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第55話 ライラの変化

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 最近、ライラが俺を避けている気がする。

 いつからそうなったのかと言えば、ライラが義眼を付けるようになってからだということだけはハッキリしている。

 その前のライラと言えば、隙あらば俺に迫ってきて、俺に手を出させようとエロエロしい挑発を繰り返してきた。それが義眼を手に入れて村に戻って以降パッタリと止んだ。

 最初は照れ隠しかなと思っていた。だって義眼を初めて付けた彼女を褒めたとき、顔を真っ赤にしてたし。正直なところ「ライラは俺に惚れている」なんて、DT特有の勘違いを発揮してたから、ライラはただ照れてるだけなんだろうって思ってた。

 妙に俺と距離を取るのも「好き避け」なんだろう、だって俺はライラに惚れられてるんだもの!

 ……そう思っていた時期が俺にもありました。

 俺の心がポッキリと折れたのは、ほんの些細なことだった。ライラの腕に泥がついてたのでそれを除菌シートで拭おうとしたとき、ライラにパシッと手を払われたのだ。それだけならまだしもまだしもだ。だが、

「イヤッ!」

 なんて言われて、ライラが両手で身をかばうような体勢に入られた日にゃ、「好き避け」なんて自分への言い訳なんて吹っ飛んで消えてしまいましたがな。

「す、すみません。失礼します」

 逃げるようにして去っていくライラの姿を見送りながら、俺はorzしていた。

「ふむ。坊主はライラに避けられるようになっちまったか」

 背後から顎に手を当てたマーカスがニヤニヤした顔で近づいてきた。

「う……村で唯一人、俺の味方になってくれた女の子だったのに……」

「何言ってんだ坊主、この村の全員がお前の味方だ。お前のことを悪く言うやつなんざ……酋長としてのお前のことを悪く言うやつなんざいないからな」

「どうして言い直したのさ!」

 俺はorzしたまま右手で地面を叩き続ける。

「んー。前にカレンが、女はそういうのが好きなやつとそうでないのが極端だって言ってたから、ライラは嫌いな方だったのかもしれねぇな」

「そういうのって?」

「ほら、男と男が愛し合うってやつだよ。俺にはわかんねーけどさ、まぁ人の趣味にとやかく言うほど野暮でもねぇから」

「何の話!?」

「ほら、坊主とパン屋のさ。その……俺はお前を応援するからな」

「何の応援だよ! そんな勘違いされても仕方ないってのは分かるけど、俺はイリアのことを女の子だと思ってたから好きだったわけで……とにかく女の子がいいんだよ!」

「お、おぅ。それはそのなんというか……ホッとした。でもライラの奴はそうは思ってないんじゃねぇか?」

「だから俺を避けるように?」

「んー、どうだろうなぁ。まぁ、一つ一つ思い当たることを潰していくしかないな」

「そ、そうだよね」

 いや待て。もしライラが俺とイリアのことを勘違いしているのだとしたら、この状況を維持していれば、自然とステファンとライラの絆が深まっていったりするのではないだろうか。
 
 これまで何かと俺を挑発してきたライラには、夜のおかずを提供してもらった恩もある。おかずの供給が停止してしまうことになるかもしれないが、今こそライラに恩を返すべきときではないだろうか。

「ほむ。方向性が見えてきた気がする。マーカスありがとう」

 そう言って俺はすくっと立ち上がった。

「お、おぅ。よくわからんが役に立てたのならよかったぜ」

 とりあえず考えるべきことが明確になってきたので、俺は落ち込んだ状態からは脱することができた。

 とりあえず子守の仕事に戻るとするか。



 ~ 練乳チューブ ~

「シンイチ! 練乳が切れてしもた! またわらわに練乳チューブを捧げるがよいぞ!」

「一日1本までって言ったでしょ! ……って、練乳の備蓄が全部なくなってる!」

「うむ。練乳はおいしいからな! だがわらわだけじゃないぞ、グレイちゃんも一緒に練乳をペロペロしておるのじゃ!」

「うーっ、うーっ!」

 幼女(グレイベア)が口の周りを練乳だらけにしたまま、俺の足に飛びついてきた。

「うぁぁぁ! ズボンで拭っちゃ駄目! ほらっ、こっち向いて!」

 俺はグレイちゃんの口の周りにべったりとついた練乳をハンカチで拭い取る。

「もう! 二人とも一日1本の約束が守れないなら、もう練乳は買わないからな!」

「シンイチ! それはあんまりなのじゃ!」

「うーっ! うーっ!」

「約束! 守れる!?」

 俺は眉にシワを寄せて二人を見つめる。この表情は「本気だよ」の顔だ。

「うっ、せめて一日2本に」

「う、う、うー」

「2本だったら約束守れるの?」

 幼女(ドラゴン)と幼女(グレイベア)の顔がパッと明るくなる。

「うん! 守れる! 約束するのじゃ!」

「うーうーうー!」

「もし約束を破ったら練乳チューブはもう買わない。シナモンバターチューブにするから!」

「うへぇ、わかったのじゃ。シナモンはいやなのじゃ」

「ううぅ!」

「よし、約束もできたことだし、一緒にガツンと愛媛ミカンを食べよっか!」

「ほんとうか! あの冷たくて甘いのも大好きなのじゃぁぁ!」

「うーうーうー!」

「「「「「シンイチー!」」」」」

 盗み聞きでもしていたのだろうか、子コボルトたちが一斉に奥部屋に入ってきた。俺たちの手にガツンと愛媛ミカンがあるのを見て、たちまち群がってくる。

「「「「「ミカンー! ちょーだいー!」」」」」

 俺は幼女たちと一緒にガツンと愛媛ミカンを堪能した。

 幼女たちといる間は、女性についての悩みなんて考えなくて済むので、俺はちょっと気持ちが楽になった。

 まぁ、お守で体力はごっそりと持ってかれるけどな。

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