上 下
106 / 130

第106話 よからぬ仕掛けのオレンジジュース

しおりを挟む
 白いパウダーを全身つけて床に座っているキモヲタと、それを見てフリーズしているエレナ。

 一方、クエストに向っていたユリアスたちは、廃城であるアベルハースト城に到着して調査の準備を進めていました。

「ついたばかりで疲れているだろう。ここで一度休んでいこう。ニック、お嬢様方に果実ジュースを」

 今回の調査団のリーダーであるボルギナンドが、肩まで伸ばした金髪をかき上げながら彼の仲間に命じました。

 調査団の人数は、ユリアスたちを除いて7人。その全員が男でした。

 廃城に潜む吸血鬼ストリゴイカが襲うのは、主に男性のみと伝承では伝えられています。そのため、今回の調査には女性冒険者の力を借りたかったと、ボルギナンドはユリアスたちに説明していました。

 調査団の7人は、いずれも身なりが良く、いずれも値が張りそうな騎士装備。

 というのも、ボルギナンドはボルギノール領主の息子であり、その他の6人は彼の友人である貴族や有力者の子弟だったのです。

 彼らの女性に対する態度は、いかにも貴族らしいもので、ここまでの道中もユリアスたちを冒険者ではなくレディとして扱っていました。

 その細かな心配りと楽しい会話に、ユリアスとキーラはすっかりと気を許してしまっていました。他の二人は、彼らの態度に違和感を覚えていたのですが、エルミアナは彼らと肌が合わないと感じていたのに対し、セリアは明らかに警戒していました。

「やった! ボク、この甘酸っぱい果実ジュース美味しくて大好き!」

「ははは、ボルギノール地方名産バイパーオレンジの搾りたてだからね。美味しくて当然さ」

 そう言ってボルギナンドの仲間は、キーラの杯にもう一度ジュースを注ぎました。

 続いてユリアスがジュースをお代わりします。そんな二人を見ていたエルミアナも、ジュースを口に運びました。

「キミは飲まないの?」

 ジュースを口につけようとしないセリアに、ボルギナンドが尋ねました。

「もしかしてボクたちのこと警戒してる? まぁ……冒険者としては正しい振る舞いなのかな」

 ボルギナンドはセリアの杯を取り上げ、それを飲み干しました。

「ねっ、毒なんて入ってないでしょ。というか水分はまめに補給しておかないと、戦闘のときに思考力が落ちたりしない?」

 そう言って、ボルギナンドは自分とセリアの杯に再びジュースを注ぎます。

「そうね……」

 さすがにそこまでされてはと、セリアもジュースを口に運ぶのでした。

「それじゃ城に入ろうか。まずは全員で城の入り口まで進んだら、俺たちは魔物の注意を引くために周辺に散開する。君たちは中に入ってすぐの広間の安全を確認してくれ。問題がなければ俺たちも続く」

「わかりました」

 ユリアスが答えると、ボルギナンドはニヤリと笑ってうなずくのでした。

 そして調査団とユリアスたちは廃城アベルハーストの城門をくぐりました。



~ キモヲタとエレナ ~

「エレナ殿! いったいどういうことでござるか! 説明して欲しいのでござる!」

 夜の街道を馬に乗ったエレナとキンタに跨ったキモヲタが進んでいました。

 幸い今宵の双月は明く、その光に照らされた街道の石が白く浮かび上がっていたこともあり、楽に道を辿ることができていました。

「アベルハースト城よ! ちょっと遠いけど、この街道でかなり近くまで行けるわ! 急ぎましょう!」 

「だから、どうしてそこへ行かなければならないのかを教えて欲しいのでござる! ぬわっ!」

 あぶみをつけているとはいえ、馬にもキンタにも乗りなれていないキモヲタ。何か話そうとすると、集中力が切れてキンタから落ちそうになってしまうのでした。

 そんなキモヲタを見て振り返ったエレナは、

「わかった! 走りながら説明するからキモヲタは黙って聞いて! 質問はなしよ! 話を聞きながら私のお尻を追いかけることに集中して」

 そう言ってエレナは手にしていたカンテラを自分の腰に掛けました。

「わ、わかったでござるよ!」

 キモヲタは、カンテラの灯りで浮かび上がるエレナのお尻を、ひたすら追いかけることに集中するのでした。

「まず酒場の連中から聞いた話なんだけど、あの廃城の調査のクエストっていうのは罠だったの!」

「罠ですと!?」

「質問はなしよ!」

「は、はいでござる……」

「罠っていうのは私が出した結論で、酔っぱらいが言うには『帰還率が低いクエスト』らしいの。地元の冒険者が絶対に受けないクエストらしいわ。受注するのはユリアスたちみたいに流れの冒険者なんですって!」

 エレナが聞いたところによると、ギルドの掲示板に常に出されているクエストらしいとのことでした。詳しいことについて話したがらない酔っぱらいたちに、色仕掛けを駆使して得た情報から、エレナはある結論を出しました。

「このクエストは、女性冒険者を陥れるための罠よ!」

 それは貴族連中から悲惨な目に遭わされてきたエレナだからこそ、辿り着くことができた正解だったのでした。

「クエストの発注者は領主の息子ボルギナンド。ユリアスたちに同行する調査団はそいつの仲間で、いずれも貴族のドラ息子どもよ!」

「もう悪い予感しかしないでござる!」

「そのクエストを受けた女性冒険者は、魔物に殺されたり、魔物から逃げたり、あるいは何かの事情でそのまま王都へ向かったりして、誰一人としてギルドに戻ってこないそうよ。ユリアスたちも同じ目に遭わされるかもしれないの!」

「急ぎましょう、エレナ殿!」

「しっかりついてきて!」

 双月に照らされる白い街道を、キモヲタとエレナは速度を上げて走り続けるのでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

転生弁護士のクエスト同行記 ~冒険者用の契約書を作ることにしたらクエストの成功率が爆上がりしました~

昼から山猫
ファンタジー
異世界に降り立った元日本の弁護士が、冒険者ギルドの依頼で「クエスト契約書」を作成することに。出発前に役割分担を明文化し、報酬の配分や責任範囲を細かく決めると、パーティ同士の内輪揉めは激減し、クエスト成功率が劇的に上がる。そんな噂が広がり、冒険者は誰もが法律事務所に相談してから旅立つように。魔王討伐の最強パーティにも声をかけられ、彼の“契約書”は世界の運命を左右する重要要素となっていく。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...