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第29話 ハーレムパーティ2

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 どうしてこうなった……。

 ステファン・スプリングスは宿屋の部屋で酒を煽るように飲んでいた。

 飲まずにはいられなかった。酔ってでもいなければ痛みに耐えられないからだ。酔いはゴブリンに切り落とされた左腕の残った部分の痛みを耐え難いほど強くした。しかし、その痛みで苦しむ方が彼にとっては遥かにマシだった。

 大事な仲間たちを失ってしまった痛みに比べれば遥かにマシだった。

 ただ失っただけではない。彼女たちはゴブリンたちに襲われ、嬲られ、あらゆる苦悶を受けた末に殺されたのだ。

 最後までステファンに助けを求め続けた彼女たちの苦悶に歪む表情、虚ろになった瞳、肺が破れんばかりの絶叫は彼の脳裏から生涯消えることはないだろう。

 彼女たちをそのような地獄に突き落としたのはステファン・スプリングスなのだ。失われた自分の左腕先を見つめながら彼は思う。このような運命を回避する機会を女神は何度も与えてくれていたのに、それを自分は蹴り返してしまっていたのだと。

 第一は冒険者ギルドだった。その日、彼はクエスト報酬を受け取るためにギルドを訪れていた。ただ報酬を受け取って戻るはずだった。そうすればよかったのだ。

 だがクエストボードの前にいる亜人を連れた男を見たとき、嫌がらせをしてやろうと男がずっと見ていたクエストを横から奪って受注してしまった。それでそのままギルドを出て行けばよかったものを、わざわざ亜人を侮蔑しに男の元へと戻ってしまった。戻らなければよかった。

 第二はゴブリン討伐に向かう途中のキャンプでの出来事だった。闇夜の中からエルフの男が出てきてゴブリン退治の協力を申し出てきた。亜人と獣人を連れていたので断ってしまった。断らなければよかった。

 第三は協力を断ったエルフたちが先にゴブリンを襲撃して宝を持ち去ってしまうのではないかと、無理に朝駆けしてゴブリン洞窟に突入したことだ。女戦士と女奴隷は強く反対していたがステファンはそれを撥ねつけて突入を強行してしまった。彼女たちが正しかった。

 今にして思えば女神は何度も手を差し伸べてくださっていたのだ。その手を払ったのは恐らくこの左腕だったのだろう。

「ライラ! 酒がなくなった! 買ってこい!」

 ステファンは酒瓶を床に下してライラの方へ蹴る。

「しかし、これ以上お飲みになられては……」
「さっさと買ってこい!」
「は、はい……」

 ライラが慌てて出て行くのを見届けると、ステファンは自分が一人でいることに恐怖を感じる。

 女神の手を振り払ってしまい、大事な仲間を地獄の苦悩へ突き落としてしまった自分はおそらく楽園の門を通ることはできないだろう。

 死んだ後も自分は死んだ仲間たちとも永遠に再会することはない。もし再会できたとしても合わせる顔もない。

(この失態は既に父にも伝わっていることだろう。父は激怒しているはずだ。そして惨めな理由で片腕を失った長男に家督を継がせるようなことはしないだろう。もっとも寛大な判断が下されたとしても、遠方の片田舎で蟄居させられるはずだ)

(俺を守るためにと自慢の娘を預けてくれた女戦士の家も当然激怒するだろう。他の仲間たちの家族も俺を恨む。恨んで当然だ)

(片腕では冒険者は続けられない。いずれは金も尽きる。そうすればライラを売るか奴隷契約を解除して預り金を受け取るしかない。みんな俺から去っていく。何もかも俺を置いて消えていく)

(嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! ライラ!お前だけは行くな!俺はお前の主なんだ!ライラ行くな!ライラ!ライラ!ライラ!ライラ!)

「ライラ!」
「はいっ! 今戻りました」

 ステファンは戻ってきたライラに駆け寄ると右腕で強引に抱き寄せてその唇を貪った。ライラは両手を胸の前で祈る様に組んで身を固くした。

 そのまま強引にベッドに引っ張られて押し倒される。

「ライラ…ライラ、ライラ、ライラ、どこにも行くな! ずっと俺の傍にいるんだ!」

 ステファンはライラの体中に唇を押し付けて行った。これは自分の所有物なのだと確信が持てるまでは、彼は自分の衝動を抑えることはできないことが分かっていた。

「ライラ、お前は俺のものだ。だからどこへも行くことは許さん! いいな!」
「はい……ご主人様」

 ライラはそう言って再び口と目を固く閉じる。両手を胸の前で組んで、ひたすら主人の欲望が果てるのを待っていた。

「ライラ…ライラ、ずっと俺の傍に……」

 ライラの上に欲情に滾《たぎ》ったステファンが覆いかぶさっていく。

 買ってきた酒瓶がベッドから落ちてゴトンと大きな音を立てた。



~ コボルト村 ~

「これは一体どうしたのさ」

 俺はたくさんの奴隷を引き連れたマーカスとヴィルを見て言った。

「いやな、見回りしてたら奴隷商人の馬車が山賊に襲われているとこに出くわしてよ」

「なんか見覚えのある光景だな」

「放っておこうと思ったんだが、奴隷商人がやられちまって山賊が奴隷に手を出そうとしたところでコイツが飛び出しちまってよ」

 マーカスがヴィルを指さす。

「兄ちゃん! あいつら酷いことをしようとしたんだ! 兄ちゃんならわかるよな!」

「うっ……そうだな」

 俺は不安そうに俺を見ているたちに目を向けながらだいたいの事情を察する。

「それで? 彼女たちをどうするつもりだ?」

「そうだなぁ。とりあえずしばらくはここに置いとくってのはどうだ?」

「なぁ、そうしようぜ兄ちゃん! 放っぽり出すなんて出来ないよ!」

「ま、まぁ……そうだな。しばらく保護するか」
「「よしっ」」
 
 マーカスとヴィルが手をがっちりと組んだ。ほんと仲良くなったよなこの二人。

(それに……)

 俺は5人の女奴隷にさっと視線を走らせる。色とりどりだが全員がかなりの美人だった。

(これはいよいよハーレム展開が来たってことでは?)

 俺は期待に胸を膨らませた。


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