上 下
114 / 189

第113話 シャトランの巡回面接

しおりを挟む
 広いロビーの中央には、二階へと繋がる大きな階段がある。その階段の踊り場に5人の騎士が現れた。

 騎士のうち四人は女性騎士、残りの一人は男性騎士だった。

 つまり彼がシャトラン・ヴァルキリー団長、シャトラン・ハーレムその人なのだろう。

 んっ? シャトラン・ハーネスだったか? ハーレムだったか? 

 ま、どっちでもいいか。

 シャトランの見た目は、まぁ……そこそこイケメンだ。金髪碧眼で、出会ったばかりの頃のステファンと同じハーレム族っぽい感じがする。ただステファンとは違って、シャトランには貴族趣味の嫌味な雰囲気が纏わりついている。

 出会った頃の嫌味なステファンとこのシャトランを並べたら、俺は迷わずステファンと友達になろうとするだろう。

 いや……まぁ……背後に控える美人騎士たちを見て、羨ましくて僻んでいるだけかもしれないけど。

「シャトラン団長が巡回されます! そのままの姿勢でお待ちください」 

 ドドーン! ドドーン!

「シャトラン団長による、総巡回!」

 ドドーン! ドドーン!

 銅鑼の前に立つ女性騎士が号令を終えると、シャトランと女性騎士たちはゆっくりと階段を降り始める。

 ロビーにいる入団志望者たちが一斉に息を呑む音が聞こえたような気がする。

 シャトランは静かな足取りで移動し、階段下に立っている女性冒険者の前で立ち止まった。

 そしてチラッとその女性冒険者を一瞥すると、フイッと顔を背けて、別の女性冒険者のところへ移動を始める。

 視線を逸らされた女冒険者がその場に崩れ落ちて泣き始めた。複数のメイドが現れて彼女を引き起こし、建物の外へと連れ去って行く。

 次の女冒険者の前では、シャトランは厭らしい視線を彼女の全身に這わせていた。そしてニヤリと笑みを浮かべて、

「合格」

 と、呟いた後、また次の入団志望者の元へと移動していく。

 この野郎! 

 俺がもし自分のハーレム希望者を面接するとしたら、やるだろうと思っていた妄想そのままのことをやってやがる!

 しかも妄想と違って、リアルでやるとこんなにもエグイものだったとは!

 将来、俺がハーレム面接するときは、こういう雑なのは絶対に辞めよう! ちゃんとひとり一人のハーレム参加希望者と正面から向き合っていこう! そのときが来たら絶対にそうしよう!

 まぁ、そんなときは絶対に来ないだろうけど……。

「どうする? もう一回【巨乳化】かけて、もっと大きくしとくか?」

 シャトランのえげつない巡回面接が続く中、俺はセレーナを見て言った。緊張のあまりセレーナの顔は真っ青になっている。

「い、いえ、このままでいいわ。さすがにこれ以上大きくすると、却って引かれてしまうかもしれないから」

「わかった。とにかく落ち着け。顔が真っ青だぞ。結果がどう転ぶとしても、勝負は一瞬だ。深呼吸して備えておけ」

「そ、そうよね……」

 セレーナが俺の言葉に従って深呼吸を繰り返す。

 そうこうするうちに、シャトランの巡回面接が段々と近づいてきた。



~ シャトランの面接 ~

 そしてついに、シャトランがセレーナの前で立ち止まる。

「!!」

 セレーナが緊張のあまり固まってしまう。彼女の心の絶叫が聞こえてくるように思われた。

 俺たちも、間近で見るシャトランの大物オーラに圧倒されて緊張していた。

 カレンやタクスも、全ての意識をシャトランに集中し、その一挙手一投足を見守っている。

 ゴクリ……全員が緊張でツバを飲み込む。

「シンイチさま、大丈夫ですか? お水をどうぞ」

 シャトラン以外は全て凍りついていた絶対零度の世界で、ライラだけは普段と全く変わることなく、俺のことだけを気にかけてくれていた。

「あ、ありがとう、ライラ」

 ライラのおかげで、俺はシャトランの威圧から解放された。

 そもそも俺の面接じゃないんだから、俺が緊張する必要なんて全くなかったな。

 そう思い直して、セレーナの面接を見守ろうとしたそのとき、

「なんて美しい……。美しく輝くような栗毛の髪! 吸い込まれるような青空の瞳! 女性の優しさと柔らかさを体現したボディ! だがその下にある鍛え上げられた筋肉を僕は見逃したりしないぞ! 君こそ女神の美しさと戦士の強靭さを兼ね備えた真のヴァルキリーだ!」

 おいおい! よかったな! セレーナ! めちゃくちゃ褒められてるぞ!

  これは合格間違いな……

「その目の傷に秘められた神秘! 神話の美しき乙女ファナリアは、妖精王に右目に傷をつけられてから未来を見通す力を得たというが、キミの右目からも絶大なる神力を感じる!」

 んっ? セレーナの目に傷はないが?

「シャトラン・ヴァルキリーへようこそ! 麗しき乙女よ! 神秘の体現者にして、我が運命の恋人よ! キミは合格だ! いやいや大合格だよ! まさか私と共に女神に祝福されし道を歩む生涯の伴侶と出会うのが、今日この日この時だったとは! 女神の采配に感謝するしかあるまい!」

 ブツブツと何事か言いながら、シャトランはキザったらしく、こめかみに手を添えて首を左右に振った。

 それから彼はスッと前に進み出て、

 セレーナの前を通り過ぎ、そして――

 あろうことかライラの手を取ろうとした。

 はぁ!?

 何してくれてんの、このタコ助!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

処理中です...