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第49話 最強の魔物ドラゴン
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フィーネの報告を受けて、その場でドラゴン緊急会議が開催された。ステファンとライラも奥部屋に呼び出す。他の女性やコボルトたちには動揺が広がるのを避けるためまだ知らせないことにした。
「考えうる最悪の結果になってしまった……」
ネフューは顔を真っ青にして言った。その隣ではネフューの腕にしがみついるフィーネの顔も青いままだった。
緊急事態であることは俺にも十分伝わっていたが、俺はネフューにリア充爆発しろ!の呪いを掛けていた。
俺の呪いの声が外に漏れ出ていたのか、ライラがスッと俺の隣に寄ってきて俺の腕にしがみつこうとしてきた。
「うひょっ!?」
俺は咄嗟に回避する。毎度のことながら回避してからちょっとだけ残念な気持ちになる。いちどしがみつかせておっぱいを押し当てられてから避けてもよかったのでは?……と。
「ど、ドラゴンが今こちらに向かってきているんじゃないんだろ? とにかくまずは対策を練ることだよな!」
「そうだな。シンイチの言う通りだ。ぼくたちには考える時間がある」
ネフューがフィーネに向かって安心させるように頷き、目を潤ませているフィーネと見つめ合う。畜生、このリア充め爆発し……
ネフューを呪ってやろうとした瞬間、ライラがピクッと反応する。仕方ない、今回はネフューの罪を見逃してやろう。なにしろ俺は寛大なのだ。
「この世界のドラゴンってどういう存在なの? 俺の元いた世界ではお話でしか出てこないんだけど」
「ドラゴンは魔物の中では頂点にいる。巨大な翼で空も飛ぶ大空の支配者だ。身体を覆う鱗は矢も剣も通らない。長命で知恵もあり、強大な魔力を持っていてそれで火を吐くんだ」
「火とは限らねぇぜ、冷気や毒の霧を吐き出す奴もいるって話だ」
「え!? そんなのどうやって倒すの?」
「倒した例ならあるにはあるぞ」
マーカスは実際にドラゴンとの戦いを見たことがあるらしい。それは、傭兵だったときのマーカスが当時所属していた王国軍とドラゴンの戦いだった。
王都の城壁にドラゴンランスと呼ばれる巨大な鉄弓を何百も並べ、ひとつの鉄弓を五人がかりで操作して巨大な矢を次々とドラゴンに射かけた。
最終的にドラゴンを撃ち倒したときには、王都の半分が炎に焼かれ、国力を失ったその王国は数年もせず隣国に吸収されてしまった。
「そんなの倒せないじゃん! 無理じゃん! もう村を引き払って逃げるしかないじゃん!」
俺が喚いても誰も何も言わなかった。その通りってことなんだろう。
「もうどうにもできないの?」
絶望に打ちひしがれ椅子にもたれ掛かると、そのまま背中から床に倒れ込んでしまった。頭が床にぶつかる寸前、ライラが俺の頭の下に手を差し入れて守ってくれた。
何気なく危うい場面だったにも関わらず、ライラを除く誰一人として床に倒れた俺に視線を向けることはなかった。みんな床を見つめたまま自分の殻に閉じこもっているようだ。
空気が泥のように重く感じられる中、ネフューが顔を上げて悲痛な表情で口を開いた。
「ドラゴンを倒すのは困難だ。だからドラゴンが住み着いた地域では供物を捧げることで、その危害を受けないようにすることもある」
「供物って……牛とか羊とか?」
俺は最悪の答えを予想していたが、あえてそれは口にしなかった。
「それで済むこともあるが、たいていの場合は……」
ネフューが口を閉じる。
「人間だよ、坊主。若い娘を生贄に差し出すんだ」
ネフューの代わりにマーカスが答えた。
若い娘と聞いて俺は思わずライラの顔を見る。ライラの目に一瞬だけ恐怖が走ったがそれはすぐに消えた。
強い意思の光を宿したライラの美しい碧い瞳が俺をじっと見据えている。
こいつ……。
俺にはその視線の意味が分かってしまった。もしここで俺が目を逸らせばライラは自分が生贄になると言い出しかねない。いや確実に言い出すだろう。
こいつ……。
短い付き合いだが、これまでライラは俺の意思なんて無視して自分を貫いてきた。もし自分が犠牲になるとこの女に言わせてしまったら俺の意思なんて関係なく、ライラは突っ走って行ってしまうのだろう。
この女……。
クソッ!
「わかった! 俺がその生贄に成る!」
「「「「はぁっ!?」」」」
「正気か坊主?」
「シンイチ? 頭は大丈夫か?」
「そりゃ無茶ってもんだぜ、兄ちゃん!」
「シンイチ殿は若い娘ではありませんよ!」
その場の全員が俺の頭がおかしくなったと確信しているようだった。ライラでさえポカンと口を開いたまま固まっている。
全員のボケ面を見た俺は、恐怖がすっかりと吹っ飛んでしまった。そしてピコーンッ!とひとつの作戦を思いつく。
「くくく。みんなこの俺をDTだと思って舐めてもらっては困るな」
「いや舐めてはないぞ、坊主。そのことはみんな心配してるんだ」
「へっ? 何の心配?」
「そうだよ。ぼくたちはそのことでシンイチの力になれないかって、いつもみんなで相談しているんだ」
「何の相談だよ!」
「俺、ミモザやミッシールが兄ちゃんのことをDTだってバカにしたときには、ちゃんと叱ってるぜ!」
「えっと……ありがとうって言うべきなのか?」
「シンイチ殿、何度も申しますがわたくしにとって、今のライラは妹……いや、娘も同然、どうぞお気になさらずに」
「わたしとまぐわってくださいまし」
「いや、そういう話じゃなくて!」
なんだこの連中は! ちゃんとした話をするのに、いちいち、いちいち、いちいち茶番を挟まないとすまない病気なのか!?
「ま、まぁいい。俺の作戦を聞いて驚け腰抜かせ! 這いつくばって足をペロペロして、シンイチ様流石ですぅと泣いて喜ぶがいい!」
ライラが這いつくばろうとしたので、俺は慌てて止めた。
「考えうる最悪の結果になってしまった……」
ネフューは顔を真っ青にして言った。その隣ではネフューの腕にしがみついるフィーネの顔も青いままだった。
緊急事態であることは俺にも十分伝わっていたが、俺はネフューにリア充爆発しろ!の呪いを掛けていた。
俺の呪いの声が外に漏れ出ていたのか、ライラがスッと俺の隣に寄ってきて俺の腕にしがみつこうとしてきた。
「うひょっ!?」
俺は咄嗟に回避する。毎度のことながら回避してからちょっとだけ残念な気持ちになる。いちどしがみつかせておっぱいを押し当てられてから避けてもよかったのでは?……と。
「ど、ドラゴンが今こちらに向かってきているんじゃないんだろ? とにかくまずは対策を練ることだよな!」
「そうだな。シンイチの言う通りだ。ぼくたちには考える時間がある」
ネフューがフィーネに向かって安心させるように頷き、目を潤ませているフィーネと見つめ合う。畜生、このリア充め爆発し……
ネフューを呪ってやろうとした瞬間、ライラがピクッと反応する。仕方ない、今回はネフューの罪を見逃してやろう。なにしろ俺は寛大なのだ。
「この世界のドラゴンってどういう存在なの? 俺の元いた世界ではお話でしか出てこないんだけど」
「ドラゴンは魔物の中では頂点にいる。巨大な翼で空も飛ぶ大空の支配者だ。身体を覆う鱗は矢も剣も通らない。長命で知恵もあり、強大な魔力を持っていてそれで火を吐くんだ」
「火とは限らねぇぜ、冷気や毒の霧を吐き出す奴もいるって話だ」
「え!? そんなのどうやって倒すの?」
「倒した例ならあるにはあるぞ」
マーカスは実際にドラゴンとの戦いを見たことがあるらしい。それは、傭兵だったときのマーカスが当時所属していた王国軍とドラゴンの戦いだった。
王都の城壁にドラゴンランスと呼ばれる巨大な鉄弓を何百も並べ、ひとつの鉄弓を五人がかりで操作して巨大な矢を次々とドラゴンに射かけた。
最終的にドラゴンを撃ち倒したときには、王都の半分が炎に焼かれ、国力を失ったその王国は数年もせず隣国に吸収されてしまった。
「そんなの倒せないじゃん! 無理じゃん! もう村を引き払って逃げるしかないじゃん!」
俺が喚いても誰も何も言わなかった。その通りってことなんだろう。
「もうどうにもできないの?」
絶望に打ちひしがれ椅子にもたれ掛かると、そのまま背中から床に倒れ込んでしまった。頭が床にぶつかる寸前、ライラが俺の頭の下に手を差し入れて守ってくれた。
何気なく危うい場面だったにも関わらず、ライラを除く誰一人として床に倒れた俺に視線を向けることはなかった。みんな床を見つめたまま自分の殻に閉じこもっているようだ。
空気が泥のように重く感じられる中、ネフューが顔を上げて悲痛な表情で口を開いた。
「ドラゴンを倒すのは困難だ。だからドラゴンが住み着いた地域では供物を捧げることで、その危害を受けないようにすることもある」
「供物って……牛とか羊とか?」
俺は最悪の答えを予想していたが、あえてそれは口にしなかった。
「それで済むこともあるが、たいていの場合は……」
ネフューが口を閉じる。
「人間だよ、坊主。若い娘を生贄に差し出すんだ」
ネフューの代わりにマーカスが答えた。
若い娘と聞いて俺は思わずライラの顔を見る。ライラの目に一瞬だけ恐怖が走ったがそれはすぐに消えた。
強い意思の光を宿したライラの美しい碧い瞳が俺をじっと見据えている。
こいつ……。
俺にはその視線の意味が分かってしまった。もしここで俺が目を逸らせばライラは自分が生贄になると言い出しかねない。いや確実に言い出すだろう。
こいつ……。
短い付き合いだが、これまでライラは俺の意思なんて無視して自分を貫いてきた。もし自分が犠牲になるとこの女に言わせてしまったら俺の意思なんて関係なく、ライラは突っ走って行ってしまうのだろう。
この女……。
クソッ!
「わかった! 俺がその生贄に成る!」
「「「「はぁっ!?」」」」
「正気か坊主?」
「シンイチ? 頭は大丈夫か?」
「そりゃ無茶ってもんだぜ、兄ちゃん!」
「シンイチ殿は若い娘ではありませんよ!」
その場の全員が俺の頭がおかしくなったと確信しているようだった。ライラでさえポカンと口を開いたまま固まっている。
全員のボケ面を見た俺は、恐怖がすっかりと吹っ飛んでしまった。そしてピコーンッ!とひとつの作戦を思いつく。
「くくく。みんなこの俺をDTだと思って舐めてもらっては困るな」
「いや舐めてはないぞ、坊主。そのことはみんな心配してるんだ」
「へっ? 何の心配?」
「そうだよ。ぼくたちはそのことでシンイチの力になれないかって、いつもみんなで相談しているんだ」
「何の相談だよ!」
「俺、ミモザやミッシールが兄ちゃんのことをDTだってバカにしたときには、ちゃんと叱ってるぜ!」
「えっと……ありがとうって言うべきなのか?」
「シンイチ殿、何度も申しますがわたくしにとって、今のライラは妹……いや、娘も同然、どうぞお気になさらずに」
「わたしとまぐわってくださいまし」
「いや、そういう話じゃなくて!」
なんだこの連中は! ちゃんとした話をするのに、いちいち、いちいち、いちいち茶番を挟まないとすまない病気なのか!?
「ま、まぁいい。俺の作戦を聞いて驚け腰抜かせ! 這いつくばって足をペロペロして、シンイチ様流石ですぅと泣いて喜ぶがいい!」
ライラが這いつくばろうとしたので、俺は慌てて止めた。
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