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第53話 ぼくっ娘?

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 調味料の売却についてはステファンとライラに一任して、俺はマーカスとヴィルのいる冒険者ギルドに向かうことにした。

 商人との取引に興味はあったけれど、まぁそれは後回しでいい。ステファンが取引先との信頼関係を築いた後のことにしよう。それよりも今は……

 俺は冒険者ギルドに向かう道を逸れて別の路地に入る。

 そう銀の君のところへ向かうのだ。向かってどうすればいいのかよく分からない。銀の君とのイベントはどうすれば進めればいいんだ? まぁ何も思い浮かばなければ、またパンを全部買って好感度が上げられたらそれでいいや。

(ぴこん!)

 ココロチンが索敵マップを表示してくれた。ハートマークが点滅している場所に向かって小走りで駆けていく。

 わくわく。

「いやっ! やめてください! 離して!」

 ハートマークまであと10mを切ったところで覚えのある声が聞こえてきた。

「銀の君!」

 人混みをかき分けて抜けると三人のチンピラが銀の君に絡んでいた。俺は前に進む勢いを殺さず、そのまま真ん中のチンピラの背中に両手を前にしたまま突っ込む。

「【女体化】!【巨乳化】!」

 そこから両手を左右に開くと幸いなことに残りの二人に手が届いた。

「【女体化】!【巨乳化】!」

 ボンッ! ボンッ! ボンッ! という音と共に煙が立ち上り、そこには三人の巨乳の女性が胸を覆い隠して地面にうずくまっていた。

「 何? わたしどうしちゃったの!?」

「いやっ! みないで!」

「きゃっ!こんなの恥ずかしい!」

 俺は、銀の君の腕を掴んで人混みの中へと引っ張っていった。

「あ、あの!」

「あのパンは俺が全部買うから!」

 俺たちは路地の角をいくつも曲がり、人通りの比較的少ないところに出た。そこでようやく俺は力いっぱい銀の君の腕を握っていたことに気が付いて、慌てて手を放す。

「ごめん」

「い、いえ大丈夫です。助けていただいてありがとうございました」

 銀の君はペコリと俺に頭を下げる。か、可愛い……。

「あっ、そうだ。これパンの代金」

 そう言って俺は金貨を2枚取り出して、彼女の手に握らせた。や、柔らかい……柔らかくて小さくて……柔らかくて小さくて……。

「あっ、あの……」

「あっ、ごめん!」

「いえ……ってこんなに頂けません! 金貨1枚でもお釣りが沢山必要になっちゃいます」

 しばらく押し問答が続き、俺が半分妥協して金貨1枚を受け取るからと、もう1枚の金貨を銀の君に渡すということにした。

 金貨を白くて柔らかい手の上に乗せ、俺は両手で包み込むようにして握らせる。そうただ銀の君の手に触れていたいだけというね。むふふ。

「えっと、俺はコボルト村のシンイチって言います。前に買ったパンがとっても美味しかったんで、今日も買いたいなと思って寄ったら、なんかこんなことになっちゃって……」

「あっ、前にパンを籠ごと全部買って頂いた方ですね! ぼく、イリアって言います。イリア・ラコーネン。改めてさっきはありがとうございました」

 そういういとイリアはペコリと頭を下げる。可憐だ……こんな可憐なペコリがこの世界にはあるのか。しかもぼくっ娘・・・・なんて最高じゃないですか。俺、ここに転生して本当によかったよ。

「それじゃ、イリア……さん? 家まで送るよ」

「えっ?」

「あっ、家の近くまでね。何かあったらだし」

「ありがとうございます。でも、パンをお渡ししないと。あっ、あとイリアって呼び捨てで大丈夫ですよ」

「じゃぁ、俺のことはシンイチで。パンかぁ。それならちょっと寄り道してから戻ることにしよう」

 俺は銀の君の手を握って歩き出す。何だろう? イリアはとっても美人で可愛くて、俺とも近そうな年齢なのに、全然怖くない。女の子の手をこんなに堂々と握って歩くとか、そんなリア充機能が俺に付属していたなんて驚きだ。

「冒険者ギルドに仲間がいるから彼らと一緒にパンの回収に行こう。一人は元傭兵なんだ。心強いでしょ?」

「え、ええ」

 俺とイリアは冒険者ギルドに行ってマーカスとヴィルに合流した。二人は良さげなクエストが見つからなかったということで、テーブルに座って飲んでいた。

 二人にイリアを紹介してから事情を説明すると、とくにすることもなくなった二人は快く俺たちに付いてきてくれることになった。

 パンの場所に戻ると、幸いなことにパンは盗難に会うこともなく籠に入った状態で並べられていた。どうやら隣で店を開いていた果物屋のおばちゃんが見張っていてくれたらしい。

 俺はおばちゃんに礼を言ってヴィルの手で持てる限りの果物を買った。 

「それじゃ送ろっか」

「あっ、大丈夫です。ぼくの家、このすぐ裏の通りにあるので」

「そ、そう。それじゃまたパンを買いにくるね!」

「はい! 今日は助けていただいて本当にありがとうございました!」

 再びイリアの可憐なペコリを見て、俺たちは帰路へついた。

 俺たちが待ち合わせ場所に戻ると、ステファンとライラが荷馬車を止めて待っていた。

「シンイチ殿、調味料は当初の予定より高値で取引することができましたよ。継続して購入していただける契約も取ることができました」

「二人ともご苦労さま! それじゃ、コボルト村へ帰ろうか!」
 
 俺は元気いっぱいに声を挙げて出発を宣言した。

「シンイチ様、またパンを購入されたのですね」
 
 マーカスが荷馬車にパンの籠を積み込むのを見てライラが小声で言った。なんだかライラの元気がないような……疲れているのかもしれない。

 帰り道。マーカスが御者を務め、俺がその横に座る。俺は終始ご機嫌だった。そんな俺の様子をチラッチラッとマーカスが見ている。

「坊主がご機嫌なのは、あのパン屋のせいなのか?」

「んー、どうだろうね。たぶんそうかもしれないな」

 ゴロゴロ! と何かが落ちる音がしたので振り返るとライラが果物の入った袋をぶちまけてしまっていた。ライラは「ごめんなさい」と呟いて、下を向いたまま果物を袋につめていく。

「そうかぁ……まぁ、人の趣味ってのはそれぞれだからなぁ」

「ふふん。俺にもようやく春が巡ってきたのだよ、マーカスくん」

「そっかぁ、兄ちゃん、あの男が好きなんかぁ」

 おいおい、ヴィルくん何を言ってるんだい。

「ヴィル、今マーカスと話しているのは、ほらさっきパンを受け取った銀髪の女の子のことだよ」

「えっ、あれは男だよ?」

「いやだから、銀髪の……」

「なんだ坊主、気づいてなかったのか? あいつは男だぜ?」

「えっ……と、いや、何言ってんの?」

「いや喉ぼとけが出てただろ。まぁ、細い首だし色白だったから分かりにくかった……かぁ?」

「普通に『ぼく』って言ってたよね、兄ちゃん!」

「んーっ? んーっ? んーっ? そうだったか? なぁ?」

「まぁ、次に会った時に確かめればいいさ」

 そういうとマーカスは持ってきていた黒ラベルのウィスキーをグビッと一口飲んでから、手綱を握りなおした。

 俺の背後でライラが「よ、よかった……」と小さい声でつぶやくのが聞こえた気がする。

 俺はというと頭が混乱して何が何だかわからなくなっていた。



 
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