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第176話 妖異の将軍と賢者の石 Side:妖異

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 アシハブア王国に潜入していたアシハブア魔族兵が帰還し、イゴーロナックル将軍に報告をしているとき、将軍の隣には灰色ローブの神官が控えていた。星の智慧派の神官である。

 魔族兵の報告で、これまで数多の妖異や部隊を壊滅させられた原因が、ドラゴンによるものだと分かった。レッドドラゴンという言葉を聞いたとき、イゴーロナックル将軍の巨大な手の形をした頭部が拳骨状に強く握り締められる。

 ドラゴンは敵にするには非常に厄介な存在である。

 しかも問題はそれだけではなかった。レッドドラゴンは、いつも巨大なグレイベアと行動を共にしているのだということだ。

 グレイベアも敵にするには非常に面倒な存在だ。

 ドラゴンもグレイベアも、倒すとすれば大変な戦力が必要となる。自分自身も前線に立たねばならないだろう。

 だがドラゴンを倒すのではなく、単に避けるという選択をすれば、この困難は大きく軽減されるはずだ。ドラゴンもグレイベアも巨大な身体を持っている。遠くから発見次第、逃げるなり隠れるなりすれば良いのだ。

 そのように考えた将軍は、頭の握りこぶしを僅かに緩めて、その中にある巨大な一つ目で魔族兵を見つめた。そして、今、自分が思いついたことを魔族兵に伝える。

 魔族兵は巨大な目に恐れ戦きながらも、将軍の意に沿わないだろう報告をせざる得なかった。
 
「ドラゴンもグレイベアも変化の術を使っているらしく、幼子の姿を取ることがあるのです。どちらかが元の巨体であれば警戒できるのですが、両方とも幼子の場合には警戒さえできません」

 バッ!

 怒りに震える将軍の頭部の巨大な手が開かれた。一つ一つの指が怒りに震えている。

 殺されると思った魔族兵が身を縮めた。

 だが将軍が魔族兵の予想通りの行動を取る前に、灰色ローブの神官が一歩進み出た。

「そのドラゴンが変化する際に強い光が……青白く強い光が輝いてはいなかったか?」

「は、はい! 確かに強い光が輝いておりました! あ、青い光であったように思います!」
 
 神官の好奇心によって命を救われたことを確信した魔族兵は、神官の興味を引き続けようと、そのときの状況について詳細に語った。

 神官は魔族兵が話を終えた後、将軍に向って言った。

「将軍。そのドラゴンは賢者の石を持っているに違いありません。何としてもそれを手に入れてください」

「賢者の石? そんなもの手に入れて何とする?」

「セイジュウ皇帝陛下に献上するのです。賢者の石には、悪魔勇者の力を大きく引き上げる力があるのです。皇帝陛下への最高の贈り物となるでしょう」

「ふむ……」

 これまで、ここまで熱く語る神官を将軍は見たことがなかった。賢者の石がどのようなものかは知らないが、神官の反応をみた将軍は、それが非常に価値のあるものであることは理解した。

「ではドラゴンを狩って賢者の石を奪うとするか……」

 そう決断はしたもののドラゴンは強敵だ。まともに戦うのであれば、使える大型妖異を全て投入する必要があるだろう。



~ 出撃 ~

 決断後、将軍は多大な妖異や魔族兵の損失を出しながら、ドラゴンがアシハブア王国北西部の洞窟に潜んでいることを突き止めた。

 洞窟の前にはグレイベア村という魔族の村があることも分かった。

 セイジュウ神聖帝国がドラン公国との決戦を控えている今、アシハブア王国と直接対決するような事態は避けたい。
 
 なのでドラゴン討伐は極めて短期間で決着を付けなければならない。

「これより! グレイベア村に侵攻し、そこに巣食うドラゴンを討伐する!」

 ドラン公国とアシハブア王国侵攻の足掛かりとすべく設けられた、ルートリア連邦東端にある拠点。

 天幕の前にずらりと整列する妖異と魔族兵に対し、イゴーロナックル将軍が声を張り上げた。

「出陣!」

 大型妖異20体、妖異100体、岩トロル10体、魔族兵1200名。

 イゴーロナックル東方攻略軍の半数がグレイベア村へと進軍を始めた。

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