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第132話 欲望の変化 Side:シャトラン

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~ シャトラン・ヴァルキリー本部 ~

「まだレオンの所在は掴めていないのか! お前たちが付いていながらどういうことだ!」

 金髪の青年は、怒声挙げて、執務室の机に拳を打ち降ろす。

 激しい衝撃で、卓上に置かれている燭台や書類が飛び散るのを見ても、灰色ローブの男たちは微動だにしなかった。

 その落ち着き具合が、シャトラン・ハーネスをさらに苛立たせる。

「お前たちの仲間も一人、行方不明のままなのだろう? もっと本気で捜索したらどうなん……」

 そこでシャトランは言葉を止めた。灰色ローブの一人が、微かに動いたのを感じたからだ。どういう理由で動いたのか、何に反応したのか明確には分からなかったが、シャトランの第一級冒険者としての感が、彼に警告を発していた。

「……とにかく、せめて生死だけでもハッキリさせなければ、対策の打ちようもないだろうが。違うか?」

「……は、死んでおります」

 灰色ローブの誰かが囁くような声で答えた。

「はっ?」

「少なくとも、我らの仲間は既に死んでおります」

「なぜ分かる?」

「もし敵に殺されたのではなく、捕まったのであれば自死を選ぶのが、我らの流儀でありますれば」

「……ふん」

 シャトランは不満とも納得ともつかない声を漏らす。

 恐らく彼らの言っていることは本当だろう。星の智慧派の狂信者共は、命に対して一切の執着がないような連中ばかりだ。それは主に他者を殺害することに限らず、自分自身の命に対しても言える。

 だからこそ、彼らを信用しているという側面もあるのだが、シャトランは常に薄気味悪い感覚を彼らに感じていた。

 シャトラン自身、星の智慧派の生贄収集に進んで協力し、これまで何人もの犠牲者を彼らに引き渡してきている。だが、そのことについては、あくまでビジネスであると割り切っており、自分が罪悪感を感じる理由を彼が見出すことはない。

「ならばレオンも死んでいる可能性は高いな。そうなんだろ?」

「もし二人が同じ場所にいて、我が同胞がそこから逃れることは難しいと判断した場合は、レオン殿も道連れとしていることでしょう。ただし、それが可能な状況であればの話です」
 
 この時点で、シャトランのリストからはレオンと言う名前は消されてしまった。無能な部下はいらない。彼はシンプルにそう判断して彼を切り捨てた。

「それで、女の方は?」

 肝心なのは、あの女だ。あの美しい女を手に入れることができさえすれば、行方不明の部下などどうでも良い。

「はい。名前はライラ・タヌァカ。元拳闘士です。以前は、ステファン・スプリングという貴族の奴隷だったようですが、今は解放されてタヌァカの妻となっています」

 バキッ!

 手にしていたペンをシャトランが二つに折る。

 ライラが元奴隷だという事実を知ったシャトランの中で、ライラに対する執着心に変化が生じた。彼女を見た時には、女神もかくやという憧れと恋慕を抱いた。

 もし、ライラが清らかな乙女であれば、シャトランは彼が飽きるまで、彼女を女神に対するように厚かっただろう。

 だが事実として、彼女はタヌァカという虫けらのような男の妻であり、貴族の奴隷という汚れた過去を持っている。

 そして今このとき、シャトランのライラに対する執着心が、聖女に仕える喜びから、淫魔を組み伏せて凌辱する暗い欲望へと完全に変化してしまった。

「で、そのライラはどこにいる?」

「ミチノエキ村には、定期的に訪れているようですが、どこに住んでいるのかはまだ掴めておりません」

「ふん! ミチノエキ村に来るということだけ分かっていればいいさ。俺の方でも、動くがいいか?」

 彼が動くというのは、シャトラン・ヴァルキリーの部隊を動かすということである。

 シャトランの言葉を受けて、灰色ローブの男たちが頷いた。

「ではお前たちは引き続き、ライラの誘拐とタヌァカの殺害を。俺の方は、団員を使ってライラを勧誘することにする。ライラがミチノエキ村の中にいる間は手を出すなよ。それでいいか?」

「「「御意」」」

 灰色ローブの男たちが去った後、シャトランはしばらくの間、執務室の窓から外を眺めていた。

 ライラの美しい顔が、艶やかな髪が、しなやかで美しい白い肢体が――

 間もなく自分の手に入るのだと思うと、熱に浮かされたかのように身体が熱くなっていく。

 その夜は、ヴァルキリー団の新人パーティを呼び出して、

 彼女たちに、その欲望の全てを吐き出した。
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