118 / 130
第118話 魔女ヴィドゴニア
しおりを挟む
「強い魔力を持った女性が、強い怨みの想いを抱いて亡くなったときに、悪霊として蘇ることがあるの。それを古大陸の人々は、魔女ヴィドゴニアと呼んで恐れているわ。もう分かってると思うけど、私もフィオナもそのヴィドゴニアよ」
セリアは静かに語りはじめました。
彼女の話によると、ヴィドゴニアとしてよみがえった魔女は、生前の激しい怨みの炎に自らが焼かれて苦しむことになるようでした。
その苦しみから逃れるために、魔女は復讐を果たそうとしますが、それが叶わない場合、誰彼構わず人々から大事な何かを奪うことで、自らの苦しみを和らげようとするのです。
復活したばかりの魔女は、化け物そのものであり、目にするもの何でも奪おうとします。人でも動物でも、目につくものならその命を奪い、その魂を食らうことで、自らの苦しみを和らげようとするのです。
命を奪い続けて、苦しみが和らいでくると、魔女は次第に人間の姿に近づいていきます。そのような状態になった魔女に対しては、ある程度の交渉ができるようになります。
交渉といっても、結局のところ魔女は命まで寄こせということに違いはありません。
「そうして奪い続けていくうちに、少しずつ理性を取り戻していくの。彼女のようにね」
セリアは、フィオナの方を見ました。
「それでセリア殿は、化け……魔女の姿をしたフィオナ殿に交渉を仕掛けて、声だの命だのを奪わせていたのでござるか」
フィオナに命を奪われて、その場に崩れ落ちる馬やボルギナンドの仲間の様子を思い出して、キモヲタは思わず身震いをします。
「それでようやく人間に戻ったのでござるな」
セリアは静かに首を横に振りました。
「人間に戻ったわけじゃない。人間の姿に戻っただけよ。それは見た目でも分かるわ。だって……」
セリアがキモヲタの目をまっすぐに見つめます。その瞳には、フィオナと同じように人間にはない、青い焔が宿っていました。
「この燃える瞳は、強い魔力の根源よ。人間だった頃とは桁違いの魔力をもたらしてくれる」
「それで鋼龍などという凄い魔法を使えるのでござるな。正直、見た目もカッコイイので羨ましいでござる」
「そうね。でも同時に、この青い焔は、誰かの命や大事なものをたくさん奪い続けてきた証でもある。ヴィドゴニアを殺せば、奪われたものを取り返すことができると信じるものたちもいるの。この瞳を持っている限り、復讐者や魔物ハンターに狙われることになるのよ」
「そ、それは……大変でござるな……」
セリアは、黙って彼女の話を聞いていたユリアスに目を向けました。
「古大陸で、逃げ続けた私は、この瞳の炎を消す方法をずっと探してきた。それでわかったのは……」
セリアの途切れた言葉を、ユリアスが続けました。
「賢者の石」
「そう。賢者の石の力なら、ヴィドゴニアを人間に戻すことができる。少なくとも瞳に宿る火を消すことができるという話を聞いた。それがこの大陸にあると聞いて、私は海を渡って来たの」
「何事につけても面倒くさがりのセリアが、今回の探索に名乗りを上げた理由がようやくわかりました。賢者の石を手に入れるためだったのですね」
ユリアスの言葉に、セリアはゆっくりとうなずきました。
「隊長に黙ってたのは悪かったと思ってるわ」
「もし私たちが賢者の石を手に入れていたら、それを奪う……つもりだったのですか?」
「わからない。一度使うだけで瞳の火が消せるなら、そんなことはしない。でもずっと持っていなきゃならないとしたら……奪ったかもしれないわ」
「そうですか……」
ユリアスが目を伏せました。そんな隊長の姿を哀しそうに見つめながら、セリアは言いました。
「いずれにせよ魔神ウドゥンキラーナは賢者の石を持っていなかった。そして、ここから遥か東方にいるドラゴンが持っていることは分かった。だから……」
セリアは言葉を切り、ユリアスに向き直りました。
「ユリアス隊長、私はここで白バラ騎士団を抜けて、フィオナと一緒にドラゴンのもとへ向かう」
ハッと息を呑むユリアス。その目が大きく開かれるのでした。
「フェイルーン子爵には、私が私の思うときに白バラ騎士団を抜けることを了解してもらっているわ。それにここでパーティーを抜けるのは、みんなやフィオナにとっても大事なことなの」
その理由は、現在のフィオナの状態は未だに不安定であり、ちょっとしたことがきっかけで理性を失った魔女に戻ってしまうかもしれないからでした。
いまの自分の状態を知ったフィオナが、不安そうな顔をセリアに向けます。
「もしフィオナが狂気にとらわれたら、ここにいるみんなの大事なものを奪いかねない。いまの彼女はまだ危険なの。彼女の状態が落ち着く方法を私は知っているし、私はそれを手伝うつもり」
「フィオナ殿が落ち着く? それはどういう方法でござるか?」
キモヲタの質問に答えるセリアの瞳の炎が揺らめきます。
「復讐よ」
セリアは静かに語りはじめました。
彼女の話によると、ヴィドゴニアとしてよみがえった魔女は、生前の激しい怨みの炎に自らが焼かれて苦しむことになるようでした。
その苦しみから逃れるために、魔女は復讐を果たそうとしますが、それが叶わない場合、誰彼構わず人々から大事な何かを奪うことで、自らの苦しみを和らげようとするのです。
復活したばかりの魔女は、化け物そのものであり、目にするもの何でも奪おうとします。人でも動物でも、目につくものならその命を奪い、その魂を食らうことで、自らの苦しみを和らげようとするのです。
命を奪い続けて、苦しみが和らいでくると、魔女は次第に人間の姿に近づいていきます。そのような状態になった魔女に対しては、ある程度の交渉ができるようになります。
交渉といっても、結局のところ魔女は命まで寄こせということに違いはありません。
「そうして奪い続けていくうちに、少しずつ理性を取り戻していくの。彼女のようにね」
セリアは、フィオナの方を見ました。
「それでセリア殿は、化け……魔女の姿をしたフィオナ殿に交渉を仕掛けて、声だの命だのを奪わせていたのでござるか」
フィオナに命を奪われて、その場に崩れ落ちる馬やボルギナンドの仲間の様子を思い出して、キモヲタは思わず身震いをします。
「それでようやく人間に戻ったのでござるな」
セリアは静かに首を横に振りました。
「人間に戻ったわけじゃない。人間の姿に戻っただけよ。それは見た目でも分かるわ。だって……」
セリアがキモヲタの目をまっすぐに見つめます。その瞳には、フィオナと同じように人間にはない、青い焔が宿っていました。
「この燃える瞳は、強い魔力の根源よ。人間だった頃とは桁違いの魔力をもたらしてくれる」
「それで鋼龍などという凄い魔法を使えるのでござるな。正直、見た目もカッコイイので羨ましいでござる」
「そうね。でも同時に、この青い焔は、誰かの命や大事なものをたくさん奪い続けてきた証でもある。ヴィドゴニアを殺せば、奪われたものを取り返すことができると信じるものたちもいるの。この瞳を持っている限り、復讐者や魔物ハンターに狙われることになるのよ」
「そ、それは……大変でござるな……」
セリアは、黙って彼女の話を聞いていたユリアスに目を向けました。
「古大陸で、逃げ続けた私は、この瞳の炎を消す方法をずっと探してきた。それでわかったのは……」
セリアの途切れた言葉を、ユリアスが続けました。
「賢者の石」
「そう。賢者の石の力なら、ヴィドゴニアを人間に戻すことができる。少なくとも瞳に宿る火を消すことができるという話を聞いた。それがこの大陸にあると聞いて、私は海を渡って来たの」
「何事につけても面倒くさがりのセリアが、今回の探索に名乗りを上げた理由がようやくわかりました。賢者の石を手に入れるためだったのですね」
ユリアスの言葉に、セリアはゆっくりとうなずきました。
「隊長に黙ってたのは悪かったと思ってるわ」
「もし私たちが賢者の石を手に入れていたら、それを奪う……つもりだったのですか?」
「わからない。一度使うだけで瞳の火が消せるなら、そんなことはしない。でもずっと持っていなきゃならないとしたら……奪ったかもしれないわ」
「そうですか……」
ユリアスが目を伏せました。そんな隊長の姿を哀しそうに見つめながら、セリアは言いました。
「いずれにせよ魔神ウドゥンキラーナは賢者の石を持っていなかった。そして、ここから遥か東方にいるドラゴンが持っていることは分かった。だから……」
セリアは言葉を切り、ユリアスに向き直りました。
「ユリアス隊長、私はここで白バラ騎士団を抜けて、フィオナと一緒にドラゴンのもとへ向かう」
ハッと息を呑むユリアス。その目が大きく開かれるのでした。
「フェイルーン子爵には、私が私の思うときに白バラ騎士団を抜けることを了解してもらっているわ。それにここでパーティーを抜けるのは、みんなやフィオナにとっても大事なことなの」
その理由は、現在のフィオナの状態は未だに不安定であり、ちょっとしたことがきっかけで理性を失った魔女に戻ってしまうかもしれないからでした。
いまの自分の状態を知ったフィオナが、不安そうな顔をセリアに向けます。
「もしフィオナが狂気にとらわれたら、ここにいるみんなの大事なものを奪いかねない。いまの彼女はまだ危険なの。彼女の状態が落ち着く方法を私は知っているし、私はそれを手伝うつもり」
「フィオナ殿が落ち着く? それはどういう方法でござるか?」
キモヲタの質問に答えるセリアの瞳の炎が揺らめきます。
「復讐よ」
1
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
転生弁護士のクエスト同行記 ~冒険者用の契約書を作ることにしたらクエストの成功率が爆上がりしました~
昼から山猫
ファンタジー
異世界に降り立った元日本の弁護士が、冒険者ギルドの依頼で「クエスト契約書」を作成することに。出発前に役割分担を明文化し、報酬の配分や責任範囲を細かく決めると、パーティ同士の内輪揉めは激減し、クエスト成功率が劇的に上がる。そんな噂が広がり、冒険者は誰もが法律事務所に相談してから旅立つように。魔王討伐の最強パーティにも声をかけられ、彼の“契約書”は世界の運命を左右する重要要素となっていく。
貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…
小桃
ファンタジー
商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。
1.最強になれる種族
2.無限収納
3.変幻自在
4.並列思考
5.スキルコピー
5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる