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第158話 レヴィアたん

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 休憩時間を4時間も挟んだにも関わらず、グリッちと人魚村の村長アリエラさんは憔悴しきっていた。

 お疲れのところ申し訳ないと思いつつ、二人から腹案の内容を聞いてみた。

「つまり、俺が人魚村に行ってアリエラさんたちの漁を手伝えってこと? その……何て言うんだっけ、レ、レヴィアタンとかいうのを狩って食糧すってことでいい」

 アリエラさんが疲れた顔に何とか笑顔を浮かべながら頷く。

「レヴィアサンです。かの巨大な魔物を狩ることができれば、1000人程度の魔族であれば、少なくとも半年は食べさせていくことが可能です」

「それは凄い……けど、アリエラさんたちは、そのレヴィアたんを狩ったことはあるの? なんか名前からして強さが感じられるんだけど」

「狩りに行ったことはあります」

 ん?アリエラさんが目を逸らした? 

「狩ったことはあるの?」

 俺はアリエラさんの顔に、ズズズと音を立てながら顔を近づける。

「狩に行ったことは……あります」

「狩ったことないの!? それなのに、どうしてそれが1000人分の食糧になるって断言しちゃったの!?」

  俺がさらに顔をズズズと近づけようとすると、アリエラさんが俺の顔を押しのけながら答えた。

「そ、それは実際に食べた経験があるからです!」

 アリエラさんの話によると、二十年前、浅瀬に迷い込んで衰弱死したレヴィアたんがいて、それを食べた経験があるらしい。

 死亡が確認されたレヴィアたんは、すぐさま村人たちによって解体された。その干し肉や遺骸から作られた加工品は、人魚村に莫大な利益をもたらしたという。

 以来、その時の経験に味を締めた人魚たちは、レヴィアたんを狩ろうと挑戦してきた。しかし、巨大な魔物は見た目の通り超強くて、人魚たちの武器では、その皮膚を貫くことさえできないらしい。

「えっと……つまり、未だそのレヴィアたんを狩ったことはないという風に聞こえたんだけど?」

「ええ、これまでは! ……あとレヴィアたんじゃなくてレヴィアサンです」

 アリエラさんの目がギラギラと光って俺を見つめる。疲れ顔にギラギラ目というのは、たとえ美人の顔であってもかなり怖い。

 そして、非常に嫌な予感がする。

「こ、これまでは? ……えっと、つまりこれからは狩れると?」

「はい! 皇帝様の偉大な魔法があれば、レヴィアサンなど、赤子のてをひねるよりも容易く屠れるでしょう!」

「はぁ!? 誰がそんなこと言ったの!? 無理に決まってるでしょ!」

 いや、無理じゃないかも知れないけれど、未知の魔物の前に立つなど御免こうむりたいのが大前提。スキル開発部の皆さんのことを疑っているわけじゃないけど、もし万一、【幼女化】が通じない相手だったら……俺が死ぬ!

「誰が言ったって……ここにいらっしゃる皆様ですが……」

 そういってアリエラさんが、会議室の皆に視線を向ける。

「えっ!?」
 
 と俺がひとり一人に顔を向けると――

 ルカがニカッと歯を見せて笑った。

 フワデラさんが、俺の方を向いて頷いた。

 ロコが、俺の方を向いて頷いた。

 ステファンが、俺の方を向いて頷いた。ついでに親指を立てた。

 グリッちが、俺の方を向いて頷いた。グリフォンの翼を大きく広げた。

 青さんが、俺の方を向いて頷いた。ついでに親指を立てた。

 シルフェンが、俺の方を向いて頷いた。両手でダブルピースをしている。

 隣にいるライラが、俺の方を向いて頷いた。

 ライラは「シンイチ様ならそんなの余裕です」とドヤ顔をしている。ライラのドヤ顔超好き。

 そしてグレイちゃんが、俺の足を齧ろうと狙っていた。

 そして、ようやく俺は驚きの声を上げることができた。

「えぇぇぇぇぇぇえ!? 俺が行くのぉぉぉ!?」

 その場にいる全員がシンクロして頷いた。

 俺は混乱している。

「みんな、ちょっと待って! まずはよく聞いて欲しい」

 全員が俺の話に耳を傾ける。

「まず俺って皇帝だよね? 一番エライ……実際はともかく、名目上の立場としては一番エライんだよね?」

「それはそうじゃの」とルカ。

「そうですよ! シンイチ様が一番です!」とライラ。

 とりあえず褒めてくれるの有難嬉しい。ヤバイ……また発情しそう。

「うーっ! うーっ! シンイチが一番おいしい!」

 とりあえずグレイちゃんは太ももを齧るの止めて欲しい。

「もちろんそうです」その他大勢。

「いやいやいやいや、こういうのってほら、皇帝ってラスボスっていうか、最後の切り札っていうか、一番最後に出てくるっていうかさ。なんならまずはルカちゃんが……」

「わらわは泳げん!」

「空から行けばいいじゃん!」

「それで狩れるかもしれんが、わらわのファイアブレスで丸焦げにしてしまったら意味がないじゃろうが! というか貴様! たとえ名目上とは言え、妻たるわらわをまず危険にさらそうというのか! グレイ! シンイチの足をもっと齧ってしまえ!」

「うーっ! うーっ! じゅるる。うーっ! じゅるる」

 グレイちゃんの涎が俺のズボンにシミを広げていく。帰り道、事情を知らない第三者がこれを見たら、「コイツお漏らししてやがる!」とエンガチョされるに違いない。

「えっと……一応聞くけど、レヴィアたんって大きいんだよね?」

 俺はアリエラさんに聞いた。

「いえいえ。伝説で語られている程ではありません。いくら大きいと言っても、所詮、彼らも生き物。大きさは……そうですね」

 そう言ってアリエラさんは、俺の足に噛り付いているグレイちゃんを見た。

「そうそう。グレイベア10頭分くらいです。大した事ありませんよ」

「大した事あるわぁぁぁ!」

 俺は叫んだ。

 絶対無理! 

「それとレヴィアたんではなくレヴィアサンです。そろそろ覚えてください」

「アッ……ハイ……」

 アリエラさんが厳しかった。


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