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第89話 ダンジョンオーナー

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 シュモネーがあっさりと賢者の石をフワデラさんに手渡したので、ルカがさらに賢者の石を要求させようとしたが、

「申し訳ございません。今ので最後です」

 見るからに「シュンッ」と音が聞こえそうな勢いでシュモネーが凹む。慌ててフワデラさんがフォローを入れた。

「いやいや、賢者の石のような貴重なものを二つも頂けるなんて、これほど有難いことはありません。シュモネー殿には感謝しておりますよ」

 パァァァァァッ!と音が聞こえるくらいシュモネーが全身に喜びのオーラを発しながら満面の笑顔になった。ふつくしい……。

 グイッと俺の服が引っ張られる。ライラが頬を膨らませていた。

 ライラの嫉妬がとても嬉しい。

 それは単に俺の独占欲が満たされるというのが一番の理由だったけど、それ以上に、ライラが自己主張をしてくれるようになったのが嬉しかった。

 以前の自己評価どん底のライラだったら、俺が誰かに鼻の下を伸ばしたりしようものなら、そのまま内向きに消えてしまいそうな勢いだったからな。

「ライラ……」

 俺はライラの腰を引き寄せて耳元で囁く。

「ライラが一番カワイイ……」

 突然、シュモネーが俺の方を向き、部屋の奥を指さしながら言った。

「あっ、交尾でしたら、その奥に控室がありますのでお使い頂けますよ」

「あっ、すんません。お借りしますね」

 その場にいる全員のジト目を無視しつつ、俺はシュモネーが指さした部屋へライラの手を引いて入っていった。



~ 3時間後 ~

 賢者モードで冷静沈着な俺は、お肌ツヤッツヤのライラと一緒に祭壇の前に戻ってきた。
 
 ルカがプンプン怒って俺のすねに蹴りを入れてくる。

「お主らは、どれだけ我らを待たせるのじゃ! いちいち一回の時間が長いんじゃ!」

「ははは、ルカちゃんは俺がいなくて寂しかったんだねぇ」

 俺がルカの頭をナデナデすると、ルカの顔が「ほへぇらぁ」と蕩ける。

「って、違ーう! わらわは怒っておるのじゃ! だいたいここは敵地なんじゃぞ! そんなところで……えーい! たわけがっ!」

「いえ、もうここはダンジョンマスターである皆さんにとっては敵地ではありませんよ。ダンジョン内のモンスターが皆さんを襲うことはありませんし、罠も作動しません」

 シュモネーがダンジョンマスターになることによって得られる特典について解説してくれた。

「それに……」

 シュモネーが俺の方を見る。

「転生者であるシンイチ様は、このダンジョンのオーナーとして登録することが可能になります。登録が完了した時点で、この祭壇を拠点として利用することができるようになります」

「なっ!? どうして俺が転生者だと?」

「それはともかく、ダンジョンオーナーとして登録されますか?」

「えっ、あっ、はい?」

(ココロ:拠点32を登録しました。現在の拠点登録数2箇所。拠点3との転移が可能です)

 ココロチンのメッセージに続きシリルの声が聞こえる。

(シリル:Wifi環境の設置をご希望されますか? 初回はポイント無料で設置することが可能です)

(なんですと!?)

 俺はWifi環境によって生み出されるであろう天国展開の数々にウキウキしつつ、シュモネーに大事なことを確認した。

「俺がダンジョンオーナーになるってのはどういうこと? 俺ここに住んでもいいの?」

「もちろんです。登録も済んだようですし、このダンジョンはシンイチ様のものですよ。冒険者を呼び込んで撃退するのもよし、ただ普通に住居にするのもよし、お好きにどうぞ」

「よっし!」

(シリルっち! Wifi環境の設置よろしく!)

(シリル:かしこまりました……ってシリルっち!?)

(あっ、ごめんイヤだった?)

(シリル:い、いえ。びっくりしただけです)

 こうして俺はダンジョンのオーナーとなった。

 俺が感慨にふけっている目の端で、シュモネーがフワデラさんに身体をぴったりと寄せて。

「フワデラ様もあちらの部屋でお休みになられては? こう見えてもわたくしの身体、ちゃんと子どもを宿すことができるのですよ。もしフワデラさんの子を沢山産むことができれば、わたくしの周りをフワデラ尽くしの天国に……」

 シュモネー……結構、ヤバイ人なのかも知れない。

 と、DTを卒業した俺なら冷静にシュモネーを観察することができるのだが、

「えっ、あっ、そのっ、こ、子ども!?」

 DTのフワデラさんにはそんな余裕はないようだった。

 こうして俺たちはダンジョンを攻略し、拠点とダンジョンそのものを手にれることができたのだった。

「それにしてもこの賢者の石どうしようか? 一個は俺のスキルレベルをMAXに使うとして……」

「もう一つは、ライラの義眼に使うがよかろう」

 ルカがさも当然のように答える。

「義眼をいちいち取り出して洗浄する必要がなくなるだけではなく、目を失ったことによるライラの身体ダメージを十分に癒してくれるはずじゃ」

「ルカさま……」

 ライラが声を震わせる。

「いや、その、ライラにはこれからもわらわの世話をしてもらわねばならんからな! 長生きしてもらわんとわらわが困るのじゃ!」

 顔を真っ赤にしたルカちゃんがプイっと横を向く。

 俺はルカちゃんの頭に最上級のナデナデを贈った。



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