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第121話 地下帝国の主

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「えーっ、本日はお日柄も良く、皆様には大変何かと色々諸々お忙しいなか、このような場にお集まり頂きまして、誠に恐悦至極……」

 どうしてこんなことになった……。

 俺は目の前に整然と居並ぶ、数百名はいそうな人々の前に一人で立たされていた。

 ステージには、俺の他にルカとグレイちゃん、ステファンとフワデラ夫妻(+小鉢)、そしてライラが立っている。

 舞台端には司会者用の演台が儲けられており、そこには青銅のゴーレムと鷲頭のグリフォンが進行役を務めているようだった。

 ちなみに何が進行しているのか、俺にはさっぱりわからない。

「まずは、ドカンと一発かましてくるのじゃ!」

 と、ルカに背中を叩かれて、よろめきながら今の場所に立っているだけのことだ。

 ドキドキする心を抑えつつ、目の前にある集団に目を向ける。

 様々な種族が混在してる。

 パッと見て分かるのは、コボルト族、ラミア族、リザードマン、大陸狼族、ヴィルと同じ白狼族、オーク、フワデラさんと同じ鬼人と言ったところだ。あとゴブリンらしき種族までいる。

 人間もチラホラと見えているが、圧倒的にその数は少ない。

 彼らのほとんどは、おそらくルカの眷属とその関係者だろう。戦争の影響によって住処を追われ、ルカを頼ってここに来る者が増えていると聞いている。

 眷属という関係が、どういうものなのか俺にはよくわからない。

 だがルカを頼って訪れた者を、全くの他人と俺には割り切ることはできなかった。
 
 何故なら俺はドラゴンの婿だから。

 一応はということだけど。

 だが一応であろうとなかろうと、ルカを頼りにして来た者を、やっぱり俺は放ってはおけない。

 彼らに貸せる手を俺が持っているというのなら、俺は喜んで貸そう。

 それはきっとルカの笑顔につながり、ルカの笑顔が俺の笑顔につながって、きっとライラや他のみんなの笑顔につながるはずだから。
 
 目の前にいる人々が、俺に何を期待しているのかは知らない。そして、その期待に応える自信も皆無だけど、これだけは言っておきたいと思う言葉が見つかった。

「グレイベア村にようこそ。この場にいる多くの皆さんがルカの眷属だと思います。俺は眷属というのがよくわかりません。ただルカの家族は俺にとっても家族であり、ルカの友人は俺にとっても友人です」

 それまでザワザワしていた会場がシーンと静まり返る。全員の視線が俺に集まった。

「あっ、もしルカとの関係が少々悪くても構いません。できれば仲良くなって欲しいけど、どうしても無理というなら、コボルト村に来てもらっても構いません。まぁ、そのときは俺に相談してください。ルカへの愚痴なら、いつでも聞きますよ。酒を飲みながら一緒にルカの悪口で盛り上がりましょう」

 会場の一部から笑い声が上がる。

「とにかく俺はルカの家族と友人とを大切にしたいです。ルカと仲が悪い友人も大切な友人です。なので俺は皆さんを心から歓迎します。改めて……」

 俺は息をゆっくり吸い込んでから声を張り上げた。

「グレイベア村へようこそ!」

 数秒の沈黙。

 そして――

「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」

 会場が大きな歓声と拍手に包まれた。



~ 地下帝国パーティ ~

 俺の挨拶が終わった後は、ルカちゃんを始め何人かの挨拶が続き、その後、会場に料理が運ばれてパーティーが始まった。

「さすがじゃシンイチ! お主の挨拶に感動したぞ! 妾と眷属たちのことを、そこまで考えておってくれたとは! ただの万年発情した人間の雄としか思っておらんかったが、今後は考えを改めねばなるまい!」

「酷い!」

「酷いのは主のほうじゃろ! 妾に隠れて悪口を語り合うとか何事じゃ! 妻の陰口を叩く者がどのような地獄に落ちるか、そんな話は古の世からいくらでもあるのじゃぞ!」

 ルカちゃんがまた機嫌を悪くしそうだったので、俺は慌てて話を逸らす。

「それにしても、地下ダンジョンにこんな広い場所があったなんて知らなかったよ。攻略のときには、こんなフロアなかったよね? ねっ?」

「いや、元々あったし、攻略のときにも通ったぞ。まぁ、少々広げはしたがな」

「へっ!?」

 ルカによると、元々あった地下三階層の拡張工事を行なっているときに、偶然にもこの広大な空間を発見したということだった。

「それもこれも、シンイチが設定で呼び出してくれた地下ダンジョンの魔物『ラーナリアンデスワーム』のおかげじゃ。アイツらがおらんかったら、この空間を発見するのは何十年も後になっていたかもしれんからの」

「ラーナリアンデスワーム?」

 なんだかどこかで聞いたことあるような名前だな。

「でっかいミミズじゃ。丁度シンイチの腹回りくらいの太さで、ここからあそこくらいの長さがある」

 そう言いながら、ルカは20mくらい前方を指差した。

「昔は、貴重なたんぱく源だったんじゃがの。シンイチに会って美食漬けにされてからは、もうヤツラを食べようとは思わんな。むしろ最近は、可愛いくてペットにしたいと思うようになってきたわ」

「へ、へぇ……」

「ほんと可愛いぞ、お主も気に入るはずじゃ。なんなら呼んでみるか?」

 俺は全力で遠慮させていただいた。

 パーティが終わった後、改めて俺はルカに地下ダンジョンを案内してもらった。

 俺の知らないうちに、ダンジョンの拡張工事はとてつもなく進んでいたらしく、

 俺が知っている地下15階層からなるダンジョンは、地下22階層にまで拡張されていた。

 ただのネタ話だと思っていた地下帝国が、本当に生まれつつあった。
  
 このままだと、マジで俺、地下帝国の主にされちゃうかもしれん。
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