上 下
55 / 189

第54話 鏡と櫛

しおりを挟む
 荷馬車がコボルト村に到着したのは夜中だった。とりあえず荷物を下すのは明日にして、その日はすぐに眠ることになった。

 奥部屋に戻ると、俺の四畳半には二人の幼女がタオルケットに身を包んでスースー寝息を立てていた。元グレイベアと元ドラゴンの幼女だ。

 俺は二人を起こさないようにそっと隅っこに身を横たえると、早速ココロチンを呼び出した。もちろんクレームを入れるためだ!

(ココロチン! 銀の君は、イリアさんじゃなくてイリアくんだったわけですか?)

(肯定)

(肯定じゃねーよ! 合致率89%じゃなかったのかよ! 合致してない11%の内訳はどーなってんのさ!)

(10%がバストサイズで、1%が性別ですね)

(性別なんでそんな少ないの! なんなら89%の方を性別に割り当てて欲しかったわ! 性別大事! 一番大事なんです!)

(エンジェル・キモオタとの会話ログには男の娘でも問題ないとおっしゃっていたようですが)

(いや、それは二次元の話だから。リアルの壁は50mくらいの高さがあるから)

(でも、嫌らしい手つきでイリアくんの手をしつこく触っていましたよね? 嫌らしい手つきで)

(うっ、そ、それは女の子の手だと思ってたから)

(女の子の手だと思ってたんですよね)

(んーとね。この会話の流れつく先に、ホモホモしい予感がしてちょっと嫌なんだけど)

(女の子の手だったんですよね)

(何で喰いついてくるの? わかった、この会話はもうやめよう。イリアさんはイリアくんだった。それだけ。今度あったときはもう普通に男友達でOK)

(男の娘とだって子どもが作れるんですよ?)

(いや作れねーから! えっ!? もしかして、この世界だとそうなの?)

(いえ今のは、前世の田中様の薄い蔵書の中からの引用です)

(おいぃぃぃ!)

(男の娘は男の子の気持ちいいとこ全部知ってるんだよ?)

(やめろぉぉ! 変な流れが加速して男の娘ハーレムとか展開しちゃったらどうすんだよぉぉ!)

(何か問題が?)

(問題ない。……いやある! あるから! やっぱわかった今自覚した。おれはおっぱいスキーだったわ! たわわな月曜日願望があったんだわ!)

(イリアくんを【巨乳化】すればいいのでは?)

(!?)

(なんでしたら【女体化】すれば問題ないのでは?)

(!?)

(ねっ?)

(……いや、やっぱり最初は普通がいいというか、DT捧げるなら相手にも膜とかあった方が……)

(膜とか言うな! 死ね! 変態!)

(いや、ここまでのココロチンの会話の方が酷いよ! 酷いよね!)

(セクハラ、ダメ、ゼッタイ)

(そのままそっくりお前が言うなだよ! なんで俺に男の娘なんか推してんだよ!)

(男の娘を差別するんですか?)

(わー出たー、出たよ差別! 何でも差別って言えば相手を黙らせられるって思うなよ!差別なんて言うなら、カネなし暇なし彼女なしで前世人生終了して、こっちで女の子に生理的に無理とか言われてる俺こそ主張する権利があるんだよ!)

(そうですね。心の底から同情いたします)

(……)

(どうしました? 反論しないのですか)

(……)

(田中様?)

(……グスッ)

(大丈夫ですか?)

(もう寝る)

 どうせこのままココロチンと話しても押し負ける気がしたので、というか心身ともに疲れ切っていたので、俺はもう寝ることにした。朝起きたら、何か全部いい感じに解決しているだろう。うん。もう寝よう。

 俺は悪夢を見た。ブリーフを大きく膨らませたイリアくんが「ほら、これどう思う? どう思う?」と言いながら俺の顔にもの凄く大きい何かを押し付けてくる夢だ。

 ハッ! 

 うなされて目が覚めると幼女(ドラゴン)の足が俺の顔の上に乗っていた。



 ~ プレゼント ~

 神スパネットスーパーで100円ショップが利用できるのはとてもありがたかった。100円ショップと言いながら300円と500円の商品も置いてある。

 俺は500円の壁掛け時計を全部の部屋分、同じく500円の腕時計を全員分、そしての置き鏡と手鏡とブラシ、そしてノンアルコールのウェットシートを購入した。
 
 通信機器がないので必要に応じて招集を掛けるということができない。個々に声を掛けている現状だと、会議で全員を集めるのに2~3時間掛かるなんてざらだった。なので時計を持たせて、時間を決めて行動が取れるようにしたのだ。

 とりあえずヴィルを実験台に時計の使い方を教えてみると、日時計と関連させて教えることで意外にすんなりと理解してくれた。

 鏡と櫛とウェットシートはライラ用だ。義眼の手入れに必要かなと思ったのだ。

「はい、ライラ。右目の手入れに使ってよ。手鏡は持ち運び用ね。治癒の魔石が手に入るまでは色々と手入れが大変だと思うけど、必ず手に入れるからそれまでは我慢してね」

「あ、ありがとうございます」

 ライラはうつ向いたまま俺と目を合わせることなく、お礼を言うとすぐに自分の部屋に戻ってしまった。

 正直、俺はライラが喜んで抱き着いてくるのでは……なんて、やっぱりどこかで期待していたので肩透かしを食らったような気がしていた。

 というか……。
 
 俺、ライラに避けられている?



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

黒城白爵
ファンタジー
 とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。  死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。  自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。  黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。  使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。 ※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。 ※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...