年育成条例を成立させたザマース神であれば、きっとこの事態にうまく対処してくれるに違いない。

 女神ラーナリアはようやく心の底から落ち着くことができた。

 ふと、足元を見るとエンジェル・キモオタがまだ土下座をしていた。姿勢が苦しいのか息が激しくなってきている。

 そこまで反省している姿を見せられると、さすがに女神の心にも慈悲が芽生えてきた。

 まぁ、誰にだって失敗はあるものだ。これを教訓にコイツも少しは成長してくれれば……

 慈愛の視線をエンジェル・キモオタに向けると、キモオタのつぶやきが女神に聞こえてきた。

「ハァハァ……女神様に罵倒して欲しいのでござる……踏んでもらえたら我輩もう天国直行便でござるな! デュフフフ」

「このド変態が!」

 と叫びそうになるのを、足で踏みつけそうになるのを、ぎりぎりのところでラーナリアはこらえた。コイツにとってはご褒美にしかならない。

 女神はこれからの先行きに暗雲が立ち込めているのを予感せざる得なかった。

 そして後に、その予感は見事に的中することになる。



~ おしまい ~

 


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☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆*:.。. o(≧▽≦)o
【 関連話 】
★エンジェル・キモオタと田中真一について
異世界転生ハーレムプランー最強のスキルが【幼女化】ってマジですか?ー

★女神ラヴェンナについて
うっかり女神の転生ミスで勇者になれなかったし、もうモブ転生でゴールしてもいいんだよね?

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