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第118話 森の黒こげ

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 ステファンの活躍によって、現在のところグレイベア村の開発はかなりの速度で進んでいる。

 俺はルカとグレイちゃんを伴なって、グレイベア村のあちこちを見回っていた。ちなみにライラは、ラミア族のトルネアに捕まってしまい、地下ダンジョンへ引き摺られていった。

 どういういきさつがあったのか知らないが、トルネアはライラにご執心で、ライラがグレイベア村にくるといつも付きまとってくる。

 とはいえ決して仲が悪いわけではない。ライラはトルネアのことを「お姉ちゃん」と呼んでいるくらいだ。

 今頃ライラは、地下ダンジョンでトルネアのお茶会に参加していることだろう。ライラに王都土産をもらって、身もだえしているラミアの姿が目に浮かぶようだ。

 俺たちは俺たちで、王都についての話をしながら歩いているうちに、村の外れにある森付近まで来てしまった。

「そういえば、この辺で木がなぎ倒されていたのを見たよ。あれって何だったんだろう」

「あぁ、それはグレイちゃんの仕業じゃな」

「えっ!? グレイちゃんがやったの? あれを?」

 驚いてグレイちゃんの方を見る。

「うーっ! そうなの! アレは私が倒しちゃったんだよ!」

 話を聞くと、突然の幼女化解除で元のグレイベアに戻ったグレイちゃんが、焦るあまり村の外に駈け出してしまった結果らしい。

「うーっ! いきなり身体が大きくなっちゃったから、村を壊しちゃいけないと思って焦っちゃったの。うーっ、ごめんなさいなの」

 シュンとしているグレイちゃんの頭をナデナデして慰める。

「そりゃ突然、大きくなったらビックリしちゃうよ。俺の方こそ、グレイちゃんが元の姿に戻るときにいなくて、ごめんね」

「まったくその通りじゃ! 全部シンイチが悪い!」

 今日もルカが厳しい。

 どうして二人のご機嫌を取ろうかと考えているとき、突然、ココロチンの声が聞こえてきた。

(ココロチン:ピロロンッ! 緊急女神クエストが発生しました)  
(また? 最近、多くない?)
(シリル:内容を表示します)

≫ 緊急女神クエスト:妖異 森の黒山羊の狩猟
≫ ここより西方5km地点に森の黒山羊が確認されました。
≫ この妖異を狩猟してください。
≫ クエスト参加資格:転生勇者、召喚勇者、神命勇者、一般転生者
≫ クエスト報酬:
≫ (討伐)EON 60万ポイント(支援精霊ボーナスあり)
≫ (捕獲)EON 60万ポイント(支援精霊ボーナスあり)
 
(これって初めて見る妖異だな)

(ココロチン:そうでもないですよ?)

(シリル:確かにシンイチ様には初めてのご案内となりますが、ショゴタンに次いで出現率の高い妖異です)

(うーん。なんだか怖そうな予感がする)

(ココロチン:森の黒山羊は、体躯は大きいですけど雑魚敵ですよ。幼女化ビームで一発です!)

(ココロチンの脅威評価はちょっと信じられないなぁ。また支援精霊ボーナスに目がくらんでる気がする)

(ココロチン:酷い! それに「また」ってなんですか!)

(シリル:移動速度はショゴタンより早いですが、人間が全力で走れば逃げ切れる程度です。またショゴタンの触手攻撃のような一撃で致命打を与えるような攻撃手段は持っていません)

(シリル:但し、一見すると大木のような姿から、森の中では存在に気付きにくく、あまり近寄り過ぎると枝のように見える触手に捕らわれて、本体腹部にある巨大な口で食べられてしまう危険性があります)

(ほら、やっぱり怖いやつじゃん!)

(シリル:ただ田中様には索敵レーダーがありますし、今回は1体だけのようです。集団だと怖い相手ですが、単体なら油断しない限り狩猟は容易いと言ってよいでしょう)
 
(ココロチン:です)

(うーん、わかったよ。クエストを受注する。こんな危ない奴を放置しておくわけにもいかないからね)

(ココロチン:わーい! 毎度アリアリー!)
(シリル:クエストの受注が完了しました)

 シリルが支援精霊になってからというもの、どうもココロチンのサボリ具合が気になる。だけどまぁ、これまで色々と迷惑掛けて来たことだし、今は黙って見守るだけにしておこう。

「ルカちゃん、妖異が出たみたい。ここから西に5kmだって! これからフワデラさんと一緒に行って倒してくるよ」

「ほう、妖異が出たのか? 妾たちの力試しにちょうど良さそうじゃ。フワデラを呼ぶまでもない、シンイチ、妾たちだけで倒すぞ」

「そうは言っても、馬も準備しなきゃいけないし、どうせ村に戻るならフワデラさんにも声をか……」

 俺が言い切る前に、ルカが俺の腕を掴み、大声を張り上げる。

「馬など必要ない! ほれグレイちゃん! 変身解除!」

 ぼふんっ!

 ……という音と共に視界が白い煙に包まれる。

 煙が晴れると、俺とルカは巨大なグレイベアの頭の上に乗っていた。

「あわわわわわ! 落ちる落ちる落ちる!」

 俺は慌ててグレイベアの頭の毛にしがみつく。その俺の腰にルカが足をしっかりと絡めてしがみついていた。

「ではグレイちゃん! アッチじゃ! 進めぇぇぃ!」

「うぉぉぉぉ!」

 ドシンッ! ドシンッ! ドシンッ! ドシンッ! ドシンッ! 

 森の木々をなぎ倒しながら、グレイちゃんは西へ走り出した。

  10分もしないうちに、俺たちは森の黒山羊のいる場所に到着した。

 一見すると、黒い巨木が立っているようにしか見えない。だが、俺たちが近づくと、枝に見える触手をうねうねと動かし始めた。

 腹部? に当たる部分には、巨大な口が開いており、その口の中には、人間の頭ほどの大きさの目玉が何個も浮かんでいた。

「うひぃぃぃぃ! やっぱ怖いやつうぅぅ!」

 怯える俺の頭をルカがペシペシと叩く。

「しっかりんせんか! あんなの雑魚じゃ! 雑魚! よしグレイちゃん! 奴にガツンと一発かましてやれ!」

「うーっ! うっ! うっ!」

「何!? 気持ち悪いから触りたくない? 生理的に無理? シンイチのことか?」

「酷い!」

「むぅ……まぁ、仕方ない。今回は妾がやるとするかの。スゥーッ」

 ルカが大きく息を吸い込んだ。同時にグレイちゃんが頭を低く下げる。

 そして次の瞬間――

 ブフォォォォォォ!

 火炎放射器のように、まっすぐな炎が森の黒山羊に向かって伸びていく。

 ぐおぉぉぉお!

 巨大な妖異は炎から逃れようとするが、ルカちゃんのファイアブレスは正確かつ素早くその後を追って行く。

 巨大な妖異の身体は、あっという間に炎の中に包み込まれていった。

 ドシーン!
 
 歩くことができなくなった妖異は、地面に倒れ込んでそのまま動かなくなってしまった。

(ココロチン:ピロロンッ! 妖異の討伐を確認しました。クエスト成功です!)

(えっと……俺が直接倒したわけじゃないけど、それでも大丈夫なの?)
 
(シリル:事前にパーティ登録していますから問題ありません。キチンと報酬も発生しますよ)

(ココロチン:ボーナスもね! ふひっ!)

(そ、そう。そりゃよかったよ)

 俺は、森の黒こげになった森の黒山羊を見ながら、ほっと胸を撫で下ろした。

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