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第66話 悪魔勇者と12の魔人
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茂木聖従はこの世の中が大嫌いだった。それでも25年間は彼なりに頑張って努力して世の中とは妥協してきたつもりだった。
だが世間の方が彼を拒絶するようになってきた。いつ終わるとも知れない不況の波が彼の務めていた会社を潰した。それ以降は転落するだけだった。いくら崖から這い上がろうとしても、その崖は掴んだ端からボロボロと崩れていく。
ある日、自分より先に無職となって苦しんでいた父親が首を吊り、その翌日、母親は風呂場で睡眠薬を飲んで死んでいた。
良好な親子関係ではなかったが、両親を失って初めて彼を人間として繋ぎとめていたのが自分から消えてしまったことを知った。
その瞬間、彼は人として生きることを止めた。家財産を処分したお金が尽きれば、それが寿命だと彼は割り切った。
何事に対しても興味を失った聖従だったが、時折ニュースで流れるテロ事件だけは食い入るように関心を持った。TVやネットで事件の詳細を追ううちに、そうしたテロ犯の全てが自分と同類、いや自分自身であると感じるようになっていった。
そして運命の日。
彼はガソリンを入れた携帯ボトルをいっぱいに詰め込んだリュックを背負い、さらに紙袋にも詰めて電車に乗り込んだ。
最初、乗客たちは床に何本ものボトルが転がっていることに気づいたが、それを脅威と感じるものは誰一人としていなかった。
ボトルから液体がこぼれるのを見るまで、
その臭いが鼻に届くまで、
聖従がサバイバルナイフとライターを取り出すまでは、誰一人として脅威を感じるものはいなかった。
そして最悪のテロ事件は実行された。
~ 思想 ~
「星の智慧派」の思想はラーナリア大陸のみならず全世界に広がっている。ただそのことを知っているのは、神々と魔神を除けば極一部の存在に限られていた。
この思想は大陸や地域によって「星の智慧」「肉からの解放」「混沌信仰」等と様々な呼び方があり、色々な形態の集団や組織が存在する。
現在は分断されているこうした勢力が、いつの日にか世界中に同志がいることに気が付いて連携することを神々は恐れていた。
神々に敵対する魔神にとって、彼の勢力が神々の敵であるのなら自分たちの味方となり得る側面があることは認めていた。しかし、魔神たちはその根源に得体の知れない危険をも感じ取っている。
魔神たちはこの惑星ドラヴィルダで生まれた言わば地の神々だ。魔神から見れば天上から降り下ってきた神々は侵略者である。しかしこの「星の智慧派」がこの世界に呼び寄せようとしているのが純粋な混沌と純粋な破壊であることを魔神たちは十分に理解していた。
「悪魔勇者召喚」という儀式がある。
一般的には、魔神たちの力を借りて異世界から魔界に味方する勇者を呼び寄せるもの、と考えられている。
しかし地の神々である魔神たちは排他的であり、異世界から異物をこの世界に呼び込むことを嫌っている。つまり魔神にとっては「悪魔勇者召喚」は忌避すべき儀式なのだ。
では誰がこの儀式を好んで行おうとするのか。
それが「星の智慧派」の思想に染まったものたちである。
~ 殺戮 ~
「ハハハハハ! これだけ殺しても息一つあがりゃしねぇ! 最高だ! 最高にいい気分だぜ!」
茂木聖従は無数に転がる死体の中央に立ち、血塗られた槍を地面に突き立てた。彼の周囲には12の黒い影がそれぞれ思うがままに死者の身体を貪っている。
聖従にはこの黒い影が何者であるか直感的に悟っていた。自分が電車内で放火テロを行ったときに死んだ奴らだ。火に焼かれたもの、聖従がナイフで喉を切り裂いたもの、胸を刺したもの、そういう奴らが姿を変えたものだということを感じ取っていた。
「我らが勇者よ、我らが声に耳を傾け給え」
灰色のローブを纏った男が香炉を持って聖従の目の前に進み出る。聖従が槍を地面から抜いて男の胸に突き立てると、男はどさりと地面に倒れて死んだ。
「いつまでこんなことを続けるつもりなんだぁ?」
また別の灰色のローブを纏った男が聖従の前に進み出る。
「我らが勇者よ、我らが声に耳を傾け給え」
聖従が槍で突き殺す。この繰り返しがさらに20回も繰り返された頃、聖従の中に激しい欲情が沸き上がってきた。
「なぁ、女はいねぇのか? 女だ! 女を出したら検討してやる!」
聖従の前に一糸纏わぬ女が香炉を持って進み出てきた。
「我らが勇者よ、我らが声に耳を傾け給え」
聖従は女を犯し、そして殺した。その遺体を黒い影のひとつが呑み込んでいく。影が去った後には何も残っていなかった。
聖従の前にまた別の一糸纏わぬ女が香炉を持って進み出てきた。
「我らが勇者よ、我らが声に耳を傾け給え」
聖従は女を犯した後、槍で突き殺す。この繰り返しがさらに10回も繰り返された頃、聖従の中にようやくひとつの疑問が沸き起こった。
聖従の前にまた別の一糸纏わぬ女が香炉を持って進み出てきた。
「てめぇら、いったい誰だよ?」
「勇者様を称え、そして勇者様に仕えるものです。さぁ、どうぞこちらへ」
聖従は女を犯したが今度は殺さなかった。
「まぁ、話くらいは聞いてやるか」
聖従は女の後に付いていく。
聖従の後を黒い影がゆらゆらと彷徨いつつ追っていった。
だが世間の方が彼を拒絶するようになってきた。いつ終わるとも知れない不況の波が彼の務めていた会社を潰した。それ以降は転落するだけだった。いくら崖から這い上がろうとしても、その崖は掴んだ端からボロボロと崩れていく。
ある日、自分より先に無職となって苦しんでいた父親が首を吊り、その翌日、母親は風呂場で睡眠薬を飲んで死んでいた。
良好な親子関係ではなかったが、両親を失って初めて彼を人間として繋ぎとめていたのが自分から消えてしまったことを知った。
その瞬間、彼は人として生きることを止めた。家財産を処分したお金が尽きれば、それが寿命だと彼は割り切った。
何事に対しても興味を失った聖従だったが、時折ニュースで流れるテロ事件だけは食い入るように関心を持った。TVやネットで事件の詳細を追ううちに、そうしたテロ犯の全てが自分と同類、いや自分自身であると感じるようになっていった。
そして運命の日。
彼はガソリンを入れた携帯ボトルをいっぱいに詰め込んだリュックを背負い、さらに紙袋にも詰めて電車に乗り込んだ。
最初、乗客たちは床に何本ものボトルが転がっていることに気づいたが、それを脅威と感じるものは誰一人としていなかった。
ボトルから液体がこぼれるのを見るまで、
その臭いが鼻に届くまで、
聖従がサバイバルナイフとライターを取り出すまでは、誰一人として脅威を感じるものはいなかった。
そして最悪のテロ事件は実行された。
~ 思想 ~
「星の智慧派」の思想はラーナリア大陸のみならず全世界に広がっている。ただそのことを知っているのは、神々と魔神を除けば極一部の存在に限られていた。
この思想は大陸や地域によって「星の智慧」「肉からの解放」「混沌信仰」等と様々な呼び方があり、色々な形態の集団や組織が存在する。
現在は分断されているこうした勢力が、いつの日にか世界中に同志がいることに気が付いて連携することを神々は恐れていた。
神々に敵対する魔神にとって、彼の勢力が神々の敵であるのなら自分たちの味方となり得る側面があることは認めていた。しかし、魔神たちはその根源に得体の知れない危険をも感じ取っている。
魔神たちはこの惑星ドラヴィルダで生まれた言わば地の神々だ。魔神から見れば天上から降り下ってきた神々は侵略者である。しかしこの「星の智慧派」がこの世界に呼び寄せようとしているのが純粋な混沌と純粋な破壊であることを魔神たちは十分に理解していた。
「悪魔勇者召喚」という儀式がある。
一般的には、魔神たちの力を借りて異世界から魔界に味方する勇者を呼び寄せるもの、と考えられている。
しかし地の神々である魔神たちは排他的であり、異世界から異物をこの世界に呼び込むことを嫌っている。つまり魔神にとっては「悪魔勇者召喚」は忌避すべき儀式なのだ。
では誰がこの儀式を好んで行おうとするのか。
それが「星の智慧派」の思想に染まったものたちである。
~ 殺戮 ~
「ハハハハハ! これだけ殺しても息一つあがりゃしねぇ! 最高だ! 最高にいい気分だぜ!」
茂木聖従は無数に転がる死体の中央に立ち、血塗られた槍を地面に突き立てた。彼の周囲には12の黒い影がそれぞれ思うがままに死者の身体を貪っている。
聖従にはこの黒い影が何者であるか直感的に悟っていた。自分が電車内で放火テロを行ったときに死んだ奴らだ。火に焼かれたもの、聖従がナイフで喉を切り裂いたもの、胸を刺したもの、そういう奴らが姿を変えたものだということを感じ取っていた。
「我らが勇者よ、我らが声に耳を傾け給え」
灰色のローブを纏った男が香炉を持って聖従の目の前に進み出る。聖従が槍を地面から抜いて男の胸に突き立てると、男はどさりと地面に倒れて死んだ。
「いつまでこんなことを続けるつもりなんだぁ?」
また別の灰色のローブを纏った男が聖従の前に進み出る。
「我らが勇者よ、我らが声に耳を傾け給え」
聖従が槍で突き殺す。この繰り返しがさらに20回も繰り返された頃、聖従の中に激しい欲情が沸き上がってきた。
「なぁ、女はいねぇのか? 女だ! 女を出したら検討してやる!」
聖従の前に一糸纏わぬ女が香炉を持って進み出てきた。
「我らが勇者よ、我らが声に耳を傾け給え」
聖従は女を犯し、そして殺した。その遺体を黒い影のひとつが呑み込んでいく。影が去った後には何も残っていなかった。
聖従の前にまた別の一糸纏わぬ女が香炉を持って進み出てきた。
「我らが勇者よ、我らが声に耳を傾け給え」
聖従は女を犯した後、槍で突き殺す。この繰り返しがさらに10回も繰り返された頃、聖従の中にようやくひとつの疑問が沸き起こった。
聖従の前にまた別の一糸纏わぬ女が香炉を持って進み出てきた。
「てめぇら、いったい誰だよ?」
「勇者様を称え、そして勇者様に仕えるものです。さぁ、どうぞこちらへ」
聖従は女を犯したが今度は殺さなかった。
「まぁ、話くらいは聞いてやるか」
聖従は女の後に付いていく。
聖従の後を黒い影がゆらゆらと彷徨いつつ追っていった。
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